2022年02月25日掲載
医師・歯科医師限定

【第70回日本アレルギー学会レポート】「春季以外」のアレルギー性鼻炎の疫学・治療――イネ、ブタクサなどの草本花粉の対策は植生地域・飛散特性の把握から(4700字)

2022年02月25日掲載
医師・歯科医師限定

千葉大学大学院医学研究院 耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学 准教授/千葉大学医学部附属病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科

米倉 修二先生

アレルギー性鼻炎は、春季に飛散するスギやヒノキといった木本花粉によるものが多いが、イネやブタクサなどの草本花粉が原因となることもある。しかし、草本花粉が大きく注目されることは少なく、その飛散量や草本花粉症の有病率は明らかになっていない。治療法もまだまだ発展途上だ。

米倉 修二氏(千葉大学大学院医学研究院 耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学准教授)は、第70回日本アレルギー学会学術大会(2021年10月8〜10日)の教育講演の中で、「春季以外のアレルギー性鼻炎の実際」と題し、主に草本花粉に着目して、疫学や治療の現状について語った。

春季以外のアレルギー性鼻炎の原因となる抗原

木本花粉と草本花粉の飛散量

環境省「花粉症環境保健マニュアル」によると、日本では1961~2003年までに61種類の花粉がアレルギー性鼻炎の原因として報告されている。木本花粉(スギ、ヒノキ、ハンノキ、シラカンバなど)と草本花粉(ブタクサ、イネ、ヨモギ、カナムグラなど)に大別され、飛散時期は木本花粉が春季、草本花粉は秋季(イネは初夏に多い)が中心となる。大きさはいずれも20~35μm程度だが、飛散量は木本花粉のほうがはるかに多いことが特徴だ。

以下は2006~2021年の過去15年間で、スギとヒノキの花粉飛散数を千葉大学医学部の屋上で計測したデータである。スギよりもヒノキの飛散数が多い年があるなど、計測年によってばらつきがある。このように、スギとヒノキは継続的に測定が行われているが、ブタクサやカモガヤといった草本花粉は注目度の低さゆえに、飛散数に関する報告も少ない。

米倉氏講演資料(提供:米倉氏)

花粉飛散数の基礎的データが希少であるなか、厚生省研究班による「日本列島空中花粉調査データ集」が、花粉の飛散量をまとめたものとして参考となる。これによると、まず草本花粉の飛散量や種類は地域や計測年によってばらつきがあり、飛散量は多くて数百個/cm2/年と多くはないことが分かる。一方、木本花粉データを見ると、ブナ科やマツ科が多い年もあるが、中心となるのはやはりスギとヒノキだ。注目すべきはその飛散量であり、多い年で約15,000個/cm2/年もの大量飛散を確認した年もある。

草本花粉の植生・飛散状況は地域により大きく異なる

こうしたデータから、草本花粉と木本花粉とでは飛散形態に大きな違いがあることが推測できる。これを示すものとして、スギとブタクサの飛散距離を示した、厚生省研究班の報告がある。スギ花粉の飛散数を調べるために、ヘリコプターを使って京葉コンビナート上空で測定をしたところ、高度1,000mまでは飛散数に差異がなく、一様に飛散している可能性が示唆された。さらに、高度3,000mと非常に高い場所でも測定されたことから、スギ花粉は高くかつ広く飛散する特性を持つことが分かった。

一方、ブタクサ花粉の飛散距離を調査するべく、植生地域からどのくらい離れた場所まで花粉が観測されているかを調べたところ、約100m以内でほとんどが落下していることが推察された。こうしたことから、草本花粉の植生地域を知ることが、抗原回避につながると考えられる。

地域ごとの詳細なデータは少ないなか、東京都アレルギー情報navi.では地域ごとの花粉飛散量が発表されている。たとえば、千代田区と多摩地域における過去3年間のデータを見てみると、スギとヒノキは圧倒的に多い点で共通しているが、草本花粉は飛散状況が大きく異なっている。このように、草本花粉は地域による違いが色濃く出てくるため、その飛散の実態を調べるためには、地域ごとの細かい調査が必要となるだろう。

春季以外のアレルギー性鼻炎の疫学

アレルギー性鼻炎は年々増加 草本花粉の傾向は?

耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした疫学調査結果によると、アレルギー性鼻炎の有病率は調査ごとに上昇しており、2019年には49.2%にも上っている。スギ花粉症の有病率は38.8%でやはり上昇傾向にある。一方で、通年性アレルギー性鼻炎は明らかな上昇傾向でないものの、24.5%と高止まりの傾向にある。

では、「スギ以外の花粉症」はどのような傾向になっているのだろう。スギ以外の花粉症も年々上昇傾向であり、2019年には顕著な増加がみられる。また、有病率を年齢別で見てみると、スギ花粉症の動向に似ていることが分かっている。

もちろん、これは草本花粉の結果を反映している可能性もあるが、実はヒノキ花粉症の結果を大きく反映している可能性がある。なぜなら、本調査はスギ花粉症とスギ花粉症以外の二極的な観点で調査されたものであり、ヒノキ花粉症をどちらに振り分けるかは回答する医師の主観により左右されるためである。そのため、「草本花粉症が増加傾向にある」とは、一概には言いきれない。

感作率に関する調査データ

当科でスギ花粉症に対する舌下免疫療法を施行した約120症例を対象に、他抗原への感作率を調べたところ、共通抗原を持つヒノキは77.5%と多く、続いてダニとカモガヤが30%台、ハンノキ、オオアワガエリ、ブタクサが20%台となっている。ヒノキ以外の重複感作を持つ患者は63.9%であった。

感作率について、全国レベルで調査したデータもある。2002~2011年に行われたアレルゲン特異的IgE検査のうち、内科、耳鼻科、小児科で測定された吸入アレルゲン特異的IgE検査を抽出したデータを見ると、スギの感作率が50~60%と高く、次にヒノキが高い感作率を示している。ダニは40%前後で、カモガヤ、ブタクサ、ヨモギと続き、ガ(蛾)が多い点も看過できない。また、成人/小児で比較すると、小児ではダニの感作率が高い点が特徴的である。

Google Trendsで見る花粉症の傾向

感作率の全国調査報告は存在する一方で、有病率に関する詳細なデータは少ない。そこで、大まかな花粉症の動向を知る手段の1つに「Google Trends」がある。このサイト上で、たとえば「スギ花粉症」と検索してみると、春季の飛散時期に合わせて検索数が上昇していることが分かる。これを使って、スギ、ヒノキ、ブタクサ、ヨモギ、カモガヤの検索数を調べてみると、スギとヒノキの木本花粉に比べて、ブタクサやヨモギ、カモガヤといった草本花粉は顕著に検索数が少ないことが分かる。こうしたデータを見てもやはり木本花粉に比べて草本花粉の有病率は低いことが想定できるだろう。もちろん、あくまでもウェブでの検索数に過ぎないため、実際の有病率を調べるためには、行政や学会などの協力のもときちんとした疫学調査を行っていく必要がある。

米倉氏講演資料(提供:米倉氏)

春季以外のアレルギー性鼻炎の治療

草本花粉に関してはまず、植生を把握して抗原を回避することが重要だ。また、ダニアレルギーは秋季に増加する。夏に増加したダニの死骸や糞などがアレルゲンとなって秋に増加するためで、これに伴い通年性アレルギー性鼻炎も悪化するといわれている。

抗ヒスタミン薬の選択

花粉症は重症度や病型によって推奨される薬剤が異なるが、飛散量の少ない草本花粉の場合、軽症・中等症のことが多い。そのため、抗ヒスタミン薬投与が治療の中心となることが多い。

理想的な抗ヒスタミン薬の条件としては、速効性があり、効果が持続する・副作用(眠気や作業効率の低下など)が少ない・長期投与ができる・投与回数が1日1〜2回でアドヒアランスがよいといったことが挙げられる。また、抗ヒスタミン薬の脳内H1受容体占拠率が20%以下の薬剤が、特に鎮静作用が少ない薬剤と考えられている。鼻アレルギー診療ガイドライン2020年度版では、高齢者や基礎疾患を有する患者に対する配慮も記載されている。多剤服用の観点や、老齢症候群、認知力低下、転倒、失禁などのリスクを加味し、鎮静作用の少ない薬剤選択は処方上重要なポイントだ。

構造系の異なる抗ヒスタミン薬の検証

抗ヒスタミン薬を処方する際、構造式を念頭において選択する医師もいるだろう。しかし、構造式による薬剤変更の意義については、これまで多く報告されてこなかった。そこで我々は、構造系の異なる抗ヒスタミン薬の効果を検証するために、ランダム化二重盲検クロスオーバー比較試験を実施した。

本試験の対象は中等症以上のスギ花粉症患者で、人工的に花粉を飛散させる花粉飛散室で検証を行った。曝露前日21時に、抗ヒスタミン薬A(三環系骨格)、抗ヒスタミン薬B(ピペラジン骨格)、プラセボのいずれかを二重盲検で内服した。評価曝露は9〜12時の3時間で、同日15時、18時、21時に症状評価を行い、薬剤の効果を検証した。それぞれの試験薬は2週間以上の休薬期間をおいて投与した。

