2022年06月07日掲載
医師・歯科医師限定

【第119回日本内科学会レポート】膠原病における間質性肺疾患(ILD)診断・治療のポイント――全身性強皮症や多発性筋炎/皮膚筋炎での特徴とは(6800字)

2022年06月07日掲載
医師・歯科医師限定

日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授 / 日本医科大学付属病院 リウマチ・膠原病内科 部長 / 強皮症・筋炎先進医療センター センター長

桑名 正隆先生

膠原病はT2T(treat to target:目標達成に向けた治療)という考え方が普及し、予後が飛躍的に改善している。しかし、いまだ難治性の病態もいくつか残されており、その代表が「間質性肺疾患(ILD)」だ。特に全身性強皮症(SSc)や多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)においては死因の3分の1以上を占めている。

日本医科大学付属病院 リウマチ・膠原病内科部長の桑名 正隆氏は、第119回日本内科学会総会・講演会(2022年4月15~17日)にて、「膠原病における間質性肺疾患の最新治療」と題し講演を行った。

「膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020」作成の背景

進行性線維化を伴うILD(PF-ILD)――疾患の挙動/病態による再分類

間質性肺疾患(ILD)は、肺を構成する間質に病変の主座が存在する多彩な疾患群を含めた総称だ。放射線や薬剤などによるもの(医原性)、粉じん吸入などによるもの(環境性)、膠原病やサルコイドーシスといった全身性疾患によるものがあり、原因不明のものは特発性間質性肺炎(IIPs)と呼ばれる。

IIPsは慢性線維化間質性肺炎、喫煙関連間質性肺炎、急性・亜急性間質性肺炎に分類され、さらに病理組織やHRCT(高分解能CT)をもとにした6つの形態学的パターンに分類される。このうち、通常型間質性肺炎(UIP)というパターンを呈する「特発性肺線維症(IPF)」は非常に予後不良であり、これまで精力的に創薬がなされてきた。その結果、IPFにおける抗線維化薬の効果に関するエビデンスが複数出されてきた。

抗線維化薬はIPFやUIPだけでなく、同様に肺の線維化による難治性の疾患群に効果がある可能性が想定されたことから、それらは「進行性線維化を伴うILD(PF-ILD)」という1つのフェノタイプとして提唱された。膠原病に伴うILDの中にもPF-ILDフェノタイプを呈する例が含まれている。

PF-ILDの作業仮説は、肺で炎症などが起こった結果、下流で非可逆的な病変が進行するとされている。特にIPFは上流イベントが非炎症性であることから、下流の線維化を抑える薬剤が有効であると想定されていた。そこで、上流のトリガーにかかわらず、下流の線維化を抑える抗線維化薬はIPFだけではなく、PF-ILDに分類される疾患群に効くであろうという仮説が提唱された。

それを検証するために、抗線維化薬の1つである「ニンテダニブ」をIPF、全身性強皮症に伴うILD、PF-ILDフェノタイプを呈するさまざまなILDに投与した3つの臨床試験では、いずれにおいても努力肺活量(FVC)の低下を半分程度抑制する結果が得られた。PF-ILDというフェノタイプが、治療反応性という点からも証明されたことになる。なお注目すべきは、多彩な疾患に伴うILD、非特異性間質性肺炎(NSIP)などUIPではないパターンも含まれていたことだ。このことから、従来考えられていた疾患名や形態学的な分類ではなく、疾患の挙動(Disease behavior)/病態に基づく再分類によって治療を判断する重要性が提唱されるようになったのだ。

こうした背景から、膠原病内科医と呼吸器内科医が手を組み、膠原病に伴うILDの診断や治療を次のステージに進めることになった。そして実現したのが、日本呼吸器学会と日本リウマチ学会の共同による「膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020」の発刊だ。

エビデンスが乏しい領域もまだ多くあるが、世界初のガイドラインを示したことは、本領域を発展に導く大きな原動力になるだろう。

膠原病におけるILD

膠原病における全ての疾患でILDを合併する可能性があるため、膠原病患者を診察した際にはILDの評価が必要だ。診断のプロセスとしては、ILDのスクリーニング後、ILDを認めた場合には重症度評価・予後予測を行い、それに基づき治療適応を判断する。可能な限り病態に基づき一次治療を行い、その有効性を評価していく。

