2022年10月17日掲載
医師・歯科医師限定

【第119回日本内科学会レポート】膠原病における分子標的薬の可能性(2500字)

2022年10月17日掲載
医師・歯科医師限定

京都大学大学院医学研究科 内科学講座臨床免疫学 教授

森信 暁雄先生

膠原病に対する薬物療法は、免疫抑制薬とステロイド薬を組み合わせて投与する方法が主流である。しかし近年、治療成績やQOLの向上を目指した、分子標的薬による治療が注目されている。京都大学大学院医学研究科 内科学講座臨床免疫学教授 森信 暁雄氏は、第119回日本内科学会総会・講演会(2022年4月15〜17日)で行われたシンポジウムの中で、膠原病の薬物療法における時代の進化と治療成績を説明し、今後の展望について解説した。

膠原病の薬物療法

現在の膠原病領域での薬物療法は、アルキル化薬(シクロホスファミド)や葉酸代謝拮抗薬(メトトレキサート)などの免疫抑制・免疫調整薬とステロイド薬を組み合わせた治療が主流である。元々は抗がん剤だった免疫抑制薬が膠原病領域に使われるようになったのは、40年以上前に行われた試験がきっかけだ。全体5年生存率が15%、ステロイド併用の5年生存率が48%と非常に予後の悪い壊死性の血管炎に対し、シクロホスファミドを投与したところ17名中14名で完全寛解・再燃なしという驚くべき好成績が発表されたのだ。これによって血管炎に対する薬物療法では、シクロホスファミドを使用することが定石となった。

その後のリウマチ膠原病治療薬の進歩を遡ると、1990年代にいくつかの免疫抑制薬が承認された。2000年代にはインフリキシマブを皮切りに多くの生物学的製剤が登場し、2010年代に入ると、低分子化合物であるJAK阻害薬が使用されるようになった。従来の免疫抑制薬とは異なり、生物学的製剤やJAK阻害薬は特定の分子に作用するように創薬されており、分子標的薬と呼ばれる。

全身性エリテマトーデスの薬物療法

生物学的製剤の登場――抗BAFF(Blys)抗体と抗I型IFN受容体抗体

全身性エリテマトーデス(SLE)はB細胞の過剰な活性化により、抗DNA抗体などの自己抗体を生産する自己免疫疾患だ。B細胞を除去する薬剤やB細胞の活性化に関わる分子を抑制する薬剤など、さまざまな機序の治療法の開発が試みられてきた。しかし、SLE患者の症状は個人差が大きく、評価方法やエンドポイントの設定が困難であった。さらに、ステロイド薬を中断することができないため、治験薬の効果が判別しづらく、治験失敗の時代を繰り返してきた。

そのようななか、近年登場したのが生物学的製剤である「抗BAFF(Blys)抗体」と「抗I型IFN受容体抗体」だ。『全身性エリテマトーデス診療ガイドライン〈2019〉』では、生物学的製剤は皮膚や関節などを主病変とした患者に有効とされている。

ループス腎炎の薬物療法

ループス腎炎はSLEの予後を規定する重要な因子だ。シクロホスファミドやミコフェノール酸モフェチルによる治療が主流であるが、ここに抗BAFF(Blys)抗体を加える治験が行われ、腎病変に対する治療効果を認めている。さらに最近、ボクロスポリンというカルシニューリン阻害薬もループス腎炎の治療に有効であることが報告されている。

抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎の薬物療法

ANCA関連血管炎には、多発血管炎性肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の3つの疾患が含まれる。自己抗体の産生によって好中球が活性化し、血管炎を引き起こすと考えられているが、もう1つ、好中球の発症に関わる因子に「補体成分」がある。最近、この補体成分をターゲットとした治療薬「補体C5a受容体阻害薬」が開発されている。

補体C5a受容体阻害薬に関する国際共同第III相臨床試験「ADVOCATE試験」では、従来の標準治療薬である副腎皮質ステロイドを投与した群と補体C5a受容体阻害薬を投与した群で比較した。結果、投与26週時の寛解率は同程度であり、投与52週時の寛解維持率では補体C5a受容体阻害薬群で有意に高かった。近い将来、ステロイドオフの治療を目指せる可能性がある。

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症では、気管支喘息の治療に用いられるIL-5阻害薬が臨床で広く用いられている。このように、他疾患で使用されている薬剤を膠原病の治療薬として使用している例は複数ある。巨細胞性動脈炎や高安動脈炎などの大血管炎がその1例だ。ステロイドを減量するためにメトトレキサートなどの免疫抑制薬が用いられてきたが、IL-6受容体阻害薬の併用によって、ステロイド減量後も非常に高い寛解維持率が認められたという報告がある。

他疾患の治療薬が有効な例は複数――その他の膠原病の薬物療法

ANCA関連血管炎のように、成人スチル病の治療でも既存薬剤が用いられている。成人スチル病は高サイトカイン血症をきたす疾患であり、SARS(重症急性呼吸器症候群)やサイトカイン放出症候群に使用されていたIL-6受容体阻害薬が保険承認を得られている。

また、強皮症では病態に応じて多様な薬剤が用いられてきたが、免疫異常に対してIL-6受容体阻害薬やB細胞除去薬の有効性が示されている。有効性を検証した試験では、IL-6受容体阻害薬は肺に対して、B細胞除去薬は皮膚と肺に対して有効性を示し、B細胞除去薬は日本で保険承認されている。

ベーチェット病の眼病変(ブドウ膜炎)に対する治療はTNF阻害薬が有効であり、日常診療で使用されている。再発性アフタ性口腔潰瘍に対しては、乾癬の治療薬であるホスホジエステラーゼ(PDE)4阻害薬が有効とされている。本薬剤にはサイクリックAMPを増加させることで細胞膜内の免疫反応を弱めるはたらきがあり、口腔潰瘍の発生頻度が減少したという報告がある。

膠原病治療の展望

膠原病を含む免疫炎症性疾患をみると、サイトカインを中心とした細胞外分子、細胞表面の受容体、細胞内のシグナル伝達を抑える薬剤が次々と開発されている。さらに、膠原病の領域で使用されていない生物学的製剤や分子標的療法があり、これらを膠原病治療に応用することでさらによい膠原病治療の誕生が期待できる。以前は、ステロイド薬を上手に使うのが膠原病内科医だと言われていた。しかし今後は「分子標的薬を使用し、ステロイドなしで治療できるのが優れた膠原病内科医だ」と言われる時代が来るかもしれない。

講演のまとめ

  • 膠原病は免疫抑制薬とステロイド薬の使用が主流だが、分子標的薬による治療開発が進んでいる
  • 全身性エリテマトーデスに対しては、抗BAFF(Blys)抗体と抗I型IFN受容体抗体といった生物学的製剤が登場している
  • ANCA関連血管炎の新たな薬剤として補体C5a受容体阻害薬がある
  • 他疾患で使われている薬剤が膠原病にも有効な可能性がある

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