2022年12月23日掲載
医師・歯科医師限定

【第81回日本癌学会レポート】遺族調査からみた進行がんとの共生――がん患者の人生最終段階における実態把握(3500字)

2022年12月23日掲載
医師・歯科医師限定

国立がん研究センター がん対策研究所 がん医療支援部 研究員

中澤 葉宇子先生

がん患者における療養生活の最終段階における実態把握事業として、国立がん研究センターは2018年から遺族に対する全国調査を実施した。医療や療養生活の質、死亡前の苦痛、医師との話し合いなどについて、遺族からどのような回答が得られたのだろうか。国立がん研究センター がん対策研究所 がん医療支援部 中澤 葉宇子氏は、第81回日本癌学会学術総会(2022年9月29日~10月1日)において、遺族調査の結果を報告するとともに今後の展望を語った。

遺族調査の概要

医療の質の評価は、本来ならば患者本人によってなされるのが理想的である。しかし、人生の最終段階においては、全身状態の悪化により本人から直接回答を得ることが難しい場合が多い。そのため国外では、遺族による代理評価が用いられてきた。日本でも緩和ケア病棟利用者の遺族を対象に調査が実施されてきたが、緩和ケア病棟で死亡するがん患者の割合は16%(2017~2018年 人口動態調査より再集計)にとどまり、サンプル代表性に課題があった。

そこで、国立がん研究センターでは、厚生労働省委託事業として2018年から人口動態調査を用いた全国調査を開始した。遺族の視点から進行がん患者の人生最終段階の療養生活の実態を把握することが目的だ。

調査は、人口動態調査の死亡票の情報をもとに、がんで亡くなった方の遺族に調査票を郵送し、返送いただく方法で実施した。2018年度調査で約25,000人(2017年死亡)、2019年度調査で約85,000人(2018年死亡)が対象となった。対象者の抽出には、都道府県別および死亡場所別(病院、自宅、施設)で層化無作為抽出法を用いた。

調査項目は以下のとおりである。

  • 医療の質……死亡場所で受けた医療の構造プロセス、満足度
  • 療養生活の質……死亡前1か月間の療養生活の質(QOL)
  • 死亡前の苦痛症状……死亡前1週間のつらい症状の有無
  • 患者の希望などの話し合い……療養場所や蘇生処置の希望に関する医師との話し合い
  • 家族の介護負担……介護体験時の負担感
  • 遺族の抑うつ症状……(死別後)最近2週間の遺族の抑うつ症状
  • 遺族の強い悲嘆……(死別後)最近1か月の遺族の強い悲嘆


各調査項目について、主解析として全体値、副次解析として死亡場所別、一般病院・がん診療連携拠点病院別、都道府県別に回答割合を算出した。ここでは全体値および死亡場所別の結果から、進行がん患者の人生の最終段階の療養生活を俯瞰する。

回答率、患者・遺族背景

調査票の有効回答数は、2018年度と2019年度を合わせて54,167人(56.2%)であった。全体の患者平均年齢は78歳だが、施設で死亡した患者の平均年齢は87.3歳と、ほかの死亡場所に比べて10歳ほど高くなっている。さらに施設では、ADLほぼ全介助が74.2%、認知症がある人が45.7%を占めていることも特徴的だ(下図参照)。遺族の平均年齢は65歳前後、続柄は配偶者が多いが、患者年齢が高い施設死亡では子が多い傾向にある。

中澤氏講演資料(提供:中澤氏)

結果

死亡場所で受けた医療の質

まず、死亡場所で受けた医療の質の評価に関する結果を報告する。回答割合はそれぞれ「医療者は患者のつらい症状に対応していた」が82.4%、「患者の不安や心配を和らげるように努めていた」が82.2%、「患者への病状や治療内容の説明は十分だった」が78.4%であった。また、全体的な満足度は72.0%とおおむね良好な結果が得られた。緩和ケア研修会などのがん対策による緩和ケアの普及・啓発の結果の表れといえるだろう。

中澤氏講演資料(提供:中澤氏)

