2021年11月30日掲載
医師・歯科医師限定

糖尿病性腎臓病(DKD)進行抑制のための包括的戦略

2021年11月30日掲載
医師・歯科医師限定

和歌山県立医科大学 腎臓内科学講座 教授

荒木 信一先生

近年、医学研究の進歩により糖尿病の治療成績は向上している一方で、患者の高齢化も進行し、従来とは異なる臨床経過を辿る症例が増加している。とりわけ腎障害の病態が多様化してきており、従来の治療戦略ではなく、包括的なリスク因子の管理が重要とされてきている。

滋賀医科大学医学部 医学科 糖尿病内分泌・腎臓内科准教授(2021年10月より和歌山県立医科大学 腎臓内科学講座 教授)の荒木 信一氏は、第64回日本糖尿病学会年次学術集会(2021年5月20~22日)にて、糖尿病性腎臓病(DKD)進行抑制のための包括的戦略について教育講演を行った。

糖尿病患者に合併する腎障害の変化

昨今、糖尿病診療を取り巻く医療環境は大きく変化している。糖尿病の治療成績が向上している一方で、糖尿病患者の高齢化によって老年症候群などを併発しているケースが増加してきており、糖尿病患者に認められる腎障害の病態は多様化してきている。

特に近年、糖尿病治療成績の向上やRAS阻害薬の登場により、腎障害を持つ糖尿病患者においてアルブミン尿の減少や寛解が報告されている。これを示すものとして、荒木氏は自身の臨床研究を紹介した。

本研究では、216名の微量アルブミン尿期の日本人2型糖尿病患者を対象に6年間の観察研究を行った。すると腎症が進行する患者数よりも、微量アルブミン尿が改善する患者数のほうが多いという結果となった。また腎症の寛解に関連する因子として、微量アルブミン尿発症早期、RAS阻害薬の服薬、HbA1c低値、収縮期血圧低値が示されたことから「腎症の寛解には包括的リスク管理が重要である可能性が示された」と述べる。

最近では、タンパク尿を伴わずに腎機能が低下している患者数が増加していることも、臨床的に大きな話題となっている。つまり、腎症の進行過程は必ずしも第1期から第5期まで順次進行するものではなく、非常に流動性に富んできているといえるだろうと荒木氏は語る。

また、2型糖尿病患者におけるアルブミン尿と腎機能低下の割合に大きな変化がみられることも、滋賀医科大学の長期経過観察研究によって明らかとなっている。

まず、微量アルブミン尿以上のアルブミン尿を伴う患者の割合をみたところ、研究開始時の1996年には42.0%であったが、その割合は徐々に減少し2014年には21.1%と半減していた。この理由として、糖尿病治療成績の向上とRAS阻害薬の投薬率の増加が考えられるという。

一方で、eGFR60未満の腎機能低下を認める患者の割合は、1996年には12.1%だったのに対し、2014年には24.0%と倍増している。これは高齢化、肥満率の増加、動脈硬化性疾患の生存率の向上が理由として考えられると述べた。

新たな疾患概念「糖尿病性腎臓病(DKD)」

このように、従来とは異なる非典型的な臨床経過を辿る症例が増加してきた結果、これまでの糖尿病性腎症の概念では糖尿病患者に認められる腎障害を説明することが難しくなってきた。こうした時代背景のもと、新たに提唱されてきた疾患概念が「糖尿病性腎臓病(DKD)」である。

従来は、糖尿病患者にアルブミン尿または腎機能低下を認めるもの全てを「糖尿病性腎症」と呼んできたが、これにはさまざまな要因が関与していることがあり、非常に多様性に富んだ病態が含まれる。しかし、現在の医療技術ではアルブミン尿または腎機能低下のどちらが主体となるのか、またどの病態がどの程度関与しているのかを判断・区別することはできない。

そこで、腎生検にて糖尿病特有の病変が認められる場合のみを「糖尿病性腎症」と呼び、高血糖以外の原因が主体となっている場合も含めて、糖尿病患者にアルブミン尿あるいは腎機能低下を認め、ほかの腎疾患の合併を除外できる場合を「DKD」と呼ぶようになった。