以下、診断のポイントとなる点を解説していく。

ILDのスクリーニング

まずILDの有無を調べるために、自覚症状、身体所見、血清マーカーなどを評価し、必要に応じて呼吸機能検査、運動誘発検査を行う。最終的な診断には、画像検査(CT/HRCTなど)が必要だ。しかし、放射線被ばくのリスクがあることから、患者のILD発症リスクなどを見極め、CT/HRCTの必要性について慎重に判断したうえで実施する必要がある。

重症度評価・予後予測

重症度評価と予後予測は、診療においてもっとも難しいポイントだ。同じILDでもほとんど進行しない症例から、短期間で急激に悪化する症例まであり、形態学的分類での予測は難しい。そこで「膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020」では、疾患の挙動に応じた臨床分類と治療目標を記載している。急性・亜急性の発症様式を示す3タイプ、慢性的に経過する3タイプに分け、疾患の挙動に対して治療目標を細かく設定している。

急性・亜急性の場合、基本的には治療介入とする。一方慢性の場合、継続的な進行が予測される症例やすでに重症化している症例は治療介入とするが、進行リスクが低い症例については、治療介入せず、経時的な進行の度合いをフォローする必要がある。ILDの進行、予後予測因子について、これまで行われた研究でいくつかの報告がなされている。

薬物療法

急性・亜急性の場合、治療反応性や予後などを鑑みて治療の強度を調整したうえで、ステロイドや免疫抑制薬、分子標的薬による免疫抑制療法を行う。慢性の場合は、免疫抑制療法に加えて抗線維化薬の選択肢がある。

先に述べたPF-ILDの作業仮説から考えると、まずは免疫・炎症に対する免疫抑制療法を行い、進行する場合には抗線維化薬への切り替え、または免疫調整療法との併用療法が想定されるが、現時点で治療選択に関する明確なエビデンスはない。

治療効果の評価

ILDの進行は、HRCT、呼吸機能検査、運動誘発試験(6分間歩行試験)、PROs(Patient-reported outcomes)などを組み合わせて評価する。

海外のエキスパートがまとめた膠原病に伴うILDの進行の定義としては、「10%以上のFVC低下」あるいは「5~10%のFVC低下、かつ15%以上の肺拡散能(DLco)低下」とされている(下図参照)。

Distler O,et al.Eur Respir J. 2020 May 14;55(5):1902026.より引用

しかし、ここで考えなければならないのは「拘束性換気障害を起こす原因」だ。たとえば、多発性筋炎/皮膚筋炎では呼吸筋の筋力低下、全身性強皮症では胸部の皮膚硬化によってFVCが低下していることもある。そのため呼吸機能だけでなく、HRCTや自覚症状などを総合的に勘案して判断することが重要だ。ただし、自覚症状は客観性が乏しいため、呼吸機能やQOLとの相関が証明されているPROsの活用が推奨される。外来で患者に記入してもらうだけで簡便に変化を捉えることができる。

多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)-ILDの疾患概論

予後不良因子の1つ「抗MDA5抗体陽性」

PM/DM-ILDは形態学的にやや特殊だ。Fibrosing OP(FOP)あるいはNSIPとOPのオーバーラップの形態をとることが多いうえに、肺胞内の器質化や上皮傷害が強く、一部DAD(びまん性肺胞傷害)を呈することもある。疾患の挙動でみると、PM/DMの多くは急性・亜急性で、治療抵抗性の病態が多い。

治療反応性を簡便に予測できるものに、抗ARS抗体や抗MDA5抗体といった「自己抗体」がある。抗ARS抗体陽性例は初期の治療反応性はよいが、免疫抑制薬の減量によって再燃を繰り返し、結果的に慢性の線維化が進行するタイプが多い。一方、抗MDA5抗体陽性例の多くは、短期間で急速に進行して呼吸不全に至るとされている。我が国のPM/DM-ILDレジストリであるJAMIコホートでは、約500例中100例近くが観察期間2.5年の間に死亡し、そのほとんどは抗MDA5抗体陽性であったことが分かっている。

最近注目されているのは、抗MDA5抗体陽性の症例とCOVID-19の重症肺炎との類似性である。血管障害が強く短期間で全肺に及ぶ重症肺炎をきたすこと、血中から多種類の炎症性サイトカインが検出されるサイトカインストームを呈する点が一致している。

また、抗MDA5抗体陽性例は、冬期(11〜3月)に増えることや、川や湖など淡水の近くで患者が多いなど、環境要因との関連が示されている。さらに、抗MDA5抗体陽性例で血中の免疫担当細胞を解析すると、ウイルスに対する過剰な免疫反応のシグナルがみられることも分かっている。こうしたことから、抗MDA5抗体陽性例の発症要因に関する研究が進むことが期待される。