死亡前1か月間のQOL

死亡前1か月間のQOLの評価には、Good Death Inventory(GDI:望ましい死の達成を評価する尺度)を用いた。「痛みが少なく過ごせたか」「からだの苦痛が少なく過ごせたか」「おだやかな気持ちで過ごせたか」といった項目に対し、ややそう思う、とてもそう思うと答えた人の割合は全体で40%程度と改善の余地がある結果となった。また、病院で最期を迎えた人は全体に比べて、これらの項目に肯定的な回答をした割合が低かった。病院では年齢が若く、積極的な治療や処置による影響や、就労などの心理的な課題を負うなどの複合的な理由が考えられる。

中澤氏講演資料(提供:中澤氏)

死亡前1週間の苦痛症状

死亡前1週間に痛み、倦怠感・だるさ、息切れ・息苦しさがあったと回答した人はそれぞれ30%程度だった。痛みの主な理由として、「医療者は苦痛に対して対処してくれたが不十分だった」を選択した人が28.7%ともっとも多かった。また37.5%は「その他(自由記述)」を選択し、その内容として「医療者は対処したが薬の効果が切れてしまった」「医療者の治療や対処が十分ではなかった」「褥瘡や骨折、腰痛などの併存症による痛みがあった」「意識がなく、痛みについて意思表示できない状況だった」といった回答が多く挙げられていた。

中澤氏講演資料(提供:中澤氏)

療養場所の希望などの話し合い

「患者と医師間で最期の療養場所に関する話し合いがあった」「患者と医師間で心肺停止時の蘇生処置の実施について話し合いがあった」と回答したのは全体で約35%だった。終末期の治療目標や過ごし方に関して話し合うことを「EOL discussion」と呼ぶが、日本ではまだ発展途上の分野であることが伺える。

中澤氏講演資料(提供:中澤氏)

死亡場所別の結果を解釈するうえでの留意点

本調査結果では、死亡場所別(病院、施設、自宅、PCU)によって結果にばらつきが出たが、この結果だけを見て、最期の療養場所としてどこがよい/悪いと単純に判断することはできない。その理由の1つは、療養場所によって患者の病状や背景が異なる可能性があることだ。たとえば、施設・自宅で死亡した患者は比較的症状が落ち着いていたために、施設や自宅での療養が可能になったと考えられる。また施設で死亡した患者は、高齢であるために日常生活動作の低下や認知症の併存割合が高かったことも背景にあるだろう。

そのほか、自宅で死亡したがん患者は必ずしも訪問診療を受けていない(利用者76.2%)、施設で死亡したがん患者の回答遺族は子が多いなど、死亡場所によって患者背景が異なることに注意して結果を解釈する必要がある。

遺族調査の展望

日本におけるがん患者の現状をより精密に把握し、具体的な政策提言につなげるためには、本調査結果の推移を把握すべく定期的な調査を行っていく必要があると考えている。また患者と医療者間での療養場所や医療に関する情報提供、意思決定支援を行うことも重要だ。さらには多死社会を見据え、がん以外の疾患を含めた遺族を対象とする調査、認知機能低下などの高齢者特有の併存症を持つ高齢・超高齢者への望ましい医療提供体制も発展させていく必要があるだろう。

※本講演では全体値および死亡場所別の解析結果の一部を報告しました。その他の調査結果は、国立がん研究センター がん対策研究所ホームページ「患者さんが亡くなる前に利用した医療や療養生活に関する実態調査」に掲載されています。

講演のまとめ

遺族調査の結果を受けて以下のことが示唆された。

  • 死亡場所で受けた医療の質はおおむね良好である
  • 死亡前1か月間には苦痛を抱えて生活する患者が多く、医療者は基本的な対応だけでは十分な症状緩和が難しい複雑なケースに対応する必要がある
  • 患者と医師間で療養場所や医療について話し合いがあったと回答したのは35~36%であり、話し合いがないことによるQOLなどへの影響を明らかにし、具体策を検討する必要がある
  • 進行がん患者の人生の最終段階では患者の状況(症状、ADL、認知機能の低下など)に応じて、患者・家族が最期の療養場所を選択し、療養生活を送っている

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