2022年02月28日掲載
医師・歯科医師限定

【第64回日本糖尿病学会レポート】糖尿病患者における大血管症のリスクファクター管理と予防(6500文字)

2022年02月28日掲載
医師・歯科医師限定

大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科 講師

片上 直人先生

糖尿病患者の動脈硬化や心血管疾患などの発症を予防するには、生活習慣の改善や、効果不十分な場合は薬物療法によって危険因子に対する介入を行う必要がある。また、治療方法や薬剤の選定に際しては、エビデンスに基づいたリスクファクター管理が極めて重要だ。

第64回日本糖尿病学会年次学術集会(2021年5月20~22日)にて行われた教育講演の中で、片上 直人氏(大阪大学大学院 医学系研究科 内分泌・代謝内科 講師)は、糖尿病患者における大血管症のリスクファクター管理と予防についてエビデンスに基づいて解説した。

糖尿病患者における心血管疾患の実情

糖尿病患者の心血管疾患の特徴としては、主に以下が挙げられる。

・病変が高度でびまん性であり、石灰化病変・多枝病変(冠動脈病変)・膝下病変(末梢動脈疾患)もまま見られ、血行再建術が困難となるケースが多い

・非糖尿病患者に比べて心血管疾患発症後の予後が悪い

 ・急性冠症候群患者における死亡リスク 33%増

 ・脳卒中患者における脳卒中再発リスク 82%増

 ・末梢動脈疾患患者における下肢切断リスク 47%増

神経障害などが発生するため、臓器虚血が存在しても明確な症状を欠くケースが多い

また糖尿病患者では、糖尿病発症前の耐糖能異常の段階ですでに動脈硬化が進行しているため、心血管イベントによる死亡率は有意に高い

Finnish population-based研究では、糖尿病患者と非糖尿患者における7年間の心筋梗塞発症率を比較している。この研究では、心筋梗塞の既往のない糖尿病患者と心筋梗塞の既往のある非糖尿病患者の心筋梗塞発症率はほぼ等しいことが示された。

加えて、102件の前向き研究のメタ解析結果からも、糖尿病は脳心血管疾患の発生・死亡リスクを高めることが確認されている。

さらに日本人を対象とした研究の結果をみても、糖尿病患者は非糖尿病患者と比較して心血管疾患発症率が高いと示されている。

日本人糖尿病患者の死因の経年変化を見てみると、近年、血管障害(脳血管障害、虚血性心疾患、慢性腎不全)による死亡割合の減少傾向が持続している。しかし、脳梗塞や心筋梗塞といった動脈硬化性疾患は、依然として日本人の主たる死因の1つであると同時に、寝たきりや下肢切断などQOLを損なう原因としても重要であることに変わりはない。こうしたことから、糖尿病患者の診療においては動脈硬化をより早期に診断し、より有効な治療法を選択することが望まれている。

動脈硬化の進行と危険因子のリスク評価

動脈硬化症の発症・進展にはさまざまな環境因子と遺伝子が複雑に絡み合っている。高血糖、高血圧、脂質代謝異常、肥満、慢性腎臓病といった古典的な危険因子を介して、あるいは介さずに動脈硬化を進展させる。

日本人2型糖尿患者を対象としたJDCSにおいても、トリグリセライド値、LDLコレステロール値、HbA1c値、収縮期血圧、現在の喫煙量が、冠動脈疾患の重要な危険因子であることが確認されている。これら多くの研究から、糖尿病患者において血糖管理状態、脂質異常症、血圧、喫煙などが心血管疾患の重要な危険因子ということが分かる。

また、糖尿病を含む古典的な危険因子が集積するほど、心血管死のリスクが高くなることも確認されている。したがって、脳心血管イベントのリスク評価においては、まず古典的危険因子の有無や程度の評価を行う必要である。

