2022年09月12日掲載
医師・歯科医師限定

【第59回日本癌治療学会レポート】切除不能胃がんに対する薬物療法の新たな治療戦略(3900字)

2022年09月12日掲載
医師・歯科医師限定

国立がん研究センター東病院 消化管内科

川添 彬人先生

ゲノム医療の進歩に伴い、胃がんは細分化が可能となった。さらには免疫チェックポイント阻害剤の併用療法や分子標的薬に関しても、研究開発が進められている。川添 彬人氏(国立がん研究センター東病院 消化管内科)は、第59回日本癌治療学会学術集会(2021年10月21日~10月23日)におけるシンポジウムの中で、切除不能胃がんに対する新たな治療戦略について解説を行った。

胃がんにおける免疫チェックポイント阻害剤の効果予測バイオマーカー

2014年、The Cancer Genome Atlas(TCGA)プロジェクトで行われたゲノム解析によって、胃がんはCIN、GS、EBV、MSIという4つの分子サブタイプに分類できることが明らかとなった。このうちEBVとMSIに関しては、免疫チェックポイント阻害剤の効果がみられやすいと報告されている。

そこで我々は、胃がんステージ4患者を対象としてPD-L1/MSI/EBVの発現を確認し、それぞれバイオマーカーになり得るか否かの検討を行った。結果として腫瘍細胞上の8.4%、免疫細胞上の65.3%、CPS(combined positive score)1以上の66.2%にそれぞれPD-L1発現がみられた。MSIタイプの特徴であるミスマッチ修復異常(MMR-D)は6.2%、EBV陽性も6.2%であった。

実際PD-L1は免疫チェックポイント阻害剤のバイオマーカーとして使用されている。しかし、切除不能進行・再発胃がん/胃食道接合部がんに対するPD-1阻害剤ニボルマブ(オプジーボ)の有用性を検証した第III相試験ATTRACTION-2では、PD-L1発現と有効性との関連は否定されている。後に行われたJAVELIN Gastric 300(アベルマブ<バベンチオ>と医師選択化学療法を比較した第III相試験)でも、同様の結果が示された。

一方、進行食道胃接合部がんおよび胃がんに対するPD-1阻害剤ペムブロリズマブ(キイトルーダ)の有用性を評価した第II相試験KEYNOTE-059では、CPS1以上での全奏効率(ORR)が15.5%、1未満では6.4%であり、CPSと有効性との関連が示唆された。KEYNOTE-061試験KEYNOTE-062試験でも同様の結果が確認されていることから、CPSはペムブロリズマブの効果予測因子として有用である可能性が高い。

EBVサブタイプには、リンパ球の浸潤やPD-L1高発現といった特徴がある。2018年に発表された韓国のデータでは、EBV陽性胃がんに対するペムブロリズマブのORRが100%であったと示された。当院のデータでは、ORR33%、無増悪生存期間(PFS)3.7か月であり、さらなる症例集積が必要である。

ペムブロリズマブは、MSI-High胃がんにも有効性を示す。前治療歴を有する大腸がんを除く進行性MSI-H/dMMR固形がんに対するペムブロリズマブの有用性を評価した第II相試験KEYNOTE-158によると、胃がんにおけるORRは45.8%、PFSは11か月であった。これは後に発表された第III相試験でも同様の結果が示されており、現在日本における胃がん治療ガイドラインでも、MSI-High胃がんに対する2次治療として、ペムブロリズマブが推奨されている。しかし周術期においては、殺細胞薬の効果が減弱することが報告されている。切除不能進行胃がんの1次治療を対象とした当院のデータでは、MSI-High胃がんはほかの分子サブタイプと比べて殺細胞薬の効果が劣るという結果が示された。

MSI-High胃がんに対しては、できるだけ早期の段階でPD-1阻害剤を使用することが重要だと考えられるが、ペムブロリズマブでは投与後早期段階での腫瘍増悪も報告されている。そこでMSI-Highの消化器がんに対して網羅的にバイオマーカー解析を行ったところ、ペムブロリズマブの効果が認められない症例の特徴を発見した。1つはPTEN変異、もう1つは腫瘍遺伝子変異量(TMB)低値(全エクソーム解析で10mut/Mb未満)である。

PTEN変異例では、PTENの欠出からPI3K/AKT/mTOR pathwayが亢進し、がん免疫抑制微小環境が形成され、抗PD-1抗体に対する抵抗性の一因となっている可能性が示唆された。

また、今回我々が行った検証ではTMB低値例が4例確認されているが、うち3例は胃がん患者であった。胃がんには、腫瘍内不均一性が高いという特徴があり、何らかの影響をもたらしている可能性もあるだろう。

免疫チェックポイント阻害剤/抗VEGF抗体薬併用療法

免疫チェックポイント阻害剤には高い有効性があるものの、時に急速な腫瘍増大(HPD:Hyper progressive disease)が発生するリスクもある。HPDは、全身状態不良例や肝臓転移例、ベースライン時における腫瘍径が大きい症例で高発現する傾向にあり、原因としては制御性T細胞やFc受容体を介したマクロファージとの関連が疑われている。

