2022年04月05日掲載
医師・歯科医師限定

【論文紹介】『3階以上の階段利用で心房細動リスクが低下――国循 吹田研究で明らかに』

2022年04月05日掲載
医師・歯科医師限定

MedicalNoteExpert編集部

日常生活の中で、3階以上の階まで上る際に階段を利用することが6割以上ある群では、心房細動罹患リスクが約3割低下することを国立循環器病研究センターの研究チームが明らかにした。データとして用いたのは、1989年から同センターが実施しているコホート研究「吹田研究」。本研究の成果は、日本衛生学会の英文誌「Environmental Health and Preventive Medicine」に報告された。

3階以上の階段利用で心房細動リスク3割減

研究代表者は、国立循環器病研究センター健診部の小久保 喜弘氏。調査の対象は、吹田研究の参加者である都市部に住む30〜84歳の一般市民のうちベースライン調査時に心房細動の既往がなかった6,575人中、平均14.7年の追跡期間中に新規で心房細動を発症した295名。この対象者に、「3階まで上るときに階段をどのくらいの割合で利用しているか」と質問し、2割未満、2〜3割、4〜5割、6〜7割、8割以上の5択で回答を求めた。

結果、利用率が2割未満の群を基準とした場合、6割以上階段を利用すると回答した群では、心房細動の罹患リスクが性年齢調整で0.69倍(ハザード比0.69、95%信頼区間0.49〜0.96)、多変量調整で0.71倍(ハザード比0.71、95%信頼区間0.50〜0.99)、運動習慣の有無による調整で0.69倍(95%信頼区間0.49〜0.98)と有意に低いことが示された。

運動習慣との関係

本研究では、運動習慣の有無で調整しても、心房細動の罹患リスクが有意に低かったことから、運動習慣とは別に日頃から階段利用を心がけることで、心房細動を予防できることが示された。なお、日頃よく階段を利用する人は、それ以外のシーンでも積極的に体を動かそうとしている可能性がある。そのため、階段に限らず日常的に体を動かすことが心房細動の予防につながることも考えられるという。

予防のための生活習慣改善、明確に提示できる可能性

同じく吹田研究を用いた別の論文https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_31909/)では、規則正しく適切な長さの睡眠を取ることが心房細動の予防に肝要であることが示されている。2017年に小久保氏らの研究チームは、吹田研究のデータを用いて10年後の心房細動の予測確率を求める「リスクスコア」を開発している。将来的にはここに運動、睡眠、食事といった生活習慣の要因も加えることで、心房細動予防のためにどのような生活習慣改善を試みればよいのかを、患者に対して具体的に提示できるようになる可能性があるという。

全国民の約90%は都市部に在住していることから、吹田研究のデータ解析結果は国民の現状により近い傾向があると考えられている。

階段の利用率が、簡便な身体活動の指標となる可能性

小久保氏らが本研究を行った背景には、身体活動の測定や評価が難しいという課題がある。

循環器病の予防には身体活動が有効だが、激しい運動はかえって健康障害を引き起こす。アスリートと非アスリートで心房細動の罹患率を比較した6つの論文を解析した報告では、アスリートのほうが非アスリートに比べて5.29倍も心房細動の罹患リスクが高いことが分かっている。そのため、健康障害を引き起こさないレベルの「適度な」身体活動が求められるが、その測定は容易ではない。

たとえば、身体活動問診では「身体活動の強さ×その活動時間」で身体活動量を測定するが、生活の中で1つ1つの活動を記録し計算するのは非常に煩雑だ。また、スマートフォンなどを使って計測する方法もあるが、一日中デバイスを身に付けていなければならない。小久保氏らはこうした課題から、日常生活における簡単な身体活動の指標として、階段の利用率に着目。「日頃からどのくらい階段を利用しているか」という簡単な指標によって、心房細動リスクを予測できる可能性を示した。

本研究の課題

本研究は自己記入式の問診票のため、健診時に看護師が確認しているとはいえ、誤分類の可能性は否定できないという。また、階段利用を避けがちな腰痛や膝関節症など整形外科的な疾患の有無は考慮していないため、そうした人には椅子を使った体操など別の方法を紹介する必要があるともしている。また、階段の利用率はベースライン調査時のみの解析である。

研究チームは「今後は追跡期間中の階段の利用率も併せて研究をしていく必要があると考えている」と報告している。

【参考】

  • 国立研究開発法人 国立循環器病研究センター プレスリリース 2022/03/04

https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_31844/

  • Arafa A, KokuboY, Shimamoto K, Kashima R, Watanabe E, Sakai Y, Li J, Teramoto M, Sheerah H, Kusano K.Stair climbing and incident atrial fibrillation: A prospective cohort study. Environmental Health andPreventive Medicine (2022) 

 https://doi.org/10.1265/ehpm.21-00021


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