2022年08月05日掲載
医師・歯科医師限定

【第51回日本皮膚免疫アレルギー学会レポート】果物や野菜によるアナフィラキシーのメカニズムと見分け方(4000字)

2022年08月05日掲載
医師・歯科医師限定

昭和大学医学部皮膚科学講座 主任教授/昭和大学病院皮膚科 診療科長

猪又 直子先生

昨今、アレルギーは小児だけではなく、学童期や青年期でも新規の発症が多くみられる。新しいアレルゲンも含め、原因物質やメカニズムの迅速な同定が臨床現場で必要とされている。

猪又 直子氏(昭和大学医学部皮膚科学講座 主任教授/昭和大学病院 皮膚科 診療科長)は、第51回日本皮膚免疫アレルギー学会総会学術大会(2021年11月26~28日)のシンポジウムにおいて「果物・野菜のアナフィラキシー:検索のコツ」と題し、果物や野菜によるアナフィラキシーのメカニズムや見分け方について講演を行った。

果物・野菜アレルギー

果物や野菜がアナフィラキシーを引き起こすというイメージは少ないのではないだろうか。しかし2020年の発表によると、新規アレルギー発症のうち、果物アレルギーは1歳以上の全ての年齢層において上位5位以内に入っており、特に7〜17歳では1位であった。

発症メカニズムは主に4つだ。

(1)経消化管感作

(2)経皮感作

(3)経気道感作:花粉症から交差反応で果物・野菜アレルギーが生じる「PFAS(花粉-食物アレルギー症候群)」

(4)経皮感作と経気道感作の混合型: LFS(ラテックス-フルーツ症候群)


各メカニズムにおける代表的なアレルゲンは以下のとおりだ。

(1)GRP(ジベレリン制御タンパク質)やLTP(脂質輸送タンパク質)

(2)症例数が不十分のため正確なアレルゲンは不明

(3)PR-10(生体防御タンパク質-10)と骨格をつかさどるプロフィリンの交差反応

(4)ラテックスのHev V6とトロピカルフルーツのPR-3の交差反応


重症度は一般的に(1)が非常に強く(4)も比較的強い。これらに比べると(3)は基本的に口腔内に限局する軽症である。

メカニズムや重症度の違いは抗原となるタンパク質の性質に依存する。具体的には、消化や熱に対する安定性が挙げられる。一般的には、脆弱性のアレルゲンでもたらされるPFASは軽症で、比較的安定したタンパク質によるものは重症になりやすい。しかし、生体側の要素や二次的要因によっては、脆弱性のアレルゲンでもアナフィラキシーが生じることがある。いずれのメカニズムでもアナフィラキシーが起こり得ることを念頭に置くことが大切だ。

アナフィラキシーを生じた場合の検査方法

アナフィラキシーが起こった際に重要なのは、アレルゲンとメカニズムを同定するためのスクリーニングである。脆弱なタンパク質や未知のタンパク質によるアレルギーを検出するためには、食品そのものを用いて行う「プリック法」が有用だ。プリック法を実施したうえで、感作源やメカニズムを推定する際に有用なのが「アレルゲンコンポーネント検査」である。アレルゲンコンポーネント検査では、アレルギーの原因となるタンパク質を成分ごとに分けて精緻な検査が可能だ。

アレルゲンコンポーネント検査に用いる成分は全てが商品化されているわけではない。大豆のPR-10やラテックスのHev b 6.02などは重症例もあり保険収載されている。

PFAS(花粉-食物アレルギー症候群)

果物アレルギー100例の解析結果を示すと、80例はPR-10もしくはプロフィリンどちらかに感作がみられるPFASだった。PFASはシラカバなどの花粉で感作され、モモなど構造が類似したアレルゲンによって交差反応を生じる。口腔や咽頭などに花粉の感作が生じているため感作部位には症状が現れるが、消化酵素で消化された後に誘発されることはない。

PFASの性質上、注意しなければいけないのが高分子薬を使った検査での偽陰性である。試薬を作成している間に抗原性が失われたり、濃度が低くなったりしてしまうために偽陰性が生じることもあるのだ。そこで登場したのが「コンポーネント検査」である。

バラ科の果物や豆乳によるPFASでアレルゲンソースでは全て陰性になった患者において、コンポーネント検査を実施したところ、PR-10で陽性となった事例がある。こうした実例もあるため、より正確な結果を得るためには、血液検査に加えてコンポーネント検査を行うのが望ましい。

血液検査とコンポーネント検査での同定が難しい場合はプリック法が有用だ。ただし、抗原試薬は抗原が失活してしまっている可能性も考えられる。プリック法を実施する際は、試薬ではなく食品そのものでテストするのがよい。たとえばリンゴの場合、加熱した試薬でまったく反応が出なくても、生のリンゴを用いると反応が出ることもあるのだ。

一般的にPFASは軽症であるが、1〜2%でアナフィラキシーが起こる。特に注意しなければいけないのが、カバノキ科の花粉への感作で起こる豆乳アナフィラキシーとヨモギ花粉への感作で起こるセリ科のスパイスアレルギーである。原因タンパクであるGly m 4の食品別含有量をみると、栄養パウダーやフレーク、豆腐、豆乳でも数値は高く、加工していても注意が必要だ。一方、発酵食品では検出されないため、味噌、醤油、納豆は食べられると考えてよいだろう。

