2022年01月12日掲載
医師・歯科医師限定

【学会レポート】COVID-19後遺症と治療のトピックス――治療薬の選択とそのエビデンス(4800字)

2022年01月12日掲載
医師・歯科医師限定

大阪大学大学院医学系研究科 感染制御医学講座 教授

忽那 賢志先生

COVID-19患者の増加に伴い問題となるのが後遺症だ。全国の自治体で後遺症相談窓口の設置などが進んでいるが、現段階で有効な治療法は見つかっていない。一方でCOVID-19自体の治療法においては、目覚ましい発展がみられている。

忽那 賢志氏(大阪大学大学院医学系研究科 感染制御医学講座 教授)は、第68回日本ウイルス学会学術集会(2021年11月16~18日)にて行われたシンポジウムの中で「COVID-19の臨床―治療法の進歩と後遺症」という演題で講演を行った。

COVID-19の後遺症

COVID-19の後遺症は、海外でLONG COVIDと呼ばれており、日本でも「遷延症状」と呼称を改めるよう提唱され始めている。後遺症の病態については明らかになっていないことも多いが、流行初期にNIHR(National Institute for Health Research)はLONG COVIDの症状として以下の4つを提唱した。

・肺や心臓の恒久的な臓器障害

・集中治療後症候群(PICS)

・ウイルス感染後疲労症候群(post viral fatigue syndrome)

・COVID-19症状の持続

一般的にもっとも高頻度にみられる後遺症は倦怠感と呼吸器症状だが、若年者では嗅覚・味覚障害が多いという。なお、脱毛や精神神経症状に関しては少し遅れて発現する傾向にあり、ウイルス感染後疲労症候群の症状ではないかと考えられている。

慶應義塾大学が発表したデータによると、診断から半年経過しても倦怠感は約20%、息苦しさ・睡眠障害・集中力低下・脱毛の症状は約10%の患者にみられることが分かっている。


忽那氏より提供

次に忽那氏は後遺症の持続期間について、1年間の追跡調査を行った武漢市のデータを用いて解説した。1,276名のCOVID-19患者のうち、1年後に少なくとも1つ以上の後遺症がみられた割合は49%と、約2人に1人が発症から1年経過しても症状が残っていたことになる。ただし、3分の2以上は酸素投与を必要とした患者であり、忽那氏は「重症度の高い症例では、後遺症が長くみられる傾向にあるのだろう」と分析する。

続いて忽那氏は、COVID-19回復者を対象に国立国際医療研究センターで行った後遺症アンケートの調査結果を提示した。発症から1年後の症状は、倦怠感が3.1%、息切れが1.5%、嗅覚障害・咳が1.1%、味覚障害が0.4%であり、こうした急性期にみられる症状が継続する頻度は少ないことが分かった。一方で、発症から少し遅れて発現する集中力・記憶力の低下、抑うつといった症状は、1年経過後も約3~5%の患者で継続しており、長引きやすいことが示唆された。

COVID-19発症から1年後に少なくとも1つの後遺症症状がみられた患者の割合は、先程提示した武漢市の49%に対して、本調査では8.8%であった。これは、アンケートに回答した457名のうち、約85%の患者が軽症または無症状だったことが理由だと考えられる。やはり重症度の違いによって、後遺症が継続する割合も変化するといえる。

また本アンケート結果の分析から、以下のような患者で後遺症が残りやすい傾向にあることが示唆された。

・女性である

・急性期に肺炎症状があった

・急性期に重症傾向であった

一般的に男性のほうが急性期に重症化しやすいといわれているが、後遺症に関しては女性のほうがみられやすいようだと忽那氏は述べた。

COVID-19後遺症に関する最近のトピックス

ワクチン接種と後遺症の関連

COVID-19後遺症に関する最近の話題として、忽那氏はワクチン接種効果に関するデータを紹介した。英国からの報告によると、ワクチン未接種者と比べてワクチン接種者では後遺症の頻度が少ないことが明らかになっている。これはワクチン接種が重症化予防につながることと関連があるのではないかという。

