2022年09月09日掲載
医師・歯科医師限定

【第53回日本動脈硬化学会レポート】GLP-1、GIP、DPP-4阻害薬の抗動脈硬化作用(3700字)

2022年09月09日掲載
医師・歯科医師限定

社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス 海老名総合病院 糖尿病センター センター長

平野 勉先生

従来の糖尿病治療薬とは大きく異なる機序で血糖降下作用をもたらすインクレチン関連薬(GLP-1、GIP、DPP-4阻害薬)は、今や多くの糖尿病患者に用いられている。血糖値のコントロールはもちろん、心血管症の発症や増悪を予防する点でも評価されつつある。

平野 勉氏(海老名総合病院 糖尿病センター センター長)は、第53回日本動脈硬化学会総会・学術集会(2021年10月23~24日・国立京都国際会館)のシンポジウムにて、「GLP-1、GIP、DPP-4阻害薬の抗動脈硬化作用」と題し、インクレチン関連薬が持つ動脈硬化抑制作用について講演を行った。

GLP-1の抗動脈硬化作用

GLP-1は消化管ホルモンであるインクレチンの一種であり、内皮細胞や血管平滑筋、マクロファージ、血小板などさまざまな場所で抗動脈硬化作用をもたらす。局在について、血管平滑筋は明らかであるが、内皮細胞やマクロファージの詳細は不明である。

アポリポプロテインE(ApoE)を欠損させたマウスは動脈硬化を起こすことが知られている。動脈硬化の初期段階では血管に単球が接着する。GLP-1受容体作動薬であるエクセンディン-4をApoE欠損マウスに投与すると、濃度依存的に単球の接着が減少する。血管内皮細胞の接着因子の発現も減少し、動脈硬化を抑制する。

ヒトのGLP-1をApoE欠損マウスに投与すると、エクセンディン-4を投与した際と同様に動脈硬化が抑制される。そこに、GLP-1受容体拮抗薬であるエクセンディン-9を投与すると、GLP-1による動脈硬化抑制作用が減弱した。

以上の結果より、ヒトのGLP-1は受容体依存性に動脈硬化を抑制することが示唆された。

平野氏講演資料(提供:平野氏)/Koshibu M, et al. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2019; 316(5): E895-E907

ApoE欠損マウスは動脈硬化モデルのため、ApoE欠損マウスにストレプトゾトシン(STZ:糖尿病を惹起する化学物質)を投与して1型糖尿病モデルを作製した。このモデルマウスにGLP-1受容体作動薬であるリラグルチドを投与すると、ApoE欠損マウスと同様に動脈硬化とマクロファージの集積が抑制された。なお、リラグルチド投与後も血糖値の低下はほとんどみられなかった。

動脈狭窄モデルとして、大腿動脈にワイヤーを挿入し内皮を剥離したワイヤーインジュリンモデルを用いた検討も行った。内膜を剥離すると新生内膜が産生されて血管内腔が狭窄するが、リラグルチドを投与すると新生内膜の産生が抑制された。

以上より、リラグルチドは血管平滑筋の増殖遊走を抑制することが明らかとなった。

また、動脈硬化に関する重要な因子として、マクロファージの泡沫化がある。マクロファージに発現するCD36を始めとするさまざまなスカベンジャー受容体が、酸化LDLを取り込み、遊離コレステロールに変化させる。遊離コレステロールは、アシルCoA:コレステロールO-アシルトランスフェラーゼ1(ACAT1)により再エステル化されて蓄積し、これによってマクロファージは泡沫化する。

GLP-1を投与したApoE欠損マウスのマクロファージでは、CD36やACAT1の発現およびコレステロールエステルの蓄積がいずれも減少しており、GLP-1の投与によりApoE欠損マウスのマクロファージの泡沫化が抑制された。なお、一般のマウスから採取した腹腔マクロファージにGLP-1を投与しても、マクロファージの泡沫化は抑制されなかった。

上記の結果は、単球にはGLP-1受容体が発現しているものの、マクロファージに分化すると発現が急激に減少するためであると考えられる。

平野氏講演資料(提供:平野氏)/Tashiro Y, et al. Peptides. 2014; 54: 19-26

また、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)にリラグルチドを投与すると、リラグルチド濃度依存性にNOの産生が増加するが、GLP-1受容体阻害薬であるエクセンディン-9を投与すると、NO産生は抑制される。この結果より、GLP-1受容体は血管内皮細胞にも存在すると考えられる。なお、血管内皮細胞のGLP-1受容体は肥満になると発現が減少することも示唆されている。

GIPの抗動脈硬化作用

GIPそのものは薬剤とはならないが、最近GLP-1およびGIP受容体作動薬が開発され、臨床試験が進行中である。マウスにGIP受容体作動薬を投与した実験からは、体重減少や中性脂肪値改善などさまざまな面で抗動脈硬化作用が期待できる結果が示されている。

