2024年04月04日掲載
医師・歯科医師限定

若手が「発表」で競い合う「ことはじめ甲子園」など新企画も盛りだくさん―第64回日本呼吸器学会学術講演会、4月5日から横浜市で開催

2024年04月04日掲載
医師・歯科医師限定

横浜市立大学大学院医学研究科呼吸器病学教室 主任教授/附属病院副院長

金子 猛先生

「ポストコロナ時代の呼吸器病学~みなと横浜から世界へ、そして未来へ~」をメインテーマに、第64回日本呼吸器学会学術講演会が2024457日、横浜市のパシフィコ横浜ノースで開催される。COVID-19のパンデミックから日常を取り戻しつつあるなかで開催される学術講演会は、5年ぶりにライブ配信なしで現地開催となる。会長を務める金子猛・横浜市立大学大学院医学研究科呼吸器病学教室主任教授に、テーマに込めた思いや見どころ、さらに呼吸器病学の魅力と克服すべき課題などについて聞いた。

テーマに込めた思い

医療の現場に大きな混乱と負荷をもたらし、日常生活へのさまざまな制限によって私たちを苦しめてきたCOVID-19のパンデミックは、世界保健機関(WHO)が20235月に緊急事態宣言終了を発表し、国内でも感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられた。医療現場や私たちの生活は、やっとコロナ禍前の状態に戻ってきている。

今回の学術講演会は、新しい時代の幕開けとして、これまで蓄えてきた学問に対する情熱を増幅させ、叡智を結集し、国際都市横浜から世界へそして未来へ、最新のエビデンスを発信したいとの思いを込めてテーマを設定した。5年ぶりにライブ配信を行わず、対面での活発なディスカッションを展開し、躍動感あふれる、希望に満ちた、実り多い学術講演会にしたいと思っている。

「ことはじめ甲子園」など5つの“初めて”を企画

会長を務めるにあたり、これまで本学会の委員会で取り組んできた活動の集大成とすべく臨んでいる。その中でも、「国際化」「若手医師の研究支援」「呼吸器内科医の増加策」「男女共同参画」を盛り込んだプログラムを作成、5つの“初めて”を企画した。

今回の目玉として、“初めて”開催する「ことはじめ甲子園」をまず紹介したい。これは呼吸器内科医の増加策として、前々回から実施している「呼吸器学ことはじめ」を進化させた企画だ。全国の地方会予選で最優秀の成績を収めた医学生と初期研修医を横浜に招待し、最終日に全国チャンピオンを決定する。高校野球の甲子園大会さながらに、地方予選から勝ち上がった若手が競い合い、切磋琢磨することで呼吸器内科の魅力を感じてもらいたい。

若手教育では「若手の、若手による、若手のためのシンポジウム」として、座長も“初めて”若手にし、ETSEmerging Talent Symposia)と名付けて11のシンポジウムを企画した。

国際化では、アメリカ、ヨーロッパ、アジア太平洋の各呼吸器学会(ATSERSAPSR)との交流を促進するため、各学会の会長に加えて今回“初めて”次期会長や事務局長にも講演を依頼した。

今年4月から、男女共同参画を担当する委員会名がDEIDiversity:多様性、Equity:公平性、Inclusion:包摂性)推進委員会へと変更される。日本女子大学学長の篠原聡子氏に「ダイバーシティの視点から見た建築」と題して男女共同参画、ダイバーシティのテーマで“初めて”基調講演をいただく。篠原氏はパートナーの隈研吾氏と共に我が国を代表する建築家として国内外で活躍されている。さらに、女性医師のキャリア形成支援を目的とした国際シンポジウムとワークショップを“初めて”行う。

今回は一般演題の座長の約3分の1を女性医師に務めてもらう。これは昨年の約2倍で、私が男女共同参画委員会の初代委員長に就任した時と比べると10倍以上になっている。これをきっかけとして女性医師の活躍の場が広がっていくことを期待している。

会長企画も盛りだくさんだ。中でも、学術講演会のテーマを踏まえて「みらい」をうたった「肺の再生医療のみらい」「肺癌薬物療法のみらい」「重症喘息治療のみらい」という3つのシンポジウムにご注目いただきたい。

肺の再生医療は、我々の悲願である“みらい”の医療だ。肺は再生しないため、間質性肺炎やCOPDなどは肺移植に頼らないと末期の患者を救うことができない。しかし、肺移植はドナーが少なく、残念ながらほとんどの患者が時間切れで亡くなってしまう。そこで、肺の再生医療の現状と課題、将来展望について3人に講演してもらうほか、iPS細胞の開発により再生医療を飛躍的に発展させた山中伸弥氏(京都大学iPS細胞研究所名誉所長)にオープニングリマークスをお願いしている。また、招聘講演についても豪華な顔ぶれで、それぞれの専門領域で世界的権威である国内外の6人の先生にご講演いただく。

