2022年02月22日掲載
医師・歯科医師限定

【第70回日本アレルギー学会レポート】花粉やダニによるアレルギー性鼻炎の免疫療法、その効果や安全性――喘息や新規感作の抑制効果はあるのか(5200字)

2022年02月22日掲載
医師・歯科医師限定

山梨大学大学院総合研究部医学域 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 教授

櫻井 大樹先生

アレルギー性鼻炎に対する免疫療法の進歩は目覚ましく、新たな薬剤の登場による治療効果の向上も示されている。その有効性や安全性、長期効果については、どのようなエビデンスが出されているのだろうか。

第70回日本アレルギー学会学術大会(2021年10月8日〜10日)の教育講演の中で、櫻井 大樹氏(山梨大学大学院総合研究部医学域 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 教授)は「花粉症・アレルギー性鼻炎の免疫療法up to date」と題し、特に舌下免疫療法に焦点を当て、期待される効果や安全性について国内外のエビデンスに基づき解説した。

アレルゲン免疫療法の概要

2020年に改訂された鼻アレルギー診療ガイドラインには、アレルゲン免疫療法について以下のように明記されている。

・一般的な対症薬物療法と異なり、アレルギー疾患の自然経過の修飾が期待される

・アレルギー性鼻炎に対する有効な予防治療法は確立されていないため、根本的な治療法として重要な位置付けにある

なお、現在アレルゲン免疫療法には、皮下免疫療法(SCIT)と舌下免疫療法(SLIT)があり、それぞれに以下のようなメリット・デメリットがある。

櫻井氏講演資料より作成

鼻アレルギー診療ガイドライン2020年版では、通年性アレルギー性鼻炎/花粉症のいずれに対しても、重症度にかかわらずアレルゲン免疫療法が推奨されている。

舌下免疫療法の治療効果

スギ花粉への有効性

スギ花粉に対する舌下免疫療法は、当初「シダトレンスギ花粉舌下液(2,000JAU/mL)」が用いられていたが、現在は「シダキュアスギ花粉舌下錠(5,000JAU)」が登場しており、維持量としては2.5倍になっている。シダトレンは、治療1年目から2年目にかけて段階的に症状が改善すると報告されているが、シダキュアではシダトレンの2年目に相当するような治療効果が1年目に現れることが報告されている。

シダキュアについては、現在3シーズンの臨床試験の結果が出ており、治療後2年間までの効果が測定されている。プラセボと比較した結果、実薬を3シーズン続けた群で目鼻の症状とQOLの大きな改善がみられ、1シーズンのみ、2シーズンのみ投与した場合でも、比較的良好な成績が得られている。この結果から、短期間の舌下免疫療法でも効果があること、そしてその効果は維持され、治療を継続することでさらに効果が強くなっていくことが示された。

ダニ通年性アレルギー性鼻炎への有効性

ダニ通年性アレルギー性鼻炎に関しても、国内でエビデンスレベルの高い臨床試験がいくつも行われており、治療法が確立されてきている。成人に対する「ミティキュアダニ舌下錠」と「アシテアダニ舌下錠」のプラセボとの比較試験では、1年の経過において、ミティキュアアシテアともに、プラセボと比較して症状スコアが有意に改善したことが報告された。

小児に対する臨床試験でもミティキュアアシテアの双方で、プラセボに比べて有意な症状改善が示されている。なお、ミティキュアの臨床試験では、5〜17歳までの対象患者を10歳以下と10歳以上に分けて観察しており、低年齢という理由で効果や安全性は劣らないことも示されている。

2021年には、ダニ舌下免疫療法の効果に関する第III相国際研究の結果が、JACIで発表されている。プラセボ対照二重盲検比較試験として実施された本試験には、ダニアレルギー性鼻炎の1,607例が参加し、アシテアと同様の舌下錠(300IR)が1年間投与された。結果、プラセボでも治療効果がみられたが、実薬群ではそれ以上に有意な症状改善がみられ、これまでの国内報告と同様の結果が得られている。

また、治療開始時のベースラインでの症状スコアごとに分類したサブ解析(下図)の結果、いずれのスコアにおいても、プラセボと比較して実薬群で症状が改善している。注目すべきはスコア12点以上の場合だ。患者数は少ないものの、プラセボに対してほかのスコア群よりも高い治療効果が観察されていることから、舌下免疫療法は症状が強いケースでも十分に効果が期待できる治療といえるのだ。

