2022年10月14日掲載
医師・歯科医師限定

【第109回日本泌尿器科学会レポート】腎移植後の前立腺がんや尿路上皮がんの発症とその治療(2300字)

2022年10月14日掲載
医師・歯科医師限定

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 泌尿器病態学 准教授

荒木 元朗先生

腎移植の長期成績が向上し、通常とほぼ変わらない生活を送る患者が増えている。その一方で、免疫抑制療法の副作用により、移植後の発がん率の増加が懸念されている。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 泌尿器病態学 准教授の荒木 元朗氏は第109回日本泌尿器科学会総会(2021年12月7~10日・パシフィコ横浜)において「腎移植後の前立腺癌・尿路上皮癌」と題し、腎移植後のがん発症率に関する実態や治療について講演を行った。

腎移植後のがん発症率

腎移植の長期成績が向上するとともに、免疫抑制療法の副作用により移植後の発がん率が高くなっているといわれている。しかし2011年のJAMAの報告によると、腎移植後の前立腺がんのリスクは、SIR(標準化罹患比)が0.92と通常より低い。もう1つの指標であるEAR(過剰絶対リスク)についても-11.3と、罹患率が通常より11.3%低いことを示している。

2007年のLancetを基に作成された2009年のKDIGOガイドライン(急性腎障害のためのKDIGO診療ガイドライン)でも、腎移植後患者の前立腺がん発症リスクは上がらないことが示されている。一方、膀胱がんの発症リスクはやや高い。

腎移植後前立腺がんに関するシステマティックレビュー

腎移植後前立腺がん(限局性)に関する2018年のシステマティックレビューでは、限局性であれば82%に手術が行われていることが示されている。手術を実施した患者のうち半分以上は開腹手術だった。また、4分の3の患者がステージpT2であり、同じく4分の3で悪性度を示すグリソンスコアが3+3または3+4だった。手術をしなかった約2割については、12%が放射線療法、6%がブラキセラピー(小線源療法)を実施している。 予後については、高度医療施設での医療を受けていれば、腫瘍学的転帰は一般的な患者と同等であると結論付けられている。

早期合併症は、手術群で13%、ブラキセラピーで40%、外照射療法で0%の割合で認められたが、8割はJCOG術後合併症規準(Clavien-Dindo分類)のIまたはIIにあたる軽微なものだった。晩期合併症としては、尿管狭窄が1.3%にみられている。うち2例が手術群、2例が放射線療法群であり、放射線療法群では尿管狭窄に注意が必要といえるだろう。Graft loss(移植腎機能喪失)は1例のみであった。リンパ節郭清をしていない手術群で発症し、DVT(深部静脈血栓症)後にGraft lossとなった。

対象患者を限局性前立腺がんに限定していないシステマティックレビューでも、患者の予後は生化学的再発(BCR)、がん特異的生存率(CSS)、全生存期間(OS)の全てにおいて、腎移植を受けていない患者と同等であった。

腎移植後前立腺がんに関する日本のデータ

東京女子医科大学病院の飯塚 淳平先生から提供いただいたデータを供覧する。同院では限局性でないものも含め28例の移植後前立腺がんを経験している。患者の中央値はPSAが12、診断時年齢が64歳だ。また移植からの期間の中央値が約140か月と、移植から10年以上経過してがんが発見されていることが分かる。症例数は年々増加傾向だ。

移植後前立腺がんは散発がんよりも若年で診断される傾向が高く、8割がPSA検査による発見だ。ただし、移植後の患者は病院へ来る頻度が高いというバイアスは考慮すべきだろう。また有意差は示されていないものの、移植後前立腺がんでは診断時のPSAが10以上である割合が高い。グリソンスコアのグレードも3~5と高い傾向がある。転移症例は散発がんで3%、移植後で10%と、移植後患者のほうが有意差をもって高い。

移植後前立腺がんは限局性であれば手術を選択する例が43%であり、以前に比べて増加傾向だ。移植後患者の場合、尿管の走行部位が分かりにくいという特徴がある。手術時はポートを少しグラフトから対側に寄せて、大回りするように実施するとよい(下図参照)。

荒木氏講演資料(提供:東京女子医科大学病院 飯塚 淳平氏)

腎移植後尿路上皮がんに関する各国のデータ

2011年のJAMAの報告によると、腎移植後尿路上皮がんの罹患率はSIR1.5で一般人口よりもやや高い。2007年のLancetの報告でもEAR9.9とやや高いことが示されている。

尿路上皮がんはシクロホスファミドの使用、鎮痛剤腎症、アリストロキア酸含有の漢方薬による腎症への長期曝露歴のある患者で発症リスクが増加する。たとえば2018年の報告によると、BKウイルス腎症に罹患した患者の尿路上皮がん発症リスクは、腎症に罹患していない患者の2.2倍とされており、多少注意が必要である。

腎移植後尿路上皮がんの治療は一般的な患者の治療に準ずる。ただし腎機能低下や、全摘手術を実施する際の移植腎尿管の損傷には注意が必要だ。

中国から腎移植患者の尿路上皮がんに関する報告が上がっている。発表施設における9例と他施設における5例を合計した14例の尿路上皮がん患者を解析している。本報告によると、腎移植患者における膀胱がんおよび上部尿路上皮がんの年齢標準化率(ASRs)は、一般集団と比較してそれぞれ25.5倍と129.5倍とされている。この数字をいかに解釈するかは注意が必要だが、通常と比べて高いことは確実だろう。また上部尿路がん治療後の予後については、再発率、無増悪生存期間(PFS)、がん特異的生存率ともに非移植患者と比較して有意差はない。

講演のまとめ

  • 腎移植後患者の前立腺がんの罹患率は、非移植患者よりも低い
  • 移植後であっても、限局性の腎移植後前立腺がんについては手術が第一選択。その際、移植尿管に注意し対側から剥離する
  • 腎移植後患者の前立腺がんは若年者に多く、PSA値や悪性度が高く、転移も多いためやや注意が必要である
  • 腎移植後の尿路上皮がんの罹患率はやや高いが、非移植患者と比較して有意差は認めていない

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