2023年10月23日掲載
医師・歯科医師限定

「多職種で支える周産期リエゾンのバトン」テーマに日本周産期メンタルヘルス学会学術集会開催――大会長、竹内 崇氏が注目演題など紹介

2023年10月23日掲載
医師・歯科医師限定

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 精神行動医科学分野 リエゾン精神医学・精神腫瘍学担当 准教授

竹内 崇先生

第19回日本周産期メンタルヘルス学会学術集会が2023年10月28日〜29日、一橋講堂(東京都千代田区)で開催される(現地開催、後日オンデマンド配信あり)。テーマは「多職種で支える周産期リエゾンのバトン ~皆の"育つ" "生きる"を支える~」。周産期メンタルヘルスにはさまざまな職種が関わり、考えるべき問題も実に多様だ。本学術集会では、周産期の薬物療法や心理療法といった日常臨床に役立つプログラムのほか、地域リエゾン、虐待問題、ステップファミリーなど、近年の注目トピックを知ることができるプログラムも用意されている。大会長を務める、竹内 崇氏(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 精神行動医科学分野 リエゾン精神医学・精神腫瘍学担当 准教授)に、学術集会のテーマに込めた思いや注目演題を聞いた。

テーマに込めた思いは

今年の学術集会のテーマは「多職種で支える周産期リエゾンのバトン ~皆の"育つ" "生きる"を支える~」とした。妊産婦におけるメンタルヘルスの問題には、さまざまな職種が関わる。さらに、妊娠前、妊娠中、出産後、育児期間と時間が経過していくとともに、関与する職種は次々に変化していく。

たとえば、妊娠前から精神疾患に罹患している女性の場合、妊娠中には精神科医や産婦人科医、助産師が中心となり治療やサポートを行う。社会的支援が必要な状態であれば、医療ソーシャルワーカー(MSW)が介入し、薬物療法を行っていれば薬剤師の協力も必要だ。さらに出産後は、病院だけでなく生活の場となる地域の支えも必要となるので、地域の保健所や子ども家庭支援センターなどのスタッフと連携していかなければならない。多職種でバトンをつないでいくことの重要性を伝えたいという思いをテーマに込めている。

本学術集会には、さまざまな職種や立場にある人々が参加する。学会会員だけでなく、非会員の参加者が多いことも特徴だ。周産期メンタルヘルスが専門でなくても、たとえば保健所職員で、人事異動で周産期を担当する部署に配属されたので勉強しておきたい、という理由で参加される方もいる。

現場を支えるのは助産師や保健師といった看護職が中心にはなるものの、現場の状況を医師がきちんと把握していくことは非常に重要である。日本周産期メンタルヘルス学会学術集会の大会長は、看護職、産婦人科医、精神科医の3領域から輪番制で選出されている。今回、私が精神科医として大会長を務めさせていただくにあたり、精神科医の周産期メンタルヘルスのリテラシー向上を目指したいと思っている。

日常臨床に役立つプログラムを用意

精神科医にぜひ聞いていただきたいのが、周産期の薬物療法に関するプログラムだ。以前、精神科医を対象に実施したアンケート調査で、妊婦への薬物療法に対して不安や抵抗を感じる精神科医は少なくないことが分かっている。周産期において、どのような考え方で薬物療法に臨めばよいのかなど、具体的な手法が学べるプログラムとなっている。

精神疾患を持つ妊婦の中には、薬物療法は必要なくとも何らかの心理的支援を必要とする方も多い。軽症の精神疾患では心理療法が非常に有用であるが、日々の忙しい診療の中で、一人ひとりにかけられる時間は限られている。本学術集会では、コンパクトで短い時間でも取り入れることができる心理療法を学べるプログラムを用意した。精神科医だけでなく、産婦人科医や助産師でも簡単に実践できる手法を学ぶことができる。

地域リエゾンや虐待問題、ステップファミリーに関するトピックも

周産期メンタルヘルスの支援では、妊婦や病院がいかに地域とつながっていくかがポイントとなる。そこで今回、大分県で行政機関などを巻き込み地域リエゾンのシステムを構築してきた産婦人科医師に、その取り組み事例をご紹介いただく。病院が地域とつながりを持っていくための具体的なノウハウなどを知ることができるだろう。

そのほか、我々が考えなければならないのが虐待に関する問題だ。悲しいことに虐待件数は年々増加している。虐待は起こってからでは対応が難しいため、虐待が起こる前から早期に介入していくことが肝要だ。そのためには、妊娠中から虐待リスクがあると考えられる妊産婦への支援を行っていく必要があるだろう。特別講演では、虐待問題を専門とする鷲山 拓男氏(とよたまこころの診療所 所長)に虐待予防のための取り組みについて語っていただく。

もう1つの特別講演では、野沢 慎司氏(明治学院大学社会学部 教授)にステップファミリー支援についてお話しいただく。ステップファミリーとは、男女の一方あるいは双方が子どもを連れて再婚したときに形成される家族のことだ。欧米に比べて日本ではまだ馴染みのない概念だろう。親と子の関係が思うように築けず、家族としてうまく機能しないなどの実態もあるようだ。虐待とも関わるトピックであり、周産期メンタルヘルスに関わる者は知っておく必要があるだろう。新たな視点での話を聞くことができる魅力的なプログラムだと考えている。

学術集会のサブテーマ「~皆の"育つ" "生きる"を支える~」には、妊産婦や子どもたちが育ち、生きていく過程を、社会全体で支援できる形をつくりたいという思いを込めている。

また、ポスターをご覧いただくと分かるが、「育つ」「生きる」の「“」の向きをあえて通常と変えている。「育つ」と「生きる」を、人が向き合って支えるイメージを意識して、このような形にした。

どうすればこうした社会が形成できるのか、学術集会の場でぜひ考えてみてほしい。

大会長からのメッセージ

新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、今年は4年ぶりの現地開催となる。多彩で魅力あるプログラムを準備したので、ぜひこの機会に周産期メンタルヘルスについて学んでいただきたい。現地に来られない方のためにオンデマンド配信も用意した。好きな時間に好きなプログラムを聴講することができるので、興味がある方はぜひ学術集会への参加登録をしていただきたい。多くの方の参加をお待ちしている。

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