2021年11月11日掲載
医師・歯科医師限定

【インタビュー】心不全治療20年ぶり新薬4種――最注目はSGLT2阻害薬、世界で初めてHFpEFにも有効性を発揮(1100字)

2021年11月11日掲載
医師・歯科医師限定

東京大学大学院医学系研究科 内科学専攻器官病態内科学講座 循環器内科学教授

小室 一成先生

ここ20年ほど心不全の新薬が出ていなかったが、最近になって立て続けにイバブラジン、サクビトリルバルサルタン、SGLT2阻害薬、ベルイシグアトの4種類が登場した。

イバブラジンは、日本では2019年に国内製造販売承認がおりた。この薬は心臓の洞結節で拍動のリズム電流を発生させるHCN(過分極活性化環状ヌクレオチド依存性)チャネルを抑制する。βブロッカーで脈が毎分75回以下にならない人に、この薬を投与すると脈が遅くなって心不全の発症を抑制できる人がいる。

サクビトリルバルサルタンは2020年に承認された。ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)とネプリライシン阻害薬の複合体である。ネプリライシンというのは分解酵素で、いろいろなものを分解するためどんな物質の分解が抑制されたために効くのかが正確には分かっていないが、ネプリライシンのターゲットにANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)があるので、それらの分解を阻害してANPとBNPが増えることで利尿や心保護につながっているであろうと推測されている。

4薬の中でももっとも注目されている治療薬がSGLT2阻害薬である。もともとは糖尿病治療薬として開発されたもので2型糖尿病の患者に投与したところ、総死亡・心血管死亡が有意に抑制された。その中でももっとも多く抑制されたのが心不全だった。糖尿病の薬が心不全に効いたということで非常に驚いた。独立して行われた3つの大規模臨床試験で、いずれも心不全を2~3割抑制した。そこで、糖尿病の有無にかかわらず心不全に効くのではないかと行われた別の2つの臨床試験で、HFrEFつまりEF(左室駆出率)が低下している患者に投与したところ、約3割の入院を抑制したという結果が出たため、心不全治療薬としての適応が2020年に承認された。

また、2021年8月の欧州心臓病学会で発表された別の臨床試験では、HFpEFすなわちEFが保持された心不全患者およびHFmrEF(境界型)患者に投与したところ、やはり有意に心不全による入院を抑制したとの結果が出た。HFpEFは高齢化に伴って心不全全体に占める比率が上がっているが、今まで予防・抑制する薬がなかったため、SGLT2阻害薬は「世界初のHFpEF薬」として期待されている。

一番最近になって登場したのが可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤ベルイシグアトである。血管を弛緩させることでよく知られているNOに対するsGCの感受性を高めたり、NO非依存的にsGCを直接刺激することによって心筋細胞の機能を改善すると考えられており、比較的重症な心不全患者の心血管死または心不全による入院のリスクを低下させたことにより2021年承認された。今後はこれらの新しい心不全薬をいかにうまく使っていくかが重要である。

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