2021年09月30日掲載

低血糖を起こさずにインスリン分泌能を保つDPP-4阻害薬

2021年09月30日掲載

虎の門病院 院長

門脇 孝先生

糖尿病が起こる一因が、遺伝や体質だ。すなわちブドウ糖に対してインスリンが出にくいという体質が存在し、これは遺伝に関係している。たとえば日本人のインスリン分泌能は欧米人の2分の1ほどしかない。日本人は欧米人よりも糖尿病になりやすいといえる。ただし、そのような体質を持つ者が全て糖尿病になるわけではない。

一方、インスリン抵抗性がある、すなわちインスリンの作用が十分に発揮できなくなると血糖値が上がっていく。インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンなのだ。インスリン抵抗性の最大の原因は、肥満である。肥満すなわち脂肪組織量が増加した状態になると、脂肪細胞が肥大し、インスリン抵抗性を引き起こす。そのメカニズムとして、インスリンのはたらきを邪魔する悪玉因子TNFαやレジスチンなどを分泌すること、インスリンのはたらきを助けるホルモン「アディポネクチン」の分泌を妨げることが知られている。


糖尿病の治療薬は、インスリンの分泌を促す薬、インスリン抵抗性を改善するなどインスリン分泌促進以外の仕組みではたらく薬、インスリン注射の3種類。先に述べたとおり、日本人は遺伝的にインスリン分泌能が低いため、インスリンの分泌を促す薬の重要性が高い。

その1つ「スルホニル尿素(SU)薬」は、これまで50年以上にわたり糖尿病治療薬として用いられてきた。SU薬は血糖値を下げるための強力な薬だが、血糖値が正常になってもインスリンの分泌を促進し続けてしまうという大きな問題点がある。この性質により、使用量などによっては副作用として低血糖が起こる可能性があるのだ。

低血糖とは血糖値が70mg/dl以下の場合を指し、特に血糖値が50mgdl以下になると体にさまざまな障害をきたす。たとえば、血糖値を上げるためにアドレナリンが分泌され、動悸や頻脈、血圧上昇などが起こる。また、血小板の凝集促進により心筋梗塞や脳卒中が誘発される可能性すらある。このような点を踏まえ、糖尿病治療では今、低血糖のリスクをなるべく回避するべきというセオリーが定着している。


このような流れのなかで、低血糖を起こさずにインスリンの分泌を促進する「インクレチン関連薬」が登場した。日本では2009年から使用されている。インクレチン関連薬には、血糖値が高いときのみインスリンの分泌を促し、血糖値が正常に近づいたらその機能を止めるという特徴がある。血糖値に応じて作用する薬なのだ。

そもそもインクレチンとは何かというと、小腸のK細胞から分泌されるグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)および、L細胞から出るグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)というホルモンを指す。GIPやGLP-1があるとインスリンの分泌が2〜3倍になる。このことから、最近では「腸が代謝に大きな役割を果たしている」という考え方が注目のトピックスになっている。

さて、現在日本でもっとも多く使用されている糖尿病治療薬が、インクレチン関連薬の1つ「DPP-4阻害薬」だ。DPP-4は、GIPやGLP-1を分解する酵素である。糖尿病患者はインクレチンの作用が低下しているため、DPP-4阻害薬を投与することでGIPやGLP-1が分解されずに済む。これにより食事をして血糖値が上がった状態でもインスリンの分泌能が保たれるのだ。このようにDPP-4阻害薬はインスリンの分泌を促進しつつも低血糖を起こしにくいという点で非常に画期的であり、その結果、我が国でもっともよく使われる薬となった。

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