2022年01月11日掲載
医師・歯科医師限定

【学会レポート】SARS-CoV-2の感染メカニズム――フーリンとTMPRSS2による開裂活性化、変異株での特徴(2600字)

2022年01月11日掲載
医師・歯科医師限定

国立感染症研究所 ウイルス第三部 部長

竹田 誠先生

2019年12月に中国・武漢市で発生した正体不明の肺炎は、その後「COVID-19」と命名され、瞬く間に全世界を脅威に陥れた。COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2が効率よく感染するためには、フーリンとTMPRSS2(テンパース2)による開裂活性化が必要だという。

国立感染症研究所 ウイルス第三部 部長の竹田 誠氏は、第68回日本ウイルス学会学術集会(2021年11月16日~18日:神戸国際会議場)において、SARS-CoV-2の感染メカニズムについて「SARS-CoV-2と宿主プロテアーゼによる活性化」というタイトルで講演を行った。

VeroE6/TMPRSS2細胞によるSARS-CoV-2の分離

日本でCOVID-19の第1症例が確定診断されたのは、2020年1月15日のことだった。その約2週間後には、遺伝子導入技術によってTMPRSS2を恒常発現させた「VeroE6/TMPRSS2細胞」を用いることでSARS-CoV-2を効率よく分離できることを、国立感染症研究所が確認した。VeroE6/TMPRSS2細胞は元々いくつかの呼吸器ウイルス分離のために開発された細胞であり、2019年にはこの細胞がヒトメタニューモウイルスの分離に特に優れていることが報告されている。

そして、SARS-CoV-2分離の確認からわずか数日後の2020年1月31日、国立感染症研究所はVeroE6/TMPRSS2細胞の配布を開始した。JCRB細胞バンクと英国のNIBSC(National Institute for Biological Standards and Control )の協力により、2021年7月までに国内外の約400か所の施設へ配られているという。

TMPRSS2によるウイルスのスパイクタンパク質の開裂活性化

ウイルスの感染が、ウイルス表面に存在するスパイクタンパク質の開裂活性化によって成立することは、これまで多くの日本人研究者によっても証明されてきた。その活性化に特に重要なのが、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)であるTMPRSS2だ。これはII型膜貫通型セリンプロテアーゼで、前立腺での発現が特徴的だが、気道上皮を含むさまざまな臓器にも発現している。

TMPRSS2の生理活性は不明な点も多いが、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルスを活性化させることはすでに知られている。これらのウイルスではTMPRSS2による開裂活性化が「粒子形成過程」で起こることが特徴だ。インフルエンザウイルスの場合では、TMPRSS2が生体内でのウイルス活性化を担っていることも証明されているという。

さらにTMPRSS2は、2002年〜2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の原因ウイルスであるSARS-CoV-1の活性化も担っていることが、竹田氏と同じ部門の松山 州徳氏らによって報告されている。なおSARS-CoV-1のTMPRSS2による開裂活性化は、粒子形成過程ではなく「細胞侵入の瞬間」に起こることを竹田氏は強調した。

SARS-CoV-2における開裂活性化

2か所の開裂部位と感染経路

続いて竹田氏は、SARS-CoV-2における開裂活性化に焦点を当てた。

SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の開裂部位は、S1/S2部位とS2'部位の2か所存在することが特徴だ。S1/S2部位近くには特徴的な4つのアミノ酸配列(PRRA)の挿入があることから、まずS1/S2部位が粒子形成過程でフーリンによって開裂され、粒子としてSARS-CoV-2が放出される。その後、SARS-CoV-2がACE2受容体に結合する際、TMPRSS2によってS2'部位が開裂され、細胞内に侵入することで感染が成立する。


竹田氏講演資料(提供:竹田氏)

フーリンによる開裂が引き起こす感染の増強

フーリンによるS1/S2部位の開裂は、SARS-CoV-2の最大の特徴といえるだろう。竹田氏は「フーリンによる開裂は二重の効果によって感染増強をもたらす」と述べ、その2つの理由について説明した。

