2021年10月07日掲載
医師・歯科医師限定

【第120回皮膚科学会レポート】新しい皮膚そう痒症ガイドラインの概要(3900字)

2021年10月07日掲載
医師・歯科医師限定

防衛医科大学校 皮膚科学講座 教授

佐藤 貴浩先生

日本皮膚科学会は2012年に「汎発性皮膚瘙痒症診療ガイドライン」を作成したが、その定義や分類が必ずしも実地診療に即したものであるとはいえない点も多かった。また、近年新たに試みられている治療や海外の動向なども踏まえ、2020年に診療ガイドラインの改訂に至った。このガイドラインは現在の日本における皮膚そう痒症の診断・治療指針を示すものだといえる。

防衛医科大学校 皮膚科学講座教授の佐藤 貴浩氏は、第120回日本皮膚科学会総会(2021年6月10~13日)で行った教育講演のなかで、改訂された「皮膚瘙痒症診療ガイドライン 2020」の概要を中心に、臨床でどのように活用しているのか実例も織り交ぜながら解説した。

改訂前後における皮膚そう痒症の定義・分類の違いと注意点

従来のガイドラインでは、皮膚そう痒症の概念を「皮膚病変が認められないにもかかわらず瘙痒を生じる疾患」と定義しており、補足として搔破によって二次的に搔破痕や色素沈着が生じることがあるとも記されている。また、分類は以下のとおりとされていた。

1.汎発性皮膚瘙痒症(Pruritus cutaneus universalis)

 ほぼ全身に痒みを生じるもの

2.限局性皮膚瘙痒症(Pruritus cutaneus localis)

 体表面の限られた部位に痒みを生じるもの

日本皮膚科学会雑誌122: 267-280,2012より引用


しかし佐藤氏によると、海外においてはPruritus cutaneus universalisという病名は通用しなくなりつつあるという。また、「ほぼ全身に痒みを生じる」という表現についても非常に明快ではあるものの、実際にはいつも全身に痒みを生じているのかという疑問もあると述べた。

こうした背景から、新たなガイドラインでは定義は同様のまま分類の変更が行われた。新ガイドラインでの分類を以下に示す。


汎発性皮膚瘙痒症 Generalized pruritus(without skin inflammation)

 広い範囲または体表面の特定の部位に限局せずに痒みを生じるもの

  特発性皮膚瘙痒症(Idiopathic pruritus)

  加齢性皮膚瘙痒症(Pruritus in the elderly)

  症候性皮膚瘙痒症(Symptomatic pruritus)

  妊娠性皮膚瘙痒症(Pregnancy-associated pruritus)

  薬剤性皮膚瘙痒症(Drug-induced pruritus)

  心因性疾患による皮膚瘙痒症(Psychogenic pruritus)

限局性皮膚瘙痒症 Localized pruritus(without skin inflammation)

 体表面の限られた部位に固定して痒みを生じるもの

  肛囲・陰部瘙痒症(Anogenital pruritus)

  頭部瘙痒症(Scalp pruritus)

  など

特殊型:Notalgia paresthetica,Brachioradial pruritus

皮膚瘙痒症診療ガイドライン 2020より引用


続けて佐藤氏は、海外のガイドラインとの違いとについて述べた。海外では6週間以上続く皮膚そう痒症をChronic Pruritus(慢性そう痒症)と定義しているが、日本においては新ガイドラインでも期間を定義していない。

一方海外では、皮膚そう痒症における皮膚病変の有無は定義されていないという点に注意したい。

皮膚そう痒症の治療アルゴリズムと原因検索の重要性

ガイドラインでは患者が全身性のかゆみを訴えた場合、まずは原因検索を行い、原疾患がある場合にはその治療を進めていくというアルゴリズムとなっている。一方で佐藤氏は「現実的にはまずかゆみへの対症療法を行いながら、同時並行で原因検索をしているケースが多いのではないか」との見解を示した。


皮膚瘙痒症診療ガイドライン 2020より引用

臨床における皮膚そう痒症の原因検索について

ここで佐藤氏は、2つの症例を紹介した。

症例1(63歳男性)

