2021年12月08日掲載
医師・歯科医師限定

吸入ステロイドで激減した喘息患者の気道リモデリング――COVID-19で死亡者は2割減に

2021年12月08日掲載
医師・歯科医師限定

高知大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学教室 教授

横山 彰仁先生

全年齢における喘息の死亡数は1995年に7,253人とピークを示したが、その後順調に減少し続け、2016年には1,454人となり、以降1,500人前後で推移している。その背景には、吸入ステロイド薬(ICS)を第一選択薬としたガイドラインの普及によるところが大きいと考えられる。

吸入ステロイド薬の導入以前は、気道の炎症により気道が敏感になり発作を繰り返し、結果として気道壁が肥厚する「気道のリモデリング」が生じた。このような非可逆的な気道狭窄の進行と気道過敏性の亢進は、喘息を難治化させる大きな要因になっていた。しかし吸入ステロイド薬が使用されるようになって以降、コントロールの改善とともに気道のリモデリングは起こりにくくなっているように思われる。このような治療法のドラスティックな変化により、数十年前と現在の喘息患者像は様変わりし、現在は非可逆的な気道のリモデリングを持つ重症患者は大幅に減っている。

コロナ禍における喘息患者への影響も興味深い。何年も1,500人前後で頭うち状態にあった喘息の死亡数が、2020年には1,157人となり、例年よりもさらに減少した。2019年の死亡数と比べるとおよそ2割減である。ウイルス感染症であるCOVID-19が流行した年に喘息の死亡数が減ったことは、一見すると整合性の取れない現象のようにも思えるが、おそらくは外出の自粛や従来よりも厳格な感染症対策によって喘息の重症化と入院、死亡が減ったのだろうと推測できる。実際に喘息発作による入院も激減していることが報告されている。

このような人々の行動変容による影響は季節性インフルエンザにも同様に現れた。2020~2021年シーズンにおいて、インフルエンザウイルスの検出報告はほとんどなかったのだ。また通常の肺炎も激減し、呼吸器疾患全体で、2020年の死亡数は前年に比して2万人も減少している。これらの結果、死亡数そのものも8,000ほど減少し、COVID-19による超過死亡は認められていない。

これらの傾向だけを見れば、COVID-19による呼吸器疾患への影響は必ずしも悪いものだけでなかったとも捉えられる。ただし、諸外国では大きな超過死亡数が問題となっており、日本人の感染対策・行動様式が大きく寄与している可能性が高い。今後も引き続き感染症対策を怠らずに生活することが重要であろう。

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