さらに大きな枠組みとして、糖尿病患者に認められる全ての腎障害を包括したものは「糖尿病合併CKD」と定義されている。

糖尿病の治療戦略

荒木氏は「糖尿病患者に腎障害を引き起こすリスク因子はさまざまであることから、DKDの進行を抑制するためには、これらのリスク因子を包括的に治療・管理することが重要となる」と述べたうえで、この重要性が明らかとされたデンマークのSteno-2 Studyを紹介した。

本研究では、微量アルブミン尿を伴う2型糖尿病患者を、専門チームが厳格に治療介入を行っていく多角的包括治療群と通常の治療群の2群に分け、血管合併症の発症・進展率を比較した。その結果、多角的包括治療群で細小血管障害および大血管障害の発症率が有意に抑制されたという。

しかしここで着目する点として、HbA1c6.5%未満の目標達成率が、多角的包括治療群においても約15%程度に過ぎなかったことを挙げた。これはすなわち、HbA1c6.5%未満を達成することができなくとも、血圧や脂質を良好に管理できれば、トータルとして血管合併症の発症リスクを抑制できるといえる。

<各群における目標達成率の比較(図B)>


Gaede P et al.N Engl J Med 348:383-393,2003より引用

さらにその後の追跡研究では、研究開始時に多角的包括治療群だった患者において、試験開始約10年で死亡率や複合腎イベントの発症率が有意に低かったことも明らかとなっている。つまり、腎症の早期発見と多角的包括治療の早期開始が、生命予後の改善にもつながると荒木氏は強調した。

同様に日本人2型糖尿病患者を対象に実施されたJ-DOIT3研究でも、ガイドラインで推奨されている治療管理目標値よりもさらに厳格にリスク因子を管理することで血管合併症の発症を抑制できたことが報告されている。

血糖管理の位置付け

これらのエビデンスのもと、現在多くのガイドラインでDKD抑制への治療戦略として包括的リスク管理が推奨されている。それでは、高血糖の厳格な管理だけでは臨床的な意味はないのだろうか。荒木氏はDKDの進行過程に及ぼすそれぞれのリスク因子に着目し、以下のような私見を述べた。

DKDの代表的なリスク因子には血糖・血圧・脂質があり、このうち血糖はDKDの第1~5期において同程度に影響を及ぼしていると考えられる。しかし血圧や脂質は、初期の段階ではそれほど影響力はなく、DKDの進行に伴い影響力が増してくるという。そのほか、腎機能の低下とともに、貧血やCKD-MBD、アシドーシスなどが予後に影響を及ぼしてくる。


荒木氏講演資料(提供:荒木氏)

これらのリスク因子の影響を相対的に評価してみると、初期の段階では血糖の影響が大きく、病気が進むほど血圧や脂質、貧血などほかのリスク因子の影響力が大きくなり、血糖の影響力は相対的に小さくなってくることが分かる。そのため、初期では高血糖を厳格に管理することでDKDの進行を抑制できる可能性が高く、DKDが進行すると、血糖だけを管理してもほかの要因が改善できなければ進行を阻止することは難しくなることが推察できる。


荒木氏講演資料(提供:荒木氏)

また、2型糖尿病患者を対象に厳格な血糖管理の有用性を検証した13のRCTのメタ解析では、血糖管理によって微量アルブミン尿の発症・進展については抑制できているものの、腎不全や総死亡、大血管障害については十分な抑制効果がみられなかったとしている。これはつまり、血糖の影響が相対的に大きな初期段階においては厳格な血糖管理の有用性があるが、進行すると血糖だけではなく血圧や脂質の関与が大きくなるため、血糖の管理だけでは腎不全や大血管障害などの発症を十分に抑制できないことを意味するだろうとの考えを示した。

糖尿病リスク因子管理の実際

こうした結果から、DKDの進行抑制のためには多くのリスク因子を厳格に、また包括的に管理していくことが重要である。それでは実際の日常診療において、各リスク因子の管理目標は十分に達成できているのだろうか。

