2023年04月06日掲載
医師・歯科医師限定

“赤字手術”の点数引き上げ、ロボット支援手術の術者要件廃止……外保連の取り組みと成果――光熱費高騰による病院経営難も

2023年04月06日掲載
医師・歯科医師限定

地方独立行政法人埼玉県立病院機構 理事長

岩中 督先生

外科手術には人件費や材料費など多大なコストがかかるが、十分な診療報酬点数(手術料)が設定されていないために「実施すればするほど赤字になる手術」が多い現状がある。こうした外科系診療における診療報酬上の問題を是正するため、学術的検討や厚生労働省との交渉を行うのが、外科系学会社会保険委員会連合(以下、外保連)だ。外保連は2023年2月27日に第27回記者懇談会を開催し、会長の岩中 督氏(地方独立行政法人埼玉県立病院機構 理事長)が外保連の活動と今後の方向性について報告した。本記事では岩中氏の発表を紹介する。

“赤字手術”が多い実態

外保連が作成している「外保連試案」には、全術式にかかるコスト・技術料のデータが示されている。各術式の技術難易度と必要なスタッフ数・時間から「人件費」を算出し、さらに手術に使用する材料を厳密に配賦して、人件費と合わせた「総費用」を算出したものだ。外保連試案を見れば、手術にかかる実際の総費用が診療報酬における手術料とどの程度乖離しているかが分かる。

実際、手術にかかる総費用が診療報酬の手術料を大幅に上回ってしまう手術は数多く存在する。2022年度診療報酬改定の時点において、人件費が診療報酬点数を超えている件数は2,896件(91%)に上る。さらに、保険償還できない材料費(ガウンや縫合糸など)だけで診療報酬点数を超えてしまう手術件数も394件(12.4%)あり、「実施すればするほど赤字になる手術」が多い現状だ。外科医が手術を続けていくために、我々はこのデータに基づき厚生労働省へ手術料の引き上げを交渉している。

岩中氏講演資料(提供:岩中氏)

一方、厚生労働省との交渉の結果、ここ数年で約900件の手術料が引き上げられている。2016年度と2018年度の改定では、難易度の高いD群・E群を中心に679件の術式が増点され、2020年度と2022年度の改定では市中病院で行われることが多いB群・C群・D群の手術229件が増点された。厚労省が外保連試案を高く評価してくれている結果と言えるだろう。

時間外・休日・深夜加算は「要件緩和」

外科医は平日の時間外や休日、深夜の緊急手術に対応しなければならないケースが多々ある。この場合、基本の手術料に加えて「時間外加算1」「休日加算1」「深夜加算1」のいずれかが算定できるが「手術前日の当直が診療科全体で年間12日以内(当直医が6人以上いる医療機関では年間24日以内)」という厳しい要件(施設基準)が設けられていた。ところが当直医が少ない状況では当直翌日に手術に入らざるを得ず、加算を算定できない施設も多かった。

そこで、本加算における施設基準の緩和を厚労省に求めたところ、2022年度改定で「各医師の手術前日の当直日数が4日以内で、2日以上連続で当直した回数が各医師について年4回以内」との要件に緩和された。診療科全体における当直回数が「医師1人あたり」の当直回数に関する要件に変わり、連続当直の回数にかかわる上限も追加された形となる。なお、要件緩和によって、加算が取れる病院がどの程度増えたかは今後検証が必要である。

3つの手術でロボット支援手術の術者要件が廃止

ロボット支援手術を実施するには「当該手術を10例以上経験している常勤医が1名以上配置されていること」との要件があった。しかし本来、保険収載の目的は当該手術を標準治療として普及させることにあるはずだ。我々はその目的の妨げとなるような術者要件を廃止するために、NCD(National Clinical Database)を用いて、手術成績と術者の経験症例数の関連について検討した。