それでは、後遺症が出てからワクチンを接種した場合の効果はどうだろう。COVID-19で後遺症が確認され、ワクチン接種を行った患者900名に対する海外のアンケート結果によると、56.7%が症状改善、18.7%が悪化、24.6%が変化なしと回答している。しかしながら、症状改善が時間経過によるものなのか、ワクチン接種によるものなのかは不明である。

また、3週間以上症状が持続していたCOVID-19患者で、ワクチン接種者と未接種者(各455名ずつ)を比較したデータを見ると、ワクチン接種群のほうが症状の改善傾向が高かったと報告されている。このように、後遺症にワクチン接種が有効であるとする報告が続けて発表されているものの、その科学的根拠はいまだ解明できていないという。

中枢神経や生殖機能への影響――海外からの報告

海外からは後遺症に関する興味深いデータがいくつか報告されている。

COVID-19患者とそのほかの呼吸器感染症患者(それぞれ約23万人ずつ)を半年間追跡した研究では、COVID-19患者では中枢神経合併症の発症率が高いことが分かっている。

実臨床でも凝固異常の長期継続例が多数報告されており、忽那氏も長期にわたってDダイマーが正常化しない患者をフォローしているという。


上段左から脳出血、脳梗塞、神経障害

下段左から神経筋接合部障害、認知症、抑うつ・不安・精神障害

(赤:COVID-19、青:COVID-19以外の呼吸器感染症)

M Taquet et al.Lancet Psychiatry 2021;8:416-27より引用

COVID-19患者と健常者の精子量を2か月間追跡すると、COVID-19患者のほうが少なかったというデータも出ている。精子は通常2か月周期で作られるといわれているが、それ以上の期間で精子量の減少がみられたという報告もあるため、COVID-19が男性不妊の原因になるのであれば大きな問題だろうと述べた。

COVID-19の病態と治療法

次に忽那氏はCOIVD-19の治療法に話題を移し、はじめにCOVID-19の病態と治療の考え方に関する図を提示した。

 

忽那氏より提供

出典:Siddiqi HK,Mehra MR.J Heart Lung Transplant.2020 May;39(5):405-407

COVID-19は、発症から1週間ほど経過してから悪化していく傾向がある。軽症の時期には「ウイルス増殖」が起きており、その後は「過剰な免疫反応」が症状悪化を引き起こすといわれている。そのため、軽症の段階では中和抗体薬(モノクローナル抗体)や抗ウイルス薬の迅速な投与が重要であり、悪化がみられたら抗炎症薬を用いて免疫反応を抑制することが有効だ。なお重症度や発症時期によっては、2つを組み合わせることもある。

軽症から中等症(酸素投与なし)までは、モノクローナル抗体であるソトロビマブやカシリビマブ/イムデビマブが適応となる。抗ウイルス薬であるレムデシビルは、理論上軽症時期に有効であると考えられるが、現在国内では中等症以上での適応とされている。

酸素投与が必要になると抗炎症薬であるデキサメタゾンが有効で、酸素投与量の増加や人工呼吸器管理、ICU入室など悪化する病態では、バリシチニブを追加使用する。

このように時期や重症度によって使用する治療薬は基本的には決まっている。忽那氏が以前所属していた国立国際医療研究センター病院ではフローチャート(同センター 新型コロナウイルス 特設ページにて公開中)を作成し、酸素投与や人工呼吸器管理を開始する条件などを共有していたという。

COVID-19治療薬のエビデンス

抗ウイルス薬――レムデシビル、モルヌピラビル

レムデシビルは、COVID-19の治療薬として国内で一番初めに承認された抗ウイルス薬だ。1,000名を超えるCOVID-19患者を対象としたプラセボとの比較試験で、その有効性が認められている。ただし、すでに人工呼吸器管理やECMOを導入した重症患者おいては、プラセボと比較しても有効性がみられていない点には注意が必要だ。レムデシビルに関するほかの研究においても同様の結果が示されていることからも、抗ウイルス薬は重症化前の投与が重要だといえるだろう。

