2022年02月21日掲載
医師・歯科医師限定

【第59回日本癌治療学会レポート】国内外におけるHPVワクチンの現状――9価ワクチンの導入、今後の課題とは(3700字)

2022年02月21日掲載
医師・歯科医師限定

国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 感染症部長/感染制御室長

岩田 敏先生

HPVワクチンの積極的接種勧奨の再開に向けた動きが加速するなか、2020年7月に9価HPVワクチンが国内で承認された。欧米諸国では、すでに9価HPVワクチンでの定期接種が実施されており、女性だけでなく男性も接種の対象となっている。日本におけるHPVワクチン接種は、今後どのように進められていくのだろうか。

岩田 敏氏(国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 感染症部長/感染制御室長)は、第59回日本癌治療学会学術集会の会長企画シンポジウムの中で、「HPVワクチン接種の現状と展望―9価HPVワクチンの導入を踏まえて」と題し、講演を行った。

HPVワクチンに関する政策・イベントの推移

2013年4月にHPVワクチンが定期接種化されたが、接種後に多彩な症状が出現したことから、同年6月より積極的接種の勧奨が差し控えられるようになった。しかし、子宮頸がんの予防ができなくなることへの懸念から、学会、医師会・医会、自治体、議員連盟によって、積極的接種勧奨の再開に向けた働きかけが行われてきた。そして、2021年7月と8月に議員連盟から、行政府(総理大臣・官房長官・厚生労働大臣)宛てに要望書が提出されたことなどがきっかけとなり、同年8月31日に田村 憲久・前厚労大臣が「なるべく早く方向性を出していかなければならないと思っている」と表明し、一気に風向きが変わった。

この発言を受け、同年10月1日の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会と薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)の中で、ワクチンの安全性・有効性に関するエビデンスの整理、ワクチン接種後に生じた症状に苦しんでいる方に寄り添った支援策、ワクチンに関する情報提供について議論された。その結果、「積極的勧奨の再開を妨げる要素はない」との部会の結論が出され、積極的接種の勧奨再開に向けて、大きくスタートを切ることとなった*

*2021年11月12日に開催された合同会議で「HPVワクチンの定期接種の積極的な勧奨を差し控えている状態を終了させることが妥当である」と結論付けられた。

安全性・有効性に関するエビデンス

安全性

国内外からの多数の報告によって、HPVワクチン接種後に起こる多様な症状とワクチン接種との関連性を示唆するエビデンスは示されていない。日本人の若年女性を対象とした大規模調査「名古屋スタディ」でも、非接種群と比較して24症状のいずれの発症率も、接種群で有意な上昇は認められなかったことが報告されている。

有効性・持続性

HPVワクチン接種によってHPV感染や高度異形成を予防できることはすでに報告されてきたが、最近では、子宮頸がんの発症リスク予防効果についても海外から報告されている。10~30歳女性に対して行われたスウェーデンの研究では、4価HPVワクチンの接種が浸潤性子宮頸がんのリスク低減に関連することが報告された。特に17歳より前にワクチンを接種した群では、罹患リスクが88%も減少することが分かった。

また、デンマークのコホート研究では、20歳より前にHPVワクチンを接種した場合、子宮頸がんの予防に高い効果が認められた。さらにスウェーデンからの報告と同様、より若年(16歳以下)での接種によって、罹患リスクを86%減少させられることも明らかになっている。

日本では千葉大学 仕子氏らの横断研究の中で、HPVワクチンを接種した20~29歳の女性で、未接種群と比べて高度子宮頸部病変のリスクが低減することが認められた(CIN2で76%、CIN3で91%低減)。大阪大学 池田氏らの報告でも、子宮頸部の細胞学的異常および子宮頸部上皮内腫瘍について、HPVワクチン接種によるリスク低減効果が示されている(CIN2で74.8%、CIN3で80.9%低減)。

また、2価および4価HPVワクチン接種後の中和抗体の持続性については、英国・イングランドで7年間の追跡調査、フィンランドで12年間の追跡調査が行われており、いずれの調査においても抗体の持続性が認められている。

接種後の問題に対する診療提供体制の整備

HPVワクチン接種後に症状が出た方への対応として、厚生労働省は予防接種法またはPMDA法(独立行政法人 医薬品医療機器総合機器法)に基づき速やかに救済に関わる審査を実施してきた。なお、両制度間における整合性の確保にも取り組んでいる。

また、ワクチン接種によって何らかの症状が出た方に適切な診療が提供できるよう、全国47都道府県に84の協力医療機関を設置し、協力医療機関の医師向けに研修会を年に1度ほど実施している。

