2022年11月16日掲載
医師・歯科医師限定

【第66回日本リウマチ学会レポート】変形性関節症の薬物療法におけるデュロキセチンとオピオイドの位置づけ――海外と日本の比較(3500字)

2022年11月16日掲載
医師・歯科医師限定

千葉大学医学部附属病院 整形外科 助教

瓦井 裕也先生

変形性関節症に対する従来の薬物療法は、ほとんどが非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs:NSAIDs)であった。しかし2010年以降、さまざまな鎮痛機序の薬剤が使用可能となってきている。現在使用されているデュロキセチンおよびオピオイド系鎮痛薬は、臨床現場でどのように活用するのが適切なのだろうか。

瓦井 裕也氏(千葉大学医学部附属病院 整形外科 助教)は、第66回日本リウマチ学会総会・学術集会(2022年4月25~27日)のシンポジウムにて、変形性関節症に対する薬物療法におけるデュロキセチンとオピオイドの位置づけについて概説した。

変形性関節症の病態・疫学

変形性関節症は、硝子軟骨(関節軟骨)や線維軟骨(半月板など)の変性、軟骨下骨の硬化、骨棘形成など骨代謝変化を伴う炎症性疾患とされる。加齢を基盤とし、遺伝・性別・力学的ストレスなど複数の要因を背景に発症する多因子疾患である。

本邦における変形性膝関節症の有病者数は、X線画像で明らかな症例が約2,500万人、痛み症状を有する症候例が約800万人と推計されている。変形性股関節症では、X線画像で明らかな症例が約245万人、痛み症状を有する症候例が約74万人と推計される。

変形性関節症の治療

変形性関節症に対する治療では、まず非薬物療法として生活指導(体重管理、杖の使用、自己管理プログラム)や運動療法、装具療法が行われる。次いで、NSAIDsや関節内注射(ステロイドまたはヒアルロン酸)、デュロキセチン、弱オピオイドのトラマドール製剤などで薬物療法が行われる。

非薬物療法、薬物療法を行っても痛み症状が十分に改善しない場合には、骨切り術や人工関節置換術などの手術療法を検討する。しかし、患者が手術を希望しなかったり、併存疾患のために手術リスクが高かったりすることが、実臨床ではしばしば問題となる。

変形性関節症の痛みとデュロキセチン・オピオイドの作用機序

そこで、こうした問題を解決するために、デュロキセチンと弱オピオイドのトラマールの有用性について考えてみたい。

変形性関節症における痛みの原因として、1.骨棘や骨髄病変に代表される骨由来の疼痛、2.滑膜炎などの炎症、3.炎症の長期化による無神経野(関節軟骨や半月板)への神経伸長、4.中枢性・末梢性感作、5.下行性疼痛抑制系の機能低下、6.痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)の関与が挙げられる(表)。

デュロキセチンは、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であり、下行性疼痛抑制系を賦活して疼痛を抑制するとされる。具体的には、痛覚情報伝達系においてセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、脊髄後角のシナプスにおけるセロトニン・ノルアドレナリン濃度を上昇させる。一次感覚神経からの神経伝達物質の遊離抑制と二次感覚神経の興奮抑制により、鎮痛効果を発揮する。

我々はラット変形性股関節症モデルにおいて、デュロキセチン投与により疼痛関連行動が改善することを報告している。この報告では、神経障害性疼痛と関連する脊髄後角のミクログリア発現が低下する結果も示された。

さらに、変形性膝関節症患者を対象とした検討も行われている。central sensitization inventoryにより評価した中枢性感作を有する患者では、デュロキセチンの投与によって膝関節機能尺度が有意に改善する結果となった。以上からデュロキセチンは、変形性関節症における痛みの原因のうち、主に中枢性感作と下行性疼痛抑制系の機能低下に作用すると考察される(表)。

弱オピオイドのトラマドールは、μオピオイド受容体作動作用と、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を併せ持つデュアルドラッグである。そのため、中枢神経や末梢神経に存在するμオピオイド受容体の抑制作用と、下行性疼痛抑制系の賦活作用それぞれにより鎮痛作用をもたらす。μオピオイド受容体は中枢神経にも末梢神経にも発現しているため、オピオイド系鎮痛薬は変形性関節症における痛みの原因の全てに作用すると考えられる(表)。

表:変形性関節症の痛みの原因とデュロキセチン、オピオイドの作用点

瓦井氏講演内容より作成

海外のガイドラインにおけるデュロキセチンとオピオイドの位置づけ

国際変形性関節症学会(OsteoArthritis Research Society International:OARSI)の変形性関節症診療ガイドライン2019では、コア治療として最初に患者教育や運動療法、体重管理を行うことが記載されている。次いで外用のNSAIDsやNSAIDs内服、ステロイドまたはヒアルロン酸の関節内注射などを高レベルで推奨している。

