2021年11月17日掲載
医師・歯科医師限定

SGLT2阻害薬 そのエビデンスの正しい読み方・使い方

2021年11月17日掲載
医師・歯科医師限定

聖路加国際病院 内分泌代謝科 部長

能登 洋先生

昨今、続々と適応追加が発表され脚光を浴びているSGLT2阻害薬。さまざまな効果を示すエビデンスが報告されているが、実臨床での処方方針を決定する際、どのように応用できるものなのか。 

第64回日本糖尿病学会年次学術集会(2021年5月20日~22日)の教育講演において、聖路加国際病院 内分泌代謝科部長の能登 洋氏が、SGLT2阻害薬に関するエビデンスの正しい読み方・使い方について解説した。

SGLT2阻害薬の概要

SGLT2阻害薬は、腎でのブドウ糖の再吸収阻害により、尿中にブドウ糖を排出して血糖値を下げるという機序を持つ経口血糖降下薬である。単剤では低血糖を起こしにくく、体重減少、血圧低下をきたすという特長がある。また、さまざまなランダム化比較試験(以下、RCT)のメタアナリシスにおいて心血管イベントの二次予防への効果、心不全や腎機能低下リスクの減少も示されている。

日本では2014年にイプラグリフロジンが発売されたのを皮切りに、6成分7製剤が承認され、臨床的に使用されている。基本的には2型糖尿病に使用されるが、イプラグリフロジン、ダパグリフロジンは1型糖尿病にも適応がある。さらにダパグリフロジンは糖尿病の有無にかかわらず、心不全に対する適応も得ている。

※演者注:ダバグリフロジンは学術集会後に糖尿病の有無にかかわらず、慢性腎臓病の適応も得た。

それでは、SGLT2阻害薬をどのような症例に処方すべきであろうか。『糖尿病治療ガイド 2020-2021』では、病態に合わせて薬剤を選択することが推奨されており、具体的にはインスリン抵抗性の増大、インスリン分泌能の低下の2つに着目して病態が判断される。

しかし臨床現場において、患者のインスリン抵抗性や分泌能を評価することは困難だ。そこで能登氏は、エビデンスを活用して処方方針を決めるのが確実であり安全であるとしたうえで、その際に重要なことは「エビデンスに使われないようにする」ことであると述べた。そしてそのためには「エビデンスを鵜呑みにしないこと」と「批判的吟味をすること」の2つが必要だと説いた。

心血管イベント二次予防に対するエビデンス

先述のとおりRCTのメタアナリシスでは、SGLT2阻害薬は心血管イベントの二次予防リスクを統計的に有意に減少させることが明らかになっている。しかしメタアナリシスを検証する際には、単純に統合ハザード比だけを見て結果を鵜呑みにするのではなく、必ず1つ1つのエビデンスの原文を読み、結果を検証していく必要があると能登氏は述べた。中でもサンプルサイズと臨床的インパクトの大きさについては注意が必要だと強調する。

たとえば、約1万人を対象としてSGLT2阻害薬とプラセボの心血管イベント発症リスクを比較検討したRCT (CANVAS試験)では、確かに統計学的な有意差が認められているが、縦軸を100%とした図で見ると2群間の開きが小さい。すなわち、2群間の臨床的な効果の差は少ないといえる。このRCTは参加者が約1万人と大規模な試験だが、逆にいえば臨床的効果が小さいからこそサンプルサイズを大きくしなければ統計学的な有意差がつかない試験であったといえるだろう。

<SGLT2阻害薬 vs プラセボの心血管イベント発症リスクの比較(図A)>


Bruce Neal, M.B., et al. N Engl J Med. 2017 Aug 17; 377(7): 644-657.より引用

こうしたことから、エビデンスを読み解く際にはp値や相対リスクだけに振り回されず、結果が「針小棒大」に示されていないかに注意が必要である。縦軸のメモリに留意するなどして全体像をきちんと把握したうえで、どの程度臨床的なインパクトがあるかを考える必要があると能登氏は述べた。

