2022年11月28日掲載
医師・歯科医師限定

【第109回日本泌尿器科学会レポート】前立腺がんの予後予測因子――予後不良群への治療選択は?(3200字)

2022年11月28日掲載
医師・歯科医師限定

名古屋大学大学院医学系研究科 泌尿器科学教室 准教授

加藤 真史先生

前立腺がんでは、標準治療に対して抵抗性を示す患者が一定数いるのが現状だ。しかし、標準治療が奏効するか否かの予後予測や、予後予測に基づいた治療選択の基準となる因子は明確になっていない。治療成績を向上させるために、我々が臨床現場で活用できる予後予測因子はあるのだろうか。名古屋大学大学院医学系研究科 泌尿器科学教室准教授の加藤 真史氏は、第109回日本泌尿器科学会総会(2021年12月7〜10日)で行われたシンポジウムの中で、世界の研究結果をもとに前立腺がんの予後予測と治療選択について解説した。

mHSPCの治療選択や予後予測に関する日本人データ

日本人の転移性ホルモン感受性前立腺がん(以下、mHSPC)における治療データは、複数報告されている。京都大学の赤松 秀輔氏が報告したデータと、九州大学の塩田 真己氏が中心となってレトロ解析を行ったJUOGのデータを紹介する。

2組の研究は、対象となるmHSPC患者を3段階にリスク分類して解析が行われた。赤松氏はLow-risk、Intermediate-risk、High-risk、JUOGはFavorable-risk、Intermediate-risk、Poor-riskとしている。リスク分類の基準としては、赤松氏はLDHおよびGleason Pattern、EOD/肝転移を用いた。一方JUOGは、貧血およびGleason Pattern、EOD/肝転移を基準として分類している。いずれの報告もUpfront治療の議論が始まる前のデータであり、各リスク群に対する有用な治療選択については不明なままである。

また、mHSPC患者の進行予測についてAIで解析した弘前大学の研究でも、AUC=0.664と結果に弱い相関を認めるのみであり臨床データに基づく患者の予後予測は難しいのが現状だ。

前立腺がんの予後予測因子――Low-PSAかつHigh-gradeは予後不良に

予後予測に関して有用なデータがない中、着目したのが2018年に発表されたNational Cancer DatabaseおよびSEER Databaseから約63万例のデータを用いて行われた解析結果だ。本解析では、cT1-4N0M0の前立腺がん患者群を抽出し、がん特異的生存率を算出している。

Gleason Scoreが7以下のLow-grade患者群ではPSAの上昇とともに予後が悪化するのに対し、Gleason Scoreが8〜10のHigh-grade患者群はPSAが低い段階と20以上の段階の2つの群で予後が悪化する。全体を見ると、Low-PSAかつHigh-gradeの患者群はNCCN分類のHigh-risk・very High-risk群と比較して、がん死による死亡率は約2倍であると報告された。

PSAと前立腺がん特異的死亡(PSCM)の関係性(A)Gleason Score 8-10(B)Gleason Score7以下
(C)PSAおよびリスク別のPCSM:GS=Gleason Score、HR/VHR=High-risk/very High-risk、IR=Intermediate-risk、LR/VLR=Low-risk/very Low-risk
Mahal BA, et al. Eur Urol 2018;8:74(2):146-154より引用

さらに、Decipher Genomic Resource Information Databaseから4,960例の遺伝子データを用いて解析した結果、Low-PSAかつHigh-grade群では、神経内分泌前立腺がん(以下、NEPC)マーカーが高発現していることが明らかとなった。なお、Gleason Scoreが7以下のLow-grade群においては、PSAによるNE/SCの発現に有意差はみられていない。

Low-PSAかつHigh-grade群がもつ特徴として、AR活性が有意に低下していることも報告されている。AR活性が低下することでアンドロゲン除去療法に対する反応性が乏しくなり、NE/SCの高発現も相まって予後不良になると推測される。

前立腺がん患者の遺伝子学的特徴(A)(B)High-grade群におけるNE/SCおよびAR activityの発現(C)(D)Low-grade群におけるNE/SCおよびAR activityの発現
Mahal BA, et al. Eur Urol 2018;8:74(2):146-154より引用

