2022年08月05日掲載
医師・歯科医師限定

【第51回日本皮膚免疫アレルギー学会レポート】アドレナリン性蕁麻疹の診断と治療――鑑別に難渋した症例を含めて(4500字)

2022年08月05日掲載
医師・歯科医師限定

大阪医科薬科大学 皮膚科 准教授/同大学病院 アレルギーセンター 副センター長

福永 淳先生

コリン性蕁麻疹と類似した疾患にアドレナリン性蕁麻疹がある。しかし蕁麻疹診療ガイドライン2018や、2021年に改定されたEAACI(欧州アレルギー臨床免疫学会)のガイドラインにおいても、アドレナリン性蕁麻疹は取り上げられていない。本疾患の診断や治療はどのように行っていけばよいのだろうか。第51回日本皮膚免疫アレルギー学会総会学術大会(2021年11日26日~28日)にて行われた教育講演の中で、神戸大学 大学院医学研究科 医科学専攻 准教授 福永 淳氏(現在は大阪医科薬科大学 皮膚科 准教授/同大学病院 アレルギーセンター 副センター長)は、アドレナリン性蕁麻疹の診断と治療について解説した。

アドレナリン性蕁麻疹の病態と鑑別方法――問診からの鑑別

アドレナリン性蕁麻疹とは、1985年にShelleyらが報告した蕁麻疹の一病型である。ストレス時に生じることが多く、血管収縮を示唆するような点状の紅斑を特徴とする。また、熱や運動で皮疹は再現されないが、ノルアドレナリンの皮内テストで周囲に点状の皮疹の再現性を認める。治療法としてはβ遮断薬(プロプラノロール)が有効だと報告されている。コリン性蕁麻疹と皮疹の形状や発症起点が非常に類似しており、コリン性蕁麻疹とアドレナリン性蕁麻疹は合併することもある。


アドレナリン性蕁麻疹の鑑別方法としては2つのアプローチ方法がある。

  • 問診からの鑑別
  • 皮疹の形状からの鑑別


問診からの鑑別では、緊張やストレスなどの誘因に着目する。アドレナリン性蕁麻疹は、誘因からコリン性蕁麻疹、局所性温熱蕁麻疹、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)との鑑別が必要である。皮疹の形状からは、水蕁麻疹、コリン性蕁麻疹との鑑別が必要となる。各疾患の特徴と鑑別点を以下に示す。


  • 水蕁麻疹……あらゆる温度の水との接触で生じる点状紅斑、膨疹
  • コリン性蕁麻疹……発汗刺激時に生じる点状紅斑、膨疹
  • 局所性温熱蕁麻疹……温熱刺激を受けた局所に限局した膨疹
  • 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)……食物との関与がないと発症しないI型アレルギー


Visual Dermatology Vol.20 No.6 2021においてアドレナリン性蕁麻疹は取り上げられていないが、神戸大学医学部附属病院皮膚科の蕁麻疹・血管性浮腫の問診票について記載がある。問診票中には次の3つの質問が含まれている。


  1. 蕁麻疹の形は点状で米粒程度の大きさですか?
  2. 仕事の疲れや睡眠不足など、ストレスを感じると蕁麻疹が出ますか?
  3. 運動や入浴時に、汗をかいたり体が温まったりすると蕁麻疹が出ますか?


1や2の質問で「はい」と回答された場合には、アドレナリン性蕁麻疹を想起することとなる。3の質問に関しては、コリン性蕁麻疹、水蕁麻疹や局所性温熱蕁麻疹などとの鑑別が必要になり、入浴の仕方によって蕁麻疹の出方が異なるため、さらに詳細な問診によって鑑別を行う必要がある。

コリン性蕁麻疹の鑑別方法

緊張やストレスで発症する蕁麻疹は、アドレナリン性蕁麻疹以外にもコリン性蕁麻疹が存在する。コリン性蕁麻疹とは、運動・入浴・精神的な緊張などの発汗刺激に伴い、深部体温の上昇がみられた際に生じる小型の膨疹もしくは紅斑を特徴とする疾患である。

