2021年08月02日掲載

糖尿病と心不全の新しい関係

2021年08月02日掲載

富山大学大学院医学薬学研究部内科学第二(第二内科)教授

絹川 弘一郎先生

糖尿病患者において心不全の新規発症はそれほど多くないという一方で、糖尿病患者にはしばしば心不全が合併する。糖尿病自体が直接的に心筋やその代謝に悪影響を与え、心不全につながるのみならず、糖尿病が虚血性心疾患や高血圧症を増悪させ、これらが二次的に心不全を増悪させる場合もある。糖尿病を合併する心不全の治療は、通常の治療と大きな違いはないが、治療困難であるため心不全をいかに予防するかがきわめて重要となる。SGLT2阻害薬の研究結果は、糖尿病と心不全発症・進展抑制の関係を明らかにし、糖尿病合併症としての心不全の存在に新たな検証を行う。

富山大学大学院医学薬学研究部内科学第二(第二内科)教授の絹川 弘一郎氏は、第64回糖尿病学会年次学術集会(2021年5月20~22日)で行われたシンポジウムの中で、糖尿病と心不全の予防について最近の知見などを解説した。

心不全の予防とSGLT2阻害薬の心不全抑制効果

心不全のステージ分類では、器質的心疾患がなくとも何らかの心不全リスク因子があれば心不全の予備軍であるとされる。つまり、糖尿病の既往がある場合はステージAとなる。

心不全発症後(ステージC)以降の治療が大切であることは言うまでもないが、心不全は発症後の治療が困難なため、一次予防として予備軍、特にステージAの段階での心不全予防という観点も非常に重要であると絹川氏は話す。

<心不全のステージ>


糖尿病患者において、SGLT2阻害薬が登場するまで、どのような薬剤あるいは血糖コントロールも心不全発症リスクを抑制できるという臨床結果は得られていなかった。しかし、SGLT2阻害薬を用いた糖尿病患者に対する心血管イベントへの効果を検討した大規模臨床研究であるEMPA-REG OUTCOME研究、CANVAS Program研究、DECLARE-TIMI 58研究について、エンドポイントを心不全による入院として見ると、すでに心疾患を発症している人に対しては、心不全に対する明らかな予防効果があることが示された。

一次予防の観点から言えば、器質的な心疾患がなく糖尿病既往がある場合には有意差がついていない一方で、「何らかの心疾患を有しているということが、SGLT2阻害薬の心不全予防効果に大きく関わっていると考えられている」と絹川氏は述べた。続けて、特に著しい効果があるのが、心筋梗塞の既往者だという。DECLARE-TIMI 58研究において陳旧性心筋梗塞患者のみに着目すると、心血管死または心不全による入院も多いものの、心不全の抑制効果が明らかであったと示した。

心筋梗塞がない場合は、若干の心不全抑制効果があるものの、明らかに心筋梗塞の既往者とは異なったパターンであり、SGLT2阻害薬のイベント抑制効果は「心筋梗塞の既往ということが大きなキーワードになっている」と絹川氏は強調した。


<B:心血管死または心不全による入院(心筋梗塞の既往の有無別)>


Furtado RHM,et al Circulation.2019より引用


心筋梗塞からの心不全発症のシナリオ

一概には言えないが、心筋梗塞を放置すると交感神経刺激やRAS系の活性化が関与して非虚血部に心筋肥大やアポトーシス、間質線維化が進行する(リモデリング)。結果的に、前周性に壁菲薄化、心機能低下、内腔拡大が起こり、収縮機能が低下した心不全heart failure with reduced ejection fraction(HFrEF)に至るというのが、よく知られた心筋梗塞後の心不全発症シナリオだ。そのため、心筋梗塞とHFrEFには極めて重要な関係があるという。