それでは、ウイルスの増殖がほとんどみられなくなった重症例に対し、抗ウイルス薬の投与は必要なくなるのだろうか。この点については臨床医によって意見が分かれるが、デキサメタゾンよりも先もしくは同時にレムデシビルを投与開始した症例では、デキサメタゾンより後の投与開始、または未投与の症例よりも症状改善が早く、院内死亡が少なかったとする後ろ向き研究の報告も出ているという。

さらに、軽症例や入院前の外来患者を対象にレムデシビルを3日間点滴投与することで、重症化を防いだという報告も出ているものの、現実的に外来患者へ毎日継続して点滴治療を行うことは難しい。

そこで期待されるのが、年内承認が検討されている経口抗ウイルス薬のモルヌピラビルだ*。モルヌピラビルは抗インフルエンザ薬として発売された薬剤だが、COVID-19においても、入院または死亡のリスクを約30%減少させている。特に死亡に関しては、プラセボ群の9例に対しモルヌピラビル群では1例であった。発症5日以内の投与で、非常に高い効果が期待できる薬剤だ。

*2021年12月24日、モルヌピラビルはCOVID-19の治療薬として厚生労働省により特例承認された

モノクローナル抗体――バムラニビマブ、カシリビマブ/イムデビマブ、ソトロビマブ

モノクローナル抗体は、スパイクタンパクに結合することで、ウイルスの侵入を防ぐ。モノクローナル抗体であるバムラニビマブ(日本未承認品)の臨床試験では、発症から投与まで中央値4日という早期のタイミングで投与したところ、重症化が予防され、ウイルス量の減少が確認されたという。ただし、入院患者に関してはプラセボ群との比較で有意差がついておらず、ウイルスの増殖が起きていない重症期の患者には効果が期待できないようだ。これはモノクローナル抗体に共通する注意点といえるだろう。なお、本薬剤は変異株への効果が認められず、緊急承認が取り下げられている。

現在日本で承認されているカシリビマブとイムデビマブの抗体カクテル療法は、発症後中央値3日で投与したところ、プラセボ群と比較して、入院または死亡を約70%減少させたというデータが出ている。同じく日本国内承認を受けているソトロビマブも、入院または死亡を約85%減少させたと報告されている。抗体カクテル療法は、曝露後予防という方法でも使用できるが、ソトロミマブに関してはまだ適応が通っていない。またモノクローナル抗体の注意点として、重症化リスク因子(55歳以上、基礎疾患など)がある患者にのみ使用が認められていることについても言及した。

その他の治療薬――デキサメタゾン、トシリズマブ

ステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンは、レムデシビルの発売後、RECOVERY試験の結果を受けて承認された。酸素投与や人工呼吸器管理が必要な症例において死亡率が大幅に低下したとの結果を受け、現在は標準治療となっている。また同試験においては、ステロイド薬とトシリズマブ併用療法の有効性も報告されている。忽那氏は、デキサメタゾンをベースとして、トシリズマブやバリシチニブを上乗せする方法が今後の標準治療になるだろうと語った。

講演のまとめ

最後に忽那氏は、本講演のポイントを以下のとおりまとめ、締めくくった。

・COVID-19後遺症の病態は未解明であり、有効な治療法は見つかっていない

・ワクチン接種により、後遺症頻度の減少が期待できる

・発症早期には抗ウイルス薬・中和抗体薬(モノクローナル抗体)投与、中等症以降では抗炎症薬投与が有効と考えられる

・経口抗ウイルス薬が登場すれば、治療へのアクセスが大幅に向上すると期待できる

会員登録をすると、
記事全文が読めるページに遷移できます。

会員登録して全文を読む

医師について

新着記事