出典:Demoly P,et al.J Allergy Clin.Immunol.2021;147:1020-1030.e10.
櫻井氏講演資料(提供:櫻井氏)

また、鼻のかゆみ、くしゃみ、鼻漏、鼻閉、目のかゆみ、流涙など各症状に対する治療効果についても、実薬群がプラセボと比較して有意に改善している。QOLについても、日常行動、睡眠、目鼻以外の症状、実生活の煩わしさ、鼻症状、目症状、感情面といった項目で、実薬群がプラセボと比較して有意に改善したと示された。

舌下免疫療法の安全性

次に、舌下免疫療法の安全性について、日本、オーストラリア、韓国、ニュージーランドの4か国で行われたアシテア製剤の市販後調査(2015年5月〜2019年12月)の結果を用いて紹介する。

89,057症例中、副反応は1,131例、重篤な副反応は42例にみられた。重篤な副反応のうち、成人が43%、10歳以上(成人未満)が38%、10歳未満が12%以下で、小児のほうが少ない結果となっている。重篤な副反応としては、咽喉頭反応(0.4/10,000)、アナフィラキシー反応(0.1/1,000)、好酸球性食道炎(0.1/10,000)、自己免疫性疾患(0.2/10,000)などがみられ、アナフィラキシーショックの報告はなかった。

年齢による副反応の比率内訳は、成人を含めた10歳以上では口腔のかゆみ(20.6%)、喉の刺激感(19.3%)、口腔の浮腫(16.0%)の順に多くみられた。一方、小児では口腔のかゆみ(13.0%)、口腔の浮腫(12.6%)、喉の刺激感(10.7%)と同様の症状が並んでいる。また小児では、腹痛が4番目に多いことが特徴となっている。

副反応の発生時期については、1か月以上になるとほとんど報告はなく、1週間以内での発生が多かった。特に1日目での発生が多く、この傾向は成人も小児も同様の結果であった。

舌下免疫療法の長期効果

続いて、舌下免疫療法の長期効果についてみていこう。ダニの舌下免疫療法については、スギ花粉ほど長期にわたるデータは現時点では報告されていない。現時点でもっとも長期効果を観察したと考えられる研究では、1年間の治療後に1年間休薬して症状を検討しており、プラセボに対する有意な症状改善効果と休薬後の持続効果が確認されている。

Karl-Christian Bergmann,et al. J Allergy Clin Immunol. 2014 Jun;133(6):1608-14.e6.より引用

また、花粉症に対する舌下免疫療法ついては、実薬(牧草花粉5種、イネ科オオアワガエリの舌下錠)とプラセボとを比較した海外研究において、3年間の治療期間のみならず、終了後2年間の経過を追っても治療効果が持続したことが示されている。

アレルゲン免疫療法の予防効果

喘息発症の抑制効果

アレルゲン免疫療法には、喘息発症の抑制効果があるとする複数の論文データがある。2004年にJACIで発表された論文では、小児に対する舌下免疫療法における3年間の経過で、対照群と比較して実薬群では喘息症状の発症が低かったと報告されている。

Elio Novembre,et al. J Allergy Clin Immunol. 2004 Oct;114(4):851-7.より引用

その後いくつかの報告がなされ、2008年には、アレルギー性鼻炎患児に対する舌下免疫療法は持続型喘息および気道過敏性を低下させたという報告が出ている。2018年には、プラセボ対照二重盲検比較試験(3年間の治療とその後2年間の経過観察)において、舌下免疫療法群で喘息症状の出現、喘息治療薬の使用を低下させたと報告された。2017年に発表されたメタ解析では、舌下免疫療法と皮下免疫療法ともに、治療後2年間まで喘息発症のリスクを下げる効果も示されている。

最近になって、実際に薬剤を処方された症例を振り返り、喘息発症の抑制効果がどの程度あったのかを検討した報告がいくつか出ている。2018年のドイツの報告では、花粉に対する舌下免疫療法について、治療終了後2年まで喘息発症の抑制と、喘息に対する薬物使用量の低下が報告されており、2019年のフランスでの報告も同様の結果が出ている。2019年のドイツの報告では、シラカバ花粉に対する舌下免疫療法について、治療終了後6年までの喘息発症抑制が報告されている。また、2020年のヨーロッパアレルギー学会(EAACI)のUser's Guideでも、アレルギー性鼻炎に対する免疫療法は喘息発症のリスクを下げ、薬物使用量を低下させることが示されている。ただし、現状では短期間のエビデンスで長期的な効果は不明であり、予防効果が出ているのが花粉症に限定されていることも指摘されている。