その他の予後不良因子

抗MDA5抗体陽性のほか、独立した予後不良因子として高齢であること、CRP上昇、SpO2の低下などがJAMIコホートにて示されている。また、抗MDA5抗体陽性、CRP≧1.0mg/dL、KL-6≧1,000U/mLの3つの条件がそろった場合(MCKモデルと呼ぶ)、強度の高い治療をしても半数以上の患者が亡くなっているという報告もある。

抗MDA5抗体陽性例の治療

最重症と考えられる症例には、高用量のステロイド、シクロホスファミド、カルシニューリン阻害薬による3剤併用療法が行われる。京都大学の前向き研究では3剤併用療法による生存期間の延長効果が示されているが、強力な免疫抑制による感染症リスクもあることから、治療適応の的確な見極めが重要だ。

これを踏まえて、「膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020」ではPM/DM-ILDの治療アルゴリズムを提案している。急性・亜急性期の場合、まずは抗MDA5抗体陽性/陰性を判定し、陽性の場合には予後不良因子を評価したうえで、治療強度を調整することを推奨している。しかしながら、本疾患は重篤な病態であるため、プラセボを置いた前向き介入試験は行われていない。エビデンスレベル向上のためには、今後前向きコホートデータを用いた研究を進めていく必要があるだろう。

抗MDA5抗体陽性例の初発症状は皮膚症状が多い。爪の周りや手掌側にびらんを伴った皮膚症状が出現し、短期に進行する。初期は呼吸器症状のないケースも多く、病変としては胸膜直下にランダムにみられるすりガラス状陰影で、単純X線では検出が難しい。こうした症例を診た場合には専門医への速やかな紹介が望ましい。

全身性強皮症(SSc)-ILDの疾患概論

治療適応の判断

SScの死因としてもっとも多いのはILDだ。欧州のエキスパートによるコンセンサス・ステートメントでは、SScと診断したら全例でHRCTによるILDのスクリーニングをすることが推奨されている。疾患の挙動ではいずれも慢性に分類される。進行しないものから短期間に進行するものがあり、治療の必要な症例は3~4割程度とされている。

治療適応については、一般的にHRCTにおける病変の広がりによって判断する。これまで、病変の広がりが20%以上のものは治療適応とし、20%未満の場合には経過を見て治療適応を判断するとされてきた。しかし、病変の広がりが大きくない症例であってもその後に進行するケースもあるため、「膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020」ではリスクによって見極め、軽症であっても進行リスクが高ければ治療介入することを提案している。なお、臨床での判断が難しいケースでは、注意深いモニタリングにより進行性の評価をしたうえで治療介入を行うのが一般的だ。

SSc-ILDの治療――ニンテダニブやトシリズマブの可能性

SSc-ILDの治療には質の高いエビデンスがある。免疫抑制薬のシクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチルの2剤については、プラセボに対してFVC低下を抑制するという短期的効果が示されているが、長期予後ではプラセボとの明確な差はみられなかった。

そこで登場した新たな薬剤が抗線維化薬のニンテダニブで、プラセボに対してFVCの低下を44%抑えたと報告されている。またIL-6阻害薬であるトシリズマブが、早期びまん皮膚硬化型に伴うILDに対してFVC低下を抑制するとの結果も得られている。これらについて長期的データはまだないが、従来の免疫抑制薬にこれらを組み合わせていく治療法が期待できる。

なお、PF-ILDの作業仮説は、上流に炎症や免疫反応が起こり、下流で線維化が起こると考えられていたが、SScの病態解明が進むにつれ、単純にそうとは言い切れないことが分かってきた。病態は血管内皮障害から始まり、周囲に免疫担当細胞、炎症細胞、前駆細胞が動員され、線維化慢性炎症や免疫反応が相乗的に作用することで、筋線維芽細胞から大量の細胞外マトリックス産生が誘導されると考えられている。

しかしニンテダニブは、筋線維芽細胞の最終分化に対してだけではなく、単球マクロファージ系や血管内皮も標的としている。単に上流・下流ではなく、複雑に絡み合った病態を形成していると考えられることから、今後はより早い段階からの免疫抑制療法と抗線維化薬の併用も想定されるだろう。

関節リウマチ(RA)-ILDの疾患概論

関節リウマチ(RA)にILDを合併する頻度は少ないが、RAの患者数が多いことから臨床で遭遇するケースは多い。RA-ILD特徴は、形態学的または疾患の挙動パターンが多彩であることだ。

