2022年01月11日掲載
医師・歯科医師限定

【学会レポート】肝中心静脈閉塞症(SOS/VOD)の診断・治療――デフィブロタイド投与の症例紹介も含めて(2900字)

2022年01月11日掲載
医師・歯科医師限定

福島県立医科大学 小児腫瘍内科 特任教授

菊田 敦先生

肝中心静脈閉塞症(以下、SOS/VOD)は造血幹細胞移植後の合併症の1つで、肝類洞の血流障害により、周囲の肝細胞がダメージを受けることで発症する。SOS/VODは完全な予防や治療が確立していないが、新たな診断基準や早期治療介入を目指した臨床研究などによる寛解率の向上を試みている。

福島県立医科大学 小児腫瘍内科 特任教授の菊田 敦氏は、第83回日本血液学会学術集会(2021年9月23日〜25日)で行われた教育講演で、現在行われているSOS/VODの診断と治療について、根拠となる臨床試験や論文を用いて解説した。

SOS/VODの病態と診断

肝類洞は内皮細胞で隔てられており、その下にDisse腔、肝細胞がある。非抱合ビリルビンなどを肝細胞に取り込んで処理するために、内皮細胞には基底膜がないことが特徴だ。

しかし、基底膜がないがゆえに内皮細胞は傷害を受けやすい。そのため、移植前処置の影響などによって内膜下の肥厚やDisse腔への赤血球の浸潤が生じ、血流のうっ滞や肝類洞の非血栓性の閉塞、筋線維芽細胞の線維化などを引き起こすことがある。そして肝中心静脈の周辺にうっ血と出血が拡大していき、最終的には肝中心静脈の器質化と閉塞が生じ、SOS/VODを発症する。

SOS/VOD の診断には生検がもっとも確実な方法であるが、出血リスクが非常に高いため実施は困難である。また、カテーテルによる肝静脈圧較差測定は熟練を要するため、日常的な実施は難しい。そのため、実際の臨床では腹部エコーなどによる門脈血流異常を確認することになる。なお、腹部エコーで得られる特徴的な所見は末期に出現するため早期診断での有用性は限られていたが、「北大スコア(HokUS-10)」が2018年に発表されたことで、腹部エコーでの早期診断が可能になってきた。また、バイオマーカーとしては、プラスミノーゲン活性化抑制因子が有効であるという。

遅発性や重症SOS/VOD診断のための新EBMT基準

これまでの診断基準としては、主に修正Seattle基準とBaltimore基準が用いられてきた。しかし、数%〜25%の割合で起こる遅発性VOD(移植後21日を超えて発症するもの)が考慮されていないことや、予後を予測した重症度分類が確立していないという問題点があった。

そこで、これらの問題を解決するために、2016年に成人SOS/VOD診断のための新EBMT基準が発表された。本基準では下図右の項目のうち2項目以上満たす場合に、遅発性SOS/VODと診断するとしている。


菊田氏講演資料(提供:菊田氏)

重症SOS/VODの早期診断・早期治療のために、重症度分類も同時に発表されている。下図に示す6項目のうち、重症度ごとに定められた基準値を2項目以上満たす場合に、該当の重症度に判定される。


菊田氏講演資料(提供:菊田氏)

また2018年には小児SOS/VODの新EBMT基準が発表された。小児の場合は発症までの期間は考慮せず、下図5項目のうち2項目を満たす場合にSOS/VODと診断される。


菊田氏講演資料(提供:菊田氏)

菊田氏は「血小板輸血不応性の血小板減少が挙げられていることは特徴といえるだろう」と述べ、2020年以降に発表された複数の論文で、小児SOS/VODと診断された症例のうち、75〜100%に血小板輸血不応性の血小板減少の報告があったことを紹介した。

なお小児SOS/VODの重症度判定については、下図9項目のうち重症度ごとに定められた基準値を2項目以上満たす場合に、該当の重症度に判定される。


菊田氏講演資料(提供:菊田氏)

国内の疫学調査

続いて菊田氏は、SOS/VODの生存率について、薬師神氏らの疫学調査を用いて解説した。本調査では、国内におけるSOS/VODの年次発症頻度は約10%程度であることが分かっており、Baltimore基準での重症例の100日生存率は5%と非常に悪いことも報告されている。

<非重症例・重症例(Seattle基準・Baltimore基準)における生存率の比較>


菊田氏講演資料(提供:菊田氏)

また、トロンボモデュリンとデフィブロタイドを治療に用いた100日生存率は、それぞれ50%と48%でほぼ同等であったが、トロンボモデュリンには致命的な出血リスクがあることが報告されている。こうした報告などを踏まえ、SOS/VODの治療には主にデフィブロタイドの使用が国内外で推奨されている。また薬物治療で奏効しなかった患者に対しては、肝移植の成功例も報告されているという。