我々がApoE欠損マウスを用いて行った実験では、GIPを投与することで動脈硬化抑制作用が認められ、GIPとGIP受容体阻害薬を同時に投与すると、GIPによる動脈硬化抑制作用が阻害されることも示された。

高血糖状態におけるGIPの抗動脈硬化抑制作用については、STZ糖尿病モデルマウスを用いて実験を行った。高血糖状態ではランゲルハンス島のGIP受容体発現が大幅に減少するという先行研究も存在するが、STZ糖尿病モデルマウスにGIPを投与したところ動脈硬化抑制作用が認められた。そのため、GIPに関しては高血糖状態でも抗動脈硬化作用があると考えられる。

 平野氏講演資料(提供:平野氏)/Mori Y, et al. Endocrinology. 2018; 159(7): 2717-2732

血管狭窄モデルマウスを用いた実験では、不活性型GIPは動脈狭窄の抑制に影響を及ぼさなかったが、活性型GIPは濃度依存的に新生内膜の形成を抑制した。

血管内皮細胞でのNO産生に関しては、活性型GIPの投与で濃度依存的にNOの産生が認められたが、不活性型GIPでは産生がみられなかった。

平野氏講演資料(提供:平野氏)/Mori Y, et al. Endocrinology. 2018; 159(7): 2717-2732

NOの産生機序としては、GLP-1はcAMPからPKAを経由しAMPKを増加させるが、GIPはカルシウム代謝経路を経てAMPKを増加させる。AMPKの増加に至るまでの機序は異なるが、AMPKからeNOSを経てNOを産生するという経路は同一である。

平野氏講演資料(提供:平野氏)

DPP-4阻害薬の抗動脈硬化作用

DPP-4阻害薬も抗動脈硬化作用を有するという報告がある。

高コレステロール食により動脈硬化となったウサギに、DPP-4阻害薬であるアナグリプチン3mg/mLを投与すると、強く動脈硬化が抑制された。冠動脈においても、血管平滑筋の遊走増殖やマクロファージの浸潤が抑制され、TNFαやIL-6などのサイトカインが減少し、動脈硬化抑制作用が認められた。

STZで動脈硬化を強化したApoE欠損マウスに、DPP-4阻害薬であるビルダグリプチンを投与すると、動脈硬化抑制作用が認められた。ここにGLP-1受容体拮抗薬であるエクセンディン-9やGIP受容体拮抗薬であるPro3GIPを追加で投与すると、DPP-4阻害薬の動脈硬化抑制効果はわずかに減弱したが、ビルダグリプチンの動脈硬化抑制効果は残存していた。

以上より、DPP-4阻害薬は血中インクレチン濃度を維持するが、動脈硬化抑制作用はインクレチン非依存性であることが示された。

また、Cav-1に着目して、GLP-1やGIPを経由しないDPP-4阻害薬の抗動脈硬化作用を検討した。Cav-1はCD26と結合することでリン酸化され、リン酸化されたCav-1はToll様受容体4(TLR4)の下流シグナルを強化し、動脈硬化の助長因子であるNF-kBやERKを活性化する。そのため我々は、DPP-4阻害薬はCD26とCav-1の結合を阻害しているのではないかと考え、Cav-1ノックアウトマウスを用いた実験を行った。

平野氏講演資料(提供:平野氏)/Hiromura M, et al. Biochem Biophys Res Commun. 2018; 495(1): 223-229

通常のマウスではLPS(リポポリサッカライド:リポ多糖)により炎症性サイトカインの発現がみられるが、DPP-4阻害薬を投与することでサイトカインの発現は減弱する。しかし、Cav-1ノックアウトマウスでは、DPP-4阻害薬を投与してもサイトカインの発現の減弱は認められない。

以上より、DPP-4阻害薬の炎症抑制効果を発揮するうえで、Cav-1は非常に重要であることが示された。

平野氏講演資料(提供:平野氏)

グルカゴンが動脈硬化にもたらす影響

ApoE欠損マウスにグルカゴンを投与すると、大動脈プラークが抑制される。グルカゴン受容体は、肝臓にもっとも多く認められ、HUVECsやヒト大動脈平滑筋細胞(HASMC)、血管平滑筋培養細胞、マクロファージにもみられ、これらが刺激されることで動脈硬化が抑制される。

講演のまとめ

  • インクレチン関連薬には動脈硬化抑制作用がある
  • インクレチン関連薬が動脈硬化抑制作用を示すメカニズムは、マクロファージの泡沫化抑制や血管内皮細胞からのNO産生促進、血管平滑筋の増殖抑制と考えられる
  • インクレチン関連薬の動脈硬化抑制作用は、インクレチン受容体を介すると考えられるが、そのメカニズムの詳細は明らかでない

会員登録をすると、
記事全文が読めるページに遷移できます。

会員登録して全文を読む

医師について

新着記事