2023年03月23日掲載
医師・歯科医師限定

【インタビュー】4年ぶり現地開催の再生医療学会 「双方向的議論」の場も―髙橋淳・総会会長が見どころなど紹介

2023年03月23日掲載
医師・歯科医師限定

京都大学 iPS細胞研究所長 教授

髙橋 淳先生

「みんなでつくる、未来」をテーマに第22回日本再生医療学会総会が3月23~25日、国立京都国際会館(京都市左京区)で開かれる。山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所名誉所長・教授によるiPS細胞(人工多能性幹細胞)の作成で世界にインパクトを与えた日本の再生医療。その研究者が、新型コロナウイルス感染症拡大によるオンライン開催を脱し、4年ぶりに一堂に会する機会となる。総会会長の髙橋 淳・京都大学iPS細胞研究所長・教授に、再生医療の現状と課題、総会の見どころなどについて聞いた。

患者も含め「みんなでつくる」再生医療を議論

今総会のテーマは「みんなでつくる、未来」とした。再生医療、特に幹細胞を使ったものの歴史は非常に浅く、私たちでもかなり初期の世代だ。私たちの世代の仕事として、もっとしっかりと次以降の世代を育てていく必要があるのではないかと考え、若い人に積極的に参加してほしいという願いを込めた。また、医療は医師や研究者だけでつくるものではなく、患者を含めた一般の皆さんとの間のディスカッションで仕組みを考えていくことが必要という考えも「みんなでつくる」という言葉に込められている。

全てのプログラムが“注目のテーマ”ではあるが、その中でも山中氏の特別講演や、若手のホープ、武部貴則・東京医科歯科大学教授の基調講演はぜひ聞いていただきたい。加えて、“京都らしさ”を意識して京都大学OGで聖護院八ッ橋総本店の鈴鹿可奈子さんに登壇いただき「伝統を守るとはどういうことか」といったお話をしていただければと思っている。

5つの特別企画はディスカッションを重視し、2時間で5、6人が意見を交換するだけでなく、聴衆にも参加してもらって“双方向的”な議論の場にできたらよいと期待している。

最先端の現場に居合わせた経験

私が脳外科医として大学院に戻るにあたり研究テーマを決める必要があった。当時は血管系か脳腫瘍の研究が普通だったが、その時の京都大学脳神経外科教授だった池晴彦氏から「これからは神経再生が大事なので研究するように」と指示を受けた。当時の京都大学には神経細胞の培養をやっている人がおらず、かなり苦労をした。

その後、留学先のソーク研究所(カリフォルニア州サンディエゴ)で神経幹細胞が発見された。それを培養して神経を誘導・移植するという一連の研究を世界で初めて行った研究所のうちの1つで、私も培養によってネズミの神経細胞を世界で初めて作り上げた何人かのうちの1人だったと思う。「不思議な細胞がある」とラボ全体がエキサイトしているその瞬間に立ち会えたことは非常に面白い体験であり、ラッキーだったと思う。

日本に戻ると、京都大学で中辻憲夫氏(現名誉教授)が日本で初めてヒト受精胚からES細胞を、続けて山中氏がiPS細胞を樹立した。身近でそうした大きな発見が続いていたという流れに沿って、私の研究も進んできた。

私自身は脳外科医で、臨床の中で細胞移植や再生医療によるパーキンソン病治療に取り組んできた。手探りで再生医療の研究を始めたところで、留学先で神経幹細胞が発見され、帰国したらヒトES細胞、iPS細胞ができて……という偶然に偶然が重なって、ここまで来ることができた。

再生医療の課題

再生医療への期待が高まっているが、実現にはいくつものステップがある。細胞移植に絞って説明をすると、1つ目のステップは動物実験レベルで安全かつ効果があることを示すことが必要だ。それができたら次のステップは、臨床試験。今は世界的にもこの段階で、ヒトの患者で効果や安全性を確認している。では、動物でも臨床試験でも安全で効果があることが分かったら医療として成り立つかというと、また別のハードルがある。たくさんの人に治療を提供できるだけの細胞を、安定的にたくさん作れるかということが1つ。また、人々が賄えるだけのコストで提供できるかという医療費の問題もある。

