2022年10月13日掲載
医師・歯科医師限定

【第119回日本内科学会レポート】慢性腎臓病(CKD)対策における地域連携・多職種連携(3100字)

2022年10月13日掲載
医師・歯科医師限定

島根大学医学部附属病院 腎臓内科 診療教授・診療科長/血液浄化治療部 部長

伊藤 孝史先生

自覚症状の乏しい慢性腎臓病(以下、CKD)は早期発見と適切な治療が重要である。CKDの重症化予防とCKD患者(透析患者および腎移植患者含む)のQOLの維持・向上を図るために、2018年に厚生労働省から『腎疾患対策検討会報告書』が発表された。この中で、CKD対策で実施すべき取り組みとして(1)普及啓発(2)医療連携体制の整備(3)診療水準の向上(4)人材育成(5)研究の推進が掲げられている。

第119回日本内科学会総会(2022年4月15~17日)にて、伊藤 孝史氏(島根大学医学部附属病院 腎臓内科 診療教授・診療科長/血液浄化治療部 部長)は、「医療連携体制」と「人材育成(多職種連携)」にフォーカスし、その重要性と具体例について講演を行った。

CKD対策における医療連携体制の整備

医療連携体制整備の目的

はじめにCKD対策における医療連携体制の整備について解説する。

日本では成人の約7人に1人がCKDであるといわれており、全ての患者を腎臓専門医療機関のみで診療することは困難である。軽症のうちは、血圧・血糖管理、減塩指導などの一般的な内科診療が中心となるが、重症化すると合併症予防や適切な腎代替療法(血液透析、腹膜透析、腎移植など)の選択や準備など、専門性の高い診療が必要だ。そこで、紹介・逆紹介、2人主治医制など、「かかりつけ医と腎臓専門医療機関の連携」を推進していく必要がある。

医療連携体制整備のための取り組み――紹介基準の周知、健診での受診勧奨

これを推進していくための課題として、まず腎臓専門医や腎臓専門医療機関へ紹介すべき基準の周知が十分ではないことが挙げられる。日本腎臓学会は日本医師会監修のもと「かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準」を作成し、公開している(下図)。ぜひ、外来診療中にいつでも見られる状態にしていただきたい。

一般社団法人 日本腎臓学会より引用

また健診は、CKDやその発症リスクとなる糖尿病、高血圧などを発見できる非常によい機会だ。厚生労働省が2018年に作成した「CKDに関する健診判定と対応分類例」などを参考にしながら、各健診実施機関が適切な受診勧奨・保健指導を行うのが望ましい。

医療連携体制整備の現状

CKDの普及啓発ならびに診療連携体制構築に関するアンケート調査(2022年度末に実施)では、参加した22都道府県に対し「診療連携体制のために会議体の設置をしているか」と質問をした。結果、35の会議体があり、うち都道府県ブロックが15、市区町村ブロックが12、二次医療圏が6であった。

さらに「エリアにおけるCKD診療連携制度はあるか」という問いに対しては、15の都道府県から回答が得られ、35の制度があることが分かった。詳細を見ると、7割以上は腎疾患対策検討会報告書が出される前から運用されており、連携制度のカバー範囲は市町村単位が多かった。連携基準は先ほどの紹介基準に準拠しており、連携パスや連携様式も使用されていた。医師会や行政との連携状況も良好であるという回答が多く、全体的評価としては約半数が「S:優れている」「A:評価できる」と答えている。

島根県における事例

一方、さらなる課題として以下が挙げられる。

  • 診療連携体制(行政を含む)の地域差(全国、都道府県内)
  • 好事例の横展開の不足(全国、都道府県内)
  • 腎臓専門医や腎臓病療養指導士の不足・参画不足


この対策として実施している島根県の診療連携体制の構築について簡単に紹介する。島根県では、島根大学を中心に関連病院・基幹病院に腎臓内科医を派遣し、地域のかかりつけ医と腎臓専門医の2人主治医制をとっている。腎臓病療養指導士や臨床工学技士などのコメディカルも参画し、CKDの早期発見や最新治療の提供などに務めている。

