2021年12月03日掲載
医師・歯科医師限定

非メラノーマ皮膚悪性腫瘍の治療最前線――血管肉腫

2021年12月03日掲載
医師・歯科医師限定

筑波大学 医学医療系 皮膚科 准教授/病院教授

藤澤 康弘先生

皮膚血管肉腫の治療に関しては、エビデンスレベルの高い研究が少ない。そのため、現時点でわが国には確立された標準治療がなく、施設間で治療法にばらつきがあるのが現状だ。

筑波大学医学医療系皮膚科の藤澤康弘氏は、第120回日本皮膚科学会総会(2021年6月10~13日)で行われた教育講演「非メラノーマ皮膚悪性腫瘍の治療最前線」において、血管肉腫の最新の治療について解説。また、今年(2021年)発表された『皮膚血管肉腫診療ガイドライン 2021』の概要、進行中の臨床試験について紹介した。

欧米と日本の治療と患者背景の違いについて

遠隔転移のない皮膚血管肉腫の治療状況は欧米と日本で異なっている。欧米では局所コントロールおよび生存期間の改善が示されている広汎切除と術後放射線療法が標準的に行われているが、日本では放射線療法や免疫療法、手術、化学療法など、施設によってさまざまな治療が行われている。その背景には、手術で切除しても再発しやすく、放射線療法では遠隔転移が防げず予後不良となりやすい、また抗がん剤治療に関しては初期治療としての評価がないなどの問題があり、決定的な治療が存在しないことにある。

また、欧米の821例を対象とした後ろ向き研究によると、症例の80%が低~中等度リスク群に分類され、高リスク群の割合が低い。それに対し、日本の症例は欧米の症例と比べて高齢で腫瘍径も大きいなど、高リスク症例の割合が高い。これは、手術と放射線療法だけで十分な治療成績が得られている欧米と比べて、日本で同様の治療を実施しただけでは予後不良となりやすいことの要因の1つであると考えられる。

実際、欧米でも高リスク症例は日本の症例と同様、予後不良であることが明らかにされている。そのため、国内外を問わず高リスクの症例に対しては新たな治療戦略が必要であるといえる。

寛解導入後の維持療法の重要性

では、従来治療の問題点は何か。まず、予後を悪化させる最大の問題は遠隔転移の頻度の高さだ。

手術と術後放射線療法を選択した場合、その間に全身に播種する可能性がある。そのため転移予防の観点からは、初期治療の段階から化学放射線療法による全身治療を行うことで播種を抑えるという点だけでなく、放射線感受性増感作用にも期待ができる。実際、藤澤氏が行った研究では手術および術後放射線療法よりも化学放射線療法のほうが全生存期間は長かったという。

また、化学放射線療法で完全奏効(CR)が得られても、遠隔転移を抑制するための維持療法を行わないと予後不良となり、従来の手術および術後放射線療法による初期治療を上回る効果は得られなくなる可能性があることが、これまでの研究から明らかになっている。

これらを踏まえ、藤澤氏は化学放射線療法による初期治療で寛解導入し、その後、寛解を維持するための維持療法を行う治療戦略を提示した。実際の治療方法として「パクリタキセル70mg/m2(100mg/body)を臨床的CRが得られるまで3投1休で続け、可能であれば同じスケジュールでその後も継続し、しびれや骨髄抑制などの副作用があれば減量や投与間隔の延長を行っている」と説明した。

タキサン系薬不応例に対するセカンドライン治療

一方、遠隔転移のない皮膚血管肉腫の患者に対する初期治療後の維持療法には課題もある。その1つは、有害事象による中途脱落例が存在することだ。また、既存治療薬の中でも現在わが国で血管肉腫治療の第1選択薬となっているパクリタキセルに抵抗性を示す症例にどのように対処するのかも明らかになっていない。そこで求められるのが有効なセカンドライン治療の開発だ。

その候補となりうる新規治療薬として、抗がん剤のエリブリンやトラベクテジン、分子標的薬のパゾパニブ、抗体医薬品のベバシズマブ、ニボルマブが挙げられる。このうちエリブリンやトラベクテジン、パゾパニブは悪性軟部腫瘍に対する治療薬としての保険適用はあるが、血管肉腫に対する有効性についてはエビデンスがない。また、ベバシズマブとニボルマブは保険適用外となっている。

こうした中、藤澤氏らはこれらの新規治療薬のうち微小管阻害剤であるエリブリンに着目し、タキサン系薬不応の進行期皮膚血管肉腫25例を対象とした多施設共同前向き観察研究を実施した。

その結果、奏効率と病勢コントロール率については以下のとおりとなった。


また、全生存期間(OS)の中央値は8.6か月、無増悪生存期間(PFS)の中央値は3.0か月だった。有害事象については血液毒性がもっとも多かったという。

これらのデータに基づき、藤澤氏は「タキサン系薬不応例に対し、エリブリンに一定の効果があることが確認された」との見解を示した。なお同氏によると、VEGF/PDGF経路を遮断し、血管新生抑制や血管内皮増殖抑制といった作用を有する分子標的薬のパゾパニブも、作用機序の面から血管肉腫に有効である可能性が高く、有望視されている。パゾパニブに関しては、これまでの報告は全て症例報告や症例集積研究のレベルにとどまっているが、現在、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)の皮膚腫瘍グループによるタキサン系薬不応例を対象とした臨床試験が進行中であるという。

『皮膚血管肉腫診療ガイドライン 2021』のポイント

続いて藤澤氏は、皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン改訂委員会(皮膚血管肉腫診療ガイドライングループ)の一員として自身も改訂作業を担当した『皮膚血管肉腫診療ガイドライン 2021』の概要を紹介した。

主な改訂ポイントは、1.幅広いコンセンサスが得られ、臨床現場で広く浸透していると判断される内容は総論として記載したこと、2.議論の余地がある内容についてはクリニカルクエスチョン(CQ)として後半に紹介し、以前13あったCQは4つに絞られたこと、の2点である。

<皮膚血管肉腫診療ガイドライン 2021に掲載された4つのCQ>

・CQ1:遠隔転移の無い皮膚血管肉腫に対して広汎切除及び術後放射線よりも化学放射線治療の方が勧められるか?

