2022年10月04日掲載
医師・歯科医師限定

【第109回日本泌尿器科学会レポート】オリゴ転移前立腺がんの診断と治療のトレンド――その定義と臨床的意義とは(2500字)

2022年10月04日掲載
医師・歯科医師限定

京都大学医学研究科泌尿器科学 教授

小林 恭先生

オリゴ転移前立腺がんは、多発転移には至っていないがCTC(血中循環がん細胞)の存在が確認できる症例を意味することが多い。しかし、画像診断上の明確な基準はいまだ定まっていない。また、前立腺がん患者において従来の画像診断モダリティで転移がみられた場合は根治が難しいとされることが多いが、果たしてそうなのだろうか。京都大学医学研究科 泌尿器科学 教授の小林 恭氏は、第109回日本泌尿器科学会総会(2021年12月7~10日)において「オリゴ転移の定義と臨床的意義」と題し講演を行った。

オリゴ転移の臨床的意義

一般的に前立腺がんで転移がみられた場合、根治は不可能と判断されることが多い。しかし、その判断は本当に正しいのだろうか。そもそも根治が不可能とされる理由としては、大きく以下の2つの理由が考えられる。

(1)画像上で転移巣が描出されている場合、可視病変以外にも微小な転移巣がある

→可視病変を切除/照射しても残存病変がある

(2)不可視転移巣の中には薬物治療では根治できない大きさのものがある

→全ての可視病変を切除/照射したうえで薬物治療を追加しても根治は望めない

この臨床的・生物学的意義を考えるうえでは「腫瘍量」(全身に存在する腫瘍の量)が重要となる。まず腫瘍量と腫瘍サイズの関係に着目したい。

一般的に腫瘍量が増加すると、並行して個々の病巣の腫瘍サイズも大きくなっていく。腫瘍サイズが大きければ、CTや骨シンチといった従来の画像検査で描出することができるが、全身にはCTや骨シンチでは描出できないサイズの病巣も存在すると考えられる。一方で、非常に微小な転移巣であれば、全身薬物療法(内分泌療法や化学療法)で根治できる可能性がある。しかし、従来の画像検査で描出可能な腫瘍サイズの下限と全身薬物療法で根治できる可能性がある腫瘍サイズの上限との間には開き(ギャップ)がある。そのため、もし全ての可視病変を切除/照射したうえで薬物治療を追加しても、そのギャップの範囲に含まれる病巣は残存してしまう。

もし、PSMA-PETやDWIBSといった高感度画像検査を用いることで描出可能な腫瘍サイズの下限が引き下げられれば、転移巣に対する治療と全身薬物治療の併用によって根治が可能になるかもしれない。

小林氏講演資料(提供:小林氏)

次に腫瘍量と腫瘍数について考えてみたい。

一般的に腫瘍量が増加すると、腫瘍数も並行して増加していく。先に言及したように画像検査で描出されれば外科手術や放射線療法などの転移巣治療で対応できるケースがあるが、腫瘍数が増えると全ての病巣を切除/照射することは困難となる(悉皆性の低下)。

小林氏講演資料(提供:小林氏)

もう1つ、注目したいのが腫瘍の不均一性(Tumor heterogeneity)だ。腫瘍の不均一性は、腫瘍量の増加によってだけでなく、治療抵抗性を獲得する中でも増してくると考えられている。

不均一性が増すと、さらに治療抵抗性を獲得するリスクが高まる。2016年のAACR(米国癌研究会)において、バート・フォーゲルシュタイン氏が「マウスの腫瘍は薬で治すことができるが、ヒトの腫瘍はなぜ治すことができないのか」という問いに対し、「マウスの腫瘍は大きくても1cm程度であるが、ヒトの転移巣はこれをはるかにしのぐ腫瘍量がある。すなわち不均一性を持つため薬物治療が難しい」と述べている。薬物治療で根治可能な範囲というのは限られており、不均一性が増すほどに根治は難しくなってくると考えられるだろう。

小林氏講演資料(提供:小林氏)

これらを踏まえて、オリゴ転移が注目されている理由を考えてみたい。

先述のように従来は、外科手術や放射線療法で対処できる(CTや骨シンチで描出できる)腫瘍と全身薬物療法で根治できる腫瘍サイズの間に、治療の施しようのない腫瘍が存在した(図Aの赤枠)。

しかし、高感度な画像検査が開発されたことで、腫瘍を可視できる範囲が広がった。同時に新規の薬物療法が進められ、全身薬物治療で根治可能な腫瘍が増えてきている(図Bの赤枠)。つまり、従来はなす術のなかった腫瘍に対しても、根治の可能性がみえてきたことが、今オリゴ転移が注目されている理由だと考えている。

<図A>


<図B>

小林氏講演資料(提供:小林氏)

オリゴ転移前立腺がんをどう定義し、どう評価するか

現時点でオリゴ転移前立腺がんの明確な定義はなく、概念としてCTC(血中循環がん細胞)の存在は確認できるが、多発転移には至っていない状態としかいうことができない。複数の論文で臨床に即したオリゴ転移前立腺がんの定義がなされているが、実臨床へと適応する場合、以下の点に注意して、オリゴ転移前立腺がんを考える必要があるだろう。

  • 同時性または再発性(異時性)。再発性の場合は転移巣出現までの期間
  • 転移巣を描出した画像診断モダリティ
  • 転移の数や部位
  • ホルモン療法未治療前立腺がん(HNPC)または去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)


主な報告におけるオリゴ転移前立腺がんの定義を見渡してみると、転移巣の数は5個以内が多い。描出している画像診断モダリティはPETが多いが、FDG-PET、コリン-PET、骨シンチを使用している報告もある。また、オリゴ転移前立腺がん患者を対象とした臨床試験でその定義をみると、個数は3個以内であり、根治治療後に生じた異時性の転移・再発を対象としているものが多い。画像診断モダリティに関してもPET-CTや従来の画像検査など多様である。このように、オリゴ転移前立腺がんと一口に言ってもその定義はさまざまであることを留意いただきたい。

講演のまとめ

  • 画像診断モダリティや薬物療法、局所療法の進歩によって、オリゴ転移前立腺がんも局所進行がんと同じように治療できる可能性がある
  • オリゴ転移前立腺がんの定義は、本来ならば臨床的・生物学的意義に基づいてなされるべきであるが、画像診断や治療の進歩によってその意義も変化する
  • 臨床試験で用いられたクライテリアが臨床現場に持ち込まれることで、定義が定まる可能性が高い

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