福永氏講演資料(提供:福永氏)
出典:Fukunaga A et al.Clin Auton Res.2018,28:103-113

皮疹を確認するためには、発汗を認める程度の発汗刺激負荷が必要となる。EAACIでは、必要な発汗刺激負荷の基準を「受動的な全身温熱負荷により深部体温を1.0℃以上上昇させる運動負荷など」と定めている。深部体温を継続的に計測することは難しいため、臨床的には深部体温を指標としたコリン性蕁麻疹の誘発試験は実用的ではない。

2014年のJournal of Dermatological Scienceで発表された論文では、体温の上昇よりも発汗までの時間と皮疹発症が相関していると報告されている。つまりコリン性蕁麻疹は、発汗を認める程度までの運動や、温熱負荷を加えた状態で初めて起こる点状の膨疹・紅斑を観察する必要があると考えられる。

神戸大学医学部附属病院皮膚科で経験した症例

下記は、神戸大学医学部附属病院で実際にあったアドレナリン性蕁麻疹とコリン性蕁麻疹の症例である。

<症例1>

患者:16歳男性

既往歴:アトピー性皮膚炎の既往なし

現病歴:11歳頃より暖かい電車に乗った時や緊張時に、体に掻痒性のチクチクした点状の膨疹や下肢のけいれん、動悸、呼吸困難が出現するようになった。近医皮膚科を受診し、抗ヒスタミン薬を処方されたが改善せず、当科紹介となった。

<症例2>

患者:19歳女性

既往歴:アトピー性皮膚炎

現病歴:初診の3年前より、外出時・入浴時・精神的緊張や暑いところから寒いところに行った時に全身に小型の膨疹が出現するようになった。近医皮膚科を受診し、通常の蕁麻疹として抗ヒスタミン薬などで治療していたが改善が乏しく、精査加療目的で当科紹介となった。

症例1がアドレナリン性蕁麻疹、症例2がコリン性蕁麻疹と寒冷誘発性コリン性蕁麻疹の合併だ。アドレナリン性蕁麻疹では、発汗時や緊張時に動悸が出現することも1つの特徴であると考えられる。また、アドレナリン性蕁麻疹は急激な緊張によって皮疹が出現することも分かっている。コリン性蕁麻疹として紹介された患者の場合で、診察室にいることによる緊張で蕁麻疹が出現したときはアドレナリン性蕁麻疹を念頭に置いて診察すべきである。しかし、実臨床における通常の問診で発汗刺激とストレス刺激を鑑別することは非常に難しいという印象がある。

アドレナリン性蕁麻疹――皮疹の形状からの鑑別

自験例での報告においては、病室のカーテンを開けたことで驚いて即座に点状の皮疹を発症した症例があった。ノルアドレナリン皮内テストをして皮疹の周囲に白暈を伴う点状の紅斑を認め、アドレナリン性蕁麻疹の診断に至った。アドレナリン性蕁麻疹では、皮疹を発症するタイミングがコリン性蕁麻疹よりも早いと考えられる。

福永氏講演資料(提供:福永氏)
出典:Kawakami Y,Fukunaga A et al.J Dermatol.2015,42(6):635-637.

アドレナリン性蕁麻疹の皮疹の形状においては、前述のとおり水蕁麻疹やコリン性蕁麻疹など点状紅斑・膨疹が出現するタイプとの鑑別が必要である。なお、点状を呈するコリン性蕁麻疹の皮疹には多様性があるが、アドレナリン性蕁麻疹においては、皮疹の周囲に血管収縮した皮膚を示唆する白暈の出現が一番の特徴であると考えられる。

水蕁麻疹の自験例

水蕁麻疹は、pHや温度に関係なく水との接触で生じる点状の蕁麻疹であり、皮疹は毛包に一致する傾向がある。負荷試験では、35~37℃の水を浸したガーゼを体幹に当てることで皮疹を誘発する。メカニズムとしては、水が皮表の脂質や水溶性の抗原を経毛包的に侵入させている可能性があると考えられている。

我々の研究では、温水よりも冷水のほうが重症症状を誘発し、全身症状を伴うと報告した。しかし重症なケースでも抗ヒスタミン薬が著効し、服薬を継続することでプールにも入れる状態となった。