ガイドラインなどでは、古典的危険因子(年齢、性別、高血糖、脂質異常症、高血圧、肥満、喫煙)の有無や程度に基づいた算出スコアによるリスク評価が推奨されている。また、リスクスコアのみならず、サブクリニカルな動脈硬化を反映する機能的・形態的マーカーの利用も有効だろう。たとえば、内皮機能の指標としてはFMDやRH-PAT、血管の弾性、硬さの指標としてはPWVやCAVIがある。また頸動脈の動脈硬化性変化を非侵襲的に評価できる指標としては、頸動脈エコーがある。これらはいずれも保険収載されており、それぞれに一長一短はあるものの基本的には低侵襲、簡便、低コストで実施できるため、心血管疾患ハイリスク群スクリーニング検査として有用である。

片上氏講演資料(提供:片上氏)

動脈硬化の進展や心血管疾患の発症を抑制するには

動脈硬化を予防するには、まずは生活習慣の改善、それでも不十分な場合には薬物療法によって危険因子に対する介入を行う。

生活習慣改善の効果を検討した研究として、Look AHEAD研究がある。本研究では肥満のある2型糖尿病患者5,145人を、カロリー制限や身体活動の増加によって7%の体重減少を目指す生活習慣改善群と対象群に分け、心血管イベント発症リスクを平均10年間にわたって追跡した。研究開始1年後には、生活習慣改善群で体重、HbA1c、血圧の大きな低下が認められたが、最終的にその差は小さくなっていた。また、生活習慣の改善による心血管イベントの抑制効果は証明されなかった。生活習慣の改善が危険因子の管理に好影響をもたらすことは明らかだが、糖尿病患者の心血管イベントを抑制するという直接的なエビデンスは少ないのが現状である。

1型糖尿病患者に対する強化療法の有効性を検討した介入試験DCCT研究では、1型糖尿病患者を、強化療法群と標準療法群に割り付け、平均6.5年間にわたって血糖コントロールと糖尿病合併症の累積発症率を比較している。その結果、強化療法は標準療法に比べ、HbA1cを改善すること、重症低血糖が多いこと、細小血管症を抑制することが示された。しかし、大血管症の発症に治療群間差はなかった。

DCCT研究終了後に実施された観察研究(EDIC研究)では、治療方法については主治医に一任し、引き続き冠動脈の石灰化や頸動脈IMTの進展、心血管イベントの発生などの大血管症を観察している。その結果、DCCT研究当時の強化療法群では標準療法群に比較して、EDIC研究1~6年目にかけての頸動脈IMTの進展が有意に抑制されていたこと、EDIC研究7~9年時の冠動脈石灰化が有意に抑制されていたことが明らかとなった。

さらにDCCT研究開始時から17年間の心血管イベントの発症リスクを治療群間で比較した結果、強化療法群では心血管イベントや主要心血管イベントの発症が有意に抑制されていた。すなわち、発症早期の強化インスリン療法による血糖管理は年余にわたって影響を及ぼし、動脈硬化の抑制、さらには心血管イベント発症の抑制につながる可能性があるのだ。

一方、2型糖尿病患者に対する強化療法の有効性を検討した研究として、UKPDS研究が知られている。UKPDS研究では英国の23施設において新規に診断された2型糖尿病患者を、強化療法群と従来療法群に無作為に割り付け、糖尿病に関連したエンドポイント(死亡、大血管症、細小血管症など)の発生リスクを比較している。従来療法群と比較して強化療法群では、10年間のHbA1c中央値が有意に低下していた。

また最小血管合併症の発症リスクは、強化療法によって25%有意に低下していた。しかし、全死亡や心筋梗塞、脳卒中に関しては発症リスクの有意な低下は認められなかった。

片上氏講演資料(提供:片上氏)