安全性・有効性に関する情報提供

接種対象者が接種を検討・判断するためには、ワクチンの安全性・有効性について正しく知ってもらう必要がある。厚生労働省はHPVワクチンに関するリーフレットを2020年9月に改訂し、各自治体を介して接種対象者へリーフレットまたは同様の趣旨の情報提供資材の個別送付を開始した。過去2~3年で少しずつ接種数が増加傾向にあるのは、この取り組みの成果ともいえるだろう。

加えて、学校教育の場への情報提供も重要だ。2020年1月、自身が委員長を務める予防接種推進専門協議会は、「がん教育推進のための教材」へのワクチンによるがん予防の記載に向けた要望書を文部科学省に提出した。その結果、2021年3月の一部改訂に伴い、「HPVワクチンの接種によって将来の子宮頸がん予防が期待される」という旨の記載が追加されることになった。

9価HPVワクチンについて――効果と副反応

9価ワクチンは、HPV6/11/16/18型に加えて、31/33/45/52/58型をカバーするもので、HPV52/58型は、日本人を含むアジア人の子宮頸がんに多いとされている。そのため、日本において9価ワクチン導入によるHPV型のカバー率は、4価ワクチンの65.4%から、88.2%にまで上昇すると推測されている。

9価ワクチンの適応は9歳以上の女性で、子宮頸がんおよびその前駆病変、外陰上皮内腫瘍、腟上皮内腫瘍、尖圭コンジローマの予防に有効性が認められている。国際共同治験では、9価ワクチンにのみ含まれるタイプに関連した、グレード2以上の子宮頸部上皮内腫瘍、上皮内腺がん、外陰上皮内腫瘍および腟上皮内腫瘍の発生率に対し、96.7%の予防効果を示したことが報告されている。また、接種後の副反応に関しては4価ワクチンと比べて大きな差はないことも分かっている。

最近では、9価ワクチンの持続性に関するデータも発表されてきている。16~26歳の女性を対象とした臨床試験の延長試験では、観察期間中の子宮頸部の異常例はまったく報告されず、8年目の中間報告で効果の持続が確認された。また、9~15歳の男女を対象とした臨床試験における長期フォローアップの報告でも、3回接種から8.2年経過後も高度病変の発生はないことが示されている。

世界のHPVワクチン接種状況

世界のHPVワクチンの接種状況を見てみよう。2020年6月時点でWHOに加盟する107か国のうち、55%もの国でHPVワクチンの国家予防接種プログラムによる接種が行われている。下図は2019年の女性におけるHPVワクチンの国別推定接種率である。ノルウェーやカナダ、イギリスで90%ほどの高い接種率であるのに対し、日本は0.3%と非常に低い接種率となっている。

<図左:HIC(高所得国)のHPVワクチン推定接種率>

Laia Bruni et al. Prev Med. 2021 Mar;144:106399.より引用

また、オーストラリア、米国、カナダ、フランス、英国、ドイツ、デンマーク、イタリア、スイス、日本でHPVワクチン導入状況を比較すると、日本以外の全ての国で9価ワクチンが導入されており、男女ともに定期接種の対象となっている。接種回数も日本ではいまだ3回接種であるが、そのほかの国ではいずれも2回接種となっている。

今後の展望

HPVワクチンの積極的接種の勧奨再開にあたっては、効果と安全性に関する丁寧な説明や、接種後に起こる多様な症状への適切な対応などが求められる。医療者に対して正しい注射手技を広めていくことも重要だろう。

さらに制度の観点からは、接種の機会を逃してしまった方へのキャッチアップ接種、9価ワクチンの定期接種、男性への接種などをいかに実施するかを検討する必要がある。また、コストベネフィットの点では、3回接種から2回接種へのシフトも課題であり、9~15歳の日本人男女を対象に、9価HPVワクチンの免疫原性および安全性を評価する第III相試験の中で、2回接種と3回接種の比較が行われている。

ようやく日本でも、女性に対するHPVワクチンの積極的接種の勧奨が再開されるが、世界の状況をみると、クリアすべき課題はまだ多く残っているといえるだろう。今後、日本も世界に追随する形でHPVワクチンの接種が進んでいくことを期待している。

講演のまとめ

・HPVワクチンの安全性は国内外の多数の報告によって認められている

・HPVワクチンの有効性について、HPV感染や高度異形成の予防だけでなく、海外研究で子宮頸がんに対する予防効果も示されている

・HPVワクチン接種の積極的勧奨の再開にあたり、接種後の症状に苦しむ方への支援や、ワクチンの有効性・安全性に関する情報提供が重要となる

・9価HPVワクチンの有効性や安全性についてもすでに証明されており、欧米諸国では9価HVPワクチンの男女接種、2回接種が導入されている

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