増える患者、呼吸器内科医不足―山積する課題の解決策を模索

呼吸器疾患患者は増加傾向にあるが、呼吸器内科医の不足は深刻で、学会にとっての最大の課題となっている。

WHO(世界保健機関)によると、世界の死亡原因のトップ10COPD、肺炎、肺がんと呼吸器疾患3つがランク入りしている(2019年)。国内でも高齢化に伴い、これら3つの患者が増えている。COVID-19のパンデミックで明らかになったように、呼吸器疾患は生死に直結している。それにもかかわらず、消化器、循環器と並んで“3大内科”の一角を占める呼吸器内科は、専門医や医師数が消化器内科の約3分の1、循環器内科の約半数しかいない。

私たちは呼吸器内科医の不足実態を調査し、結果を分析して学会誌に発表している。調査では医師不足を補うため、呼吸器内科医は睡眠時間を削るなどして疲弊していることが分かった。一方で、過半数が仕事に満足しているとも回答している。呼吸器内科は忙しいけれども楽しく働いているということだろう。

呼吸器学会ではなんとか医師数を増やし、忙しすぎず、楽しく仕事ができる環境をつくっていきたいとさまざまな活動をしている。ただ、他の診療科と同様、3040歳代で女性医師が出産・育児のために診療の第一線から離れてしまう。一度抜けた女性医師に戻ってもらうことが重要であると考えて男女共同参画の推進に取り組んできたところ、女性の退会が3分の1ほど減った。

他にも呼吸器内科領域には解決すべき課題が山積している。1つは地域偏在。全国的に見ても呼吸器内科医は不足しているが、支部別でみると四国、北陸、東北は呼吸器内科の入局者が少ない。また、大学院進学や海外留学に関心を持たない若者が増えていることも問題だ。大学院進学・留学は診療、研究レベルの維持、向上のために重要と考える。経験者に対するアンケートでは、大多数が海外留学はその後の研究・臨床に生かされたと回答している。ぜひ、キャリアプランの中で大学院進学・留学を積極的に検討してほしい。

こうした課題は、いずれも学会が中心となって取り組み、解決していかなければならないものと考えている。

広範な知識を習得研究テーマも豊富―呼吸器病学の魅力

私はもともと患者に近い内科に興味があったので初期研修医の2年間、内科系の全ての診療科で研修し、その中で一番楽しかった呼吸器内科に進んだ。呼吸器疾患は多彩な病態を有しており、アレルギー・免疫、炎症、腫瘍、感染症など幅広い知識が身につき、呼吸管理や全身管理をしっかり学ぶことができるのが呼吸器病学の魅力だと思っている。その後大学院に進学したが、研究テーマも幅広い領域から選ぶことができ、あらためて呼吸器内科を選んだことを幸運に思っている。

全国の呼吸器内科医不足の解消を目的として、学会では将来計画委員会、教育委員会の委員長として、初期研修医や医学生の教育に力を入れてきた。将来計画委員会の委員長のときに、初期研修医を対象としたサマーセミナーを初めて開催し、翌年から臨床呼吸機能講習会の初期臨床研修医コースを新設してこれを継続することになった。

呼吸器疾患には、病気の原因となるあらゆる病態があり、臨床および研究の対象として必ず興味がもてる領域が見つかると思う。また、こうしたさまざまな病態に対応した薬物療法、さらに全身管理や呼吸管理を学ぶことは、将来呼吸器内科を専門としない方にとっても、非常に役立つ知識や経験となるであろう。特に胸部X線写真の読影や抗菌薬の使い方は、初期研修医がもっとも興味を持っている課題だ。

医学生、研修医の皆さんにはぜひ、呼吸器内科医の臨床研修を選択して、呼吸器内科の醍醐味や面白さを実感していただきたい。そして将来、呼吸器内科を専攻してもらえるとうれしい。

 老若男女が楽しめるプログラム満載―ぜひ来場を

恩師の大久保隆男先生(横浜市立大学第一内科学講座教授、故人)が、第37回の会長を務められてから27年ぶりに、横浜市大が学術講演会を担当することになり大変光栄に思っている。約1200題の演題が集まり、医学生・研修医からリタイアされた方まで老若男女問わず満足していただける魅力あふれるプログラムが満載となっている。可能な限り会場に足を運んでいただき、対面での発表やディスカッションを楽しんで、みなと横浜から世界に、そして未来に向けて最新の情報を発信していただくことを期待している。

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