現在はいくつかの再生医療が臨床試験まで進められ、有効性がありそうだということも分かってきた。しかし、それを医療システムに載せるにはどうしたらよいかが、世界的に新たに、より現実的な問題になってきた。

日本の国民皆保険制度の中で「誰でも受けられる」とすると、恐らく医療費がパンクしてしまう。最初は先進医療のようにして、ある程度お金を払える人に実施するなど、取捨選択が避けられないのではないか。どの社会にとっても“正解”はなく、それぞれが解決していく問題であろう。

大会を通じて“恩送り”を

研究とは、誰も知らないことを発見することだ。誰もが知りたい、あるいは知らない、もっというとまだ誰も疑問に思っていないところに疑問を持って、それを解明していくのが魅力であろう。

再生医療に絞ると、医療のコンセプトの転換期であることを若手研究者に理解してもらいたい。どういうことかというと、「今までの医療」とは細胞そのものや細胞の機能が失われた状態で、薬や手術によって残された機能をいかに高めるか、あるいは細胞の減少をいかに少なくするかという視点だった。一方、細胞移植、再生医療では、失われた細胞を補うという新しいコンセプトの治療が始まろうとしている。そこにエキサイトし、魅力を感じてもらいたい。

日本人は「これをやる」と言われて成し遂げるのはうまいが、自らゴールや方向性を決めるのはまだまだという気もするので、若手研究者に期待をかけている。

今集会では2019年の第18回総会以来、4年ぶりに中高生のための研究発表セッションを現地開催する。豪華な演者が参加するので、動いている山中氏や武部氏らを生で見るだけでも、感じるものがあるのではないだろうか。多くの参加者の中から1人でも2人でも、将来再生医療の研究を志す人が出てくれればと願っている。

若手の育成や中高生の参加を通じて、再生医療の魅力を感じてもらい、この世界に入ってきてもらうのはとても大事だ。ある分野が発展していくとき、若い人がどんどん入ってきてすそ野が広がり、高さを増していかなければ尻すぼみになってしまう。

私が行った先々で幸運に恵まれ多くの先生方にいただいた恩を、これからを担う若手研究者やこの世界に入ってくるかもしれない中高生にわたす、いわゆる「恩送り」を、こうした機会を通じてできればと思っている。

「ES細胞」参加者と考える市民公開講座

学術集会最終日の3月25日14時から、市民公開講座「みんなで考える幹細胞研究~『生命の萌芽』のこれまでとこれから」を開催する。専門家の先生が代わる代わる一方的に話すというよりは、問題点や課題を提示して、理想的には参加者からもいろいろな意見が出る話し合いの場にできればと考えている。

テーマにある「生命の萌芽」とは、受精胚を使って作られるES細胞のことだ。母親の子宮に戻せば人間になるその受精胚を研究に役立てることの意味や意義について、正解はないと思うが、参加者も含めてみんなで話し合いながら方向性をつくっていきたいと期待している。

「前向きな取り組み」が分かる大会に

京都市では河川敷などでの打ち上げ花火が条例で禁止され、唯一花火大会が開かれるのが会場の京都国際会館だ。新型コロナウイルス感染症予防のため、懇親会はオープンエリアでの開催を予定していることを生かして、花火を見てもらえるよう計画している。

4年ぶりの本格的な現地開催になるので、まずは集まって盛り上がっていただきたい。新型コロナの最中もオンラインで意見や情報の交換はできたが、やはり生で会うことのよさを実感し、それを契機にまた研究を頑張ろうと思うきっかけにしてもらいたい。この学会に参加してくれた中高生が将来、一線で活躍するようになったときに「そういえば昔、京都で発表したことがあった」と思い出してもらえるとうれしいし、この学会での出会いで研究を続けた若い人の中から、新しいテーマで“第2、第3の山中伸弥”が出てくるといい。そんなふうに、みんな前向きに再生医療に取り組んでいるという雰囲気が分かるような大会にしていきたいと思っている。

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