Fukumoto T,et al.Allergol Int. 2018 Apr;67(2):295-297より引用

アドレナリン性蕁麻疹の診断と治療

前述した16歳男性のアドレナリン性蕁麻疹の症例について、実際にどのような診断と治療を行ったのか、詳しく解説していく。

この患者は、授業で当てられたりすると緊張によって蕁麻疹が出現し、授業をまともに受けられない状況であった。当初はコリン性蕁麻疹を疑っていたため、コリン性蕁麻疹の検査を行った。検査内容と所見を以下に示す。

<コリン性蕁麻疹の検査>

・アセチルコリン試験(局所発汗試験)

・運動負荷試験

・入浴試験

・汗アレルギーの精査

・自己血清皮内テスト

<検査所見>

・WBC 7,200/μL(分節核球62.0%、好酸球2.0%)

・非特異性IgE 23.3IU/mL

・汗に対するHRT:low responderで判定不能(HRT=ヒスタミン遊離試験)

・IgE RAST カンジダ class0

・IgE RAST ピチロスポリウム class0

・IgE RAST マラセチア class0

・自己血清皮内テスト:陽性

アセチルコリン試験においては、100μg/mL 0.05mL皮内注で右下腹部と右大腿へ行い、発汗は認めるものの衛星膨疹は明らかではなかった。アセチルコリンを注入した箇所はほぼ全例で赤くなるが、陽性反応とは異なり、その周囲の皮疹を観察する必要があるため注意すべきである。運動負荷試験は施行できず、汗アレルギーの有無は不明であった。入浴試験に関しては、40℃の浴槽に約1分間で一部に白暈を伴う点状の膨疹が出現した。

福永氏講演資料(提供:福永氏)

この時点でコリン性蕁麻疹と診断することもできたが、当患者は運動負荷試験を行う前から皮疹が出現していたこと、浴槽に入ってわずか1分と汗を十分にかく前に皮疹が出現したこと、診察室に急に医師が入室した際に緊張のみで皮疹が出現したこと、皮疹に白暈を伴っていたことから、アドレナリン性蕁麻疹である可能性を考え、引き続き検査を行った。そしてノルアドレナリン皮内テストを行った結果、注射部位の周囲に白暈を伴う小紅斑を認め、アドレナリン性蕁麻疹の診断が確定した。

アドレナリン性蕁麻疹には通常プロプラノロールが有効であるが、当患者にはあまり効果がなかったため、別の有効例の報告があったクロチアゼパムを投与した。クロチアゼパム5mgの内服前と内服後で入浴負荷試験を行った結果、内服後も皮疹は軽度出現したがチクチク感や倦怠感などの自覚症状は消失し、効果があることを確認した。

アドレナリン性蕁麻疹の病態仮説

アドレナリン性蕁麻疹では、蕁麻疹の出現時に血清中のノルアドレナリン、アドレナリンなどのカテコラミンが上昇する。一方でヒスタミンやセロトニンのレベルは正常域であることが報告されている。また、紅斑の周囲のhaloはカテコラミンによる血管収縮を示唆している。レビューでは、ストレスがかかると交感神経の活動が起こってノルアドレナリンが放出され、肥満細胞にはたらいて脱顆粒を引き起こすというメカニズムが記載されている。しかし、アドレナリン性蕁麻疹の詳細なメカニズムや病態はいまだ明確になっていないのが現状である。

講演のまとめ

  • コリン性蕁麻疹と類似した経過の皮疹の患者を診た際には、アドレナリン性蕁麻疹も鑑別に挙げる
  • 抗ヒスタミン薬の治療が無効なコリン性蕁麻疹の皮疹を呈する患者、十分な発汗刺激が入る前に皮疹が出現する患者では白暈がないか注意して観察する
  • アドレナリン性蕁麻疹を疑った際には、ノルアドレナリン皮内テストで衛星膨疹を確認し診断する
  • アドレナリン性蕁麻疹にはプロプラノロールが比較的有効であるが、治療法はまだ確立していない

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