2022年06月03日掲載
医師・歯科医師限定

【第80回日本癌学会レポート】COVID-19 流行下におけるがん外科診療――アンケート結果に基づく手術状況の変化(2900字)

2022年06月03日掲載
医師・歯科医師限定

群馬大学大学院医学系研究科 総合外科学講座 肝胆膵外科学分野 教授 / 群馬大学医学部附属病院 外科診療センター長

調 憲先生

2020年のランセットオンコロジーにて驚くべきデータが発表された。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大状況が深刻だった英国において、がんの診断が3か月程度遅れ、10年生存率は10%以上低下することが予測されるというものだ。

こうした情勢を踏まえ、調 憲氏(群馬大学大学院医学系研究科 総合外科学講座 肝胆膵外科学分野 教授)は、第80回日本癌学会学術総会(2021年9月30日~10月2日)で「COVID-19 流行下におけるがんの外科診療のこれまでとこれから」と題し、2つのアンケート結果に基づき、COVID-19が与えたがん手術状況の変化について講演を行った。

COVID-19流行下における正しい情報発信

COVID-19の流行が続き、累積感染者数・死亡者数が増加の一途を辿る一方で、新たにがんと診断される患者やがんによって亡くなる患者も多く存在している。COVID-19流行下においても、しっかりとがん診療を続けていくことが重要だ。そしてそのためには、迅速に正しい情報を発信していく必要がある。

2020年1月に日本でCOVID-19患者が初めて確認されてから、各学会はタイムリーな情報発信を行ってきた。初の感染確認からわずか数か月後の4月1日、日本外科学会はCOVID-19流行下の外科手術に関する提言を発表した。この中で外科手術を3段階に分け、段階に応じて「延期」や「慎重な実施」など対応方法を示している。

2020年5月中旬には、がん関連3学会(日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会)合同連携委員会の新型コロナウイルス(COVID-19)対策ワーキンググループによって、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療について(患者さん向け・医療従事者向け)Q&A」の初版が発表され、患者や医療従事者が意思決定を行うにあたり非常に重要な指標となった。現在ではワクチンに関する情報も随時発信されている。

また、正しい情報発信の大切さが認識された出来事がある。2020年4月、ある俳優がCOVID-19による肺炎で亡くなったニュースが報道され、所属事務所は「乳がんの放射線治療による免疫力低下が重症化の原因ではないか」と発表した。するとその日以降、SNSにがん患者やその家族による、手術や放射線治療を受けるべきかなどといった不安を訴える書き込みが増加した。憶測による誤った情報が広まるのを防ぐため、数日後には日本放射線腫瘍学会が「早期乳がん術後に行われる放射線治療は、体への侵襲が少なく、免疫機能の低下はほとんどありません」と明言したことで、社会的問題が解決に至ったといえる。

COVID-19流行による外科手術の変化

次に、COVID-19流行下における外科手術状況の変化について、第一波・第二波の期間で行われた2つのアンケート結果に基づき紹介する。

第一波下における外科手術の状況――日本消化器外科学会アンケート調査から

まず、第一波にあたる2020年5月に日本消化器外科学会が行った「COVID-19感染に伴う消化器がん手術制限に関するアンケート」の結果を抜粋して紹介する。日本消化器外科学会認定施設の887施設が対象となり、うち477施設から回答があった。なお、第一波においては、PPE(個人防護具)の不足、院内感染、ICUベッドの使用制限、重症度に関わらない入院受け入れによる医療のひっ迫、看護体制の再編、診療科を超えた診療提供など、さまざまな非常事態に見舞われた。

手術制限の有無

「診療科を問わず手術制限があるか?」という設問に対しては、「2020年3月からある」と回答した施設が13.42%、「2020年4月からある」と回答した施設が53.25%であり、およそ3分の2の施設で第一波の時期からすでに手術制限があったことが分かった。

手術全体の実施率

「2020年1月を100%とした場合の手術全体(消化器がん含む)の実施率」に関する問いに対しては、2020年3月時点では52.4%の施設が「変化なし」としたが、4月時点で「変化なし」と答えた施設は3月に比べて半減し、手術実施率が20%以上減少したと答えた施設が3月に比べて大幅に増加している。COVID-19に関する不安や体制の整備など、多くの要因が影響したと考えられる。

消化器がんの手術制限

「消化器がん(食道、胃、結腸・直腸、肝・胆・膵)の手術制限があるか?」という設問に対しては2020年3月・4月の結果を合わせて40%近くの施設で制限があったと回答した。制限の理由としてもっとも多いのは市中感染の蔓延防止であり、そのほかPPEの不足と回答した施設も多かった。

第二波下における外科手術の状況――群馬県基幹病院に対するアンケート調査から

次に、第二波下における手術状況の変化について群馬県基幹病院に対するアンケート結果に基づき解説する。

第二波では、第一波に比べてPPEの供給改善、院内感染の減少、ICU使用制限の改善、重症度を加味した入院コントロールなど病院機能が徐々に正常化し始め、がんの通常診療ができる体制が整ってきていた。

しかしながら、自身が群馬大学医学部附属病院の外科診療センター長として、群馬大学医学部附属病院の消化管・肝胆膵・肺・乳がんなどの外科手術を俯瞰的に見る立場にある中で、がん手術件数が減少していることに気付いた。そこで、群馬県のがん診療連携拠点病院・推進病院17施設にアンケートを取ったところ、やはり2020年1〜9月の手術件数は前年に比べて269件減少(7.7%減少)しており、特に5月以降の減少が目立った。

検診・非検診別に分けて、胃がん・大腸がん・肺がん・乳がんの手術件数を前年と比較してみると、胃がん・大腸がん・肺がんでは、検診から手術に至った件数が大きく減少していた。また、胃がんと乳がんでは非検診による手術件数も減少していた。

こうしたがん手術件数の減少の背景には、検診控えに加えて、検診で要精密検査と判定されたにもかかわらず、検査を受けていない可能性があると考えられる。また、症状があっても受診を控えていることも危惧されるため、国民に向けて検診の重要性を訴えていく必要があるだろう。

また、胃がんに限定して見た場合、2020年10月以降はステージ1の早期発見が減少し、反対にステージ2以降での発見が大きく増加していることからも、検診の減少による発見の遅れが示唆される。

重症者数減少の必要性

2021年夏の第五波では、国民のワクチン接種が進みCOVID-19の重症者数が減るのではないかといわれていたが、予想に反して重症者数は大きく増加した。この状況に対応するため、大阪大学医学部附属病院では、苦渋の選択のうえICUを全てコロナ病床に切り替える対応をしている。重症化数の増加による手術への影響を防ぐためにも、重症者を減らしていく努力が必要だろう。

講演のまとめ

  • 第一波では、地域の診療体制、院内感染の発生、PPEの供給体制の不安定さなどによる手術の延期など、がん診療に非常に大きな影響を与えた
  • 第二波では通常の診療体制が整ってきたものの、がん検診の減少や受診控えなどによってがんの手術件数が減少した
  • COVID-19重症者が増加すれば、ICU入室制限などによって予定手術が深刻な影響を受けるため、重症者の減少が重要である
  • 関連学会が適切な情報をタイムリーに発信していくことが非常に重要である

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