その後、試験終了とともに両群とも任意の治療に切り替え、さらに10年間フォローアップを行い、糖尿病に関連したエンドポイントの発生リスクを比較している。その結果、試験終了時には有意なリスク低下が認められていなかった全死亡や心筋梗塞についても、10年経過時点では強化療法群で有意なリスク低下が認められた。一方、脳卒中に関しては10年経過時点においても両群間において有意差は認められなかった。つまり、2型糖尿病患者に対する早期からの長期にわたる積極的な血糖管理は、将来的な心血管イベントの抑制に大きな影響を及ぼす可能性がある。

これまでの研究結果を受け、厳格な血糖管理が大血管症を抑制するのかを検証するため、ACCORDADVANCEVADTといった臨床試験が実施された。これらの研究の結果、心血管疾患の既往がある、あるいは心血管疾患の危険因子が集積しているケースなどハイリスクの2型糖尿病患者に対して厳格な血糖管理を行っても、大血管合併症や全死亡を抑制するのは困難であるということが示された。

また、これら試験の追跡研究においても、大血管合併症や全死亡の抑制効果は確認されなかった。期待していたような結果が得られなかった理由についてはさまざまな考察がなされているが、UKPDS研究と異なり糖尿病診断後早期からの介入ではなかったこと、厳格な血糖管理に伴って体重や低血糖が増加したことが関連しているのではないかと推測されている。

低血糖・インスリン抵抗性による心血管疾患リスク

片上氏講演資料(提供:片上氏)

低血糖は低血糖昏睡や脳死の原因となるだけなく、交感神経系の活性化を介した不整脈や、動脈のスパズムやプラーク破綻を誘発することによるアテローム血栓症を引き起こす。炎症などを惹起することによって動脈硬化そのものを進展させる。

実際にACCORDやADVANCE、VADTの各試験において、重症低血糖を起こした患者では、起こさなかった患者と比較して全死亡や心血管死のリスクが数倍高くなっていたことが報告されている。加えて、2型糖尿病患者を対象にした10試験のメタ解析結果では、重症低血糖を起こした患者で心血管イベントのリスクが有意に高いことが確認されている。

一方、食後高血糖は酸化ストレスなどを介して動脈硬化を促進することが知られている。食後高血糖と頸動脈硬化症の関連を調べた研究では、HbA1cが同程度であっても食後血糖の上昇が大きいほど、頸動脈のIMT肥厚が高度であると示されている。

またDECODA研究では、空腹時の血糖値よりも負荷後2時間の血糖値が、心血管死のハザード比に強く影響することが明らかとなっている。加えて肥満や内臓脂肪の蓄積を基盤としたインスリン抵抗性は、さまざまな機序を介して動脈硬化を進展させる。

このようにHbA1c高値に代表される慢性高血糖のみならず、食後高血糖やインスリン抵抗性、また薬物療法中の患者においては低血糖も糖尿病における動脈硬化・心血管イベントのリスクとなり得る。

糖尿病における多因子介入の有効性

糖尿病患者の多くは高血糖だけでなく、肥満、高血圧、脂質異常も伴う。したがって、糖尿病の心血管リスク低減にはこれら複数の因子に対する介入・包括的管理が効果的である。

2型糖尿病患者に対する多因子介入、包括的管理の有効性を検討した研究としてSteno-2研究がある。この研究では、微量アルブミン尿を伴う2型糖尿病患者を強化多因子療法群と標準的多因子療法群に無作為に割り付け、心血管イベント抑制効果を検討している。

その結果、強化多因子療法群では主要心血管イベントの発症並びに、細小血管合併症関連イベント(糖尿病性腎症、糖尿病網膜症、自律神経障害)の発症・進展が50%以上抑制された。

また同研究では、平均7.8年間の介入ステージ終了とともに両群とも強化多因子療法に切り替え、さらに平均5.5年間フォローアップを行い、全死亡、心血管イベントの発生リスクを比較している。その結果、介入期間中に強化多因子療法に割り付けられていた患者のほうが、標準的多因子療法に割り付けられていた患者と比較して総死亡が46%、心血管イベントが59%抑制されていることが示された。