M0症例だけでなく、M1症例についても同様の報告がある。mHSPC患者14,603例のデータを解析した論文によると、Gleason Scoreが7以下のLow-grade群においては、PSA値の上昇とともに予後は悪化することが示されている。一方Gleason-Scoreが8〜10のHigh-grade群においては、PSAが0〜4および20を超える場合に予後不良となっている。特にPSAが0〜4の群で有意に予後不良であることが示された。mHSPCにおいても、Low-PSAかつHigh-gradeの前立腺がんは予後不良になることが推測される。

前立腺がんの予後と遺伝子変異の関連

神経内分泌前立腺がん(以下、NEPC)に着目した報告では、治療経過で出現するNEPCはおよそ20%以下であり、RB1もしくはTP53に欠損または変異がみられるとされている。ただし、RB1またはTP53に変異をもつ前立腺がんが全てNEPCに分類されるわけではない。35%はAR活性があり、NEのフェノタイプを持たない通常の腺癌である。いわゆる通常の腺癌の中に、Low-PSAかつHigh-gradeの前立腺がんが含まれていると推測される。

例として転移性去勢抵抗性前立腺がん(以下、mCRPC)患者データの解析では、RB1TP53に変異がある症例の治療奏効性は非常に悪く、アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤(以下、ARSi)に対する反応性が有意に低下すると報告されている。また、2019年にEuropean Urologyに掲載された論文によると、TP53よりもRB1の2Hitがあると有意にARAT反応性が低下すると示されている。

2021年には、遺伝子の情報に加えて病理学的な情報を合わせることで、アンドロゲン遮断療法(以下、ADT)の治療奏効性を高い確率で予測できることが報告された。intermediateもしくはHigh-riskの前立腺がんにおいて、エンザルタミド+ADTによるNeoadjuvant療法後、前立腺全摘を実施した症例37例を解析している。遺伝子学的要因ではPTENおよびTP53の変異が治療抵抗性に関連することが示された。加えて病理学的要因では、核内ERG発現とIDC-P、腫瘍volumeが予後不良因子となることが示唆された。上記5つの因子をもとに、ADTの反応性予測がAUC=0.98の確率で予測可能と報告されている。ただし解析症例数が少ないため、今後追試が必要である。

病理学的予後予測因子と遺伝子変異の関連

病理学的な予後予測因子であるIDC-Pと遺伝子変異の相関に関する報告もあがっている。たとえば、IDC-Pの有無による遺伝子変異の違いについて解析した報告によると、IDC-Pが存在する群のBRCA2変異は40.5%、IDC-Pが存在しない群のBRCA2変異は10.5%と大きく異なることが示されている。PTEN lossの割合も、IDC-Pが存在する群では46.8%、IDC-Pが存在しない群では16.8%との結果だ。病理学的な因子と遺伝子変異には非常に強い相関があるといえるだろう。

予後不良群の治療選択は?

予後の悪いLow-PSAかつHigh-gradeの集団に対する治療戦略を考える。PEACE-1試験の結果によると、標準療法による治療が困難な場合、ドセタキセルやアビラテロンを追加することで予後が改善向上するとの結果が出ている。現在進行中のARASENS試験では、ADT+ドセタキセルに対してダロルタミドを上乗せする治療により生存率の改善が示され、これらがその治療選択になるかもしれない(2022年5月現在、NEJMにて結果公開済)。

予後不良な症例に対する治療選択としては、たとえばmHSPCかつLow-PSA、High-gradeのケースや、IDC-P陽性のケースにおいて、Upfront ARATで早期に治療抵抗性を示せば、早期にドセタキセルの追加を検討する方法が現実的と考えている。なお日本人患者は、ホルモン療法の奏効期間が非常に長いことが特徴であり、今、JCOGでhigh volumeに対する原発巣治療の有用性に関する研究が計画されている。

講演のまとめ

  • 転移の有無にかかわらず、Low-PSAかつHigh-gradeの前立腺がんは予後不良である
  • Low-PSAかつHigh-gradeの前立腺がん患者では、NEPCマーカーの高発現とAR活性の低下がみられる
  • PTEN、RB1、TP53の変異はmHSPCの予後不良因子となりうる
  • 病理学的な予後予測因子の1つとしてIDC-Pが挙げられる
  • Low-PSAかつHigh-gradeのまたはIDC-P陽性症例において、mHSPCに対するUpfrontARATで治療抵抗性の兆候があれば、早期にドセタキセルの追加を検討することが有用と考えられる

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