このように、アレルギー性鼻炎に対するアレルゲン免疫療法は、喘息の発症を抑制する可能性があり、段々とエビデンスが蓄積されてきている。

新規感作の予防効果

アレルゲン免疫療法の新規感作の予防効果についても、いくつかの報告がある。2010年の報告では、舌下免疫療法後15年の経過における新規アレルゲン感作率について、対照群と比較して舌下免疫療法群で有意な抑制効果が示されたことが明らかとなっている。

また、その後に発表された複数の報告を見ると、アレルゲン免疫療法は新規感作に対して短期的には有効だとする報告もあるが、全体として予防効果は支持できなかったというのが大勢である。EAACIのUser's Guideでも、現状、新規感作の抑制効果について十分なエビデンスはないという見解が出ている。この点については、今後のさらなる解析やエビデンスの蓄積が必要だろう。

スギ舌下免疫療法のヒノキへの効果

スギ舌下免疫療法のヒノキへの効果はどうなのだろうか。2021年に千葉大学の米倉 修二氏が報告した論文では、シダキュアの3年経過の中で、スギとヒノキの花粉飛散時期によって解析を行っている。結果、スギだけでなくヒノキ花粉の飛散時期においても、プラセボと比較して実薬で有意な症状改善がみられている。このことから、スギ舌下免疫療法はヒノキ花粉症に対してもある程度効果が期待できると考えられるが、どのようなヒノキ花粉症患者に有効なのか、効果のない患者もいるのかどうかについては、今後さらなる解析が必要である。

舌下免疫療法の作用機序

最後に自然リンパ球である「ILC2」に着目し、近年の報告を踏まえながら舌下免疫療法の作用機序について見解を示す。

アレルゲン免疫療法によるILC2の変化

アレルゲンにさらされると、上皮障害から産生されるサイトカインによってILC2が活性化することで、2型サイトカインであるIL-5、IL-13などが放出される。これが、アレルギー疾患の病態形成に重要なはたらきをすると考えられている。

2018年の報告では血中のILC2に関して、健常者では変化がないが、アレルギー性鼻炎患者ではその数値が上昇していることが示されている。さらに、患者に対してアレルゲン免疫療法を行うと、ノンレスポンダーでILC2は低下しないが、レスポンダーでは有意に低下していることも示されている(下図C)。

Wat Mitthamsiri,et al. Allergy Asthma Immunol Res. 2018 Nov;10(6):662-674.より引用

また、アレルギー性鼻炎に対するアレルゲン免疫療法によって変動する細胞を調べた結果、ILC2は低下し、ILC1は上昇したという報告もある。これらはTh細胞でいうとTh1、Th2に相当する機能を持つと考えられているが、抗原特異性はないとされている。

アレルギーを抑制する「IL-10産生ILC2」の存在

最近になって、アレルギーを誘導するILC2だけでなく、IL-10を産生してアレルギーを抑制するILC2の存在が明らかとなっている。2021年にImmunityで報告された論文で、アレルギー性鼻炎ではアレルギーを誘導するILC2が増加するが、免疫療法を行うことで抑制性のIL-10産生ILC2が発現することが報告された。臨床経過を見ると、症状が改善したケースではIL-10産生ILC2の発現が多いというデータも出ている。

Korneliusz Golebski Immunity. 2021 Feb 9;54(2):291-307.e7.より引用

ILC2の増加や活性がどのようにして起こるのかはいまだ明確になっていないが、アレルゲン免疫療法によるILC1やIL-10産生ILC2の増加がILC2を制御し、アレルギーの抑制に関与しているのではないかというのが現時点での見解である。しかしながら、ILCに抗原特異性がないことを考えると、免疫療法にどの程度関わっているのかは定かでない。しかし、ILCは喘息の発症抑制や新規発症の抑制などに関わっている可能性もあるのではないかと考えている。

講演のまとめ

・舌下免疫療法の有効性・安全性が示されている

・スギ舌下錠は投与終了後を含めた長期効果が示されているが、ダニ錠剤は長期の比較データが不足している

・免疫療法は喘息発症リスクを下げる可能性があるが、新規感作の抑制については十分なエビデンスがない

・免疫療法の機序に自然免疫の関与が示唆されている

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