一方、J-DOIT3研究では、高血圧または脂質代謝異常のある日本人2型糖尿病患者を、従来療法群と強化療法群にランダムに割り付け、血糖、血圧、脂質へ総合的な介入を行い、大血管障害を含めた合併症の発症・進展抑制効果を評価した。強化療法群ではHbA1c6.2%未満、血圧120/75mmHg未満、LDLコレステロール値80mg/dL未満という目標値が設定された。

その結果、介入研究終了時点においてHbA1cは強化療法群6.8%に対し従来療法群7.2%、収縮期血圧は強化療法群123mmHgに対し従来療法群129mmHg、LDLコレステロール値は強化療法群86mg/dLに対し従来療法群104mg/dLと、いずれの指標においても統計学的に有意な差が認められた。

主要評価項目である心筋梗塞、脳卒中、血行再建術、死亡のいずれかの発生については、強化療法群で抑制されているという傾向は認められたが、統計学的に有意ではなかった。しかし組み入れ時の背景情報で補正すると、評価項目の発生率が有意に抑制されていることが示された。

糖尿病治療薬における心血管アウトカム試験の信頼性と特徴

比較的新しい糖尿病治療薬である、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬は、血糖、体重、脂質、血圧の各管理などの観点において有益性が高いことから、既存の糖尿病治療薬よりも強力に動脈硬化性疾患を抑制する可能性があるのではないかと考えられてきた。これら治療薬が動脈硬化進展や心血管疾患の発症に及ぼす影響を評価するにあたって心血管アウトカム試験及びそのメタ解析は、もっともエビデンスレベルが高いとされている。同試験はFDA(アメリカ食品医薬品局)ガイダンスに則った心血管安全性評価を主目的とする大規模二重盲検ランダム化比較試験であり、通常は3 point MACE(心血管死、非致死性脳卒中または非致死性心筋梗塞)を一次評価項目としている。

当該試験では心血管疾患既往者を中心としたハイリスク患者が対象になるという特徴がある。したがって、心血管疾患未発症の(著明な動脈硬化進展には至っていない)糖尿病患者に対する比較的早期からの試験薬の投与が、動脈硬化の抑制に寄与するかどうかは評価ができないという側面を有する。

近年の心血管アウトカム試験の結果

EMPA-REG OUTCOME研究は、心血管リスクの高い2型糖尿病患者の標準治療にSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)を投与した場合の、心血管に対する作用を評価した心血管アウトカム試験である。結果としてエンパグリフロジン投与群では、非投与群と比較して主要心血管イベントの発生が有意に抑制された。

一方LEADER試験は、心血管リスクの高い2型糖尿病患者の標準治療にGLP-1アナログ製剤(リラグルチド)を投与した場合の心血管に対する作用を評価した心血管アウトカム試験である。本研究においても、リラグルチド投与群では非投与群と比較して主要心血管イベントの発生が有意に抑制された。

ここで片上氏は主な心血管アウトカム試験の結果をまとめた表を示した。

片上氏講演資料より作成

DPP-4阻害薬に関しては、いずれの試験においても従来薬に非劣勢であることは証明されたが、心血管イベント抑制効果は証明されなかった。一方GLP-1受容体作動薬に関しては、薬剤の種類あるいは対象患者によって効果に差が存在する可能性はあるが、全体として見ると従来薬よりも心血管イベントを抑制するという結果となった。またSGLT2阻害薬に関しては、全体として見ると従来薬よりも心血管イベントを抑制し、中でも特に心不全を抑制するという結果が得られている。

講演のまとめ

  • 動脈硬化は長期間を経て徐々に進行するため、予防のためには心血管リスクファクターを早期から総括的かつ厳格に管理することが重要である
  • 低血糖を起こしにくい治療方法、薬剤を選択すべきである(特に高齢者や血管症の進行した症例では、十分に留意する必要がある)
  • 危険因子へ多面的に介入できる薬剤を優先的に使用することで、動脈硬化の進展や心血管イベントの発生を予防できる可能性がある

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