2022年01月04日掲載
医師・歯科医師限定

母斑症の病態と治療戦略

2022年01月04日掲載
医師・歯科医師限定

大阪大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 神経皮膚症候群の治療法の開発と病態解析学 寄附講座教授

金田 眞理先生

母斑症は皮膚症状に加え、神経や脳、腎臓、肺、皮膚、心臓など全身のさまざまな部位に症状を引き起こす疾患である。症状は非常に多様であり、症状の程度も個人差が大きく、理解が難しい。

しかし、第120回日本皮膚科学会総会(2021年6月10~13日)にて行われた会頭特別企画1の中で、金田 眞理氏(大阪大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 神経皮膚症候群の治療法の開発と病態解析学 寄附講座教授)は「シグナル伝達病として母斑症の病態を見てみると、非常に分かりやすくなるのではないか」と述べ、その考え方を解説した。

母斑症/シグナル伝達システムとは何か

母斑症とは、母斑の範疇に属する病変が皮膚のみならず全身の諸臓器にも出現し、1つのまとまった疾患単位を形成したものを指す。また、皮膚と皮膚以外という、発生学的起源が異なる臓器に病変を生じ、かつ皮膚病変が主体である先天性疾患である。

では、この疾患を「シグナル伝達病として考える」とはどういうことか。シグナル伝達病として考えるためには、まずシグナル伝達システムについて理解する必要がある。

シグナル伝達システムとは、生化学的シグナルが「シグナル経路」を介して別の刺激を誘導することで、次々と連鎖的に情報を伝達し、細胞の生存などに影響を与えるシステムである。実際には細胞膜上、あるいは細胞質中の因子が次々にシグナルの受け渡しを行い、ほかの経路とのクロストークも行いながら、最終的に核内の転写因子による特定遺伝子の転写調節や、アポトーシスによる細胞死などの効果をもたらす。

金田氏は今回の講演で、母斑症の中でも神経線維腫症I型、結節性硬化症、カウデン症候群、プロテウス症候群、レオパード症候群、オスラー病、若年性ポリポーシス症候群、バート・ホッグ・デュベ症候群といった疾患を例として「シグナル伝達病としての母斑症の病態」について解説した。

Ras/MAPKシグナル伝達経路の異常により引き起こされる代表的な疾患

Ras/MAPKシグナル伝達経路に異常をきたすことによる疾患の代表は、神経線維腫症I型、レオパード症候群、CFC症候群、ヌーナン症候群、レジウス症候群である。これらは、腫瘍や色素斑、黒子、外表奇形、心臓血管系の異常、骨異常などがみられるという共通した特徴がある。最近は、レオパード症候群はヌーナン症候群の一亜型とされ、本経路の一連の疾患をまとめてRASopathyと呼ぶことも多い。

このうち、代表的な疾患である神経線維腫症I型は、約3,300人に1人の割合で発生する疾患だ。ニューロフィブロミンに異常が起こることで、制御されていたRasタンパクの機能が活性化し、全身に腫瘍ができる。びまん性の神経線維腫、末梢神経内の神経の神経線維腫や皮膚の神経線維腫、骨病変やカフェオレ斑、小レックリングハウゼン斑など、全身にさまざまな症状が出現する。まれに悪性末梢神経鞘腫を生ずることがある。

TGF-β/SMADシグナル伝達経路の異常により引き起こされる代表的な疾患

TGF-β/SMADシグナル伝達経路の異常による疾患としては、オスラー病(遺伝性出血性毛細血管拡張症)、若年性ポリポーシス症候群などがある。TGF-β/SMADシグナル伝達経路では、TGF-βがTGF-β1型受容体(TGF-βR-I)およびII型受容体(R-II)にエンドグリンが入ってくることにより、R-Smadがリン酸化し、Co-Smadと結合することでさまざまな作用をもたらす。オスラー病の中でも、エンドグリンの異常によるものがHHT1、ALK1受容体の異常による疾患がHHT2と分類される。さらに、BMPR1A受容体やSmad4の異常によって、若年性ポリポーシス症候群が出現する。

オスラー病の病態としては、拡張性小血管病変がみられ、自然かつ反復性に出血がみられる点が特徴である。本症では血管内皮細胞に前述の異常が生ずるために血管症状が主になる。一方、血管内皮細胞以外のところで同様の異常が起こる若年性ポリポーシス症候群は、消化管ポリポーシスが主症状になる。このように、同様のシグナル伝達の異常が起こっても、生じる臓器が異なると症状がまったく異なって見えると金田氏は述べた。

PI3K-Akt-mTORシグナル伝達経路の異常により引き起こされる代表的な疾患

PI3K-Akt-mTORシグナル伝達経路の異常による疾患には、カウデン症候群やプロテウス症候群などPTENを起点としたものがある。これらの疾患は、血管腫、脂肪腫、骨異常や消化管異常などの共通した症状を持つ。

