2022年10月04日掲載
医師・歯科医師限定

【第109回日本泌尿器科学会レポート】前立腺がんの手術療法と放射線療法の未来予想――超寡分割照射の可能性、“漏れない手術”に向けた技術向上(3100字)

2022年10月04日掲載
医師・歯科医師限定

関西医科大学 腎泌尿器外科学 教授

木下 秀文先生

前立腺がんは放射線療法や手術療法により、高い制御率で根治が期待できる。それぞれの治療法においてさらにQOLを向上するために、治療の低侵襲化や期間短縮を目指した技術の改良が試みられている。関西医科大学 腎泌尿器外科学 教授 木下 秀文氏は、第109回日本泌尿器科学会総会(2021年12月7~10日)で、前立腺がん治療について最新の知見と併せて今後の展望を解説した。

根治的放射線療法の未来予想――超寡分割照射

前立腺がんに対する根治的放射線療法は、将来的に「超寡分割照射(Ultra-hypofractionated radiotherapy)」が主流になるだろう。以前は約2か月の期間を要した放射線療法は現在1か月になり、近い将来には2週間程度の放射線療法が普及していくと予測される。

この根拠になるのは、オープンラベルの非劣勢試験「HYPO-RT-PC」について報告した論文だ。本試験では、78Gyを39分割(週5日2Gyを8週間)した従来の分割照射群と、42.7Gyを7分割(週3回6.1Gyを2.5週間)した超寡分割照射群を比較している。結果、プライマリーエンドポイントのPSA値は同等であり毒性も大きく変わらなかった。QOLに注目すると泌尿器系の症状は変化なく、腸管の症状は超寡分割照射群で急性期に若干高く出るものの、早期回復がみられた。

本試験では42.7Gyを7分割していたが、今後はたとえば35Gyを5分割など、さらなる期間短縮が考えられる。なお超寡分割照射は、基本的に体幹部定位放射線療法(SBRT)に分類されるため、安全性の観点からトレーサーやスペーサーを用いて経験豊富な施設で行うのが望ましいだろう。ただし超寡分割照射には、収益面で問題がある。放射線療法は一連の治療につき診療報酬が請求できるため、治療回数の少ない超寡分割照射では収益が低下してしまうのだ。今後の普及に向けた課題となるだろう。

根治的手術療法の未来予想1――手術治療のクオリティ向上「漏れない手術へ」

短期間の放射線療法が可能となれば、入院治療や尿漏れなどの合併症を余儀なくされる手術よりも、当然放射線療法を選択する患者が増えてくるだろう。そこで我々泌尿器科医は、放射線療法に劣らぬよう、「尿漏れゼロ」を目指して手術のクオリティをより向上させていく必要がある。そこで私は2024年に向けた目標として、以下の数値を掲げている。

<2024年に向けた尿漏れ抑制の目標>

・退院時失禁はほぼゼロ

・神経温存手術……60%(現状約40%)

・神経非温存手術……30%(現状約15%)

この目標を達成するために積極的に取り組んでいるのが「ARVUS(Advanced Reconstruction of Vesicourethral Support)」と「Hood technique」だ。

ARVUSは肛門括約筋を左右から正中に引き寄せて縫い合わせ、ロッコの後壁を補強する方法だ。ARVUSについて報告した論文では、ARVUSによって4週目のPad0が14.7%から62.5%に改善されることが示されている。手技も非常に簡便であり効果も高いため、ぜひ実施していただきたい。

出典:Student V Jr, et al. Eur Urol. 2017 May;71(5):822-830. /木下氏講演資料(提供:木下氏)

神経温存手術の場合はHood techniqueを推奨する。一般的なVeil techniqueではAFMS(前方筋線維性間質)の両側を切開して神経を残すが、尿道と周囲の組織が、特に腹側で剥離されてしまうことが問題となる。一方Hood techniqueは、側臍索の内側からアプローチし、レチウス腔をできるだけ展開しないようにする。神経温存時の前立腺周囲の剥離は、背側→側方→腹側の順で丁寧に行うことがポイントだ。