JDDMから報告されている、2型糖尿病患者約1万人を対象とした治療管理目標値の達成度の調査では、HbA1c、血圧、脂質の治療管理目標を全て達成できている患者はわずか20.8%に過ぎないことが分かっている。また、どのリスク因子も達成できていない患者は11.8%もいたという。

さらに、これら3つのリスク因子の治療管理目標達成数別に、DKDを合併している患者の割合をみてみると、3つ全て達成できている患者群では合併率が21.7%だったのに対し、どれも達成できていない患者群では43.2%であった。これらの結果から、DKDの発症を阻止するためには数多くのリスク因子を適切に管理していくことの重要性が示唆された。

しかし厳格な血糖管理を行えば、その分低血糖のリスクは高まり、厳格な血糖管理によって低血糖発作が2.3倍増加したというデータもある。

それではどのような患者に注意すべきなのだろうか。日本糖尿病学会の調査報告では、インスリンまたはSU剤によって良好な血糖管理を達成した高齢患者や、DKDが進行した患者では重症低血糖を起こしやすいことが分かっている。また腎機能の低下した患者では、多くの経口血糖降下薬が慎重投与あるいは禁忌であることにも注意が必要だと述べた。

SGLT2阻害薬の可能性

続いて荒木氏は、血糖管理だけではなく、腎保護や心血管系疾患の発症予防の観点から最近注目されている「SGLT2阻害薬」について解説した。

SGLT2阻害薬は、近位尿細管におけるブドウ糖再吸収の約90%を担うSGLT2を阻害して尿中ブドウ糖量を増加させることで、血糖値低下や体重減少の効果が期待できる薬剤だ。加えてナトリウムの再吸収も阻害するため、尿中へのナトリウム排泄が増加し血圧を低下させる効果も認められている。さらに、尿酸値の低下、酸化ストレス軽減、腎貧血の改善などの効果も報告されている。また最近、荒木氏らの研究によってSGLT2阻害薬がケトン体利用の亢進に関与していることも分かってきているという。

荒木氏は「SGLT2阻害薬によって1剤で複数のリスク因子を包括的に管理できるのではないだろうか」と期待を込める一方で、SGLT2阻害薬の注意点についても言及した。まず腎機能の低下に伴い、SGLT2阻害薬の血糖降下作用は減弱していく点だ。また脱水や尿路・性器感染症の発生リスク、筋肉量の低下などが生じる可能性もある。そのため、高齢の糖尿病患者への投与には特に注意が必要であり、今後さらなる安全性の検証が求められると述べた。

今後の課題

近年、新たな糖尿病治療薬の登場と包括的リスク管理の重要性の浸透などによって、糖尿病の治療成績は確実に向上している。その事実として、合併症を発症する糖尿病患者の割合は減少してきており、糖尿病による新規透析療法導入患者の割合も2012年頃から減少傾向にある。

今後さらにDKDの進行を抑制していくためには、リスクの高い患者を早期に同定して、包括的リスク管理を開始することが重要だ。それでは、DKDの早期発見のために重要な検査項目であるアルブミン尿の検査は、糖尿病の日常診療においてどの程度実施されているのだろうか。

滋賀県医師会の糖尿病実態調査の報告では、1年に1回以上のアルブミン尿定量検査の実施率は年々増加しているものの、2018年の調査でも44.6%しか行われていないことが分かっている。つまり、半数以上の糖尿病患者が腎症の合併をチェックされず、適切な治療機会を失っているかもしれないと、荒木氏は警鐘を鳴らす。そして、少なくとも年に1度はアルブミン尿の定量検査を実施し、アルブミン尿を合併する患者には、リスク因子の包括的治療に取り組んでいくことが重要と強調し、講演を締めくくった。

講演のまとめ

・社会の超高齢化や糖尿病治療の進歩により、糖尿病患者の合併症の質は変化してきている

・尿所見異常が顕著でなくとも腎機能が低下しているケースが増加してきている

・DKDの発症・進展に影響を与える要因は高血糖だけではなく、発症早期から多くのリスク因子を包括的に管理していく治療戦略が重要である

・現状はリスク因子の管理目標達成率もアルブミン尿の検査率も十分とはいえず、今後の課題となる

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