2021年11月22日掲載
医師・歯科医師限定

糖尿病とCOVID-19・レジストリデータ解析も含めて

2021年11月22日掲載
医師・歯科医師限定

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 糖尿病情報センター長

大杉 満先生

糖尿病や高血糖がCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の重症化のリスク因子であることは、新型コロナウイルス感染症の流行早期から報告されてきた。その後現在にかけて、詳細が少しずつ明らかになってきている。

今回、大杉 満氏(国立国際医療研究センター病院 糖尿病情報センター長)は、第64回 日本糖尿病学会年次学術集会(2021年5月20~22日)にて行われたシンポジウムの中で、COVID-19と糖尿病との関連性について講演を行った。

COVID-19の特徴

中国の武漢で確認された正体不明の肺炎が日本で報道されるようになったのは、2019年の年末のことだった。ゲノム医療の驚くべき進歩によって2週間も経たぬうちに新たなコロナウイルスの特定と全ゲノム解析が完了し、その翌日にはPCR検査が使えるようになった。日本でも2020年1月16日に第1症例が診断されている。

COVID-19と命名されたこの新たな感染症に非常に早いスピードで立ち向かってきたが、いまだ収束に至らないのはCOVID-19の非常に厄介な性質にあると大杉氏は言う。

<COVID-19の流行曲線>


Zunyou Wu,MD,PhD;Jennifer M,McGoogan,PhD JAMA.2020;323(13):1239-1242より引用

コロナウイルスを原因とする感染症はいくつかあり、感冒といわれる鼻風邪のうち20~40%はコロナウイルスが原因だといわれている。しかし致死率が極めて低いため、今まで大きく注目されることはなかった。ところがSARSやMERSはクラスターを発生させ、致死率も高いことから感染症学的にも非常に有名な疾患となった。

COVID-19の致死率は約2~3%であり、SARSやMERSと比較すると低い。症状の経過は変異株によって多少異なる可能性があるものの、患者の約80%が軽症のまま1週間前後で治癒する。しかしながら、約20%は発症から1週間程度を境にして呼吸器症状が重症化し、なかには人工呼吸器の装着が必要となることもある。

感染経路は飛沫感染が主であり、基本的には空気感染や物を介しての感染は起こりにくいとされている。しかし、換気の悪い密閉空間などで一定の条件がそろった場合には、時間差や離れた距離があっても感染が成立してしまう。これがCOVID-19の厄介な点であり、収束が難しい理由の1つである。

さらに厄介な点は、無症状の保菌者からの感染リスクがあるということだ。ある研究報告によると、COVID-19の発症間隔(serial interval)*は潜伏期間(incubation period)**よりも短い傾向にあることが分かっている。つまり、二次感染者への感染伝播が発症前の潜伏期間中にも起こっていることを示している。こうしたことは感染症としてはまれである、と大杉氏は述べる。また同様の研究で接触追跡を行った結果、症状が出る2日前から発症後6日までの間がもっとも感染を起こしやすいというデータも出ている。

*発症間隔……感染連鎖した一次感染者の発症から二次感染者の発症までの期間

**潜伏期間……感染した日から症状が出現するまでの期間

また、米軍の航空母艦で起こった集団感染の解析結果でも、PCR検査陽性であった1,271名のうち、45%が無症状、32%が検査時無症状(後に症状出現)であったと説明した。大杉氏は「無症状でも次々と感染が発生してしまうという点がCOVID-19の性質であり、収束が難しいとされている所以だろう」と語った。