通常の手術では尿道上部のDVCおよび周囲組織を切開するが、Hood techniqueでは前立腺頭側から、DVCと前立腺の層を剥離するので尿道腹側の組織を切開する必要がない(下図参照)。そのため尿道の周囲組織が温存できるという利点がある。

木下氏講演資料(提供:木下氏)

Hood techniqueは両側温存の症例でないと実施が困難であるものの、尿失禁の制御は非常に良好で4週目のPad0が83%と示した報告がある。先述のARVUSと組み合わせることで、より良好な結果が得られるだろう。

根治的手術療法の未来予想2――遠隔手術

2021年4月に、神戸大学、神戸市、株式会社NTTドコモ、株式会社メディカロイドの産官学が連携し、商用5Gを介した国産手術支援ロボット「hinotori」の遠隔手術を実現するための実証実験を、世界で初めて開始した。日本の泌尿器科医が世界中の手術を支える時代の到来が期待される。

根治的手術療法の未来予想3――自動手術

その次に期待されるのは自動手術であるが、その普及は容易ではないだろう。なぜなら、現在外科医の“暗黙知”で行われている手術を、”形式知”に置き換えなければならないためだ。AIにおける機械学習やディープラーニングがそれを可能とするならば、自動手術ができるようになる可能性もある。

自動手術のステップは6段階に分けられる。そのうち中段階(2~3段階)における簡便な縫合や剥離(剥離層の露出は術者が行う)については、もっとも早く自動手術への置き換えが進んでいく可能性があるが、たとえば正しい剥離層を見つけるような操作は、さまざまな判断が必要であり、まだまだ難しいかもしれない。

転移症例に対する放射線療法の未来予想

転移症例に対しては、オリゴ転移であれば治癒を目指す戦略が普及していく可能性がある。オリゴ転移の診断は、どのようなモダリティで診断するかなどの課題が多いが、近未来的には診断と治療を同時に行う考え(Theranostics)が主流になるだろう。

オリゴ転移に対して逐一定位照射をすることについて、LancetJAMAで大規模データが複数発表されている。一方で、オリゴ転移でない症例であっても超選択的に転移巣を治療する方法としてRI内用療法が適していると考える。

前立腺がんのRI内用療法で現在使用(非選択的)されているのはゾーフィゴだが、ほかの腫瘍では、たとえば選択的な治療として、褐色性細胞腫に対する高用量MIBGが挙げられる。前立腺がんの転移に対する治療としては、Lutetium-177-PSMA-617が期待される。標準治療を終了した後、Lutetium-177-PSMA-617治療の有無による治療効果を比較した試験では、プライマリーエンドポイントのradiological PFS(無増悪生存期間)とOS(全生存期間)においてLutetium-177-PSMA-617群が圧倒的に有意であることが示されている。また、ドセタキセルによる治療後に、カバジタキセルを使用した群とLutetium-177-PSMA-617を使用した群を比較した試験もある。プライマリーエンドポイントのPSAについて、50%以上低下した割合はカバジタキセル群で37%であったのに対し、Lutetium-177-PSMA-617群では66%と有意であった。さらにPFSもHR 0.63で有意差が認められた。

これらの結果を踏まえて、将来的にLutetium-177-PSMA-617の国内使用が可能になると予測される。まずは転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)の2次治療以降に保険収載された後、段階的に対象が広がり、最終的には転移性ホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)に使用できる時代が来ることを期待している。

講演のまとめ

  • 根治的放射線療法は超寡分割照射が主流になるだろう
  • 根治的手術療法は、尿失禁を回避するためのさまざまな手術手技が開発され治療成績の向上を目指していく。また遠隔手術や自動手術の普及によって手術のあり方が大きく変わる可能性がある
  • 遠隔転移については一つひとつのがんが「局所」という考えのもと、オリゴ転移に関しては、metastasis directed radiotherapy で治癒を、Lutetium-177-PSMA-617などによりOSの延長を目指すのが主流となる可能性がある

会員登録をすると、
記事全文が読めるページに遷移できます。

会員登録して全文を読む

医師について

新着記事