解析対象は、2018~2019年にNCDに登録された胃がん、直腸がん、食道がんのロボット支援手術である。分析の結果、ロボット支援手術の経験症例数が少ない医師は難易度の低い易しい手術、ベテランの医師になるほど難易度の高い手術を担当している傾向にあり、合併症の頻度も変わらなかった。つまり、それぞれの施設で手術の適任者をしっかりと考えている証拠であり、わざわざルール(施設基準)で縛る必要はないのだ。このように訴えたところ、3つの術式については施設基準が廃止された。

良好な生存率が示された胃がんのロボット支援手術は増点

また多くのロボット支援手術は、腹腔鏡や胸腔鏡手術に比べて優越性が証明できていないため、術式の点数が据え置かれている状況である。しかし、ロボット支援手術の実施には材料費など多くのコストがかかる。我々は、厚労省に対してロボット支援手術の増点要望を出したところ、2022年度改定でロボット支援下の胃切除術は9,470点、胃全摘術は1万5,760点増点された。

増点の理由は、腹腔鏡下手術に対する生存率の有意差が証明されたためだ。2018年度の改定時、先進医療技術審査部会にて胃がんのロボット支援手術300例のデータをもって増点を求めたところ「安全性については評価できるが、有効性に関しては既存手術と同程度である。最終症例登録から3年間のフォローアップ終了時点で、無再発生存期間の成績を確認し評価する」との宿題が課されていた。追跡調査を行った結果、腹腔鏡下手術に対する3年生存率が有意に良好であったことから、最終的に増点が認められたのである。

なお、直腸がんと食道がんについては、合併症の頻度が少ないことを示す根拠をいくつか提示したが「患者目線でのアウトカム評価が不十分」との理由で増点見合わせとなった。

2024年度改定に向けて――患者目線での優越性の定義づけ、Kコードの整理など

そこで次なる取り組みとして、「既存手術と比べた患者目線での優越性」を定義づけるべく、ワーキンググループを設置して検討を進めている。すでに何度か検討を重ね、患者目線における優越性の評価軸として▽予後の改善▽予後の代用マーカーの改善▽機能温存――を挙げている。さらに、ロボット支援手術は入院期間の短縮や早期社会復帰などに寄与し、医療費削減につながる可能性がある。その点も材料としながら、2024年度改定に向けて厚労省と交渉を重ねていきたい。

診療報酬の手術区分「Kコード」も整理する必要がある。たとえば、肩甲骨、上腕、大腿の骨折観血的手術は「K046-1」というKコードでひとまとめにされており、部位によらず手術料は全て同じである。しかし、手術や麻酔にかかる時間は部位によって異なり、当然手術にかかるコストも大きく違うはずだ。不適切にまとめられているKコードを見直していきたい。

病院経営に影響を及ぼす光熱費高騰――診療報酬の引き上げでカバーを

最後に、医療機関の経営者として、現在全国の医療機関が直面している問題について言及したい。昨年からの円安や原料費高騰に伴う光熱費高騰により、多くの企業同様医療機関も厳しい経営状況に陥っている。

私が統括している埼玉県立病院機構(全4病院)では、2023年度の光熱費が2021年度の倍になることが見込まれている。具体的には、2021年度の光熱水費は医業収益全体のうち約3%であったものが、2022年度には約4.5%に増大、2023年度は約7%にまで膨れ上がる見込みだ。その背景には、大手電力会社が経済産業省に対して2023年4月以降の電気料金値上げ(30~40%)を要請していること、新電力会社(電力小売業者)の撤退が相次ぎ大手電力会社からの送電に頼らざるを得ない事情、暖房に要する燃料費の高騰――などがある。金額にすると、光熱費の総額は、当機構の4病院合わせて最大31.5億円になる見込みである。医療機関の診療費は全国一律で定額であり光熱水費の増加を医療費に転嫁できないことから、この状況で病院経営を続けていくことは困難であり、診療報酬の引き上げを強く望む。

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