心不全への効果に対するエビデンス

続いて能登氏は、心不全に対するSGLT2阻害薬の効果について解説した。心不全による入院をアウトカムとしたRCTのメタアナリシスでは、統計学的有意に入院リスクが減少しており、複数のSGLT2阻害薬によっても同様の効果が示されている。こうしたことから、SGLT2阻害薬は再現性をもって心不全入院を減少させているといえるだろう。実際に、日本糖尿病学会および日本循環器学会による合同のコンセンサス・ステートメントでは、糖尿病がある場合の心不全予防としてSGLT2阻害薬の使用も推奨されている。

しかし、能登氏はこれらのエビデンスの評価項目に着目する必要性を説く。前出のメタアナリシスには、心不全入院を主要評価項目としたエビデンスだけでなく、副次的評価項目や後付け解析としたエビデンスも含まれているため、メタアナリシスといえどもエビデンスのレベルは必ずしも高くはない。さらに、心不全入院という評価項目は厳格な判断基準があるわけではない。医師の判断、病床の都合、患者の希望など、現場の状況によって変わる「ソフトなエンドポイント」であるため、結果が過大評価されている可能性を考慮する必要もある。

なお、SGLT2阻害薬は心不全合併例への第一選択薬となっているわけではなく、既存の標準治療薬への上乗せで効果を発揮するという位置付けである点を把握しておくことも必要だろうと能登氏は言及した。

腎臓への影響に対するエビデンス

続いて能登氏は、SGLT2阻害薬が腎臓へ与える影響に対するエビデンスとしてRCT5件のメタアナリシスを挙げ、腎アウトカムが統計学的に有意に減っていることを説明した。しかし、ここでも注意しなければならない点がいくつかあるという。

まずそれぞれのRCTによって、腎アウトカムの定義がeGFR低下、透析導入、タンパク尿などと大きく異なっていることだ。玉石混合ともいえるこうしたメタアナリシスでは、プーリングした結果の妥当性や説得力が落ちていることに注意を促した。

加えてエビデンスとしての腎アウトカムを主要評価項目としたレベルが高いRCTは、顕性タンパク尿を合併している患者を対象としている点にも触れ、このエビデンスからでは現時点ではSGLT2阻害薬を幅広く使用できるとは言い切れないと指摘する。

SGLT2阻害薬の処方上の注意

続いて、能登氏はSGLT2阻害薬を処方する際の注意点について解説した。いずれの場合にも問診・検査をきちんと実施して、患者の変化の発見に努めることが重要であることを強調し、特に高齢者にSGLT2阻害薬を投与する際は、サルコペニアの増悪や骨折リスクに注意が必要であると述べた。

<SGLT2阻害薬の処方上の注意点>

・最少量から開始.腎機能低下患者では,糸球体濾過率が低下しているため血糖降下作用が減弱する. また,腎不全と透析例には使用しない.

・1型糖尿病患者の使用にはケトーシスやケトアシドーシスなどのリスクが伴うことを十分に認識すべきであり,専門医に紹介することが望ましい.

・インスリンやSU薬などインスリン分泌促進薬と併用する場合には,低血糖に十分留意して,それらの用量を減じる.患者にも低血糖に関する教育を十分行うこと.

・ 75 歳以上の高齢者あるいは 65 歳から74歳で老年症候群(サルコペニア,認知機能低下,ADL低下など)のある場合には慎重に投与する.

・脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること.利尿薬の併用の場合には特に脱水に注意する.

・発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する.また,手術が予定されている場合には,術前 3 日前から休薬し,食事が十分摂取できるようになってから再開する.

・全身倦怠・悪心嘔吐・体重減少などを伴う場合には,血糖値が正常に近くてもケトアシドーシスの可能性があるので,血中ケトン体(即時にできない場合は尿ケトン体)を確認すること.(過度の減量や糖質の摂取量が少ない場合にはケトーシスが助長される)

・本剤投与後,薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し,皮膚科にコンサルトすること.また,外陰部と会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)を疑わせる症状にも注意を払うこと.さらに,必ず副作用報告を行うこと.