本ガイドラインでは、変形性膝関節症患者に対するデュロキセチンの使用について、widespread painとうつ状態の患者に対する条件付き推奨としている。トラマドールについては言及がない。またトラマドール以外のオピオイドは、有益性が低く依存の危険性が高いため、使用を避けるべきとしている。一方、変形性股関節症に対するデュロキセチンの効果については、2019年時点で質の高いエビデンスの数が少なかったため、推奨が見送られた。トラマドールについては、変形性膝関節症と同様に言及がなく、トラマドール以外のオピオイドは使用を避けるべきとしている。

2019年の米国リウマチ学会ガイドラインでは、デュロキセチンは変形性膝関節症に対し、単剤またはNSAIDsとの併用で効果を示すとされており、条件付き推奨としている。変形性股関節症についてはエビデンスが不十分ではあるものの、変形性膝関節症と同様の推奨度だ。トラマドールはほかの薬物療法で効果が不十分な患者や手術ができない患者に対する、短期間の使用を推奨している。また、トラマドール以外のオピオイドは、長期使用で依存や乱用の危険性があるため、使用を避けたほうがよいとされている。

以上を要約すると、OARSIでは変形性膝関節症に対するデュロキセチンの使用のみ条件付きで推奨し、米国リウマチ学会では、変形性関節症に対するデュロキセチンおよびトラマドールの使用をともに条件付き推奨としている。また、いずれのガイドラインでも、強オピオイドの使用は依存や乱用などの問題から推奨されていない。

本邦のガイドラインにおけるデュロキセチンとオピオイドの位置づけ

本邦の変形性股関節症診療ガイドライン2016では、トラマドールの単独投与またはアセトアミノフェンとの併用投与と、プラセボとを比較検討した11本のランダム化比較試験についてシステマティックレビューが行われている。その結果、トラマドール使用群で疼痛強度が12%減少し、重篤な有害事象は2.6倍多く発生する結果を認めている。そのため、トラマドールは短期的には疼痛緩和に有効であるとし、投与を推奨している。またデュロキセチンは、本ガイドライン策定時には保険適用外であり、言及されていない。

慢性疼痛診療ガイドラインでは、疼痛が3か月以上続くような運動器慢性疼痛の患者におけるデュロキセチンの使用を強く推奨している。複数のメタアナリシスで、変形性関節症患者におけるデュロキセチンの疼痛改善効果が報告されているためだ。一方でトラマドールについては、依存乱用のリスクがあるため長期投与は避けるべきとコクランレビューに記載されている。以上を踏まえ、運動器慢性疼痛の患者におけるトラマドールの使用は弱く推奨されている。

変形性関節症の治療にオピオイド系鎮痛薬を使用することへの懸念

変形性膝関節症患者または変形性股関節症患者を対象に、ロキソプロフェンやトラマドール・アセトアミノフェンの配合剤、フェンタニル外用剤の効果を比較検討した臨床研究が行われた。いずれの薬剤でも鎮痛効果は得られる一方、フェンタニル外用剤による治療群でのみ変形性関節症が著明に進行する症例が認められた。さらに、進行症例はいずれも高用量のフェンタニルを使用しており、治療によるVisual Analogue Scale低下が著明であった。

また、我々がラット変形性股関節症モデルに対してトラマドールを4週間連続投与した検討でも、類似の結果が認められている。投与開始1週間後には疼痛関連行動が改善した一方、関節症性変化が有意に進行していた。上記の結果から、オピオイドによる過度な除痛は、関節症性変化の進行に関与する可能性が示唆された。実臨床では注意深い画像経過の観察が必要であると考えられる。

また、他国ではオピオイド乱用も問題となっている。米国では、1999〜2017年までにオピオイド過剰使用による死亡者数が70万人を超えた。2017年には公衆衛生上の緊急事態(opioid crisis)が宣言され、オピオイド乱用防止対策に60億ドル(日本円で約6,500億)の予算が投じられた。本邦においても、オピオイドの使用には十分な注意が必要である。

講演のまとめ

  • デュロキセチンは変形性膝関節症の疼痛と機能改善に効果があり、国内外のガイドラインで推奨されている
  • 変形性股関節症に対するデュロキセチンの効果はエビデンスが不十分なものの、変形性膝関節症と同様に効果的な可能性がある
  • トラマドールは変形性関節症の疼痛に有効であるが、長期投与のエビデンスが乏しく有害事象の懸念もあるため、長期間の投与は避けるべきである
  • オピオイドによる過度な除痛は関節症性変化の進行に関与する可能性があり、使用に際しては注意が必要である
  • トラマドール以外の強オピオイドの変形性関節症に対する使用は、基本的に推奨されない

会員登録をすると、
記事全文が読めるページに遷移できます。

会員登録して全文を読む

医師について

新着記事