また、出雲市では2018年から「出雲市CKD重症化予防プログラム」を運用している。特定健診で抽出されたCKD患者を健診医またはかかりつけ医で再度精査し、必要に応じて腎臓専門医に紹介するという流れだ。しかし、特定健診で「要再検査」とされても、再検査を受けていない人は多い。実際に2018年度の出雲市の調査では、要再検査とされた人の29.3%しか再検査を受けていないことが分かっている。

そこで我々は2019年の特定健診前の説明会に赴き、CKDに関する疾患啓発を行った。すると驚くべきことに、その年の再検査実施率は47.2%と前年より大きく向上し、多くの患者を腎臓専門医や保健指導につなげることができた。さらにその翌年、2020年には再検査実施率が66.2%にまで向上し、未把握の割合は0.9%にまで低下した(2018年の未把握率は46.9%、2019年は33.5%)。今後、透析患者の減少に期待したい。

CKD対策における人材育成(多職種連携)

人材育成の目的

CKD対策における人材育成(多職種連携)は、腎臓病専門医の不足や偏在のなか、CKDに関する基本的な知識を有する看護師・保健師、管理栄養士、薬剤師などを育成することが大きな目的となる。さらには腎臓専門医療機関が少ない地域では、腎臓病療養指導士などがかかりつけ医と連携してCKD診療体制の充実を図る必要がある。

腎臓病療養指導士の育成

日本腎臓病協会は、日本腎臓学会、日本腎不全看護学会、日本栄養士会、日本腎臓病薬物療法学会と共同し、2017年に腎臓病療養指導士の制度を開始した。受験資格は看護師、管理栄養士、薬剤師であるが、今後は適用を拡大するべく検討中である。腎臓病療養指導士は、医療施設および地域におけるCKD診療の担い手であり、CKDに関する基本的な知識と対策、予防に関する理解・習熟が求められる。

2022年現在、全国に約2,000人の腎臓病療養指導士がいる。そのうち約6割が看護師(保健師含む)、管理栄養士と薬剤師がそれぞれ約2割を占める。また地域別にみると、関東、中部、近畿といった、大都市を持つ地域に多い傾向だ。また腎臓専門医との関係をみると、腎臓専門医が多い地域は腎臓病療養指導士も多い傾向にある。

人材育成(多職種連携)の課題

人材育成における大きな課題として地域差や職種差が挙げられる。人材の継続的な育成、適正な配置を継続していく必要があるだろう。また、CKD対策へのモチベーションを維持させるためには、腎臓病療養指導士の情報交換や活躍の場を提供することも大切だ。現在、各都道府県に腎臓病療養指導士連携協議会などを作る動きが全国的に進んでいる。

さらには保険収載に向けて多職種連携の有用性を客観的に示すべく、2020年から「慢性腎臓病患者特有の健康課題に適合した多職種連携による生活・食事指導等の実証研究」が厚生労働省の科学研究費で認められている。

FROM-J研究――多職種連携の有用性

2008年に開始した「FROM-J研究」は、CKD患者をCKD診療ガイドに沿った診療のみ行う群(コントロール群)と、それに加えて多職種が介入して受診促進や生活・食事指導を行った群(介入群)に分けた比較研究である。

3年半の観察研究の結果、管理栄養士による定期的な食事指導を行うことなどによって、CKDステージG3の患者においてeGFR低下抑制効果を認めた。さらに10年の結果でも同様の結果が得られ、介入群では腎臓専門医への紹介と逆紹介の割合も高いことが示された。今後も多職種連携の有用性を示すデータを出せるよう研究を進めていく必要があるだろう。

講演のまとめ

  • CKD対策では、普及啓発、医療連携体制の整備、診療水準の向上、人材育成(多職種連携)、研究の推進が5本柱となる
  • 医療連携体制の整備としては、健診からかかりつけ医へ早期受診を促し、受診後は腎臓専門医との2人主治医制に加えて腎臓病療養指導士を含む多職種が介入する必要がある
  • 人材育成(多職種連携)においては、特に腎臓病療養指導士の育成が重要であるが、地域差などの課題が残る
  • 多職種が介入することによるeGFR低下抑制効果が認められており。今後もさらなる有用性を示していく必要がある

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