2022年07月27日掲載
医師・歯科医師限定

【第53回日本動脈硬化学会レポート】COVID-19と生活習慣病・心血管不全の関連――重症化リスク、ワクチン接種との関係は(3400字)

2022年07月27日掲載
医師・歯科医師限定

佐賀大学医学部循環器内科教授・内科主任教授

野出 孝一先生

長引くコロナ禍において、受診控えの増加が問題になっている。しかし一部の循環器系疾患は、年齢やBMIなどと共にCOVID-19重症化のリスク因子であることが報告されており、注意が必要だ。日本循環器学会のCOVID-19対策特命チーム委員長を務める野出 孝一氏(佐賀大学医学部循環器内科教授・内科主任教授)は、第53回日本動脈硬化学会総会・学術集会(2021年10月23日~24日)におけるシンポジウムの中で、COVID-19重症化リスク因子と合併症について解説した。

COVID-19重症化リスク因子

COVID-19に関するデータが世界中で蓄積され続ける中、各データを比較すると、現在ではおおよそ一致した傾向が示されている。日本では、循環器疾患やリスク因子を合併する COVID-19入院患者の臨床的背景や転帰を明らかにする目的で、CLAVIS-COVIDというコホート研究が進行中だ。

年齢に関する検討では、循環器疾患やリスク因子の合併がみられないローリスク群に属する55歳未満の致死率は約1%と低かった。しかし同じローリスク群でも、80歳以上の層では致死率は約28%と高く、年齢が致死率に強く関与していることが示されている。ただしこれはワクチン接種開始以前のデータであるため、接種患者の予後についても検討・評価が必要である。

また、普通体重(BMI値18.5~25.0未満)に比べて、肥満1度患者(BMI値25.0~30.0未満)の院内死亡率は1.46倍であり、肥満2度以上の患者(BMI値30以上)では約3倍であった。年齢と同様、肥満も大きなリスク因子といえるだろう。

年齢や肥満のほかにも、以下に示すような要素がCOVID-19重症化リスク因子として報告されている。

  • 心筋炎
  • 過剰免疫反応
  • 低酸素症
  • 不整脈によるQTc延長
  • 電解質異常
  • 男性
  • 併発疾患(慢性心不全、慢性腎不全、COPD、糖尿病)
  • 遺伝的背景

一方で、現在重症化に対する高血圧の関与は報告されておらず、関連が否定されつつある。

COVID-19の病態生理

COVID-19は、スパイクタンパクS1が直接ACE2タンパクに結合することで感染する。COVID-19の感染メカニズムについては詳細に解明されつつある。2020年のCirculation Journalでは、COVID-19の病態生理と心血管疾患との関連について以下のとおり報告した。

  • COVID-19患者の検死報告によると、ウイルスの直接作用と免疫病理学的要因による広範な肺胞の炎症が主な病理学的所見である
  • COVID-19感染における心臓の病理学的特徴は、心筋基質・血管壁の浮腫と、心筋繊維の萎縮である

COVID-19ではウイルスの直接的な影響に加えて、血行動態不良や免疫反応などが心筋炎を引き起こすとされている。たとえばCOVID-19感染によって肺胞で炎症が起こると、T細胞やマクロファージの活性化によってIL-6、IL-7、IL-22などのサイトカインストームが発生する。ここにCOVID-19ウイルスによる直接的な影響が重なることで、心不全や不整脈が引き起こされる。

一方血管では、内皮細胞と周皮細胞が炎症を起こすことで微小血管が障害されると同時に、炎症発生による不安定プラークの破綻も重なり急性冠症候群(ACS)を発症する。COVID-19感染によるACSは、従来の高脂血症によるACSとは機序が異なるため、病態も少し違ってくる可能性がある。なお心血管疾患のスクリーニングとしては、致死率との相関が認められている高感度心筋トロポニンIが有用だ。

肺ではII型肺胞上皮細胞の過形成が引き起こされ、I型肺胞上皮細胞にも炎症が生じる。臨床的所見としては低アルブミン血症が特徴であり、肺浸潤や心電図によるT波の陰転化、心筋肥厚・浮腫、炎症、心嚢水貯留なども報告されている。

さらにCOVID-19はマクロファージ活性化症候群(MAS)を引き起こし、サイトカインや抗体、血小板、RAS・PAI-1、血液凝固第VIII因子、免疫グロブリン(LA)を活性化することでさまざまな血栓症を引き起こす。また内皮障害によって、抗凝固にはたらいているuPA(ウロキナーゼ)やtPA(組織プラスミノーゲン活性化因子)が低下し、凝固系をいっそう亢進させてしまう。

