2021年09月24日掲載
医師・歯科医師限定

手術療法の進歩――消化器外科領域のロボット支援下手術、課題と可能性は

2021年09月24日掲載
医師・歯科医師限定

名古屋大学大学院医学系研究科 消化器外科学講座 教授

小寺 泰弘先生

消化器外科領域におけるロボット支援下手術はまだそれほど広がっていない。その背景には、ロボット本体やその部品が高価であること、手術チームが要件を満たさないと保険償還されないこと(ロボット支援下胃がん手術の術者を10例経験した医師が常勤でいなければならないなど)、このようにハードルが高い割に内視鏡下手術に取って代わるほどの大きな治療効果の差がないことなどがあると思われる。練度が進んだ段階での内視鏡下手術は開腹手術に比べて体壁の破壊が少ないのみならず、出血量も術後合併症も少ない。ロボット支援下手術ではさらに繊細な操作が可能であるが、たとえば開腹手術から内視鏡下手術になったときに平均出血量が500ccから80ccまで減少したとすれば臨床的に意味があるように思えるが、ロボット支援下手術によって80ccが30ccになっても意義は少ないようにも思える。つまり、内視鏡下手術が定型化されて広く普及した現在、熟練したチームによる内視鏡下手術がロボット支援下手術に置き換わることの患者へのメリットが見出しにくくなっているのだ。すなわち、消化器外科領域では泌尿器科をはじめとする他診療科以上に内視鏡下手術に対する熱意ある取り組みが広く長く行われてきたがゆえに、ロボットの需要が抑えられているという、逆説的な状況が生まれている。

しかし、実際にコンソールに入って操作してみると、多関節のロボットアームは内視鏡下手術における鉗子と比較して圧倒的に操作性に優れ、人間の手では難しい動きが再現できる。また、手ぶれがあってもアームの先端には伝わらず、繊細な動きが可能だ。さらに、内視鏡カメラを使い自在に画像の拡大・縮小が行えるという利点もある。一方で、力の加減が分かりにくいという弱点も。ゆえに使いこなせるようになるまである程度の時間がかかるものの、開腹手術の経験しかない医師が初めて内視鏡下手術に挑戦した際の苦労を思い起こせば、隔世の感があるとしか言いようがない。欧米では内視鏡下手術の困難さに馴染めない外科医もロボットのおかげで低侵襲手術に踏み切れているという実情があり、これがロボットのもともとの用途であるはずだが、わが国では熟達した内視鏡外科医しかロボットに触れられないという、これまた逆説的な状況でロボット手術は開始されている。しかしこうした熟練した、つまり内視鏡下手術で大きな不自由を感じていないはずの外科医が相次いでロボットに魅せられ、普及に尽力している現状があり、これは重く受け止めるべきである。

消化器外科領域ではなかなか進んでいないロボット支援下手術。しかし現在では、国産ロボットの開発・生産も進んでおり、今後機械がコンパクト化され、コストも縮小化していくことが予想される。将来的に開腹手術はまったく別の用途のものとして残るとしても、低侵襲手術の領域ではロボット支援下手術が腹腔鏡下手術に置き換わっていく可能性は十分にありうる。ただし、それにはもう少し時間がかかると思われ、それまではせっかくここまで成長した腹腔鏡下手術のレベルを落としてはならない。

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