タンメンを食べてアナフィラキシーをきたしたというPFAS症例も経験している。原因を探索していくと、モヤシが原因であることが判明した。モヤシは豆類を発芽させたものであるためPR-10タンパクが多く含まれているのだ。

経消化管感作によるGRPアレルギー

果物アレルギー100例中80例のPFASを除いた20例について調査研究を行った。LTPとGRP(モモの Pru p 7)で検査をしたところ、LTPの感作が1例、GRPの感作が13例であり、その多くがアナフィラキシー症例であった。すなわち、PR-10やプロフィリンの感作がみられない果物アレルギー患者の65%はGRPに感作されていることが示された。

GRPは植物ホルモンのジベレリンによって発現が誘導され、植物の成長や抗菌活性に関与するタンパク質だ。また、熱安定性と消化耐性を持つことも特徴だ。GRPによるアレルギーは重症者に多いことから、GRPは重症マーカーとされている。

症例紹介

56歳の女性で顔面腫脹と呼吸困難で来院。5〜6年前からモモを食べると口の周りが腫れる感じがあり、3年ほど前からミカンでかゆみや蕁麻疹、顔面の腫脹がみられていた。ある日、梅干しのおにぎりを食べた1時間後から眼の違和感、かゆみ、顔面の腫脹、舌の腫脹、喉頭絞扼感などがあり救急要請。救急隊到着時には血圧低下もあった。アップルパイを食べたときにも1時間後に同様の症状が表れ、救急搬送されている。

抗原特異的IgE検査では、疑われる食品は全て陰性であった。プリック法で調べたところ、リンゴ、モモ、ウメ、オレンジ、サクランボ全てが陽性であり、GRPによるアナフィラキシーと推察された。

重症化しやすいGRPアレルギー

本症例より、アナフィラキシー症例でも抗原特異的IgE検査が陰性になるケースがあると知っておくこととGRPアレルギーを疑うことが大切だ。また、ほかのGRPアレルギー患者13名についても、90%以上はモモで、さらに問診すると梅干しなどで起こっているケースも60%いる。リンゴ、サクランボなどのバラ科、イチジク、柑橘系でもみられており、臨床的な特徴として眼瞼の腫脹がある。

GRPアレルギーはアナフィラキシーの例が圧倒的に多く、ショックにまで至ったケースは2割いる。また、運動やNSAIDsなど二次的要因の関与する頻度も84.6%と非常に高いため、問診時の聴取が大切だ。また、裸子植物であるヒノキや日本スギなどの花粉類にもGRPが含まれており、交差反応でモモのアナフィラキシーが起こるという報告もある。今後さらにデータを解析していく必要があるが、GRPが非常に重要なアレルゲンであることは間違いない。

GRPアレルギーは重症化しやすく、FDEIA(食物依存性運動誘発アナフィラキシー)かつPFASである。大人が発症する食物アレルギーの重要な要素を全て兼ね備えたアレルギーといえる。

GRPアレルギーが最近注目されている理由として、植物のGRP産生に影響を与える因子がある。気温上昇などの環境ストレスや、植物の成長促進を目的として使用される合成ジベレリンなどによりGRPの産生は促進する。GRPがアレルゲンとして認識され始めた背景には、環境や農業技法の変化も考えられるだろう。

職業性に成立する経皮感作によるアレルギー

調理師や主婦は毎日のように素手で食品を触っており、手荒れによる傷から経皮感作が生じて食物アレルギーとなるケースが多い。統計によると、主婦は同じ食品を繰り返し大量に触ることはないため、発症しても口腔症状で終わることが多い。

一方調理師の場合は、呼吸器症状、消化器症状、ショックに陥るケースがあるため注意が必要である。原因食物はニンジン、ブロッコリー、レタス、チコリー、オレンジ、パイナップル、キウイなど多岐にわたる。レタスやチコリーはアレルギーとしては珍しいが、レタスを毎日処理していた調理スタッフが交差反応でアナフィラキシーを生じた症例もある。職業柄珍しいアレルギーを発症することもあるため問診での聴取が重要だ。

講演のまとめ

  • 果物・野菜アレルギーの発症メカニズムは(1)経消化管感作(2)経皮感作(3)経気道感作(4)経皮感作と経気道感作の混合型の4つに分類される
  • 経気道感作によるPFASは一般的に軽症だが、1〜2%にアナフィラキシーが生じる
  • 果物のアナフィラキシーは、血液検査が陰性でもGRPの関与が示唆されている
  • GRPによるアレルギーについては、モモやウメなどのバラ科の果物や柑橘系に注意する
  • 問診上再現性がない場合、運動やNSAIDsなどの二次的要因の関与に留意する
  • 調理師の場合、同じ食物を繰り返し触ることによる経皮感作で重症化しやすい
  • スクリーニングには生の食品を用いたプリック法が有用。血清特異的IgE抗体の偽陰性に注意する
  • メカニズムや重症化の推定、診断率向上にはアレルゲンコンポーネント検査を活用するとよい

会員登録をすると、
記事全文が読めるページに遷移できます。

会員登録して全文を読む

医師について

新着記事