糖尿病とCOVID-19重症化の関連

大杉氏は糖尿病に話題の焦点を移し、前置きとして糖尿病と過去の感染症との関連を以下のとおりまとめた。

・1型・2型糖尿病患者は感染症に罹患しやすく、入院・死亡リスクが上昇する。

・糖尿病患者が(細菌性)肺炎を発症した場合、ほかの合併症を調整しても、死亡率やARDSの発症率が高くなり、入院時血糖が高い場合にはさらに死亡率が上昇する。

・SARSでは、糖尿病が独立した死亡のリスク因子となる。

・H1N1インフルエンザでは、糖尿病がICU入院のリスク因子となる。

それでは、糖尿病とCOVID-19はどのような関連があるのだろうか。

まず罹患リスクについては、糖尿病がリスクになることはないと現時点では考えられている。しかし、糖尿病がCOVID-19の重症化や死亡のリスク因子となることについては、複数の研究にて報告されている。なお、特に初期の報告は、単純に糖尿病の有無のみで重症化や死亡リスクを解析したものが多かったが、交絡因子を調整して行われたメタ解析では、年齢や高血圧を考慮すると糖尿病のリスク寄与度は下がることが報告されている。

血糖コントロールと重症化の関連

COVID-19の重症化リスク因子に関しては、現在多くの報告があがっている。

大杉氏はその1つである、武漢での最初期(2019年12月30日~2020年3月20日に診断を受けた患者が対象)の報告を紹介した。本研究では、18歳から75歳までのCOVID-19患者を対象に、入院時・入院中の血糖値と重症化の関連について検討している。

入院中の血糖コントロール良好群と不良群を比較した結果、コントロール不良群では、良好群と比べてリンパ球が少ない反面、顆粒球やIL-6、CRP、LDHの数値が高いことが確認できる。


青:血糖コントロール良好群、オレンジ:血糖コントロール不良群

Zhu L et al.Cell Metab. 2020 Jun 2;31(6):1068-1077.より引用

また調整前28日死亡率が非糖尿病群で2.7%、糖尿病群で7.8%であったのに対し、血糖コントロール良好群と不良群とで死亡率を比較した結果、PSM前は良好群で1.1%、不良群で11.0%となり、PSM後は良好群で0.6%、不良群で6.0%という結果となった。こうしたことからも、血糖コントロールの重要性が示唆される。


PSM後致死率 青:血糖コントロール良好群、オレンジ:血糖コントロール不良群

Zhu L et al.Cell Metab. 2020 Jun 2;31(6):1068-1077.より引用

重症化に関与する因子――BMI、HbA1c、入院時血糖に基づく解析

次に大杉氏は、2020年3月10日から31日までの期間にフランスの53のセンターにおいて、COVID-19によって入院した糖尿病患者を対象としたコロナドスタディのデータを供覧した。本研究ではBMI、HbA1c、入院時血糖の数値によって、重症度がどのように変化するのかを解析している。

入院から7日以内の転帰を「気管挿管もしくは死亡(a, c, e)」と「死亡のみ(b, d, f)」という2つに分けて調査したところ、BMIが高いほどリスクが上昇することが分かったという。また入院時血糖が高いほどリスクは上昇していたが、HbA1cに関してはそのような量的関係が認められなかった。


B Cariou et al Diabetologia. 2020 Aug;63(8):1500-1515.より引用

ただし、その後に報告された約1,700万人を対象としたイングランドのデータでは、BMIや年齢が高いことが重症化のリスクであると同時に、HbA1cが高い場合も重症化のリスクが高くなると報告されている。

また、大杉氏は糖尿病・高血糖・肥満の併発がCOVID-19の重症化を招きやすい理由として、正常な肺・血管とCOVID-19に感染したそれとを比較した図を用いながら自身の見解を示した。簡潔にCOVID-19の病態をまとめると、肺胞上皮障害が肺機能の障害だけでなくサイトカインストームや血栓症を引き起こす非常に特異的なものである。糖尿病や高血糖、肥満があるとこうした血管障害を引き起こしやすくなることから、これがCOVID-19の重症化を招きやすい理由ではないかと大杉氏は推測する。


出典:JM O’sullivan et al.Lancet Haematol 2020;7(8):e553-e555 (翻訳:大杉氏)

COVID-19 REGISTRY JAPANのデータ

続いて大杉氏は、自身が解析に携わり、現在全国3万名以上のデータを集積しているCOVID-19 REGISTRY JAPAN(COVIREGI-JP)のデータを供覧した。今回大杉氏が示したのは、2020年5月31日までに入院した5,500名の中から、データが十分に解析できる約4,500名に絞った第一波コホートの結果である。

