2021年12月16日掲載
医師・歯科医師限定

【症例紹介】5ASA製剤の二面性――5ASA製剤で腸炎悪化?

2021年12月16日掲載
医師・歯科医師限定

国立成育医療研究センター 小児内科系専門診療部 消化器科/小児炎症性腸疾患(IBD)センター

竹内 一朗先生

症例

患者

14歳女児

現病歴

腹痛・下痢・血便で発症し、2か月後に潰瘍性大腸炎・全大腸型と診断された。診断時のPediatric ulcerative colitis activity index (PUCAI) は25点と軽症であり、5ASA製剤ですぐに寛解が得られた。しかし、治療開始後2~3週間で腹痛・下痢・血便が再度出現し、発熱も伴うようになったため緊急入院した。

その他の臨床情報

周囲感染はなく、便培養陰性。既往歴・周産期歴に特記事項なし。

検査所見

白血球:6,900/μL

Alb:3.0g/dL

CRP:4.5mg/dL

Hb:9.0g/dL

ESR(血沈):60mm/時間

カンファレンスにて

レジデント:5ASA製剤では寛解が維持できない重症な潰瘍性大腸炎と考えます。明日、内視鏡検査を施行して疾患活動性を評価したうえで、ステロイドで再度寛解導入を行いたいと思います。

上級医:寛解導入後の維持療法は何を考えている?

レジデント:アザチオプリンやインフリキシマブ、もしくはベドリズマブを考えています。

上級医:そうだね。チオプリン製剤の骨髄抑制や全脱毛はNUDT15遺伝子の多型で事前のリスク評価ができるから早めに提出しておこうか。生ワクチンの抗体価は確認した?

レジデント:初診時に評価しています。麻疹・ムンプス・水痘は抗体価がありましたが、風疹では基準値未満でした。

上級医:ベドリズマブ以外の免疫抑制薬は生ワクチン接種が原則禁忌になってしまうから、追加接種できるように計画してみようか。特に女児や挙児希望の女性患者では先天性風疹症候群といった先天性感染症を予防する必要があるよね。ところで、5ASA製剤は一度やめて反応を見てみた?

レジデント:いえ、まだです。

上級医:それなら一度5ASA製剤を中止して反応を見てみよう。診断時は軽症で寛解が得られていたのに、急に増悪して発熱まで伴うという経過だから、5ASA不耐も十分に考えられると思うよ。

レジデント:分かりました。それでは明日の内視鏡検査は延期して、5ASA製剤の投与を中止したうえで経過を観察します。

経過

5ASA製剤中止後、同日から解熱が得られ、翌日には下痢・血便も改善した。DLSTも陽性であり、5ASA不耐による腸炎増悪と判断された。本人・保護者と相談のうえで、5ASA中止後は消化器症状が落ち着いているため、風疹の予防接種を行い、NUDT15遺伝子の多型やその後の症状の経過に準じて薬剤選択を決定する方針となった。

本症例のポイント

5ASA製剤は潰瘍性大腸炎治療の基本となる薬剤である。5ASAが腸管粘膜の炎症部位に直接到達することにより抗炎症効果を示し、寛解導入・寛解維持に用いられる。腎障害や膵炎、間質性肺炎といった重篤な副作用が報告されているが、発熱・下痢・血便などが生じるアレルギー反応(不耐)にも注意する必要がある。本症例のように5ASA製剤の開始後1か月以内に発症することが多く、潰瘍性大腸炎が悪化したように見えるため、5ASA不耐を鑑別に挙げなければ不必要に免疫抑制薬を強化することになりかねない。小児患者では成人患者よりも頻度が高く、10%を超える報告もあるためよりいっそう注意が必要である。

参考・関連文献

Pediatr Int. 2017 May;59(5):583-587.

日本小児科学会雑誌. 2021年125巻 第4号607-611.

J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2018 Aug;67(2):257-291.

令和2年度改訂版 潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針「難治性炎症性腸肝障害に関する調査研究」久松班

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