まずフーリンによるS1/S2部位の開裂が起こると、受容体結合ドメイン(RBD)の配置に変化が生じる。SARS-CoV-2のRBDには「down(closed)型構造」と「up(open)型構造」があり、感染が成立する際にはup型構造をとることが分かっている。S1/S2部分が開裂されると、down型構造からup型構造に変化しやすくなるため、RBDとACE2受容体の結合が促進され、感染力の増強をもたらすという。

同時に、フーリンによるS1/S2部位の開裂はS2の構造変化を引き起こし、これによってS2'部分が露出すると推測されている。すると、TMPRSS2によるS2'部分の開裂が起こることで膜融合が促進され、同じく感染力の増強をもたらすと竹田氏は説明した。


竹田氏講演資料(提供:竹田氏)

VOC(懸念される変異株)における感染増強メカニズム

2021年11月時点で、アルファ株・ベータ株・ガンマ株・デルタ株といったSARS-CoV-2の変異株が出現している。これらはVOC(Variants of Concern:懸念される変異株)に位置づけられ、全てがスパイクタンパクにD614G変異を持っている。D614G変異は、フーリンによるS1/S2部位の開裂を促進させると同時にRBDのup型構造を促進させるはたらきによって、従来株に比べてさらに強い感染力を持つという。

さらに、これらの変異株はD614G変異だけでなく、RBDにおいてもN501Y、E484K、K417N/T、L452R、T478K変異を有しており、これらは受容体であるACE2の結合性を高めるといわれている。なお、E484KとK417N/T変異については、受容体結合を促進させるという報告と、受容体結合は弱まるが抗体からのエスケープを高めて感染を増強させるという報告があることを竹田氏は補足した。

また、アルファ株とデルタ株では、4つのアミノ酸配列のうち1つがヒスチジン(H)またはアルギニン(R)に変化したP681H変異(アルファ株)とP681R変異(デルタ株)が生じており、これらの変異がフーリンによるS1 /S2部位の開裂活性化を高めているといわれている*

*デルタ株が持つP681R変異がフーリンによる開裂性を高めて感染を増強させることについては、東京大学の佐藤 佳氏が主宰するG2P-Japanの研究によって証明され、2021年11月26日(日本時間)公開のNature(オンライン版)にて発表された。


竹田氏講演資料(提供:竹田氏)

SARS-CoV-2の主感染様式――早期侵入経路

ここまで述べてきたフーリンやTMPRSS2による細胞侵入は「早期侵入経路」と呼ばれている。なぜなら、TMPRSS2によるS2'部位の開裂が起こらなくても、SARS-CoV-2では細胞内に取り込まれた後にリソソーム内のカテプシンLによって開裂活性が起こるためだ。この細胞侵入を「後期侵入経路」と呼ぶ。

しかし、後期侵入経路によって繰り返しウイルスが培養されると、SARS-CoV-2の最大の特徴であるフーリン開裂モチーフが喪失することが分かっている。そのため竹田氏は「フーリンとTMPRSS2による2段階の開裂活性化が、SARS-CoV-2の主要な感染メカニズムといえるだろう」と結論づけた。

なお、TMPRSS2に対する生理的阻害物質にはHAI-1とHAI-2があり、HAI-2がTMPRSS2の効果を弱めてSARS-CoV-2の感染を制御することについては、竹田氏らの研究で明らかになっているという。

最後に竹田氏は「将来的に起こるかもしれない新たなウイルスによるパンデミックに備えるためにも、SARS-CoV-2の感染メカニズムを深く理解することは重要だろう」と述べ、本講演を締めくくった。

講演のまとめ

・SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の開裂部位は、S1/S2部位とS2'部位の2か所が存在する

・S1/S2部位がフーリンによって開裂された後にTMPRSS2が開裂され、SARS-CoV-2が細胞に侵入する

・フーリンによるS1/S2部位の開裂は、SARS-CoV-2感染の最大の特徴である

・VOC(懸念される変異株)が持つ遺伝子変異は、開裂活性化を高めて感染力を増強させる

・TMPRSS2に対する生理的阻害物質HAI-2は、SARS-CoV-2の感染を制御する

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