2023年04月13日掲載
医師・歯科医師限定

糖尿病治療への再生医療応用――β細胞新生・再生研究の現状と展望

2023年04月13日掲載
医師・歯科医師限定

北里大学病院 内分泌代謝内科 科長/主任教授

宮塚 健先生

糖尿病患者の根治CUREを目指して大学院、研修医のころから臨床と研究の二足のわらじを履きながらやってきた。1990年代から糖尿病の再生医療に期待がかけられてきたが、なかなか進まなかった。たとえば、血液の病気であればエリスロポエチンやG-CSFが90年代から臨床で使われてきたように、薬による再生医療は実用化されている。だが、糖尿病分野は今現在もそのレベルに達していない。まずは膵臓の幹細胞からβ細胞へと分化するまでの“ロードマップ”を完成させ、これを忠実に再現することがβ細胞をつくるヒントになると考え、膵臓の発生生物学に関する研究を行うようになった。

β細胞再生医療の実現に向けた研究の中で、現在もっとも進んでいるのがES細胞やiPS細胞といった幹細胞からインスリン産生細胞を作って糖尿病のある方に移植する方法で、アメリカでは治験段階まで進んでいる。

その過程で見えてきたのは、1型糖尿病は自己免疫疾患のため、そのままではせっかく移植した細胞がリンパ球により破壊されてしまうということだ。免疫による破壊を回避するために、インスリン産生細胞をカプセルなどに入れて移植する方法も試されているが、そうすると血液や栄養の供給が妨げられ、細胞のバイアビリティ(生存能)が低下してしまうことが問題になる。

コスト面の問題もある。糖尿病の患者1人あたり数百万円もかかるようでは、全ての糖尿病患者に届けるのは至難の業であり、まだ多くの解決すべき課題が残っている。

我々はβ細胞再生医療のもう1つの方向性である、β細胞以外の体細胞からインスリン産生細胞を作る「ダイレクトリプログラミング」を目指して研究している。膵臓の外分泌細胞からβ細胞を作るリプログラミングに関しては、少なくとも動物実験レベルでは、比較的効率よくβ細胞をつくることができる。現在はグルカゴンを産生する膵臓のα細胞からβ細胞を作るリプログラミングに着手している。有効性を上げながら安全性が担保される治療法ができれば実用化が可能ではないかと考えている。

アデノ随伴ウイルスを使って遺伝子を導入しながらリプログラミングを誘導できるようになれば、安全かつ効率的なβ細胞再生医療の実現に一歩近づくと考えており、研究を進めている。

2型糖尿病でも、罹病期間が長くなると1型糖尿病患者と同様にインスリン分泌がほぼ枯渇する症例も出てくる。将来的には、糖尿病のある方全てにβ細胞再生医療を提供できるようにしたい。

高齢の糖尿病患者では、認知機能の衰えなどでインスリン注射を継続するのが難しくなることがある。認知症まで進んでいなくても、高齢者が1日4回のインスリン注射を忘れずに続けたり、頻回に血糖値を測定したりするのは大変だ。そうした患者に、100点満点とはいかなくとも70点程度の血糖管理を目指すようなβ細胞再生医療を提供したいと思って研究を続けている。現在は動物実験レベルである程度の成果が出ているので、10年以内に臨床試験を始めたいと思っている。

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