2021年11月12日掲載

【症例紹介】潰瘍性大腸炎合併大腸がんと治療について

2021年11月12日掲載

札幌医科大学 医学部 消化器内科学講座 診察医

林 優希先生

札幌医科大学 消化器内科学講座では、地方中核病院との間で、炎症性腸疾患(IBD)に関する遠隔連携診療を実施している。遠隔連携診療とは、専門医と患者、地域病院医師の3者を結ぶ新しい遠隔診療方式で、Doctor to Patient with Doctor(D to P with D)とも呼ばれている。


当科では診療の前後に、IBD専門医と学内や中核病院の非専門医で症例のディスカッションが実施される。本記事では、遠隔連携診療でのIBDに関するディスカッションの一例を紹介する。

「潰瘍性大腸炎合併大腸がん(Colitis-Associated Cancer:CAC)」は、消化器専門医であっても数年に1度経験する程度の希少なものである。しかし、昨今のIBD患者数の急増や罹患期間の長期化によって、今後は発生数が増大することが見込まれる。そのため消化器科を標榜する医師は、CACの存在と対処法を知っておくことが望まれる。

症例

患者

70歳代、男性

現病歴

5年前から軟便があったが、腹痛や血便はみられないまま経過していた。1年前から排便回数が増加し、半年前からは1日10~15回の泥状便があった。肉眼的血便はごくまれ(10日に1回)で腹痛はなく、病院受診はしていなかった。その後、大動脈解離を発症し、ステントグラフト留置術を施行された際に術前検査で便潜血陽性を指摘された。1か月前に内視鏡検査を施行したところ、全大腸型の潰瘍性大腸炎(UC)と下行結腸がん (3/4周性の5型腫瘍、生検でAdenocarcinoma、tub1)と診断され、精査目的で地域中核病院へ入院となった。

その他の臨床情報

診断名:潰瘍性大腸炎(全大腸炎型)、下行結腸がん

既往歴:特記事項なし

現病歴:急性大動脈解離(70歳代 胸部ステントグラフト内挿術)、高血圧

生活歴:

喫煙……50歳まで10本/日(以後は禁煙を達成)

飲酒……機会飲酒

身体所見ならびに検査所見

発熱なし、頻脈なし、眼瞼結膜の蒼白なし

Alb :3.6g/dL

CRP:1.30mg/dL

WBC:9840/μL

Hb:13.1g/dL

Plt:29.4万/μL

ESR(血沈): 30mm/1時間

腫瘍マーカー:正常

便汁培養:有意菌なし

下部消化管内視鏡所見

上行結腸~横行結腸は粗造粘膜・血管透見消失がありMayo grade1、下行結腸~直腸は浅い地図上潰瘍も伴っておりMayo grade 2であった。ガストロ造影では下行結腸の鉛管構造および狭窄像を認めた。


入院後の経過

入院時partial Mayo 6点で、潰瘍性大腸炎は中等症であった。5-ASA 4000mg/dayの内服を開始した。

ディスカッション内容

中核病院から提示されたプロブレムリスト

・今後のUCの加療および大腸がんの治療時期、切除範囲について

・ある程度の粘膜改善を待機してからの手術または全大腸切除となるか

ディスカッション詳細

専修医A:本日の症例は、潰瘍性大腸炎に合併する下行結腸がんです。

専門医:(開口一番)これは手術で決まりですね。大腸全摘術です。

今まで専修医の議論を待たずに専門医が結論を出したことはなく、専修医一同は顔を見合わせる。

専修医A:潰瘍性大腸炎に合併した大腸がんであり、おっしゃるとおり全結腸切除は適応と思われます。しかし70歳代と高齢であり、直近で重大な血管系イベントもあります。直腸を含む全大腸切除は侵襲性が大きいので、低侵襲な大腸亜全摘(直腸が切除範囲に含まれない)の選択肢はありませんか?