結果、抗ヒスタミン薬A、抗ヒスタミン薬Bともに、プラセボに対してくしゃみ、鼻漏、鼻閉の3症状を有意に抑制した。また、鼻のかゆみを加えた4症状の総合鼻症状スコアに関しても、プラセボに対して2剤の実薬群で有意な症状抑制効果がみられた。主要評価項目である、曝露室内120〜180分の症状スコアについても、2剤で有意な症状改善が得られたが、2剤間の有意差はみられなかった。

出典:Yonekura S,et al.Int Arch Allergy Immunol.2019;180:274-283.
米倉氏講演資料(提供:米倉氏)

また、抗ヒスタミン薬Aの奏効群が12例、抗ヒスタミン薬Bの奏効群の24例存在したため、奏効の差異を明らかにするために背景因子を詳細に調査したが、特定の因子は見いだせなかった。ただこの結果から、同じ抗ヒスタミン薬でも、効きやすい/効きにくいものが同一症例の中で存在するということは明らかになった。そのため実臨床でも、患者一人ひとりに合わせた抗ヒスタミン薬を選択していくことが大切になるだろう。今はまだ難しいが、将来的に薬理遺伝学が進展すれば、薬剤が合うかを調べてから処方するといった、個別化医療ができる時代が来るかもしれない。

スギ花粉以外の草本花粉症治療の可能性

草本花粉症に対するアレルゲン特異的な治療法は、皮下投与による免疫療法であるが、種類が限られている。また、皮下投与による免疫療法自体が、通院の必要性、痛み、アナフィラキシーショックなど重篤な全身性の副作用のリスクがあることから、患者あるいは施行者側の負担が大きく、施行数は減少傾向にある。

昨今では舌下免疫療法が中心になりつつあるが、周知のとおり、スギ花粉症とダニ通年性アレルギー性鼻炎にしか適応はないため、草本花粉には使用できない。今後、海外での治療法の転用や、学会・国内の研究機関などによる開発が期待されるが、それ以前に、花粉飛散量や有病率の基礎的データの収集、需要に関する検討を行い、現状をしっかり把握したうえで開発に臨む必要があるだろう。

スギ舌下免疫療法に対するヒノキへの効果は?

スギに対する舌下免疫療法がヒノキ花粉症にも有効であるのかについては、昨今の話題となっている。

千葉大学では、スギ花粉とヒノキ花粉による鼻症状を調べるため、花粉飛散室でそれぞれの花粉を8,000個/m3飛散させて、誘発される症状の強さについて検証を行った。結果、スギ花粉に比べてヒノキ花粉のほうが軽度な症状であった。実臨床上では、スギ花粉が少なくなる頃にヒノキ花粉が飛散し始めるため、スギ花粉由来の症状が持続しているか、あるいはヒノキ花粉由来であるのか、判断が難しい場合がある。

スギ花粉舌下錠のスギ花粉症に対する効果を検証した第II/III相試験において、プラセボと実薬(5,000JAU)をそれぞれ3シーズン継続した群について、ヒノキ花粉症に対する効果についても検証した。3シーズンにわたりヒノキ花粉の飛散時期の症状を比較した結果、プラセボ群に対して実薬群では有意に症状が抑制された。ヒノキ花粉症の時期でも実薬群の症状が軽いという結果が得られたが、ヒノキ花粉症への効果がどの程度あるかについては、引き続き検証が必要だ。

口腔アレルギー症候群の合併に注意

木本花粉や草本花粉の中には、食物抗原と共通抗原を持つものが存在する。たとえば、シラカンバはバラ科の食物(リンゴや西洋ナシ、サクランボなど)、イネ科はウリ科(メロン、スイカ)、スギ科はナス科(トマト)やウリ科と共通抗原を持つことがある。花粉症の患者を診る場合には、こうした口腔アレルギー症候群(花粉-食物アレルギー症候群)の合併にも注意する必要があるだろう。

講演のまとめ

春季以外のアレルギー性鼻炎の原因となる抗原

・キク科、イネ科を中心に多様な植物が原因となる

・各地域で植生と花粉飛散量を把握することが重要である

・ダニ抗原は秋季に増加する

春季以外のアレルギー性鼻炎の疫学

・秋季のアレルギー性鼻炎も増加している可能性がある

・秋季のアレルギー性鼻炎の実態は明らかではなく、一定規模の疫学調査が望まれる

春季以外のアレルギー性鼻炎の対応

・抗原回避の指導が重要である

・第2世代抗ヒスタミン薬などの薬物療法が中心となる

・草本花粉抗原に対するアレルゲン免疫療法の適応は限られている

・口腔アレルギー症候群(花粉-食物アレルギー症候群)の合併に留意する

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