2022年07月29日掲載
医師・歯科医師限定

【第51回日本皮膚免疫アレルギー学会レポート】食品・薬剤添加物アナフィラキシー 見逃さないポイントを事例とともに紹介(5000字)

2022年07月29日掲載
医師・歯科医師限定

神戸市立西神戸医療センター 皮膚科 部長代行

鷲尾 健先生

食品添加物や薬剤添加物によるアナフィラキシーでは、アレルゲンを正しく鑑別するのが難しいケースがある。基本的なテストでは判定できないこともあり、工夫が必要だ。

神戸市立西神戸医療センター 皮膚科 部長代行の鷲尾 健氏は、第51回日本皮膚免疫アレルギー学会総会学術大会(2021年11月26~28日)で行われた講演の中で、食品添加物や薬剤添加物によるアナフィラキシーの事例と見逃しを防ぐポイントについて解説した。

食品添加物によるアナフィラキシー

Oral mite anaphylaxis(パンケーキ症候群/こなもん症候群)

Oral mite anaphylaxisは、小麦粉製品に混入したダニアレルゲンによって引き起こされるアナフィラキシーである。アトピー性皮膚炎の素因などを持ち、ダニアレルゲンへの感作がある患者で発症する。

小麦粉製品に混入し得る主要なアレルゲンとして、ヤケヒョウダニ(アレルギー検査ではダニ1と表示される)が持つDer p 1や、コナヒョウダニ(ダニ2)が持つDer f 1などが挙げられる。ダニアレルゲンは通常は熱に耐性があり、患者が使用した粉の検鏡からダニが検出されないこともあるため注意が必要だ。

当院での症例を紹介する。患者は6歳男児で、乳児期にアトピー性皮膚炎の既往がある。エビの天ぷらを摂取した約30分後に顔面の膨張と喘鳴があり、当院小児科救急外来を受診し、症状改善後に皮膚科紹介となった。当初はエビによるFDEIA(食物依存性運動誘発アナフィラキシー)を疑ったが、プリックテストでエビは陰性、天ぷら粉で陽性を示した。そこでKOH直接鏡検法を実施したところ、天ぷら粉にコナヒョウダニが潜んでいることが判明した。

このように、食後のアナフィラキシーは食物アレルギーを疑うが、原因がはっきりしない場合はダニの可能性も考えられる。採血検査にダニ2(コナヒョウヒダニ)を追加することで、Oral mite anaphylaxisの見逃し防止につながる。

糖異性体(特にエリスリトール)によるアナフィラキシー

糖異性体によるアナフィラキシーは、カロリーオフ製品やダイエット製品などに広く用いられている「エリスリトール」などが原因となり引き起こされることが多い。現行の法律では、エリスリトールは添加物ではなく食品扱いになっており、表示義務がないため、避けるのが難しい。

また、エリスリトールの分子量は非常に小さく、単独ではアレルゲンになり得ない可能性が示唆されていることから、プリックテストや好塩基球活性化試験で陰性になることがある。エリスリトールが含まれたゼリー飲料摂取後、全身の膨疹、意識混濁などを主訴に当院に来院した30歳代女性の症例では、エリスリトールに対するプリックテストの結果は陰性であったが、負荷試験としてエリスリトール1gを内服した約10分後に、腹部にわずかな膨疹がみられている。

ダイエット食品や美容系食品を摂取後にアナフィラキシーを起こした場合はエリスリトールを疑い、内服誘発試験の実施も視野に入れておくことが大切だ。

コチニール色素によるアナフィラキシー

コチニール色素によるアナフィラキシーは、色素の原料であるカイガラムシ科エンジムシ(雌)由来のたんぱく質が原因と考えられている。コチニール色素が含まれている食品として、以下のようなものが挙げられる。

・フランス産マカロン(赤)

・ブラッドオレンジジュース

・魚肉ソーセージ

・天津飯

・あんかけの素

・ネギトロ巻き など

20~50歳代女性で発症が多いとの報告があり、口紅などが感作源になると考えられている。この年齢層の女性で、赤い色素を含んだ食品の摂取後に起こったアナフィラキシーには注意が必要だ。手持ちの試薬にカルミンがある場合は、プリックテストに加えることで原因を特定できる可能性がある。

ポリガンマグルタミン酸によるアナフィラキシー

ポリガンマグルタミン酸(PGA)によるアナフィラキシーは、納豆を摂取後に起こるケースの多いアレルギー反応で、2004年に猪又 直子氏らによって初めて報告された。摂取から5~12時間後に発症することが多いため、遅発型アナフィラキシーと呼ばれている。納豆のネバネバに含まれている成分が原因とされる。