また、一度低下した心機能が、その後徐々に悪化する理由として挙げられるのが、神経体液性因子(ホルモン)の活性化だ。心筋の虚血でポンプ機能が低下した際に臓器の還流圧を維持する過程でホルモンが活性化される。そして、各種ホルモンはすべて心筋線維芽細胞に受容体があるため、これらが直接作用しリモデリングが進展してしまう。

絹川氏は「このことから、RAS阻害薬、β-遮断薬、MRAなどの薬剤によって各種ホルモンを抑えることで、リモデリングの抑制(あるいはリバースリモデリング)につながり、HFrEFの予後が改善する」と解説した。

心機能や血圧を維持するために活性化するホルモンの一例

  • ノルエピネフリン
  • レニン
  • アンジオテンシンII
  • アルドステロン
  • バソプレシン

最近では、SGLT2阻害薬によって左室が小さくなったりEFが改善したりするなど、リバースリモデリングを示唆する論文が相次いでいる。絹川氏はこれについて、心筋梗塞からHFrEFに至るストーリーと同じ体系にあると考えられているが、介在するホルモンは未だ不明であると語った。

SGLT2阻害薬の利尿作用による心不全予防効果

SGLT2阻害薬は、利尿薬プロセミド約10mg相当のわずかな利尿作用がある。絹川氏らのデータによると、血糖値が高いと利尿効果が持続し、血糖値がさほど高くない場合は持続しないという結果が出ているという。絹川氏はこれを踏まえ、糖尿病でない方でも心不全予防効果を認めたデータがあることを考慮すると、利尿作用だけで心不全の予防効果を説明することは難しいと述べた。

さらに、絹川氏らのデータでは、SGLT2阻害薬の投与によってある程度の血管内脱水が起こり、1週間もするとレニン活性が増加することが分かっているという。このレニンアンジオテンシン系は心不全にとっては「悪」といわれている。しかし、SGLT2阻害薬はわずかにレニン活性を増加させるにもかかわらず心不全予防に効果があるというのは、それを上回る別の作用があると考えざるを得ない。一方で絹川氏は、レニン活性が増加するため、心不全患者に対してSGLT2阻害薬を使用した際にはRAAS阻害薬を併用すべきと注意を促した。

また、絹川氏は、カテコラミン依存性重症心不全で他の利尿薬に抵抗性が高い場合にも、SGLT2阻害薬を投与することによってカテコラミンから離脱したという症例を紹介した。しかし、この患者は1年経って死亡となったという。そのため、長期予後と利尿作用は分けて考えるべきであり、重症例には利尿による症状改善効果はありそうだが、予後改善効果、特に遠隔期の予後改善は「さほどない」という考えを示した。

HFpEFの急増と待たれる結果

絹川氏は最後に、心不全患者の高齢化に伴い、わが国でも心室(主に左室)の拡張機能障害に起因する心不全HFpEFが急増していると述べた。疫学的にも糖尿病既往者はHFpEFになりやすいことが分かっている一方で、未だに、糖尿病からHFpEFに至る機序については不明なことが多く、効果的な薬剤も分かっていないという。

しかし、DECLARE-TIMI 58研究のサブ解析では、SGLT2阻害薬が2年ほどの長い時間をかけて効いてくると示した。現在、HFpEFの大規模RCTが行われ2021年の夏頃に発表される予定であり、その結果を待ちたいと講演を締めくくった。

講演のまとめ

本講演では、SGLT2阻害薬と心臓への作用で特徴的なこと、HFrEFの治療、予防などを中心に以下のように解説された。

  • 心血管疾患の既往(≒陳旧性心筋梗塞/HFrEF)があると明確なイベント回避がある
  • 心不全入院は投与直後から抑制される
  • 投与初期に利尿作用があるが、血糖依存性がある
  • RAS系はわずかに活性化され、交換神経系はわずかに抑制される
  • 心筋にSGLT2は存在しないにもかかわらず、リバースリモデリングを伴う
  • 血糖値とイベント抑制効果は関係なく、上記の特徴も糖尿病既往の有無で違いはない

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