デフィブロタイドの国内医師主導治験

続いて菊田氏は、自身が研究開発代表を務めたVOD治療におけるデフィブロタイドの有効性・安全性に関する医師主導治験に話題を移した。

デフィブロタイドには内皮細胞の保護作用があり、全身の抗凝固作用を亢進することなくVOD症状を改善することが報告されている。海外の臨床試験では、デフィブロタイドの使用によって移植後100日生存率が向上する結果が得られており、これをもとに国内で健康成人男性に対する第I相試験が行われ、安全性が確認された。

その後、造血幹細胞移植後の小児・成人全てのVOD発症例を対象に、治療の有効性・安全性を確認する第II相試験が行われた。選択基準はBaltimore基準で移植後35日まで、予定登録数は20例(うち重症10例)とされた。主要評価項目は全VOD患者の100日生存率、副次評価項目は重症VOD患者の100日生存率と設定した。実際に対象となった19例の患者背景は以下のとおりである。


菊田氏講演資料(提供:菊田氏)

結果、全VOD患者と重症VOD患者の100日生存率は、それぞれ47.4%と36.2%であったことを菊田氏は示した。これは欧米においてデフィブロタイドが保険適用となった試験と同等の成績であり、この結果をもって同薬は、SOS/VODに対する保険適用の治療薬として国内でも承認された。さらに、発症から2日以内にデフィブロタイドを投与した患者では、3日以降に投与した患者よりも100日生存率においてよい結果が得られたという。

また本治験における有害事象は全例(19例)に認められ、副作用は10例に認めた。有害事象としては、呼吸不全、鼻出血、血尿、肺出血などが多かった。一方、海外の臨床試験(2005-01試験)での有害事象は低血圧、下痢、胃腸出血が多く、国内外の試験で違いがみられたことについても言及した。

デフィブロタイド症例紹介

成人男性の症例

菊田氏は、初回の同種臍帯血移植後にVODを発症し、デフィブロタイドを十分な期間投与することで改善が認められた症例を報告した。

患者はリンパ腫の第一再発期にある成人男性である。移植後14日目に生着を認めたが、その数日後にHHV-6髄膜炎を合併し、26日目には血栓性微小血管症(TMA)が疑われリコモジュリンを投与。34日目にはビリルビン値が2mg/dLを超え、CTでの腹水の所見と右季肋部痛の自覚症状からVODと診断された。その時点でGVHD予防としてタクロリムスとミコフェノール酸モフェチルを使用していたが、メチルプレドニゾロンへ変更した。

35日目からデフィブロタイドを開始したものの、ビリルビン値は徐々に増加傾向を示し、40日目には最大値を示した。その後徐々に低下し、3週間の投与によって前値にまで改善した。ここで重要なポイントとして「ビリルビン値が2mg/dLを下回った時点ですぐにデフィブロタイドを中止すると再上昇する恐れもあるため、しばらく投与を続けることが大切である」と菊田氏は強調した。

3歳女児の症例

次に菊田氏はMDSと診断された3歳女児の症例を紹介した。初回のHLA一致臍帯血移植後は順調な経過を辿っていたが、25日目に突然腸管出血GVHDを発症した。同時にビリルビン値の上昇、腹水、肝腫大、血小板輸血不応性の血小板減少を認め、最重症VODと診断された。

消化管出血があったため当日はデフィブロタイドを開始できず、メチルプレドニゾロンの投与を開始。翌日に出血がないことを確認し、デフィブロタイドを開始した。いったんはビリルビン値の上昇を抑えたが、経過中に再上昇し42日目に最高値の5.9mg/dLまで上昇した。その後徐々に低下傾向を示し、58日目には2mg/dLを下回るまで回復した。さらに1週間デフィブロタイドを投与し、およそ前値まで回復した。

なお、血小板輸血不応性の血小板減少はVOD発症の3日前から認められていたと菊田氏は説明した。

講演のまとめ

最後に菊田氏は講演のポイントを以下のようにまとめ、本講演を締めくくった。

・血小板輸血不応性の血小板減少はSOS/VODの重要な早期兆候である(特に小児・AYA世代においては早期診断に有用)

・小児および成人の新EBMT診断基準は早期診断の可能性を高める

・早期診断、早期治療開始は治療効果を向上させる

・デフィブロタイドは国内外で唯一治療効果が確認された薬剤であるが、使用の際は出血に注意を要する

・メチルプレドニゾロンとデフィブロタイドの併用は有用である可能性がある

・デフィブロタイド中止後にSOS/VODが再燃する可能性もあるため、十分な期間投与することを推奨する

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