1か月前から突然全身にかゆみが生じ、睡眠にも影響を与えるほどであった。皮膚科にて処方された内服薬では効果が現れず、内科を受診。

血液検査の結果から肝生検も実施して精査した結果、自己免疫性肝炎との診断に至る。PSL50mg/日を内服したところかゆみは急速に消失した。

症例2(17歳男性)

1か月前から汎発性皮膚そう痒症が出現。皮膚には目立った所見はなかったが、同時期より下痢や発熱もみられるようになった。

血液検査のほか内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査、肝生検、下部消化管内視鏡検査を実施し、結果的に原発性硬化性胆管炎と潰瘍性大腸炎の合併が判明。

佐藤氏はこうした症例から、発症経過や訴える痒みの性状・強さなどにおいて異例な印象をもった場合には初診時から積極的に原因疾患検索のためのスクリーニングを心がけたほうがよいであろうと述べた。

皮膚そう痒症と悪性腫瘍の関連性

皮膚そう痒症と悪性腫瘍に関連性があることはよく知られている。13,000人の皮膚そう痒症患者を対象に調査したところ、1.63%の患者で1年以内に悪性腫瘍が見つかったといい、特に初めの3か月のフォローアップ中に見出されることが多いという結果も出ている。

このうち標準化罹患比(SIR)の高い腫瘍は以下のとおりである。

  • 悪性リンパ腫(特にホジキンリンパ腫)
  • 舌がん
  • 肝がん(男性)
  • 外陰がん(女性)
  • 乳がん(男性)
  • 胆がん、胆嚢がん(男性)

Br J Dermatol 2014:171,839より

皮膚そう痒症患者の診療をするなかで、この1.63%という数字をどのように捉えるかは医師次第ではあるが、特に初めの3か月間は悪性腫瘍が潜む可能性も念頭においてフォローしてもよいのではないか、と佐藤氏は言う。

かゆみと基礎疾患の相関性

ある疾患に罹患した患者のなかで、どの程度の割合にかゆみが生じているのかについて過去の報告を調べたところ、以下のような結果となった。

  • 透析患者:60~90%
  • 原発性胆汁性胆管炎:69%
  • C型慢性肝炎:2.5~25%
  • ホジキンリンパ腫:30%
  • 真性多血症:25~50%
  • HIV感染症:13%
  • 甲状腺機能亢進症:4~11%

佐藤氏講演資料より

佐藤氏は「原発性胆汁性胆管炎では、このうち4分の3の症例でかゆみが先行しているため、若い女性・中年の女性が特に手足にかゆみを訴えた場合、採血するのが望ましい」との見解を示した。

かゆみを誘発する薬剤

汎発性皮膚そう痒症のなかに薬剤性皮膚そう痒症という分類があることからも分かるとおり、かゆみを誘発する薬剤は多数存在する。モルヒネやベンゾジアゼピン系、クロロキン、フロセミド、カプトリル、プロゲステロンなどがその一例だ。新ガイドラインでもかゆみを誘発する薬剤として30以上が挙げられているが、欧州のガイドラインにおいては日本よりもさらに多くの薬剤が挙げられているという。

いずれかの薬剤を内服している患者は特に高齢者では珍しくないが、原因薬剤を同定できる検査は存在しない。そのため実際に薬剤の使用を中止してかゆみの変化を観察するしかないが、皮膚科医単独の判断で「疑わしい薬の服用を止めましょう」というわけにはいかず、非常に難しい問題となっている。佐藤氏はこれについて、薬疹の情報については集まる一方で薬剤によるかゆみの情報は集まりにくい現状があると述べた。

新たに皮膚そう痒症ガイドラインに追加された治療法と治療例

新たに皮膚そう痒症ガイドラインに追加された治療法は以下のとおりである。

  • ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(注射/内服)
  • ガバペンチン
  • プレガバリン
  • タンドスピロン
  • SSRI、NaSSA、SNRI

※ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液の注射剤を除き保険適用外

透析に伴う皮膚そう痒症の治療例(ガバペンチン・プレガバリン)