RA-ILDで注意が必要なのは急性増悪だ。たとえば、軽症であっても感染や関節炎の悪化、薬剤変更などのイベントを介して、急激に悪化して呼吸不全となることもあり、こうした症例では救命が非常に難しい。急性増悪のリスクとしてUIPがあり、HRCTにおける病変の広がりとUIPパターンを組み合わせて進行や予後予測をすることが提唱されている。

RA-ILDのアルゴリズムはまだ策定されていないが、まずは滑膜炎の治療をすることが重要だ。これによってILDの進行や新規発症を防げるという間接的なデータが示されている。そのうえで、ILDの発症様式(急性・亜急性、慢性)を判断し、疾患の挙動に基づき治療介入および治療薬を検討する。その際、UIPを十分に勘案し、抗線維化薬の適応についても確認する必要がある。

自己免疫特徴を伴う間質性肺炎(IPAF)

IPAFの提唱と膠原病の診断

ここまで膠原病を前提にしてILDの解説をしてきたが、臨床ではILDと診断された後に膠原病が発見されるケースも多い。ILDの診断フローチャートでも、ILDを疑った場合には、膠原病をはじめとした原因が特定できるILDを除外する必要性が示されている。

しかしながら、膠原病を強く疑う臨床症状や検査異常があるものの、分類基準に合致しない症例は非常に多い。そこで、こうした症例に対する学問的な基準として「IPAF(Interstitial pneumonia with autoimmune features)」が提唱されている。

しかしここで重要なのは、実際には「分類基準を満たさない膠原病」もあることだ。膠原病医は分類基準で診断しているのではなく、ある一定の経験に基づいた診断を行っている。たとえば、レイノー現象や手指の腫脹、爪郭毛細血管、爪上皮出血点などがあれば皮膚硬化がなくてもSScと診断することもある。ヘリオトロープ疹、Gottron丘疹、V徴候、ショール徴候、メカニックハンドなどがあれば筋症状がなくてもDMと診断する場合がある。

より客観的に判断できる指標は血液検査での自己抗体だ。IPAFの基準に疾患特異的な自己抗体が含まれている。IPAFのうち、抗ARS抗体を含めたPM/DM関連自己抗体陽性例については予後良好とされている。そして、これらの自己抗体があった場合はPM/DM-ILDに分類したほうが、治療反応性や予後予測には役立つと考えられる。最近は、抗ARS抗体陽性例に対して抗合成酵素抗体症候群(ASSD)という疾患概念が提唱され、現在分類基準が策定されている。

膠原病診療における自己抗体検査のピットフォール

ただし抗ARS抗体や抗MDA5抗体は、対応抗原が核ではなく細胞質にあるため、通常の抗核抗体検査では「陰性」となることがある点に注意が必要だ。同様にRFや抗CCP抗体も抗核抗体検査のみでは判断できない。自己抗体検査には一定の確率で偽陽性/偽陰性がみられるため、最終的には臨床徴候と組み合わせて判断することが重要だ。

今後の展望

「膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020」の発刊によって、ようやく膠原病に伴うILD診療の骨組みが完成した。今後この内容をさらに充実させていくことが重要だ。今後のエビデンス構築のためには、症例数を多く集めた前向きコホート研究や介入研究が欠かせない。そのためには、スクリーニングで発見したILD症例、検診や偶発的に撮ったCTでILDを指摘された膠原病患者症例などを、いかに専門施設に集約させるかが重要になる。

また、客観的な指標を組み合わせた評価方法、個々の症例の予後予測や治療反応性に基づいた治療法の検討も今後の大きな課題だ。膠原病に伴うILDという難治性疾患を克服するためには、内科医が分野を超えて協力し合う必要があるだろう。

講演のまとめ

  • 膠原病におけるILDの診断・治療には疾患の挙動による分類を用いる
  • ILDの進行はHRCT、呼吸機能検査、運動誘発試験、PROsなどの組み合わせによって評価する
  • PM/DM-ILDにおける治療反応性の予測には抗ARS抗体や抗MDA5抗体といった自己抗体が有用で、抗MDA5抗体は予後不良因子とされている
  • SSc-ILDにはニンテダニブやトシリズマブの有効性が示されている
  • RA-ILDは急性増悪に注意しながら、まずは滑膜炎の治療を行うことが重要
  • ILD患者では分類基準に合致しない膠原病を伴うこと多いが、臨床症状をよく観察して診断することが重要
  • 膠原病に伴うILD診療のエビデンス構築のために、症例数を多く集めた前向きのコホートや介入研究が必要である

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