また、PI3K-Akt-mTORシグナル伝達経路に属する疾患の1つである結節性硬化症は、全身の過誤腫、てんかん、TAND、白斑が特徴である。

なお、金田氏が述べた過誤腫の具体例は以下のとおりである。

・腎AML(血管筋脂肪腫)

・SEGA(上衣下巨細胞性星細胞腫)

・肺LAM(肺リンパ脈管筋腫症)

・PEComa

・心横紋筋腫

・消化管腫瘍

など


Drug Delivery System 33-4, 2018「結節性硬化症の皮膚病変に対するラパマイシン(シロリムス)局所外用療法」より引用

またTAND(TSC-Associated-Neuropsychiatric-Disorders)とは、結節性硬化症で高頻度に認められる以下の精神神経症状を総括した概念である。

・行動異常

・自閉症など発達障害

・学習障害

・認知障害

  社会的相互作用の障害

  神経心理学的な症状

など

結節性硬化症とバート・ホッグ・デュベ症候群

また、結節性硬化症に病態が類似する疾患として、バート・ホッグ・デュベ症候群がある。バート・ホッグ・デュベ症候群は、LKB1-AMPK-Folliculin-mTORシグナル伝達経路内に含まれるFLCN遺伝子に異常が起きることで、mTORC1が恒常的に活性化して引き起こされる。結節性硬化症とは異なるシグナル伝達経路であるものの、mTORC1に収束するという点では共通している疾患である。

ただし、これら2つの病態には、いくつか異なる点が存在する。たとえば、腎臓への影響を比較すると、結節性硬化症で生じるのが良性の血管筋脂肪腫であるのに対し、バート・ホッグ・デュベ症候群では腎がんが50%以上に生じる。消化管においても、結節性硬化症でみられるのが大腸ポリポーシスであるのに対し、バート・ホッグ・デュベ症候群では結腸がんが生じる。同様に、前者では子宮PEComaが現れるのに対して後者では子宮内膜増殖が起こるなど、類似した疾患でも異なる点が見られると金田氏は語った。

ここで金田氏は、小括として母斑症とシグナル伝達経路についてのポイントを以下のようにまとめた。

・同一のシグナル伝達系の異常では類似した症状が出現する

・ただし、発症臓器が異なれば異なった症状が出現する

では、同一シグナル伝達経路の異常であれば、一見まったく違って見える症状でも1つの治療で改善するのではないか。金田氏は、この観点から結節性硬化症の治療法について解説した。

結節性硬化症の病態と治療

結節性硬化症の原因遺伝子TSC1TSC2遺伝子の遺伝子産物であるHamartin・TuberinはPI3K-Akt-mTORシグナル伝達経路に含まれ、Hamartin-Tuberin 複合体に異常が起こることで、mTORC1が恒常的に活性化され、ほぼ全身に過誤腫や白斑を生じると同時に、精神・神経の発達障害や行動異常などのさまざまな症状を呈する。

治療としては、mTOR阻害剤であるラパマイシン(シロリムス)やエベロリムスを用いる。ここで金田氏は、mTORC1の作用を以下のように示した。

・腫瘍形成

・オートファジーの抑制

・ミトコンドリアの生合成制御

具体的には、腫瘍性病変として以下の病変を指す。

・顔面血管線維腫

・SEGA

・腎血管筋脂肪腫

・心横紋筋腫

・LAM

・MMPH

また、非腫瘍性病変として以下の疾患(症状)の原因となる。

・てんかん

・TAND

・大脳皮質結節

・白斑

mTOR阻害剤による治療の実際

では、このような症状全てがmTORC1阻害剤で治癒するのだろうか。金田氏は、mTORC1阻害剤によって顔面の血管線維種やシャグリンパッチが軽快し、SEGAにおいても縮小がみられたことを報告した。肺LAMに関しては、それ自体の嚢胞は消失しないものの、肺水腫が軽快し、肺機能の回復がみられたとのことだった。肺外LAMや腎血管筋脂肪腫の縮小もみられたという。このデータから金田氏は、mTORC1阻害剤が結節性硬化症の全ての腫瘍性病変に有効であるとの見解を述べた。

次に金田氏は、mTORC1阻害剤の非腫瘍性病変への効果について、6か月間の内服によっててんかん頻度が大きく減少するというデータを報告した。

また、自閉症を伴う結節性硬化症の患者に血管筋脂肪腫の治療としてエベロリムスの内服を行ったところ、自閉症の症状が軽快し、笑ったり話をしたりするようになったことを報告し、TANDにも有効であると述べた。加えて、白斑に対してラパマイシンを外用治療薬として使用することで白斑が消退することも証明されている。

つまり、mTORC1阻害剤は腫瘍性病変と非腫瘍性病変のいずれに対しても有効性を示すのである。金田氏は、腫瘍性病変に有効性を示す理由として、S6Kを介した腫瘍形成作用の抑制によるものだと考察した。

