2021年11月18日掲載
医師・歯科医師限定

COVID-19の病態と治療の展望

2021年11月18日掲載
医師・歯科医師限定

国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター長

大曲 貴夫先生

COVID-19では軽症であっても重症化する可能性があり、中には後遺症を伴うケースもある。現状、COVID-19における詳細な病態把握はなされていないが、いくつかの治験や研究によって治療の展望が見え始めてきている。

大曲 貴夫氏(国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター長)は第64回日本糖尿病学会年次学術集会(2021年5月20~22日)で行われた講演の中で、現在明らかとなっているCOVID-19の病態や治療、今後の展望について解説した。

COVID-19における特有の病状経過

COVID-19では軽症から重症までさまざまな臨床像を呈するが、多くは軽症のまま症状が治まる。しかし、軽症例のうち最大20%は酸素吸入が必要になるほどの呼吸不全を発症するといわれている。また東京都のデータでは、約1%は人工呼吸が必要になると報告されている。

死亡率は1~2%程度といわれているが、医療が切迫したり、高齢者を中心に流行したりするとこの割合は上昇する。また、重篤な呼吸不全やほかの臓器不全を併発している場合は死亡率が高くなることがCOVID-19の問題点だという。

COVID-19では軽症の状態で1週間ほど経過した後、おおむね発症から7~10日後になって急激に病状が悪化することがある。大曲氏は「こうした病状経過はほかの呼吸器感染症ではあまりみられず、COVID-19の大きな特徴といえるだろう」と述べた。

COVID-19における感染機序と免疫系の応答

次に大曲氏はCOVID-19の病態に関する内容に話題を移し、はじめにウイルスに対するヒトの免疫応答について解説した。

通常、ウイルスが体内に侵入するとウイルスは気道上皮細胞で増殖し、感染した細胞は最終的に炎症性の細胞死を起こす。これに対してまずは自然免疫系の応答が起こり、死んだ細胞やオプソニン化されたウイルスそのものが貪食される。次にそれらが抗原提示細胞としての機能を果たし、CD4を通じて獲得免疫系に移行する。そして最終的にCD8が活性化し、炎症性細胞死を起こした細胞を貪食したり、抗体の産生によってウイルスが中和されたりする。

こうした免疫応答が行われていれば自然に軽快していくのが、COVID-19の一般的な病状経過である。しかし個人によってさまざまな免疫応答が存在するため、免疫系の応答が十分なスピード・程度で起こらないことがある。こうしたケースでは、コロナウイルスに感染した細胞はどんどん増加し、多数の細胞死が起こる。そして同時にウイルスも大量発生するため、肺だけではなくほかの臓器にも感染が広がっていくという悪循環が起こり、重症化や死亡につながるのだ。

COVID-19による血管障害、全身への影響

続いて大曲氏は肺胞レベルでの病態を見た図を示した。


Teuwen LA,et al. Nature Reviews Immunology 20,389–391 (2020)より引用

肺胞の上皮細胞における感染によって強い炎症が生じると、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の状態になる。すると肺胞内に浸出液が滲み出し、肺胞レベルでの呼吸に悪影響を及ぼす。

一方で肺胞の上皮細胞に感染が起こると、その周辺にある血管の内皮障害も発生する。そしてそれに伴い、免疫の不活化、血小板の過剰な活性化、凝固系の異常などが引き起こされ、場合によってはマクロ血栓症・ミクロ血栓症が起こることもある。浸出液だけが原因ではなく、こうした血管障害も伴うことで呼吸不全を呈するのがCOVID-19の病態だと考えられているのだ。

こうした血管障害はほかの臓器でも起こることが分かっており、大曲氏は最近話題になった問題として脳血管への影響について取り上げた。脳の神経系統の内部を走行している血管内皮に感染が起こると、脳の血管内皮に障害が生じる。それによって血液凝固の異常をはじめ、ミクロからマクロレベルでの循環障害が引き起こされる。

また感染による炎症は脳の実質にも影響を及ぼし、マイクログリアの活性化などを引き起こす。すると神経伝達物質の枯渇が起こるなどして、結果的に中枢神経系の機能障害が起こり、さらに器質的な循環障害が生じる可能性もあるという。


Maura Boldrini,et al. JAMA Psychiatry. 2021;78(6):682-683.より引用

このように気道系から始まる疾患であるが、最終的には全身のさまざまな臓器系統への障害を生じることがCOVID-19の難点であると述べ、「COVID-19は全身性の疾患と認識すべきである」と大曲氏は強調した。

COVID-19による血液凝固の実態

大曲氏は血液凝固の問題を取り上げ、日本血栓止血学会・日本動脈硬化学会によるCOVID-19関連血栓症アンケートの結果を示した。当初は日本人では血液凝固は起こりにくいと考えられていたが、本アンケート結果により日本人でも血液凝固が生じる可能性が提示され、特に重症患者での発生頻度が高いことも分かったという。こうした結果を受けて、現在では日本でも凝固問題が認知されるようになり、適切な対応が行われていると大曲氏は述べる。

COVID-19回復者における心筋障害

先述のとおり、COVID-19では循環障害が引き起こされることもある。それについて、国立国際医療研究センター病院の循環器内科がCOVID-19から回復した患者を採血し、高感度トロポニンTを測定する研究を行った。

その結果65%の患者が陽性を示した。さらに高感度トロポニンTの数値と心臓超音波の左室長軸ストレインの関連性を調べた結果、高感度トロポニンTが高いほど左室長軸ストレインの低下を認めた。この研究結果は、COVID-19では高頻度で心筋障害が発生するという1つの裏付けになると大曲氏は言う。