一般的な透析に伴う皮膚そう痒症の治療としては以下が挙げられる。

  • 抗ヒスタミン薬内服
  • ナルフラフィン塩酸塩内服
  • スキンケア 保湿薬外用の指導強化
  • カプサイシン軟膏
  • 紫外線療法

通常、透析に伴う皮膚そう痒症の治療では抗ヒスタミン薬の内服からスタートする。その後、ガイドライン上ではナルフラフィン塩酸塩内服となる。

それでも効果が得られない場合には、抗ヒスタミン薬の変更か増量を検討するが、透析時に内服できる抗ヒスタミン薬は限られており、選択肢が少ない。また、効果が不十分の際に増量することもできない。

抗ヒスタミン薬内服に加えて、患者に対しては保湿剤の外用とスキンケアの指導を行う。また、カプサイシン軟膏の処方や紫外線療法などは有効ではあるものの、カプサイシン軟膏を置いている施設や全身に対して紫外線療法を実施できる施設は限られるだろうと佐藤氏は言う。

そこで注目したいのが、新たにガイドラインに追加されたガバペンチン、プレガバリンを用いた治療である。欧州のガイドラインにおいては、少量のガバペンチンを毎回透析後に服用(週に3日)すると記載されている。また、ガバペンチンの忍容性が悪い場合にはプレガバリンでもよいとされ、プレガバリンは神経障害性のそう痒にも有用である。

心因性疾患に伴う皮膚そう痒症の治療例(SSRI、NaSSA)

抗うつ薬であるSSRIやNaSSAは基本的に心因性疾患による皮膚そう痒症に用いられる。一方で、悪性腫瘍によるかゆみや真性赤血球増加症、骨髄異形成症候群(MDS)による皮膚そう痒症に対しても効果があることが分かっている。

佐藤氏は「皮膚科医が治療に抗うつ薬を用いる場合には、精神科の先生方に使い方のコツや注意点を十分に教わりながら追加投与するのがよいのではないか」との見解を示した。

胆汁うっ滞性に伴う皮膚そう痒症の治療例(SSRI)

SSRIは、胆汁うっ滞性の皮膚そう痒症に対しても症状改善効果が期待できる。実際の処方においては、まずコレスチラミンやウルソデオキシコール酸を使い、効果がみられなければリファンピシンを処方する。それでも改善されない場合にはナルフラフィンを用い、最終的な手段としてSSRIが選択される。しかし、佐藤氏によると、近年ではSSRIをファーストラインで使用してもよいとするデータも出てきているという。

SNRIを用いたかゆみの治療

ここで佐藤氏は、痒疹やいわゆる蕁麻疹様紅斑などによるかゆみの治療についても言及した。佐藤氏の経験では、抗ヒスタミン薬内服やNarrowband UVB療法、ステロイド外用、マキサカルシトールの外用、レセルピン内服療法、ガバペンチンの内服などを試したにもかかわらずいずれも効果がみられなかった症例でデュロキセチンを20mg/日服用したところ、症状が改善した例があったという。

SNRIの作用機序はノルアドレナリンがかゆみの上行経路を抑えるものであり、これはSSRIにはない作用経路であるため、SSRIで効果がみられなかった場合にも症状改善が期待できる。

講演のまとめ

  • 新ガイドラインにおいては皮膚そう痒症の定義に変更はないものの、分類が変更となった。
  • ガイドライン上は全身性のかゆみに対してまず原因検索を行い、原疾患がある場合にはその治療を進めていくというアルゴリズムになっているが、現実的にはかゆみへの対症療法を行いながら、同時並行で原因検索をしているケースが多いと思われる。
  • ただし、発症経過や訴える痒みの性状・強さなどにおいて異例な印象をもった場合には初診時から積極的に原因疾患検索のためのスクリーニングを心がけたほうがよい。
  • 原発性胆汁性胆管炎では69%の患者にかゆみが生じており、そのうち4分の3の症例でかゆみが先行しているため、若い女性・中年の女性が特に手足にかゆみを訴えた場合には注意する。
  • 皮膚そう痒症ガイドラインにはワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(注射/内服)、ガバペンチン、プレガバリン、タンドスピロン、SSRI、NaSSA、SNRIを用いた治療法が新たに追加された。

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