では、非腫瘍性病変にはなぜ効果を示すのだろうか。金田氏は、mTORC1異常による白斑の特徴を例に取って解説を続けた。

尋常性白斑と結節性硬化症による白斑とを比較すると、どちらにもメラニン色素は認められない。ところが、尋常性白斑ではメラノサイトがない一方で、結節性硬化症の白斑部分にはメラノサイトが存在していることが分かったのだ。また、結節性硬化症では、mTORC1の亢進によってオートファジーが抑制され、メラノサイト内でのメラニンの産生が低下していた。すなわち、TSC遺伝子の機能不全によってmTORC1の亢進が起こることで、メラノサイト内のオートファジーが抑制される結果、メラノソームの形成が不全になり、メラノソームの成熟障害が起こるのである。金田氏は、これによってメラニンが産生されないために、結節性硬化症で白斑が生じるのではないかと見解を示した。また実例として、オートファジーを亢進させることによりメラニン産生の回復がみられたことを付け加えた。

続けて、さらに詳しくメラノサイトをみることで、ミトコンドリアや小胞体にも異常が認められたことについても報告した。さらに、S6Kが亢進しているメラノサイトをみると、LC3やPARKIN、HSP70の活性化がみられ、mTOR阻害剤の投与によって抑制されることが判明したと述べた。LC3、PARKIN、HSP70の活性化は、ラパマイシンの投与だけではなく小胞体ストレスを抑制する4-PBAの投与によっても改善できるという。

すなわち、原因遺伝子TSC1、TSC2の産生タンパクであるハマルチンやチュベリンが機能不全となることで、mTORC1が亢進してオートファジーが抑制され、ミトコンドリアに酸化ストレスが発生する。その結果、メラノソームが形成できなくなり、白斑が出現するのだ。そのため、mTOR阻害剤や4-PBAを投与することによって白斑が治癒するのだと解説した。


Pigment Cell Melanoma Res. 2013 May;26(3):300-15. doi: 10.1111/pcmr.12067. Epub 2013 Feb 19.より引用

色素産生のプロセスを見ると、取り込まれたAP-2はBACE2(Β-site APP cleaving enzyme1)酵素で切断され、一方はApoEと結合しオリゴマーを形成して、メラノソーム内にPMELフィブリル、すなわちメラニン産生の足場を形成する。こうしてPMELフィブリルができたメラノソームにメラニン色素産生の材料が運ばれ、メラノソームは自身の内でメラニン色素の産生を行いながらメラノサイトの突起の先端に向かって移動していく。このようにして成熟したメラノソームはメラニン顆粒として周囲の多数のケラチノサイトに渡される。多くのケラチノサイトがメラニンをたくさん持つことによって初めて皮膚の色が黒くなる。金田氏はこのプロセスが、アルツハイマー病におけるアミロイドカスケード仮説に類似していることを指摘した。

アルツハイマー病におけるアミロイドカスケード仮説では、BACE1酵素で切断されたAPPがオリゴマーを形成し、凝集、不溶化することで老人斑が作られるとされている。これらオリゴマーが、シナプス毒性やタウを介した神経毒性を生じ、神経細胞死を引き起こす。メラノソームにおけるPMELフィブリルの形成プロセスと非常に類似したメカニズムである。


金田氏より提供

実際、てんかんや自閉症などの発達障害を示すTSC遺伝子のコンディショナルノックアウトマウスの観察でも、S6K、すなわちmTORC1の活性化とミトコンドリアの異常がみられた。そこで、マウスにラパマイシンを投与すると、てんかんや自閉症、行動異常の正常化がみられ、不安症状の治癒も確認できたのである。

ここで金田氏は、mTORC1の異常が非腫瘍性病変と腫瘍性病変にもたらす影響ついて、次のように推察した。

・神経細胞や色素細胞といった非常に増殖しにくい細胞に異常を起こすと、てんかん、自閉症、認知障害、白斑といった症状が引き起こされる

・一方、非常に増殖しやすいS6K、4E-BP1が線維芽細胞や血管内皮細胞上で異常を起こすと、細胞増殖、すなわち腫瘍という形態にはたらく

講演のまとめ

金田氏はポイントを以下のようにまとめ、講演を締めくくった。

・母斑症はシグナル伝達病として考えると全身に起こるさまざまな症状が理解しやすくなる

・同一シグナル伝達系の疾患は非常に類似した症状を呈するが、同一の原因であっても発症臓器や細胞が異なると症状もまったく異なる

・一見まったく異なって見える全身のさまざまな症状も原因は同一であるため、同一の方法で全身の症状を治療できる

・結節性硬化症の白斑やてんかんは、色素細胞、中枢神経細胞における小胞体ストレスやミトコンドリアの酸化ストレスによる細胞障害が原因の1つであり、mTORC1の亢進とオートファジーの抑制が誘因の1つになっている

・結節性硬化症の白斑の発症機序は、アルツハイマー病のアミロイドベータの産生機序と非常に類似している

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