2022年11月22日掲載
医師・歯科医師限定

【第65回日本腎臓学会レポート】慢性腎臓病におけるSGLT2阻害薬の有効性――腎・心不全アウトカム試験のエビデンスを踏まえた検討(3200字)

2022年11月22日掲載
医師・歯科医師限定

順天堂大学医学部附属順天堂医院 腎・高血圧内科 先任准教授

合田 朋仁先生

これまでに、SGLT2ナトリウム・グルコース共役輸送体2(sodium-glucose co-transporter-2 :SGLT2)阻害薬に関する複数の大規模臨床試験が行われてきた。その中で、SGLT2阻害薬によって、慢性腎臓病(Chronic kidney disease:CKD)患者における腎機能低下と、心不全患者における心不全入院をそれぞれ予防する効果が示されている。合田 朋仁氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院 腎・高血圧内科 先任准教授)は、第65回日本腎臓学会学術総会(2022年6月10~12日)で、CKD患者におけるSGLT2阻害薬の腎保護効果について、主に腎アウトカム試験であるDAPA-CKDと、心不全アウトカム試験であるEMPEROR-ReducedEMPEROR-Preservedより得られたエビデンスを解説したうえで、同氏が考える糖尿病性腎臓病(Diabetic Kidney Disease:DKD)の治療戦略について紹介した。

SGLT2阻害薬の腎アウトカム試験

CKD患者を対象としたSGLT2阻害薬の大規模臨床試験には、CREDENCE(カナグリフロジン)、DAPA-CKD(ダパグリフロジン)、EMPA-KIDNEY(エンパグリフロジン)がある。

CREDENCEは、顕性アルブミン尿を呈するDKD患者を対象とし、SGLT2阻害薬による腎保護効果を最初に示した試験である。その後、糖尿病を合併しないCKD患者を対象者に含んだDAPA-CKDでもSGLT2阻害薬による腎保護効果が示された。さらにEMPA-KIDNEYは、正常アルブミン尿の患者や糸球体濾過量(GFR)が30mL/分未満の患者など、幅広いCKD患者を対象としている。

<SGLT2阻害薬の腎アウトカム試験>

合田氏講演資料(提供:合田氏)

DAPA-CKDではSGLT2阻害薬により、糖尿病合併の有無や腎機能、尿中アルブミン量、血圧レベルにかかわらず、主要評価項目(末期腎不全+ベースラインから50%以上の腎機能低下+腎疾患死+心血管死)のリスクが有意に低下する結果が得られている。さらに副次評価項目の腎機能低下+末期腎不全+腎疾患死、心血管死+心不全入院、全死亡のリスク低下も認められた(下図)。

<DAPA-CKDの主要・副次評価項目>

合田氏講演資料(提供:合田氏)

出典:Heerspink HJL,et al. N Engl J Med. 2020 Oct 8;383(15):1436-1446.

また、受診間のクレアチニン倍化で定義した急性腎障害のリスクも、糖尿病合併、腎機能低下、利尿薬の有無によらず、SGLT2阻害薬により低下を認めた。なお、SGLT2阻害薬の有害事象に関しては、体液量減少の頻度がわずかに増えたものの、重度低血糖や糖尿病性ケトアシドーシスの増加はみられていない。

SGLT2阻害薬の腎機能、尿中アルブミンへの効果

CKD患者にSGLT2阻害薬を用いると、GFRは開始後早期に低下するが(initial dip)、その後の低下は抑制される(下図左下)。また、SGLT2阻害薬による尿中アルブミンの低下は、GFRのinitial dipと関連する。さらにinitial dipに伴う尿中アルブミンの低下度が大きいほど、その後のGFR低下が抑制される。これらは、SGLT2阻害薬が糸球体内圧を下げることで、尿中アルブミンを低下させて腎機能低下を抑制する、直接的な作用と考えられる。

<DAPA-CKDにおける経時的なGFR低下(GFR slope)>

合田氏講演資料(提供:合田氏)

出典:Chertow GM,et al. J Am Soc Nephrol. 2021 Sep;32(9):2352-2361.

