2023年04月10日掲載
医師・歯科医師限定

日本小児科学会・4月中旬に東京で学術集会を開催――小児医療の課題とトピックとともに学術集会の見どころを紹介

2023年04月10日掲載
医師・歯科医師限定

順天堂大学大学院医学研究科 小児思春期発達・病態学講座 主任教授

清水 俊明先生

日本小児科学会学術集会が2023年4月14日(金)〜16日(日)、グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール/グランドプリンスホテル高輪(東京都港区)で開催される(現地開催・Web配信のハイブリッド形式)。本学術集会では、小児医療・保健に関する社会的な内容から、新たな検査・診断や治療に関する話題など、多彩なプログラムが用意されている。会頭を務める清水 俊明氏(順天堂大学大学院医学研究科 小児思春期発達・病態学講座 主任教授)に小児医療の課題やトピック、本学術集会の見どころなどについて聞いた。

医師の地域偏在と増えない新生児科医――小児医療が抱える課題

今の日本における小児医療には、大きく2つの問題がある。1つは「医師の地域偏在」だ。小児科医を志す医師は全国的に微増しているものの、地方、とりわけ僻地の小児科医不足は深刻で、十分な医療を受けられない子どもたちが存在する。

そこで、僻地における小児医療の助け船となるのが「総合診療専門医」だ。総合診療専門医の必須研修には最低3か月の小児科研修が組み込まれている。私は昨年まで総合診療専門医検討委員会に所属し、総合診療専門医に小児医療の戦力となってもらえるよう、研修の推進に取り組んできた。

では、東京都などの大都市では小児科医が十分に足りているのかというと、実際はそうではない。それにもかかわらず、新専門医制度で新たに設けられた「シーリング制度(採用数の上限設定)」によって東京都の小児科医が減らされている現状がある。少子化によって小児医療のニーズが減少しているのに対し、東京都の小児科医は多すぎるとの理由からだ。我々はこのことに警鐘を鳴らし、厚生労働省や日本専門医機構に制度の見直しを訴えている。

もう1つ、新生児領域を目指す若手医師が増えていないことも大きな問題だ。その背景には、夜間帯の仕事が多くハードワークである、NICU(新生児集中治療管理室)に関する特殊な技術・知識が求められる――などの理由がある。一方で、近年低出生体重児は増加しており、新生児医療へのニーズは高まっている。数少ない新生児科医でNICUを管理せざるを得ない状況から、いっそうのハードワークを強いられるという悪循環に陥っているのだ。

こうした状況に対し、順天堂大学小児科では、全ての若手医師に関連病院で新生児医療を経験する機会を設けている。新生児医療は確かにハードワークではあるが、その分非常にやりがいのある分野だ。研究面でもこれから研究を進めていかなければならないことは数多く残っている。新生児医療は魅力あふれた分野であることを若手医師に知ってもらい、ぜひ多くの小児科医にチャレンジしてほしい。

小児医療におけるトピックと進歩

小児医療の明るい話題についてもお伝えしたい。最近の注目トピックの1つは、遺伝子診断の進歩だ。小児の疾患には数多くの希少疾患・難病が含まれ、診断まで時間がかかることもある。しかし、近年の遺伝子検査技術の進歩によって、こうした疾患を診断し、さらには治療につなげられる時代が到来している。

小児科の治療法を参考に、AYA(Adolescent and Young Adult)世代(思春期・若年成人)の治療成績が向上していることも大きな話題だろう。AYA世代の血液疾患では、成人の治療法よりも小児科の治療法を用いたほうが高い効果が得られるという研究報告もあるためだ。

また、小児期医療から成人期医療につなぐ「移行期医療」も以前にも増して普及している。現在、国も移行期医療の推進に取り組んでおり、日本小児科学会でもスムーズかつ適切に成人期医療に移行できるよう、対象疾患ごとに綿密な検討を進めているところだ。

