2021年10月25日掲載

【症例紹介】深部静脈血栓・門脈血栓・Trousseau症候群を併発した膵体尾部がんの一例

2021年10月25日掲載

札幌医科大学医学部 消化器内科学講座 助教

石上 敬介先生

症例

現病歴

4か月前から腰痛を自覚していたが経過を見ていた。3週間前から下腿浮腫が増強したため近医を受診したところ、下肢静脈エコーで深部静脈血栓症を指摘される。造影CTで膵体尾部の乏血性腫瘍および多発肝腫瘤、門脈本幹から上腸間膜静脈にかけて血栓形成を認めた。精査目的に当科入院予定となり待機中、右腕のしびれと脱力を自覚し、緊急入院となった。

その他の臨床情報

既往歴:2型糖尿病

生活歴:飲酒なし、喫煙なし

検査結果

血液検査

白血球:11,800/μL

Hb:11.9g/dL

血小板:6.5万/μL

AST:223U/L

ALT:234U/L

LDH:1,291U/L

ALP:584U/L

CEA:23.6ng/mL

CA19-9:186,006.0U/mL

PT:51.5%

D-ダイマー:26.1μg/mL

カンファレンスにて

レジデント:膵腫瘍は不整な乏血性腫瘍で、 CA19-9の著明な上昇と多発肝腫瘤を認めます。検査結果を踏まえ、本症例は多発肝転移を有する切除不能膵がん症例と考えます。PT延長や血小板の低下もみられ、がんを背景としたDICの併存が考えられます。

上級医:右腕のしびれと脱力についてはどのように考えますか?

レジデント:頭部MRIで左中心前回近傍に梗塞巣を認め、症状の原因と考えました。不整脈の既往はありませんし、進行膵がんの症例なので、血液凝固能の亢進を背景とするTrousseau症候群と考えます。

上級医:そのとおりです。本症例では深部静脈血栓症と門脈血栓症も認めています。膵がんはほかのがん腫と比較しても血栓性合併症のリスクが高いことは知っておかなければいけません。では今後の治療方針はどうしましょうか?

レジデント:原因疾患に対する治療が必要なので、化学療法の導入が必要と考えます。ただ、梗塞症状のほかに肝機能障害がみられます。肝転移もありますが、広範囲の門脈血栓症も肝機能障害の原因となり得るため、まずは抗凝固療法を継続して、肝機能の改善を図るのがよいと考えます。

上級医:そうですね。抗凝固療法として、従来からヘパリン投与が有効とされています。最近がん患者さんの血栓症でもリバーロキサバンやエドキサバンなどのDOAC(Direct oral anticoagulant:直接作用型経口抗凝固薬)の有用性が示されましたが、出血リスクが高いので注意が必要です。

レジデント:そうなのですね。出血リスクの評価と並行して抗凝固療法を行い、化学療法導入のタイミングを探っていきます。 

経過

本症例ではまずヘパリン持続投与を行い、Trousseau症候群に伴う右上肢の脱力は改善傾向となった。また門脈血栓の縮小に伴い、肝機能障害の改善が得られたため、本人、ご家族と相談のうえでゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法を開始した。治療開始当初、腫瘍随伴性DICの増悪がみられたが、Day8頃から改善傾向に転じ、その後は門脈血栓・深部静脈血栓とも更なる縮小が得られた。現在、血栓症に対してDOACを継続しつつ、外来で化学療法を継続中である。

本症例のポイント

がんに伴う血液凝固能の亢進により発生する脳梗塞はTrousseau症候群と呼ばれ、その多くは非細菌性血栓性心内膜炎による心原性脳塞栓症と考えられている。固形がんが原因となることが多く、脳梗塞は皮質に多発する梗塞が特徴的で、再発が多く予後不良である。がん患者に発生する血栓症の原因となる頻度が高い原発臓器として肺がん、膵がん、大腸がんなどが知られている。

特に膵がんを対象としたメタ解析では、血栓症リスクが6.1倍に上昇することが報告されており、これはほかのさまざまながん腫の中でも、もっとも高い部類に入る。この背景として、腫瘍細胞からのムチン産生や、組織因子の産生亢進などが関与すると考えられている。治療としてはヘパリン投与がもっとも有効であり、ワーファリン投与の効果は不十分と考えられている。最近のメタ解析でDOACの有効性が示され治療オプションに加わったが、ヘパリン投与と比較して出血リスクが高いことに留意して治療を行う必要がある。

参考・関連文献

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