一方で、SGLT2阻害薬が腎機能低下を抑制する効果は、尿中アルブミン低下以外のメカニズムも介していることが予測される。実際にDAPA-CKDのサブ解析では、SGLT2阻害薬群でinitial dipに尿中アルブミンが低下していなくても、プラセボ群で尿中アルブミンが50%低下した場合と同等に、GFR低下が抑制される結果が示されている。

CANVASのサブ解析では、SGLT2阻害薬が腎複合エンドポイント(ベースラインから40%以上の腎機能低下+末期腎不全+腎疾患死)に影響を与える介在因子として、尿中アルブミン以外に血圧レベル、赤血球数、尿酸値を挙げている。しかし、HbA1cは関与因子ではなかった。また、1型糖尿病患者に腎のfunctional MRIを行った検討では、尿中アルブミン量と関連する腎皮質の低酸素状態が、SGLT2阻害薬によって改善したことも報告されている。さらに、糖尿病性腎症におけるミトコンドリア機能の障害や尿細管の炎症も、SGLT2阻害薬により改善する可能性があるとの報告もある。これらの多面的な作用を介し、SGLT2阻害薬は間接的にも腎保護効果を発揮すると考えられるのだ。

SGLT2阻害薬の心不全アウトカム試験

SGLT2阻害薬の心不全アウトカム試験のうち、EMPEROR-Reduced(エンパグリフロジン)は左室駆出率が低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)患者を対象に、EMPEROR-Preserved(エンパグリフロジン)は左室駆出率が維持されている心不全(heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)患者を対象に行われた。

いずれの試験においても、SGLT2阻害薬により主要評価項目(心血管死+心不全入院)のリスクは有意に低下していた。一方、両試験の腎複合アウトカム(末期腎不全+腎機能低下)は、HFrEF患者が対象のEMPEROR-Reducedで49%のリスク低下を認めたのに対し、HFpEF患者を対象とするEMPEROR-Preservedでは有意なリスク低下が認められなかった(下図)。

<EMPEROR-Reduced/Preservedにおける腎複合アウトカム>

合田氏講演資料(提供:合田氏)

出典:Packer M,et al. N Engl J Med. 2021 Oct 14;385(16):1531-1533.

さらに、EMPEROR-Preservedの対象者を左室駆出率で層別化した結果、SGLT2阻害薬による心血管死、心不全入院、腎機能低下+腎疾患死のリスク低下が、左室駆出率の上昇に伴い乏しくなっていた。つまり、心不全患者におけるSGLT2阻害薬の心不全アウトカム・腎アウトカム改善効果は、左室駆出率が保たれている場合には弱くなることが予測される。

DKDの治療戦略

DKDでは、レニン-アンジオテンシン系(renin-angiotensin system:RAS)阻害薬、SGLT2阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(mineralocorticoid receptor antagonist:MRA)、グルカゴン様ペプチド-1(glucagon-like peptide-1:GLP-1)受容体作動薬の4系統の薬剤が治療の柱となる。DKDに合併するさまざまな病態、高血圧、蛋白尿・腎機能低下、高尿酸血症、肥満、心不全、動脈硬化性心疾患に対し、これらの薬剤は多様な効果を発揮すると考えられる。

合田氏講演資料(提供:合田氏)

SGLT2阻害薬以外にも、MRA(フィネレノン)はDKD患者を対象とした腎アウトカム試験(FIDELIO-DKD)で腎保護効果が示されており、糖尿病を合併しないCKD患者でも同様の大規模臨床試験(FIND-CKD)が現在進行中だ。一方、動脈硬化性心疾患や心不全などを発症すると、低血圧となりRAS阻害薬の忍容性が低下し得る。また腎機能低下が進行し、高カリウム血症や腎性貧血などを合併する場合もある。これらの合併症に対するSGLT2阻害薬の有効性を示唆する報告もあり、DKDのさまざまな病態・ステージにおいて幅広い利用が期待できる。DKD治療においては、尿アルブミン尿の減少、心血管疾患の予防、腎機能の維持を目標とし、SGLT2阻害薬を中心として、これら4系統の薬剤を用いることが、具体的な戦略として提案される。

講演のまとめ

  • SGLT2阻害薬は、糖尿病合併の有無や腎機能にかかわらず、腎保護効果を発揮する
  • SGLT2阻害薬の腎保護効果には、糸球体内圧を下げて尿中アルブミンを低下させる直接的な作用と、血圧低下、貧血改善、尿酸低下、腎低酸素状態改善などを介した間接的な作用があると予測される
  • 左室駆出率が保たれている心不全におけるSGLT2阻害薬の効果は、心不全に対する影響も腎機能低下に対する予防効果も弱くなると考えられる
  • DKDの治療では、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、MRA、GLP-1受容体作動薬の4系統を活用することがすすめられる

会員登録をすると、
記事全文が読めるページに遷移できます。

会員登録して全文を読む

医師について

新着記事