2021年12月07日掲載
医師・歯科医師限定

乳がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果とirAE――今後の展望は

2021年12月07日掲載
医師・歯科医師限定

がん研有明病院 乳腺センター 副医長

尾崎 由記範先生

現在、乳がんに対する治療はPD-1/PD-L1を標的とした分子標的治療薬の登場により新たな治療が展望されている。しかし、いくつかの臨床試験の成績によって免疫関連有害事象(irAE)などの問題も示されている。

今回、尾崎 由記範氏(がん研有明病院 乳腺センター 副医長)は第29回日本乳癌学会学術総会(2021年7月1~7月3日)において「分子標的療法の新たな展望」という演題で、乳がんに対するPD-1/PD-L1を標的とした免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果や課題について述べた。

転移性トリプルネガティブ乳がん(mTNBC)に対するICIの有用性

転移乳がんに対するICIについては、これまでいくつかの臨床試験が行われている。その中で、ICI の単剤療法は転移乳がんに対しては効果が限定的であることと、その一方で早期のICIはPD-L1陽性のトリプルネガティブ乳がんに対しては有効であることが示されている。

尾崎氏ははじめに、切除不能な転移・再発または局所進行性のトリプルネガティブ乳がん患者に対するアテゾリズマブとnab-パクリタキセルの併用療法の有効性が検討された国際共同第III相臨床試験IMpassion130を紹介した。解析の結果、PD-L1陽性患者における中央全生存期間(OS)は、プラセボ群が17.9か月であったのに対し、アテゾリズマブ併用群では25.4か月と改善が示された。尾崎氏は「PD-L1陽性患者においては臨床的に意義のあるOSの改善が認められた」と述べた。また、アテゾリズマブ併用群の8%の患者でICIの免疫関連有害事象(irAE)を認めている。

国際共同第III相試験KEYNOTE-355では、切除不能な転移・再発または局所進行性のトリプルネガティブ乳がん患者を対象に、第一次治療としてペムブロリズマブと標準化学療法併用の有効性および安全性を比較検討した。その結果、CPS10以上のPD-L1陽性患者において、無増悪生存期間(PFS)のハザード比は0.65であり、統計的有意な改善が示された。サブグループ解析におけるカルボプラチン併用の治療成績の解釈については、現時点では十分なコンセンサスが得られていない。ペムブロリズマブと併用する化学療法はどれがもっともよいか、その比較を行うことは本試験の結果からは難しいとされた。また同試験では、ペムブロリズマブ群の5.2%がグレード3~5のirAEを認めた。

転移性トリプルネガティブ乳がんに対するICIではこれらの成績が示されている一方、いくつかの疑問や課題もある。まず臨床の場でどのようなPD-L1の検査方法(SP142あるいは22C3)を用いるのかという点だ。またペムブロリズマブのOSに対するメリットや、最適な化学療法の組み合わせに関する検証も必要だ。さらに、ICI抵抗性患者に対して、いかにして治療戦略を立てていくのかといった課題も挙げられると尾崎氏は言及した。

*2021年9月、欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2021)にてKEYNOTE-355の最終解析結果が報告され、ペムブロリズマブ+化学療法はOSを統計学的有意に改善させることが明らかとなった。

切除可能なトリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対するICIの有用性

続いて尾崎氏は切除可能なトリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対するICIの有用性について話題を移し、はじめに無作為化二重盲検第III相試験KEYNOTE-522について紹介した。

本試験では、ハイリスクの早期トリプルネガティブ乳がん患者に対してペムブロリズマブと化学療法の併用による術前療法について検証している。試験の結果、病理学的完全奏効(pCR)において改善が示された。またサブグループ解析の結果、PD-L1陽性/陰性にかかわらずpCRへの効果が示されたほか、特にリンパ節転移陽性患者に対する有効性が示唆された。

また無イベント生存期間(EFS)においても24か月観察した結果、7%で改善が示された。そうした成績から、尾崎氏は「ペムブロリズマブと化学療法の併用は、高リスクのトリプルネガティブ乳がん患者の標準治療になるであろう」と述べた。