専門医:その選択肢はありません。遺残腸管での発がんの可能性もありますし、吻合部が術後に狭窄することもあります。昔は全大腸摘出+回腸肛門吻合(IAA)または回腸肛門管吻合(IACA)は合併症の問題があり、高齢者では避けるべきという風潮が一時的にありました。しかし、外科手技の洗練とともに合併症率は低下しており、欧米と本邦のガイドライン共に年齢を理由にIAAまたはIACAを回避する理由はないとされています。過去の私の経験でも、遺残大腸に起因するトラブルや再手術となったことがあり、「低侵襲のはずが、かえって患者に負担をかける」ことから、根治を目指せる症例は大腸全摘術の一択です。

専修医B:手術のタイミングは、炎症をもう少し抑え込んでからのほうがよいでしょうか。またこの場合は三期的手術ではなく、二期的手術でよいのでしょうか。

専門医:この患者は全身状態が比較的保たれています。重度の低アルブミン血症や貧血もないことから、このまますぐに手術がよいでしょう。また高齢者であるため、手術後の合併症を考慮すると免疫抑制がかかる薬剤による治療は行わないほうがよいと思います。CACは見た目以上に深達度が深い、あるいは悪性度が高い傾向にあり、早めに手術をする必要があります。炎症の度合いから、二期的手術を外科に依頼できると思います。

専修医C:今回、潰瘍性大腸炎とがんが同時に発見されていますが、本当に腸炎関連大腸がんと考えてよいのでしょうか。孤発性大腸がんが偶然同時に発症した可能性はありませんか。

専門医:まず、今回の患者のように明らかな進行がんと活動性の潰瘍性大腸炎を有する場合、孤発性(sporadic)と腸炎関連性(Colitic)のどちらであっても、大腸全摘の絶対適応です。また、確かに長期罹患例ではありませんが、病歴では5年前から症状が出現しており、全結腸炎型なのでCACのリスクは相応にあるでしょう。10年以上の長期罹患歴はCACの高リスクですが、罹患歴10年以内に腸炎関連大腸がんが発生しないわけではありません。

その後の経過

遠隔連携診療を契機に、地域中核病院と大学病院で適切な連携が取られ、早期に大腸全摘術が施行された。病理結果は下行結腸がん、pT3、pN0、M0 StageIIA(UICC 8th)、  Adenocarcinoma、tub2、INFa、Ly0、V0、PN0であり、背景粘膜はMatts grade4の炎症を伴っていた。大腸の他部位における異型の有無は、現在検索中である。

解説

今回の症例は、比較的明瞭な結論を示すことができる、明らかな進行性大腸がんを合併した潰瘍性大腸炎である。

この症例においてはIBDに合併する発がんやdysplasiaの現在のトピックとして、孤発性と腸炎関連性の鑑別、本邦や海外での病理診断の差異、診断医ごとの病理診断のばらつき、スクリーニング内視鏡の頻度、low grade dysplasiaの内視鏡的治療の是非などcontroversialな内容を多く含む。そのため、dysplasia以上の異常粘膜が発見され対処法に迷う場合には、一度IBD専門施設に相談することを推奨する。

なお、本記事では詳しく記載ができなかったが、炎症性腸疾患の発がん性スクリーニングや治療法の詳細については研究班の指針とIBDガイドラインを参照いただきたい。

参考・関連文献

潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針 炎症性腸疾患の腸管外合併症治療指針「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班)令和2年度分担研究報告書

・浜野 恭一. 潰瘍性大腸炎の外科治療の変遷. 日本腹部救急医学会雑誌. 1994;14:271–8.

・Almogy G, Sachar DB, Bodian CA, et al. Surgery for Ulcerative Colitis in Elderly Persons: Changes in Indications for Surgery and Outcome Over Time. Archives of Surgery. 2001;136:1396–400.

・Nakase H, Uchino M, Shinzaki S, et al. Evidence-based clinical practice guidelines for inflammatory bowel disease 2020. J Gastroenterol. 2021;56:489–526.

・Lutgens MWMD, Vleggaar FP, Schipper MEI, et al. High frequency of early colorectal cancer in inflammatory bowel disease. Gut. 2008;57:1246–51.

・Hata K, Anzai H, Ikeuchi H, et al. Surveillance Colonoscopy for Ulcerative Colitis-Associated Colorectal Cancer Offers Better Overall Survival in Real-World Surgically Resected Cases. Am J Gastroenterol. 2019;114:483–9.

フォームで会員登録をすると、
記事全文が読めるページに遷移できます。

会員登録して全文を読む

医師について

新着記事