COVID-19により大動脈炎を呈した症例

ここで大曲氏はCOVID-19の罹患後に大動脈炎を呈した70代男性の症例を紹介した。

この患者はCOVID-19で肺炎となり、数週間経過しても解熱しなかった。診断に難儀しPET/CTを行ったところ、大動脈に炎症がみられたという。そこでリウマチ科医と相談のうえHLAを確認したところHLA-DR4陽性を認めた。これにより巨細胞性動脈炎の素因が疑われ、もともと腹部大動脈に慢性的な軽度炎症があったと考えられた。つまり慢性炎症がある場合、COVID-19に罹患することによって、より強い炎症が起こることが本症例から考察することができるという。

COVID-19による後遺症

COVID-19の社会問題になっているのが後遺症の問題だ。COVID-19に感染し国立国際医療研究センター病院を退院した患者63人を対象とした調査では、咳、味覚障害、嗅覚障害、呼吸困難、倦怠感、痰といった後遺症に長期間悩まされている患者が一定数いることが分かっている。しかし、これらの後遺症がなぜ起こるのか、いつか回復するものなのか、また回復までにどのくらいの期間を要するかなど、詳細な全体像は明らかとされていないと大曲氏は述べる。


Miyazato Y,et al. OFID, 7(11),2020, ofaa507.より引用

また後遺症として脱毛を呈した49歳の男性の事例では、退院した直後から脱毛がみられ、その後しばらく脱毛の症状は治らず、退院後4か月ほど経ってからようやく症状が治まったという。脱毛が始まってから1年ほど経過してやっと元の状態に戻っている。


Suzuki T, et al.Int J Infect Dis. 2021;107:255-256.より引用

こうした事例から大曲氏は「COVID-19による後遺症は、場合によって相当長い期間続くと考えられるだろう」と述べ、後遺症への診断や病態把握を行い、患者の苦しみをどのように受け止めるかが今後の大きな課題であると語った。

COVID-19に対する治療の現状

COVID-19に対する治療は、ウイルスの過剰な増殖を止める「抗ウイスル薬」と、強い炎症に対して免疫系の調整を行う「免疫調整薬」による主に2段階の治療が基本となる。

抗ウイルス薬としては、レムデシビルがランダム化比較試験(RCT)によりプラセボに比し5日間回復が早いといった結果が報告され、日本においても特例承認を経て使用されることとなった。

なお、重症呼吸不全の患者では発症から時間が経ちすぎていたり、時間の経過によってウイルスが活発でなくなっていたりすることが多いため、こうした患者に対してはレムデシビルを積極的には使用すべきではないという見解もみられ始めているという。

また、今後は呼吸不全がない状態の患者にレムデシビルを投与することで、重症呼吸不全が予防できるのかという点について検証が進んでいくのではないかと大曲氏は話す。

そのほかの抗ウイルス薬としては抗体製剤や回復者血漿が使用される。特に抗体製剤については、発症後早期に投与することで重症呼吸不全や入院のリスクを減少することが、海外の治験で明らかになっている。回復者血漿の効果についてもさまざまな治験によって検証が進んでおり、国立国際医療研究センター病院においても他施設共同試験としてRCTが実施されている。

さらに低分子化合物などの新しい抗ウイルス薬の治験も行われており、今後内服薬が登場すれば外来での投与も可能となるだろうと大曲氏は期待を込めて述べた。

免疫調整薬では、デキサメタゾンが致死率を下げる効果があることが分かっており、すでに標準的な治療薬として使用されている。またバリシチニブやトシリズマブについても治験が行われており、バリシチニブは効果が示されていることから、日本でも特例承認により適応拡大されている。

COVID-19におけるバイオマーカーの研究と今後の診療の展望

大曲氏は、COVID-19による重症呼吸不全や入院リスクを減らすために重症化予測が非常に重要であると述べ、国立国際医療研究センター病院の杉山氏らの研究事例を取り上げた。

本研究では、重症化に至る患者では感染初期から血液中のCCL17が基準値以下になることと、重症化する患者はその数日前にINF-λ3(インターフェロンラムダ3)が高値を示すということが示されている。


図上段、CCL17・IFN-λ3参照

Sugiyama M,et al. Gene. 2021 Jan 15;766:145145.より引用

また同センターの片桐氏らが実施している、尿中のバイオマーカーの有用性に関する研究についても紹介した。本研究において、重症化に至る患者ではその1週間ほど前からβ2ミクログロブリンやL-FABPが上昇していることが分かっている。


図E・F参照

Katagiri D,et al.Crit Care Explor. 2020 Jul 31;2(8):e0170.より引用

こうしたバイオマーカーをうまく活用することで、COVID-19診療を大きく変えられる可能性がある。たとえば、早期からバイオマーカーを測定することで重症化リスクの高い患者を優先的に入院させることができる。また、INF-λ3が高いほど重篤な呼吸不全に至る傾向があることも分かっていることから、人工呼吸器が必要になるかどうかの予後予測にも使用できるのではないかという。

「こうした診断時の重症化リスクの見極めによって、COVID-19の重症化や死亡を減少させることにつながっていくだろう」と大曲氏は述べ、本講演を締めくくった。

講演のまとめ

・COVID-19では1週間ほど軽症の状態が続いても、その後急激に病状が悪化することがある

・COVID-19では血管障害を通じて全身のさまざまな臓器に障害を及ぼすことがある

・COVID-19では長期間にわたり後遺症が続くことがあり、その病態解明や患者の苦しみをいかに受け止めるかが今度の重要課題となる

・現状、COVID-19の治療薬として抗ウイルス薬と免疫調整薬が使用されており、新たな治療薬の開発に向けた多くの治験も実施されている

・COVID-19の重症化リスクを予測するバイオマーカーとして、CCL17、 INF-λ3、β2ミクログロブリン、L-FABPの有用性が期待されている

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