・CQ2:遠隔転移の無い皮膚血管肉腫に対して広汎切除及び術後放射線よりもインターロイキン 2 による免疫療法が勧められるか?

・CQ3:遠隔転移の無い皮膚血管肉腫に対して初期治療後に無治療経過観察より再発予防目的の化学療法は勧められるか ?

・CQ4:パクリタキセル抵抗例のセカンドライン治療としてドセタキセルより新規治療薬(エリブリン,パゾパニブ,トラベクテジン)が勧められるか?

皮膚血管肉腫診療ガイドライン 2021より引用

藤澤氏は、CQの具体的な内容についてそれぞれ以下のように解説した。

CQ1:遠隔転移のない皮膚血管肉腫に対して広汎切除及び術後放射線よりも化学放射線治療の方が勧められるか?

このCQに対しては、「原発巣が大きい遠隔転移のない皮膚血管肉腫に対して,化学放射線治療を弱く推奨する」とされている。ただし、化学放射線療法の有用性を示す研究はあるが、いずれもエビデンスレベルが低いこと、欧米では高リスクに分類される症例以外は手術および術後放射線療法で比較的良好な予後が得られていることから、「広範囲に病変が広がり完全切除が困難な症例では化学放射線療法を考慮してもよいが、小型で完全切除が見込める症例では広汎切除および術後放射線療法を第一選択として考慮すべき」との見解が示された。

CQ2: 遠隔転移の無い皮膚血管肉腫に対して広汎切除及び術後放射線よりもインターロイキン2 による免疫療法が勧められるか?

インターロイキン2による治療は日本独特のものであったと藤澤氏はいう。そのうえで、今回の改訂では「遠隔転移が無くても皮膚血管肉腫に対してインターロイキン2 投与を単独では行わないことを提案する.症例により術後補助療法として検討」と推奨された。

藤澤氏はこの背景について「斑状病変に結節がない症例に対しては効果がみられるものの、結節や潰瘍病変にはほとんど効果がないというデータも出てきている。手術よりも経過がよいということを示す信頼性の高いデータはなく、薬自体も少なくなってきているため、やむを得ないと判断した」と語った。

CQ3:遠隔転移のない皮膚血管肉腫に対して初期治療後に無治療経過観察より再発予防目的の化学療法は勧められるか?

CQ3については「無治療経過観察よりも再発予防目的の化学療法を行うことを弱く推奨する」と示された。無再発生存期間や全生存期間に関する論文の数はかなり限られている一方で、化学療法を実施したほうが経過がよいという報告もある以上それを否定する理由もない、という見解からこのような推奨に至ったという。

CQ4:パクリタキセル抵抗例のセカンドライン治療としてドセタキセルより新規治療薬(エリブリン,パゾパニブ,トラベクテジン)が勧められるか?

本CQについては、有効性に関する評価もまだ定まっておらず、経験症例の多いドセタキセルへのスイッチより新規治療を推奨するだけの根拠はないことから「介入しないことを弱く推奨する」とされた。

進行中の臨床試験

血管肉腫の治療においては現在、免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬、抗がん剤などさまざまな臨床試験が進行中である。

<現在進行中の臨床試験>


藤澤氏より提供

紫外線の影響が大きく頭頸部に出る皮膚血管肉腫は、遺伝子変異の頻度が高く、抗PD-1抗体が有望な選択肢となる可能性があるという。そのため、パクリタキセルによる化学療法歴を有する根治不能の皮膚血管肉腫に対するニボルマブを用いた治療について検討する医師主導の第II相多施設共同非盲検対照試験、AngioCheck試験を藤澤氏自身が進行中であるという。藤澤氏は、パクリタキセルの効果がみられなくなってしまった患者がいる場合には、ぜひ参加施設に患者を紹介してほしいと述べた。

<対象患者要件および参加施設>


藤澤氏より提供

講演のまとめ

藤澤氏はポイントを以下のようにまとめ、講演を締めくくった。

・血管肉腫の治療では、手術+放射線が世界的な標準治療となっている。しかし、同治療は腫瘍が小さい低リスク症例が多い欧米での検討結果に基づいたものである。また、腫瘍が大きい高リスク症例は欧米でも予後不良である。

・高リスク症例に対してタキサン系抗がん剤による化学放射線療法が奏効する可能性がある。

・タキサン系抗がん剤不応例に対しては、エリブリンに一定の効果があることが前向き研究で示されている一方で、まだゲームチェンジャーとなるような治療はない。

・『皮膚血管肉腫診療ガイドライン 2021』では、総論において疫学から治療まで広い分野がカバーされた。また、CQは議論が分かれるものだけに特化した。ただし、皮膚血管肉腫に関しては、エビデンスレベルの高い研究が少ない。今後、少しでもエビデンスレベルの高い研究を目指す必要がある。

・現在、新規治療薬のうちパゾパニブとニボルマブのそれぞれを用いた試験(JCOG-PCASおよびAngioCheck)が進行中である。

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