2022年07月29日掲載
医師・歯科医師限定

【インタビュー】高齢糖尿病患者の食事療法、虚弱・筋肉量減少予防優先を――難しいエビデンスづくり(1200字)

2022年07月29日掲載
医師・歯科医師限定

国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長/日本糖尿病学会理事長

植木 浩二郎先生

2019年の糖尿病診療ガイドライン改訂以前は、多くの場合肥満の是正を中心としたエネルギー制限を基にした食事療法が行われてきた。ところが、日本の糖尿病患者の7割は65歳以上、3割以上は後期高齢者だ。その人たちが痩せることによってサルコペニアやフレイルという別の問題が生じ、それは糖尿病以上に問題だ。したがって、高齢の糖尿病患者には十分なエネルギー摂取をしてもらい、サルコペニアやフレイルを予防するという考え方に変わってきている。

加えて、高齢者のサルコペニア・フレイル予防には筋肉を増やす、維持することが必要なので、タンパク質を十分に取る必要がある。一方で、糖尿病性腎臓病など腎機能に問題がある人もいる。腎症の予防や進展予防にはタンパク質の摂取を制限したほうがいいという考え方がある一方、タンパク質の制限で腎症の予防ができるというエビデンスはないとの主張もある。エビデンスがない理由は、薬と違ってRCTができないため何が本当にいいのかが科学的に立証できないためだ。また、個人の食事には「嗜好」があることも無視できない。

そのようなわけで、現段階でできることは、中年期で肥満がある患者にはエネルギー制限をする。それ以外の太っていないような患者はエネルギー量を十分確保したうえで糖質過多を是正するという戦略であろう。では両者をどこで線引きし、ギアチェンジをするのか。それを一律に決めるのは困難で、個別化するしかないのが現状だ。

食事療法についてはエビデンスづくりが非常に難しい。先に述べたように、RCTができないことに加え、交絡因子がありすぎて、単に嗜好をみるだけということにもなりかねない。

糖尿病の食事療法といってもさまざまなものがある。地中海食はオリーブオイルを毎日150mL取るなど日本人にはかなり難しい。また、糖質制限とカロリー制限のどちらがいいのか比較することは不毛な議論だ。痩せている人にカロリー制限をすべきではない。太っている人が体重を減らすためには糖質制限が有効だ。ただ、糖質制限は長続きするかという問題がある。

このように、食事療法を継続的に行うのはなかなかに難しい。私は患者に、食事はしっかり取ってほしい、その代わり間食をしないようにといっている。糖質制限をしているが間食もするという患者がいるが本末転倒だ。食べるという楽しみを奪ってはいけないが、なんらかのトレードオフは必要だ。

食事療法に関して、間歇スキャン式持続血糖測定器(isCGM:Intermittently Scanned Continuous Glucose Monitoring)のようなものが、常時ではなくとも年に数回、保険で使えるようになると、食事と血糖値の関係が可視化できて将来の重症化予防に役立つ可能性はある。患者数が多いので予算的に難しい面はあるだろうが、研究はしないといけないと思っている。

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