また同試験におけるirAEはペムブロリズマブ群の32.1%に認められ、グレード3以上のirAEは12%に認められている。尾崎氏は、irAEにより生涯にわたってホルモン補充療法を要することや、手術の遅延が引き起こされるケースもあるため、術前療法にペムブロリズマブを追加することのリスクとベネフィットのバランスを議論する必要があると強調した。

今後の課題としては、PD-L1によってペムブロリズマブのベネフィットを予測することはできないため、患者選択について検討する必要がある点が挙げられる。また、OSにおけるベネフィットについては示されておらず今後の検証が必要だという。そしてpCRが得られない患者に対する最適な術前療法の検討、早期再発に対するマネジメント、他科の専門医と協力する必要性について言及し、将来的にはctDNA(循環腫瘍DNA)を使って分子遺伝学的再発を評価する新たな治療戦略も展開していくだろうと尾崎氏は述べた。

ホルモン受容体陽性HER2陰性転移性乳がんに対するICIの有用性

最後に尾崎氏はホルモン受容体陽性HER2陰性転移性乳がんに対するICIの有用性について解説した。ホルモン受容体陽性HER2陰性転移性乳がんでは新しい治療開発に向けた多くの臨床試験が進められているが、その開発は容易ではないと尾崎氏は語る。

たとえば、ホルモン受容体陽性HER2陰性転移性乳がんに対するエリブリンとペムブロリズマブの併用療法を評価した臨床試験では、治療によるベネフィットが示されなかったことが分かっている。

それでは、ほかの薬剤による併用療法はどうだろうか。免疫調整効果を有するベバシズマブは、ICIとの併用で相乗効果が発揮されることがすでに複数の臨床試験で報告されている。そこで尾崎氏らも、ICIとベバシズマブの併用療法の効果を評価するためにWJOG9917B - NEWBEAT第II相試験を実施した。ニボルマブ+パクリタキセル+ベバシズマブで評価した結果、有望な奏効率と奏効期間を示したという。

さらに現在はJCOG1919 AMBITION第III相試験が継続中だ。本試験はホルモン受容体陽性HER2陰性転移・再発乳がん患者を対象として、パクリタキセル+ベバシズマブ併用療法を対照群とし、その併用療法にアテゾリズマブを上乗せした群を比較検討する試験である。同試験について尾崎氏は、非常に重要かつ有望な試験だとした。

また、CDK4/6阻害薬とICIの併用療法の有効性についても非常に期待が持てると語った。ホルモン受容体陽性HER2陰性転移・再発乳がん患者を対象にニボルマブ+アベマシクリブ+ホルモン療法の効果について検討した第II相試験WJOG11418Bでは、奏効率は示したものの、患者の半数以上にグレード3以上の肝臓関連の有害事象が発現した。さらに3例で重症間質性肺疾患(ILD)が発現したことから、これらの併用によって毒性が問題となることが分かった。

こうした成績が出ているものの、いまだPFSとOSへのベネフィットを示した治療成績はない。ホルモン受容体陽性HER2陰性転移性乳がんに対する最適な併用療法や治療は現在確立されておらず、尾崎氏は「現在、新規併用療法を開発するための臨床研究が進行中であり、今後が期待される」と述べ、本講演を締めくくった。

講演のまとめ

<転移性トリプルネガティブ乳がん(mTNBC)に対するICIついて>

・アテゾリズマブの併用療法は、PD-L1陽性の患者においてPFSベネフィットがある

・ペムブロリズマブの併用療法はCPS10以上のPD-L1陽性患者においてPFSベネフィットを示したが、5~8%の患者でグレード3~5のirAEを認めた

<切除可能なトリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対するICIついて>

・ペムブロリズマブの併用療法によって、pCRとEFSのベネフィットが示された

・ペムブロリズマブの併用療法によるirAEは32.1%の患者にみられ、グレード3~5のirAEは12%に認められた

<ホルモン受容体陽性HER2陰性転移性乳がんに対するICIについて>

・エリブリンとペムブロリズマブの併用療法における有用性は示されなかった

・ニボルマブ+パクリタキセル+ベバシズマブの併用療法では、有望な奏効率・奏効期間を示した

・JCOG1919 AMBITION第III相試験ではアテゾリズマブ+パクリタキセル+ベバシズマブ併用療法の有効性が期待されている

・PFSとOSの治療成績はいまだ示されておらず、現在多くの臨床試験が進行中である

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