「Global」テーマに多彩なプログラムを用意

今年の学術集会のテーマは「Globalな視点で子どもたちの未来を考える」とした。新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の世界的大流行によって、諸外国と連携し情報共有を行う重要性が再認識された。日本小児科学会ではこれまでも国際的活動に取り組んできたが、本学術集会であらためて日本の小児医療についてグローバルな視点から議論したいと考えている。海外から7人のエキスパートを招き、小児科医が知っておくべき世界的なトピックについてお話しいただく予定だ。

また、今年も多彩で魅力的なプログラムを複数用意している。注目演題の1つは、五十嵐隆氏(国立成育医療研究センター理事長)による基調講演「わが国の小児保健・医療の課題」だ。バイオ(Bio)・サイコ(Psycho)・ソーシャル(Social)の観点に基づいた評価や支援、低出生体重児の発達、発達障害のある子どもの支援、貧困や虐待への対応、小児医学研究の促進、成育基本法や子ども家庭庁への期待……などバラエティに富んだ素晴らしい話が聞けるだろう。

特別講演「成育基本法と子育て支援」では、2019年に施行された成育基本法について、本法の成立に直接携わった松平隆光氏(公益社団法人日本小児科医会名誉会長)にお話しいただく。

もう1つの特別講演「COVID-19を振り返って-病院長として、小児科医として-」では、病院長、また小児科医として、新型コロナから東京慈恵会医科大学附属病院を守ってきた井田博幸氏(学校法人慈恵大学理事)に当時の体験や思いを語っていただく予定だ。

活発な議論を期待――若手とベテランが意見交換する「Café企画」も

今回、6つの特別企画を用意した。学術集会で議論すべきテーマを日本小児科学会の分科会や委員会から募り、選りすぐりの6テーマについて複数の先生に発表いただく。適用開始まで1年を切った「医師の働き方改革」、医薬品の国際共同試験、出生前診断など小児科医が今考えるべきトピックについて活発な議論を展開していただきたい。

学術集会2日目、4月15日(土)には「Café企画」を行う。小児科医としてのキャリア形成や研究・留学に関する疑問、小児科医や小児医療の展望などについて、若手医師と指導医、さらには教授が膝を突き合わせて意見交換やアドバイスをする貴重な機会だ。特に若手医師に奮って参加いただきたい。

感謝の気持ちを力に変え、実り多き学術集会に

私がこれまで多方面から小児医療に携わってこられたのは、出会った全ての人のおかげである。家族、友人、恩師、同僚、指導医、留学先の上司――そして一人ひとりの患者さんとそのご家族だ。病気が治り喜んでいただけることも多い一方で、なかなか期待する治療ができない患者さんも数多くいた。そうした患者さんから学び得たことは非常に多く、心から感謝している。今回会頭を務めるにあたり、これまで私に影響を及ぼしていただいた全ての人々への感謝の気持ちを糧にして、多くの患者さんや小児科医、今後の診療・研究に役立つ学術集会にしたい。

学術集会は、小児科医をはじめ小児医療に関連するさまざまな職種、また医学生や初期臨床研修医が一堂に会し、子どもたちの医療や保健、あるいはご家族の心の問題などについて、臨床・研究成果を発表して討論する場である。本学術集会が子どもたちの明るい未来の一助となるように参加者一同努力していきたい。

ぜひ現地に来て参加を

今年の学術集会は、新型コロナ感染対策を十分に行ったうえで現地開催とWeb配信のハイブリッド形式とした。新型コロナもようやく下火となり、数年ぶりに現地参加を考えている方も多いだろう。ぜひこの機に活発なディスカッションや交流をしていただき、学術集会を楽しんでもらえればと思う。主催校である順天堂大学小児科としては、参加していただいた皆さんに満足していただける学術集会を目指し、現在準備を進めているところだ。ぜひ多くの方にご参集いただきたい。

会員登録をすると、
記事全文が読めるページに遷移できます。

会員登録して全文を読む

医師について

新着記事