28日以内に死亡した患者背景を解析した結果、平均年齢が極めて高く、それに伴い平均BMIは低い傾向にあった。また糖尿病の罹患率が極めて高いことも分かっている。さらに詳しく検査数値等をみていくと、死亡例では血糖値が高い傾向にあるなど、ほかの検査結果においても既報の内容とほぼ一致していた。

さらに多重ロジスティクス解析を行った結果、以下のような因子が人工呼吸器管理や死亡のリスクとなることが示された。

<患者背景のリスク因子>

・人工呼吸器管理(28日以内)……高年齢・男性・肥満・糖尿病

・死亡(28日以内)……高年齢・男性・肥満・糖尿病・慢性呼吸器疾患・がん・肝疾患・中等度以上の腎疾患

<入院時検査項目などのリスク因子>

・人工呼吸器管理(28日以内)……肥満に加えて血小板減少・AST上昇・eGFR低下・CRP上昇

・死亡(28日以内)……血小板減少・AST上昇・CRP上昇・アルブミン低下・高血糖・低血糖

そして大杉氏は注目すべき点として、高血糖だけではなく低血糖も死亡のリスク因子となることを挙げた。実際、低血糖を起こすほどの厳格な血糖コントロールを目指すと死亡などのイベントが上昇するという報告もある。ただし、ステロイド治療などを行うことを鑑みた場合、初期の目標値は低めでもよいかもしれないと大杉氏は述べた。

糖尿病の診断と予後の関連

続いて大杉氏は糖尿病の一般論に話題を移し、糖尿病の診断の有無と予後との関連について調べた研究を紹介した。アメリカのボストンで感染症が疑われた1,849名を、糖尿病と診断されていない血糖値が高い群と、糖尿病患者の群に分けて予後を調べた結果、前者のほうが死亡率やICU治療率が高いという結果が出ている。これは糖尿病と診断されていない患者ではインスリン使用率が低いことが原因だと考えられる。

つまり、糖尿病の既往なしとみなされたり、高血糖が見過ごされたりすることで、重篤な転帰を迎えやすいことがいえる。大杉氏は「ストレスによる一時的な高血糖だと診断されたりすることで、治療が遅れて予後の悪化につながる恐れもあるため注意が必要だ」と強調した。

COVID-19が招いた生活習慣の変化と糖尿病

最後に大杉氏はCOVID-19流行による活動自粛が生活習慣に与えた多大な影響について言及した。国立国際医療研究センターにおけるデータでは2020年2月~4月の平均HbA1cが例年に比べて高い傾向にあったといい、原因として外出や散歩、通勤を控えることで活動量が少なくなったことを挙げた。しかしその一方で、会食の減少などによって体重の減少や血糖値の改善につながった人もいるという。

こうした緊急事態における生活習慣の変容として思い出すべきは東日本大震災での対応だろうと呼びかけ、避難所でも実践できる運動療法について当時まとめたものなどを、COVID-19による自粛生活においても再利用できるのではないかと述べた。そして、生活習慣が大きく変容している緊急事態だからこそ、患者が普段どのような生活を送っているのかを見直すよい機会になるだろうとし、講演を締めくくった。

講演のまとめ

・糖尿病は、COVID-19の罹患リスクとはならないものの重症化・死亡のリスク因子である

・高血糖は予後不良と相関がある

 仮説1:高血糖が予後不良の因子である

 仮説2:重症患者で血糖値が上昇する

 仮説3:高血糖の看過・治療の遅れが重症化の原因となる

・入院中の血糖コントロール目標は敗血症における過去の知見を踏襲して、過度な血糖コントロールに注意する

・感染予防が大切だが、外出自粛でも食事・運動を含めた治療継続が大切である

最後に大杉氏は、糖尿病学会のホームページで常時学術情報と患者向けメッセージを更新しているため参考にしてほしいと語った。

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