ポリガンマグルタミン酸はクラゲの触手にも含まれていること、患者はクラゲ刺傷歴のあるサーファーが多いことから、クラゲに刺されることで感作が成立するものと考えられている。見逃しを防ぐためのポイントは以下のとおりである。

・遅発型アナフィラキシーの場合、問診時に納豆の摂取歴とクラゲ刺傷歴を聴取する

・プリックテストは少なくとも60分後まで経過観察する

ペクチンによるアナフィラキシー

柑橘類の摂取後にみられるアレルギー反応では、ペクチンによるアナフィラキシーを疑う。ペクチンは柑橘類の白い繊維部分(皮と実の間)に含まれており、ジャムや乳酸菌飲料の「増粘多糖類」として使われることもある。カシューナッツやピスタチオアレルギー、柑橘類アレルギーとの関連性が示唆されているため、これらのアレルギー歴を聴取することが見逃しを防ぐポイントだ。

当科で経験した症例を紹介する。患者はアトピー性皮膚炎を持つ6歳男児で、過去にカシューナッツによるアナフィラキシー歴、乳酸菌飲料(ペクチン添加)摂取にて口腔内に違和感を覚えた経験がある。

ゆずの入浴剤を用いて入浴後、全身の搔痒と紅斑、咳嗽、呼吸苦が出現し、救急搬送された。症状改善後に当科にてプリックテストを実施したところ、持参された入浴剤のゆずの白い繊維部分やペクチン試薬、ペクチン含有ドリンク、カシューナッツ、ピスタチオなどで陽性反応を示した。なお、カシューナッツやピスタチオアレルギーに共通する主要アレルゲンはAna o 3(14 kDa)であるが、柑橘類やペクチンアレルギーでは、50~80 kDaの物質が主要アレルゲンになるのではないかと、我々は考察している。

鷲尾氏講演資料(提供:鷲尾氏)

亜硫酸塩や亜硝酸塩によるアナフィラキシー

亜硫酸塩や亜硝酸塩によるアナフィラキシーは、以下に挙げるような食品での症例が報告されている。

・亜硫酸塩:ワインやドライフルーツ

・亜硝酸塩:食肉製品(ハムやソーセージなど)や魚卵製品(いくらやたらこなど)

亜硫酸塩は保存料、亜硝酸塩は発色剤として使用されている食品添加物である。亜硝酸塩は医学的に冠動脈を拡張させる目的で使用されることもあり、同様にアナフィラキシーが報告されている。

亜硫酸塩や亜硝酸塩によるアナフィラキシーを見逃さないためには、添加物の関与を念頭に入れておく必要がある。たとえばワイン摂取後のアナフィラキシーであれば、保存料である亜硫酸塩の関与が疑われる。

いくらやたらこの摂取後であれば、魚卵のたんぱく質と添加物の両方をアレルギー源として考慮することが大切だ。患者が実際に摂取した食品のラベルを記録しておくことで、鑑別につながることもあるだろう。

薬剤添加物によるアナフィラキシー

セルロース誘導体と造影剤

セルロース誘導体は、食品や医薬品における添加剤として広く利用されている成分である。中でもカルボキシメチルプロピルセルロース(CMC:カルメロース)は、局所ステロイド注射液やバリウム造影剤などによるアナフィラキシーの原因抗原として報告されている。また、当科では便秘薬(OTC医薬品)に含まれるヒドロキシプロピルセルロース(HPMC:ヒプロメロース)でアナフィラキシーを発症した症例を経験している。HPMCはCMCと構造が類似していることから、HPMCでもI型アレルギーが起こる可能性があることを報告している。

造影剤投与後にアレルギー様症状が現れた場合には、以下に挙げる3つの要因が考えられる。

・ヨードそのものによるI型アレルギー

・造影剤に含まれる添加物によるI型アレルギー

・MRGPRX2を介した非アレルギー性蕁麻疹

造影剤投与後に皮疹が現れた場合、まずは問診で即時型か遅延型を聴取し、遅延型であればパッチテストなどを考慮し、即時型であればプリックテストを実施する。プリックテストの結果、陽性であればアレルギー性蕁麻疹として同種の造影剤の投与を原則禁止とする必要がある。陰性であった場合には皮内テストを実施して、陽性であればアレルギー性蕁麻疹の診断となる。

