2021年10月25日掲載
医師・歯科医師限定

【症例紹介】家族性大腸ポリポーシスに合併したステージIV大腸がんの治療(1600字)

2021年10月25日掲載
医師・歯科医師限定

札幌医科大学医学部 消化器内科学講座

大和田 紗恵先生

症例

心窩部痛、腹部膨満感を主訴に近医を受診した40歳代女性。上部消化管内視鏡検査で多発十二指腸腺腫、下部消化管内視鏡検査で全大腸に100個以上の腺腫を、脾弯曲部およびS状結腸に2型腫瘍を認め、家族性大腸ポリポーシス(Familial Adenomatous Polyposis:FAP)を背景に発症した多発進行大腸がんが疑われたことから当科紹介となった。

多発線種


S状結腸腫瘍


その他臨床情報

既往歴:特記事項なし。

家族歴:両親は健在。20歳の息子に脂肪腫、歯牙腫の既往あり。

検査結果

血液検査

白血球:9,100/µL

Hb:10.8g/dL

Alb:3.2g/dL

CRP:1.08mg/dL

CEA:36.6ng/mL

CA19-9:1,336U/mL

造影CT

脾弯曲部、S状結腸に不整な壁肥厚と周囲の脂肪織濃度上昇を認める。

傍大動脈、鼡径、縦隔、左頸部リンパ節に内部不均一な造影効果を伴う不整な腫瘤の多発を認める。胸腹水貯留はみられない。

腹部リンパ節腫大、脾弯曲部壁肥厚


盲腸壁肥厚


腹腔内リンパ節腫大


頸部リンパ節腫大


カンファレンスにて

レジデント:FAPに合併したStage IVの多発大腸がんですね。転移がなければ大腸全摘が推奨されると思いますが、この場合は通常の大腸がん治療に準じて化学療法が適応になると思います。

上級医:そうだね。それではレジメンはどうしようか?

レジデント:全身状態はよく、全身化学療法は可能です。この方はRASが野生型で左側結腸がんなので、分子標的薬の抗EGFR抗体薬を使いたいと思います。それと、UGT1A1*はホモ接合(*6/*6)でイリノテカンの有害事象が懸念されるので、一次治療はmFOLFOX6+Pmab療法**はどうでしょうか。

上級医:私もそれでよいと思うよ。それでは、そのほかにこの患者さんについて調べておかなければいけないことはないかな?

レジデント:そうですね……。FAPは遺伝性疾患なので、本人と20歳になったばかりの息子さんには遺伝カウンセリングを提案してみようと思います。息子さんには大腸カメラもすすめたほうがよいですよね。


*UGT1A1:イリノテカンの活性代謝物(SN-38)を非活性代謝物(SN-38G)へ変換するUDPグルクロン酸転移酵素の1つ。UGT1A1*6、*28のホモ接合体および複合ヘテロ接合体ではイリノテカンの毒性が強く発現するため、開始用量の減量や慎重観察が推奨されている。

**mFOLFOX6+Pmab療法:フルオロウラシル、ℓ-ロイコボリン、オキサリプラチン、パニツムマブ併用療法

経過

一次治療としてmFOLFOX6+Pmab療法を開始し有害事象なく経過したが、8コース施行後の造影CTで腹腔内リンパ節の増大を認め、増悪判定となった。二次治療としてFOLFIRI+BEV療法***を開始(イリノテカン:100mg/m2へ減量)し、現在も治療継続中である。

なお、患者本人はこの後遺伝子診断科を受診したところAPC遺伝子変異が検出され、遺伝子学的にもFAPと診断が確定した。現在、息子に対しての遺伝カウンセリング中である。


***FOLFIRI+BEV療法:フルオロウラシル、ℓ-ロイコボリン、イリノテカン、ベバシズマブ併用療法

本症例のポイント

家族性大腸ポリポーシス(FAP)はAPC遺伝子変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患であり、40歳頃までにほぼ100%の確率で大腸がんを発症する。異時性発がんのリスクを考慮し、Stage I–IIIおよび転移巣の切除が可能なStage IV大腸がんに対しては大腸全摘術が選択されるが、本症例のように複数臓器に切除不能な転移巣を有する場合は通常の大腸がん治療と同様に化学療法が選択される。

同じ遺伝性大腸がんであるリンチ症候群に合併した大腸がんは5-FU抵抗性であることが知られているが、FAPに合併した大腸がんの化学療法感受性について、通常の散発性大腸がんとの差異はこれまで論じられていない。本症例の一次治療mFOLFOX6+Pmab療法の無増悪生存期間(Progression-Free Survival:PFS)は4か月であったが、PRIME試験における同療法のPFS中央値は9.6か月であった。FAPのがん化にはAPC遺伝子変異に加え、P53、SMAD4などのがん抑制遺伝子の変異が関わっているといわれている。今後は二次治療以降も化学療法抵抗性を示す可能性を考慮し、治験参加の可能性も念頭にがん遺伝子パネル検査にてこの患者のがん増殖・転移に関わる遺伝子の検索を行う方針としている。

参考・関連文献

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