そこで我々は、抗VEGF抗体薬をPD-1阻害剤に上乗せすることで、免疫抑制性細胞の制御を試みた。抗VEGF抗体薬レゴラフェニブとニボルマブ併用による有用性を確認したフェーズIB試験では、胃がんにおけるORRが44%と示された。PD-1抗体抵抗性がみられる7例中3例でも効果が確認されている。さらに抗VEGF抗体薬レンバチニブとペムブロリズマブを併用した第II相試験でも、マイクロサテライト安定性(MSS)でのOSSは69%、PFSは7.1か月と有効性を認めた。

なお、肝臓転移例ではHPDとともにPD-1阻害剤の効果減弱が報告されている。実際当院のデータでも、ニボルマブ単剤療法を行っている肝臓転移例では、転移していない症例に比べてPFSが短い傾向にある。一方検討した症例数は少ないものの、レゴラフェニブ/ニボルマブ併用療法や、レンバチニブ/ペムブロリズマブ併用療法では肝臓転移の有無にかかわらず有効性が認められた。

そこで胃と肝臓の両方を切除した症例における免疫微小環境を多重免疫染色で解析したところ、胃がん原発と比較して肝転移にM2マクロファージや制御性T細胞といった免疫抑制性細胞が多くみられた。現在、免疫抑制性細胞を抑制することが非臨床試験で示されている抗VEGF抗体薬およびPD-1阻害薬の併用療法を検証する第III相試験が進行中であり、肝転移例への抗腫瘍効果も期待される。

また、タキサン系抗がん剤+抗VEGF抗体薬ラムシルマブ(サイラムザ)の抗腫瘍効果を前治療の抗PD-1抗体有無別に比較したところ、前治療に抗PD-1抗体有り例ではORR61%、無し例では20%であった。前治療の抗PD-1抗体がタキサン+ラムシルマブの抗腫瘍効果を増強する可能性が示唆された。これは前治療の抗PD-1抗体がリンパ球に結合した状態で、抗VEGF抗体薬が投与されることにより免疫抑制性細胞を抑制し、抗PD-1抗体の効果を増強していることが一因である可能性がある。


川添氏講演資料(提供:川添氏)

HER2を基準とする治療法

HER2陰性切除不能進行・再発胃がん/胃食道接合部がんにおける1次治療を検証した第III相試験CheckMate649試験では、化学療法+ニボルマブ併用群による全生存期間(OS)の有意な改善が認められている。特にMSI-Highに関しては、化学療法群を大きく上回る結果が示された。

一方HER2陽性胃がんに対しては、当院のデータにおいて免疫チェックポイント阻害剤による3次治療以降のORRは7%であった。HER2陽性胃がんは、MSI陽性胃がんやEBV陽性胃がんと比較して、免疫細胞の浸潤やTMBが低いことが報告されており、いわゆる免疫原性が低いがん(cold tumor)である可能性がある。

しかしながら、化学療法+HER2阻害薬トラスツズマブ+ペムブロリズマブ併用療法群を、化学療法+トラスツズマブ+プラセボ群と比較したKEYNOTE-811試験の中間報告では、プラセボ群に対してペムブロリズマブ群のORRは約23%上回っている。完全奏効(CR) もペムブロリズマブ群では11%であった。

OSの結果が待たれ、HER2陽性胃がんの1次治療として化学療法+トラスツズマブ+PD-1阻害剤が選択肢になるかもしれない。

分子標的療法

現在HER2陽性胃がんの3次治療以降では、ADC(抗体薬物複合体)製剤であるトラスツズマブ デルクステカン(DS-8201/T-DXd)が第1選択とされている。フェーズI試験におけるORRは43.2%であり、続くフェーズII試験では化学療法に比べて高い抗腫瘍効果とOSの延長が認められた。

1次治療としては、タイトジャンクションの1つであるクローディンを標的とした治療が期待されている。ゾルベツキシマブ(IMAB362)は、クローディン18.2へ結合するモノクローナルIgG1抗体で、抗体依存性細胞傷害(ADCC:antibody-dependent cellular cytotoxicity)活性や補体依存性細胞傷害(CDC:complement-dependent cytotoxicity)活性により抗腫瘍効果を発揮する。

フェーズII試験では、腫瘍細胞の70%以上にクローディンが発現している症例において、1次治療での顕著なPFSとOSの延長が認められた。腫瘍細胞の70%以上にクローディンの発現がみられる症例は、胃がんの3~4割で認められていることから、現在行われている第III相試験の結果によっては、臨床でゾルベツキシマブの使用が認められるかもしれない。

さらに中国からは、クローディンを標的としたキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法が報告されている。ORR48.6%と非常によい結果を示しており、今後このような新しい治療法が期待される。

最後に、FGFR2b抗体薬ベマリツズマブを紹介する。FGFR2で選択された胃がんまたは食道胃接合部がん患者を対象に、ベマリツズマブ(FPA144)+mFOLFOX6とプラセボ +FOLFOX6を比較した第II相試験FIGHTでは、ベマリツズマブ群はプラセボ群よりもOSを延長させた。ベマリツズマブ群ではFGFR2b発現が多いほどに良好な結果がみられており、現在第III相試験が進行中である。

講演のまとめ

  • HER2陰性胃がんに対して、化学療法+ニボルマブが承認され、今後さらに、免疫抑制性細胞を標的として抗VEGF抗体薬との併用が期待される。
  • HER2陽性胃がんの1次治療として、化学療法+HER2阻害薬トラスツズマブ+PD-1阻害剤が選択肢になるかもしれない
  • 分子標的薬の領域では、クローディン18.2やFGFR2bなどを標的とする新しい治療薬が開発されている

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