もし皮内テストでも陰性であった場合には、非アレルギー性蕁麻疹の可能性を疑い、診断上必要性が高い場合には、H1/H2受容体拮抗薬やステロイドを予防投与したうえで、慎重に再投与を行うことが望ましい。

出典:鷲尾健. Visual Dermatology 2021;20 
鷲尾氏講演資料(提供:鷲尾氏)

セルロース誘導体と造影剤によるアナフィラキシーを見逃さないポイントは、薬剤プリックテストで陽性の場合には添加物アレルギーも考慮し、成分プリックテストまで実施することである。

アスピリン不耐症とコハク酸

アスピリン不耐症では、COX(シクロオキシゲナーゼ)阻害作用のある薬剤や食品を摂取することでCOX経路が阻害された結果、5-LOX(5-リポキシゲナーゼ)経路が相対的に活性化することでロイコトリエンの産生が増加し、I型アレルギーに似た症状が発現する。症状は用量依存性であり、内服後2~3時間してから症状が現れることが多いのが特徴だ。

鷲尾氏講演資料(提供:鷲尾氏)

当科における副鼻腔炎・気管支喘息を持つ40歳代女性の症例を紹介する。以前より頭痛薬や、気管支喘息に対する吸入薬を使用した後に喘息症状がみられていたため、副鼻腔炎の手術にあたりアスピリン内服試験を実施した。アスピリン10mgの内服3時間後に喘鳴と舌の違和感が出現し、SpO2が94%にまで低下したため、アドレナリン0.3mgを筋肉注射し症状の改善が得られた。なお、後日セレコキシブ100mgを内服したが、症状はみられなかった。

アスピリン不耐症の患者では、COX阻害剤以外の医薬品や一部の食品、食品添加物にも注意が必要だ。医薬品では、コハク酸エステルを含むステロイド(例:メチルプレドニゾロンコハク酸ナトリウム)が禁忌となっている。アレルギー治療においてステロイドを使用する場合は静注ではなく、プレドニゾロンまたはデキサメタゾンの内服を推奨する。

消炎鎮痛剤服用後にアレルギー反応が出る場合、アスピリン不耐症を疑って負荷試験を行うことで、正しい鑑別につながる可能性が高まる。

ポリエチレングリコール・ポリソルベートとコロナワクチンのアレルギー対策

ポリエチレングリコールは主にコロナワクチン、ポリソルベートは主にバイオ製剤に使用されている添加物である。コロナワクチンには、mRNAを包み込む成分としてPEG2000が添加されており、アナフィラキシーを起こす可能性が指摘されている。

最近では、コロナワクチン接種後のアナフィラキシーに関して、プリックテストが陰性となる事例も報告されているため注意が必要だ。ポリエチレングリコールでアナフィラキシーを起こした事例で、プリックテストは陰性であったとの報告が本邦よりなされているが、海外の事例では好塩基球活性試験は陽性であったとの報告がある。

講演のまとめ

食品添加物によるアナフィラキシーについて

・Oral mite anaphylaxisは小麦粉製品に混入したダニアレルゲンが原因となる

・糖異性体によるアナフィラキシーは、カロリーオフ製品に用いられるエリスリトールなどが原因となる

・コチニール色素によるアナフィラキシーは、赤い色素の原料であるカイガラムシ科エンジムシ(雌)由来のたんぱく質が原因で、20~50歳代女性に好発する

・ポリガンマグルタミン酸(PGA)によるアナフィラキシーは、納豆のネバネバ成分が原因となり、クラゲ刺傷歴のあるサーファーに多くみられる

・柑橘類の白い繊維部分や乳酸菌飲料に含まれるペクチンが原因でアナフィラキシーが引き起こされることもあり、カシューナッツアレルギーなどと関連がある

・ワインなどに含まれる亜硫酸塩や、加工肉や魚卵製品に含まれる亜硝酸塩が、アナフィラキシーを引き起こすこともある

薬剤添加物によるアナフィラキシーについて

・セルロース誘導体(CMCやHPMC)や、造影剤アレルギーの診断時には、薬剤プリックテストで陽性反応が出た場合、成分プリックテストの実施も検討する

・種々の消炎鎮痛剤服用後にアレルギー反応が出る場合は、アスピリン不耐症を疑う

・コロナワクチンに含まれるポリエチレングリコール、バイオ製剤に含まれるポリソルベートによるアナフィラキシーにも注意が必要である

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