実際、COVID-19患者ではD-ダイマーの上昇傾向もみられており、再灌流障害や微小血栓・微小循環障害の報告も多い。COVID-19の合併症について検証した海外の報告によると、ICUに入院した患者のうち約35.3%が動脈/静脈血栓症、約50%が心血管イベントを発症したと示されている。合併症の中では症候性静脈血栓塞栓症(VTE)の約30%がもっとも多い結果となった。

COVID-19にはさまざまな合併症リスクが存在するため、COVID-19患者には積極的にエコーや心電図検査を行い診断する必要がある。

2021年1月には、日本医学会連合会から『D-ダイマーが突然上昇する際には血栓症の合併を考慮する必要がある』との意見書が発表され、以下のような対応が提言された。

  1. 中等症以上の入院例では、D-ダイマー値の急激な上昇や呼吸状態の急速な悪化がみられることもあるため、必要に応じて連日D-ダイマーのモニタリング実施を推奨する
  2. 中等症以上の入院例では、D-ダイマー値や呼吸状態を参考にしてヘパリンによる抗凝固療法の実施を考慮する
  3. 重症例は播種性血管内凝固症候群(DIC)合併のリスクがあるため、厳密な凝血学的検査によるモニタリングを実施する
  4. 退院後の予防的抗凝固療法は、リスクに応じて実施の是非を検討する

COVID-19ワクチンの現在

ワクチンにはいくつか種類があり、COVID-19重症化予防として用いられているのは核酸ワクチンである。ファイザーやモデルナ、開発中である第一三共のワクチンは、核酸ワクチンの中でもmRNAワクチンに分類される。一方で、アストラゼネカ製ワクチンはベクターワクチンと呼ばれる種類だ。

ファイザーとモデルナのワクチンを比べると、若干ではあるもののモデルナのmRNA量が多いともいわれている。また、モデルナのワクチンはファイザーのものと比較して心筋炎発症率が若干高いという懸念点が示されている。アストラゼネカ製ワクチンにおいては、ワクチン誘導性の免疫性血栓や血小板減少症の発症が報告されている。

COVID-19ワクチンに関して、2021年7月に日本医学会連合会から提言を発表した。概要は以下のとおりである。

  • mRNAワクチンでは接種後の心筋炎・心膜炎が海外で報告されているものの、若い男性に多く、ほとんどの患者で回復がみられている
  • 高頻度ではないものの、接種後に胸痛・胸部違和感・動悸が報告されている。このような症状がみられた際には、速やかに受診することが必要である
  • アストラゼネカ製ワクチンでは、接種後の血小板減少を伴う血栓塞栓症が海外で報告されている。若い女性に多い傾向で、今後の動向を注視する必要がある

さらに、日本循環器学会は「新型コロナウイルスワクチン接種後の心筋炎・心膜炎発症率は、新型コロナウイルス感染による心筋炎・心膜炎発症率に比べて極めて低く、また症状も軽症傾向であることから、ワクチン接種による利益はリスクを上回る」と声明を発表している。しかし状況は常に変化しているため、学会として今後の動向を注視し、迅速な情報収集と提供に努める必要がある。

2021年10月に行われたワクチン分科会の副反応部会では、新型コロナウイルスに伴う心筋炎について報告を行った。現状、コロナウイルス接種後に心筋炎を発症したという報告は増加しているが、そのメカニズムは依然として不明だ。

ワクチン接種後の心筋炎が若い男性で多くみられる理由についてもいまだ不明点は多いが、これについては免疫不活化反応の活性化が可能性としてあげられる。一方エストラジオールが血中レベルで高い女性に関しては、エストラジオールが心筋炎発症を抑制しているのかもしれない。

講演のまとめ

本講演のポイントは、以下のとおりである。

  • COVID-19重症化のリスク因子は、高齢、肥満、心筋炎、過剰免疫反応、低酸素症、不整脈によるQTc延長、電解質異常、男性、併発疾患(慢性心不全、慢性腎不全、COPD、糖尿病)、遺伝子背景などさまざまである
  • COVID-19では、心筋炎、心血管障害、血栓症など多くの合併症が報告されている。感染者には積極的なスクリーニング検査を行い、合併症の診断を行う必要がある
  • COVID-19ワクチンにおいては、副反応の報告もあがっているが、依然としてワクチン接種による利益はリスクを上回っている

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