2021年10月06日掲載
医師・歯科医師限定

【インタビュー】「形、機能、命を守る」テーマに診療科・臓器横断的な議論展開――日本癌治療学会学術集会10月末に横浜で開催(2400字)

2021年10月06日掲載
医師・歯科医師限定

国立がん研究センター東病院 副院長

林 隆一先生

日本癌治療学会は2021年10月21〜23日、横浜市のパシフィコ横浜で第59回日本癌治療学会学術集会を開催します(現地開催・ライブ配信ありのハイブリッド形式)。テーマを「形、機能、命を守る」とし、2021年1月から新たに保険収載された「がん光免疫療法」に関する特別講演をはじめ、がん治療を基軸とした臓器横断的な議論が交わされることが期待されます。本学術集会にかける思いや見所について、会長の林 隆一先生(国立がん研究センター東病院 副院長)に伺いました。

会長・林 隆一先生が語るテーマ 「形、機能、命を守る」

がん治療の目的は、がんを根治して日常生活に戻ること、人としての社会性を保つことです。しかし実際には、患部の切除や副作用などにより患者さんが肉体的・精神的・社会的な負担を背負い込むことも少なくありません。そこで、がん治療の基本に立ち返るべく学術集会のテーマを「形、機能、命を守る」としました。

多くのがん種で、形と機能、そして命は密接に関わります。特に私が専門とする頭頸部外科領域では、形と機能が直結することが多いです。たとえば咽頭がんなら、呼吸する・話す・食べるというはたらき、すなわち生命維持や社会生活に必要な「機能」を維持するために「形」を残したり再建したりする治療法があります。このように、命はもとより、形と機能を守ることは患者さんのQOL(生活の質)を維持するために欠かせない要素です。そして何より「形、機能、命を守る」というテーマは、日々現場で患者さんに対応する医師をはじめメディカルスタッフの皆さんが大切にする思いにも通ずるものと確信しています。


がん光免疫療法に関する特別講演

本学術集会では各種講演に加え、国内外から著名な講演者をお招きして臓器横断的な議論を深めます(日程表・プログラム)。

中でも特筆すべきは、2021年1月に保険収載された頭頸部外科領域の「がん光免疫療法」に関する特別講演です。がん光免疫療法は、がん細胞の表面に現れるタンパク質に結合する薬剤を投与し、レーザー光を照射することでがん細胞を死滅させる治療法です。治療の対象となるのは頭頸部の扁平上皮がんで、切除不能な局所進行または局所再発のがんが適応となります。特別講演では、治療法の開発に携わった米国国立がん研究所(NCI)の小林 久隆先生や、薬剤の開発を担う楽天メディカル社 副会長兼CEOの三木谷 浩史社長にもお話しいただきます。三木谷社長は2012年に膵臓がんが判明したご尊父の病気を治したいという思いで米国に渡り、そこでがん治療の研究者の小林先生と出会いました。今回の講演では、治療法開発の経緯や思いを伺えるでしょう。

HPV関連がん診療の現状――臓器横断的な議論を

臓器横断的な議論の場として、近年増加するHPV関連がん(子宮頸がん・中咽頭がん)に関する会長企画シンポジウム4にもご注目ください。

中咽頭がんは頻度こそ高くありませんが、国内ではその約半数がHPV関連がんといわれています。最近では厚生労働省がHPVワクチンの積極的勧奨の再開を検討し、注目を集めました。国によっては男性もHPVワクチンの接種対象になっており、日本においても予防可能なHPV関連がんを防ぐべくワクチン接種について議論し、がんで苦しむ患者さんを1人でも減らしたいと考えています。同シンポジウムでは小児腫瘍科、産婦人科、耳鼻咽喉科頭頸部外科の医師がHPV関連がん診療の現状と予防への展望を考えます。このように異なる診療科の専門家が共に議論できることは、本学術集会の1つの大きな価値です。


そのほか会長企画シンポジウムとしてAI oncology の現状と今後の展望、がん治療の変革を目指す医療機器開発、情報支援手術(内視鏡手術での新たな可能性)、がんゲノム医療の最前線、がん免疫療法、分子標的治療の耐性と克服など、多彩なプログラムが予定されています。

市民公開講座にはスポーツキャスター・青島 健太氏を迎えて

最終日の10月23日には、「進化するがん治療」をテーマにした市民公開講座も行われます。血液がんの早期発見やAI(人工知能)を用いた頭頸部がん・食道がんの早期診断、新たな放射線治療技術BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)、がんゲノム医療など幅広い内容です。また、特別講演としてスポーツキャスター・野球解説者の青島 健太氏に「チームの力(仮)」についてお話しいただく予定です。本講演は、一般の方々にチーム医療の重要性をお伝えする貴重な機会になるでしょう。

さらに、11月には「正しく知ってがんを恐れない」をテーマに、国立がん研究センター中央病院で市民公開講座が行われます。今、世の中にはがんに関するさまざまな情報が入り乱れています。たとえば「これを食べるとがんにならない」「○○でがんが治る」といった誤情報や怪しい民間療法を信じてしまう方も見受けられ、この状況をたいへん危惧しています。そこで、11月の講座では津金 昌一郎先生(前国立がん研究センター 社会と健康研究センター長)によるがんの正しい知識をお伝えする予定です。話題は、がんになる人・ならない人、女性とがん、遺伝とがん、喫煙・飲酒とがん、ストレスとがんなど、多彩です。

可能な方は現地参加を――情報交換の貴重な機会に

今回は「形、機能、命を守る」をテーマに幅広い議論が行われます。基礎的な知識を深め、最新の知見を得ることに寄与するでしょう。日々現場で活躍される医師をはじめメディカルスタッフの皆さんにも、本学術集会を知識の吸収や情報交換の場にしていただければ幸いです。

本年はコロナ禍において現地開催+ライブ配信のハイブリッド形式となりますが、可能な方はぜひ現地での参加をご検討ください。フェイス・トゥ・フェイスで交流を深め、情報交換できる貴重な機会となることを願います。

*プログラムの詳細や参加登録は学術集会のwebサイトをご覧ください。

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