・尿路感染・性器感染については,適宜問診・検査を行って,発見に努めること.問診では質問紙の活用も推奨される.発見時には,泌尿器科,婦人科にコンサルトすること.

日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会 糖尿病標準診療マニュアル2021より引用

COVID-19に罹患した際の治療薬

能登氏は糖尿病とCOVID-19との関連にも触れ、糖尿病の有無によってCOVID-19の罹患リスクに差が出ることはないが、糖尿病の患者がCOVID-19に罹患した場合に重症化リスクが上昇すると説明した。血糖コントロールが不良であるほど、予後が不良であるという報告もある。

それでは糖尿病患者がCOVID-19に罹患した場合、治療薬はどのように選択するべきか。まず中等症までの患者で十分な飲食が可能であればSGLT2阻害薬を継続してよいとされている。しかし中等症であっても飲食が不可能な場合や重症の場合には、SGLT2阻害薬を中止し、インスリン治療に切り替えることが重要である。

SGLT2阻害薬の治療薬選択上の位置づけ

糖尿病における治療薬選択のポイント

最後に能登氏はSGLT2阻害薬の治療における位置づけについて説明した。

糖尿病治療は単に血糖をコントロールするだけではなく、血圧や脂質、体重なども管理しながら糖尿病の合併症を予防し、最終的には健常人と変わらない寿命を確保することが理想のゴールとなる。特に高齢者ではサルコペニア、フレイル、骨折などの併存症も考慮する必要がある。こうしたことを踏まえながら、治療薬の選択順位を考えていくことが重要だ。

SGLT2阻害薬は、心血管疾患や心血管死のリスク減少効果、体重減少効果が実証されており、単剤服用時の低血糖リスクが低いといったメリットがある。しかし一方で、サルコペニアの増悪や骨折リスクの上昇といったデメリットも報告されていることから、ベネフィットとリスクを勘案しながら処方方針を決定することが重要となる。

その際にも都合のよいエビデンスや論文だけを集めるのではなく、具体的なRCTに基づいた質の高い研究か、医学専門誌で論文発表されている研究か、再現性が示されている研究か、といった点を考慮する必要があることを能登氏は強調した。

SGLT2阻害薬の位置づけ

糖尿病治療薬の選択順位が明記されている日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会の糖尿病標準診療マニュアル2021では、SGLT2阻害薬は第一選択薬のメトホルミン、第二選択薬のDPP-4阻害薬への上乗せという位置づけになっている。

一方、海外に目を向けると、米国糖尿病学会ガイドラインではメトホルミンが第一選択薬となっている。しかし心血管疾患、CKD、心不全の合併または高リスクの症例に対しては、HbA1cの基礎値や個別化目標値、メトホルミン使用とは無関係に、SGLT2阻害薬などの処方を勘案するとされている。すなわちSGLT2阻害薬は、血糖降下薬という位置づけだけでなく、心血管疾患の再発予防、心不全、CKDの治療薬としても位置づけられているのだ。

ただし日本人の糖尿病患者は欧米人と異なり、ベースラインの心血管イベント発症リスクが低いため、米国のガイドラインを参考にして使用するのは時期尚早であると言及し、今後のエビデンスや日本人のリスク変化に着目して判断すべきであるとした。

講演のまとめ

能登氏は講演の最後に「エビデンスを妄信してエビデンスに使われないようにする必要がある」として、以下のポイントをまとめた。

・エビデンスは玉石混交であることに注意

・エビデンスに固執せず、従来どおりの理論や経験則による判断も重視して、患者ごとに治療の個別化を目指すことが重要

・エビデンスを使う/使わないにかかわらず、治療について患者にきちんと説明したうえで一緒に判断をしていくことが重要

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